東方照歩記   作:たま紺

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どうもたま紺です。


今回は戦争までの閑話です。
では、どうぞ。


8/23 矛盾点を発見。修正しました。


第十五話 染まる頬は太陽のごとく

 シュン、とやっぱり漫画みたいな音を立てて、俺たちは無事洩矢神社へと帰還した。

 場所の関係なのか、すでにここでは夕陽が完璧に沈んでおり、夜の闇が空を覆い尽くそうとしている。

 雪は寒さによって凍り、滑りやすくなっていた。

 ……とは言っても居住スペースまでの数メートルで滑ることは流石にないはずだが。

 ちらりと隣にいる少女を見る。

 今日初めて会ったし、名前以外は詳しく知らないが、彼女がこの場所で一番頼りにしているのは俺だろう。

 

「行くぞ」

 

 キョロキョロと周りを見ている雪輝に声をかける。

 あの神奈子を前にした時の凛々しい顔はどこへ行ったのか、今は空色の瞳が不安げに揺れていた。

 俺は迷うことなく玄関へと足を運ぶ。

 

「ただいまー」

「……お、おじゃまします」

 

 のんきな俺の声と緊張気味の控えめな雪輝の声がこだまする。

 

「おかえりなさ……い?」

 

 出迎えてくれたそらちゃんが、フリーズした。

 若干うつむく雪輝とさっきから動く気配のないそらちゃん。

 妙な時間が流れる。その空間を砕いたのはやっぱりというかなんというか、諏訪子である。

 

「おかえりー。おや、どちらさん?」

 

 突然の来客に驚くことなく、問いかけてくる。

 俺としては、そっちの方がこれからがやりやすくていいんだが。

 とりあえずフリーズしてるそらちゃんを元に戻さないといけないので、軽く目の前で手を振ってみるが反応がない。

 すると諏訪子が結構な威力でどつくと元に戻った。

 

「は!」

 

 いかにもわざとらしい言い方をしているが、まあ気にしない。

 俺は二人に雪輝のことを説明する。

 

「えーっとだな。彼女の名前は……」

「朝霧 雪輝です」

「詳しいことはあとで話すよ。とりあえずここで暮らしてもらうつもりなんだけど……」

 

 いいかな、と視線だけで尋ねるととりあえずといった感じだが頷いてくれた。

 俺はお前たちも自己紹介をしてくれ、という意味を込めた視線を二人に送る。

 すると最初に諏訪子が反応した。

 

「私は洩矢 諏訪子でここの祭神。見た感じ神様だよね。よろしく」

 

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている雪輝の脇を肘で小突く。気にするな、これでも結構強いんだぞ、という意味を込めて。

 続いてそらちゃんの紹介に移った。

 

「はじめまして。東風谷(こちや) そらです。ここの神社の巫女をやっています。よろしくお願いしますね」

 

 そう、そらちゃんの自己紹介が終わって──って

 

「え⁉︎ そらちゃん苗字持ってんの?」

「え?」

「──え?」

 

 なんで知らないの、みたいな顔をされた。

 そういえばよくよく考えてみると、そらちゃんが自己紹介をしたのはあの幼い時以来だ。

 つまり、あの時下の名前しか名乗らなかったために俺は彼女の苗字を知ることがなかったのだ。

 

「あ、そういえば優陽さんに苗字を名乗ったことなかったですね」

 

 では改めて──となぜか俺にまで自己紹介をするそらちゃん。しかもめちゃくちゃ細かく。

 そんな俺たちのやりとりが面白かったのか、雪輝が隣でクスクス笑っていた。

 そんな表情のまま俺に向かって小さな声で話しかける。

 

「みんな優しいね。ここでなら安心して暮らせそうだよ」

「そうか。それなら良かった」

 

 そうして雪輝は俺たちの家へと入っていった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 居間で俺の隣に雪輝。向かいに諏訪子でその隣にそらちゃんが座った。

 

「えー……それでだな、こうなった詳しい経緯から話していくんだけど……」

 

 ちらりと横を盗み見る。

 経緯を話すとなると、どうしてもあの案件に触れなくてはいけない。俺は神奈子の間で話し合ったので、なぜあんな結論になったのかを知っているが雪輝はその事実を知らない。俺も教える気にはならないので、ただ思い出すだけになってしまう。

 すると、結果的に傷を抉ってしまうんだが、雪輝は気にしないだろうか。

 

「わたしから話します」

 

 と雪輝自身が言ってくれたため、その心配は杞憂に終わった。

 

 

 

 

「っていうのがさっきです。それで今に至る」

 

 かれこれ一時間ほどが経っただろうか。結局俺も語り部になったので疲れた。

 そこまで濃密な話じゃなかったはずだが、雪輝の視点と俺の視点の二つで話したのが時間を食った大方の理由だろう。

 もちろん雪輝が向こう陣営の神様だったことも含めて話したが、二人は全く気にすることなく彼女を受け入れてくれた。

 ……理由は、『そもそも最高神さまが住んでるんだから、他にどんな住人がやってきても驚かないし、その最高神きっての頼みなんだから』らしい。涙が出そうになるぜ。

 

「それで優陽。私との一騎打ちになったのはわかったんだけどさ。いつやるの?」

 

 ──今でしょ。

 じゃない。今何かを感じ取って心の中で呟いたが、だいぶ古い気がする。どういうことだ?

 っとそんな場合じゃなかった。

 

「あ、そういや忘れてた」

 

 あちゃー、と額を抑える。

 なんか日付決めようとしたらいろんなことが起こり出して、最後カッコつけて出てきたから完璧に忘れてたな。

 まあいいだろう。

 もう一回使者かなんかを送ってくるはずである。

 俺の一番の望みとしては、このまま向こうが使者を送ってくることもなく且つ攻めてくる雰囲気もない状態で、穏便に時間が過ぎていくことなんだが。

 

「諏訪子は今現在で勝てる算段はあるのか?」

 

 何気なく勝算があるか聞いてみる。

 すると諏訪子はうーんと腕を組んで考え出した。

 俺の予想で行くと、あの祟りを上手に使えばだいぶ有利に進められると思うんだがなぁ……。

 

「あーうー……鉄の輪を使って、ミシャグジ様にも力を借りて……」

 

 ブツブツと言い出したので、俺はそれを見守る。

 お隣の女子二人は難しい話が始まったと踏んだのか、ガールズトークに花を咲かせていた。仲良くなって何よりである。

「へー……そらさんって料理が得意なんだねー」「いえいえ、そんなことは……あるかもしれません。雪輝さんはどうなんです?」「わたしは裁縫かな……。料理はちょっとね」「今度教えてあげましょうか?」

 といった風にガールズトークが百花繚乱している。

 目をつぶりながらその会話を聞いていると、唐突に諏訪子が万歳をしながら声を上げて倒れこんだ。

 

「だぁー……。勝てる気がしない……」

 

 随分と早い諦めである。

 しかし、相手の力量がわからない分勝てる方法も見つかりそうにないな。

 

「やっぱ祟ったとしても厳しいのか?」

「うーん。あんまし意味ないかもしれない。祟ったところで倒しきるには至らないからね」

 

 そうか……。確かにあの鉄の輪だけだったら勝てそうなところまでは行くかもしれないが、勝ち切るところまでは行けないか。

 

「じ、じゃあ、あの地面を動かすのを攻撃に転じさせるのはできないか?」

「……! それなら……」

 

 とまたブツブツと思考の海に浸っていった。

 ……あのぉ、そんなことされると手持ち無沙汰になるんですが。母親がスーパーでママ友見つけて喋り始めたからどうすることもできない状況に陥ってる子供と同じような状態になってるんですが。

 またやることがなくなってしまったので、目をつぶりながらガールズトークに耳を傾ける。が、なんか聞いてて理解できないレベルに発展してたので諦める。

 ざわざわとした喧騒の夜は刻一刻と更けていき、煌々と輝く月は新入居者を歓迎しているように思えた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 翌日。

 今日も今日とて朝からそらちゃんのご飯に舌鼓をうち、一日が始まった。

 雪輝は本格的にそらちゃんに弟子入りするつもりらしい。いい感じに馴染めて何よりである。あれ? 昨日もおんなじこと思ってたような……?

 

「……ふわぁ」

 

 大きなあくびが出た。

 昨日は結局ずっと諏訪子と作戦会議をしていたんだが、あんまりまとまらないままただ夜更かしをしただけで終わってしまったので、今非常に眠い。

 しかも一方的に諏訪子が喋って受け答えしたら、すぐに考え込むの繰り返し。おそらく今まで生きてきた中で一番睡魔と戦っていたと思われる。

 おそらく今日か明日あたりに向こう側から使者が来るだろう。それを待って、来たら日付確認して、……昨日とおんなじことするのか……。

 テンションが下がる。

 

「ものすっごく眠そうだね」

 

 そんな俺の様子を見かねて雪輝が声をかけてきた。

 まだ会って一日しか経ってないんだが、コミュニケーション能力高いな。

 

「昨日は、ずっと喋ってたからな。眠い」

 

 目をこすりながら答える。

 この状態のまま作戦会議とかは絶対にしたくない。できることなら逃げ出したい。

 別に戦略を考えたりするのは得意だし、好きだ。しかしただ相手の作戦に相槌を打ちながら、たまにヒントを出すだけの役割はちょっと遠慮したい。

 

「……!」

 

 名案を思いついた。

 俺の頭の上では電球マークが独特のSEとともに浮かび上がっているであろう名案である。

 逃げ出したいなら逃げればいいじゃない。……ちゃんとした口実を作って。

 

「どしたの? 目が輝いてる気がするんだけど」

「雪輝! これからここで暮らすよな⁉︎」

「え? あ、うん」

「なら、ここの人に挨拶しないといけないよな⁉︎」

「……まあ、そうだね」

 

 よっしゃ決まったあああああああああ。

 あのただ聞き役に徹して、発言権のほとんどないつまらない役から逃げ切れたぜ!

 嬉しさのあまりガッツポーズをしてしまった。

 なら、と俺は早速出かける準備をする。といっても防寒着を着るだけだが。

 

「やっぱ挨拶は早いうちにしないといけないよな。さっさと行こうぜ」

 

 神奈子の使者が来る前に!

 目で全力で急かすと、雪輝も俺の何かを感じたのかいそいそと準備を始める。

 やがて二人の準備が完了したため、俺は全速力で神社を飛び出し、雪輝は頭に二重疑問符を三個ぐらい浮かべながら飛んでついてくる。

 そして俺たちは無事神社の外へとたどり着くことができた。

 後ろを振り返り神社の様子を見てみるも、何も起こっていないので気付かれていないようだ。

 

「な……んで、あんなに……急い、だの。──はぁ、はぁ」

 

 あまりのスピードに息が切れている雪輝が尋ねてきた。

 

「いやあ、だって昨日とおんなじことするのはなんとしてでもやりたくなかったから」

 

 あ、そう。と淡白な返事が返ってくるも、俺は気にしない。

 ほれ行くぞと声をかけて俺たちは歩き出した。

 さすがに住民全員に挨拶をするのはあれなんで、とりあえずは門番のところまで行こう。

 ここから一番遠いので、その途中で声をかけられたら逐次挨拶って感じでいいか。

 雪輝は早く地理を覚えようとしているのか、はたまたただ興味があるだけなのかキョロキョロと周りを見ていた。

 今歩いているのは諏訪の国でも一番大きい通りで、食材が物々交換で売ってある。

 

「おーい優陽さーん。ちょっと見ていかんかー。お隣の美人さんもー」

 

 そのうちの一つの店のおやっさんから声をかけられた。

 俺たちは釣られるようにおやっさんのところまで行く。雪輝は美人さんと声をかけられたのが恥ずかしかったらしく、ほんのりと頬を紅潮させていた。

 

「どうもおやっさん。でも俺今手持ちないからなんも買えないぞ」

 

 いーやいやいいんだよ、と言葉には出さず大袈裟なジェスチャーで伝えてくる。そしてチラリと俺の隣にいる雪輝を見て鼻の下を伸ばした。

 乾いた笑いを上げるしかない俺はおやっさんに説明する。

 

「えーっと、昨日からここに来たんだ。これからは洩矢神社で一緒に暮らしていくよ」

「朝霧雪輝です。よろしくお願いします」

 

 ぺこりと頭を下げて挨拶をする。

 その様子を見ていたら、おやっさんが意味ありげな視線をこちらに向けてきた。

 

「……おやおや優陽さん。可愛らしい女房ですなぁ」

「なっ⁉︎」

 

 雪輝がそう声を上げた。

 ……俺は昨日のそらちゃんみたく数秒フリーズした。

 まさか、女房とまで言われると思ってなかった。優陽さんはズル賢いから落とされないよう気をつけなよ、ぐらいまではイメージしてたが、さすがにそこまでは頭が回らなかった。

 

「い、いやおやっさん違うよ確かに雪輝は可愛いけど昨日初めて会ったばっかだから」

 

 俺の方が一足先に復活したのでおやっさんに向かって早口でまくしたてた。

 多分俺の顔は若干赤くなってるはず。

 おやっさんはガハハ、お幸せにーなどとと笑いながら奥に引っ込んでしまった。

 くそ、完全に遊ばれてる……! せっかく逃げ出してきたのに……前門の虎、後門の狼ってヤツか。

 雪輝に至っては赤い顔のまま未だに回復していないので、目の前で手を振ってみる。

 雪輝の前を手が何往復かしてやっと元に戻った。

 

「大丈夫か? ……くそ、おやっさんめ、いつかなんかの弱みを握ってやる」

 

 俺は雪輝の心配をしつつもおやっさんの悪態を吐く。

 しかし、これはただの始まりに過ぎなかったのである──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 太陽は頂点を通り過ぎ、柔らかな日差しが俺たちを照らしていた。

 

「あ"ー疲れたー……」

 

 クタクタになりながら神社までの道を行く。

 結局あのおやっさんのイジリは始まりに過ぎず、その後おばさま方や子供たち、果ては門番のタケルにまでイジられた。

 その都度弁明をしていたんだが、途中で雪輝が慣れたらしく笑いながら否定していた。

 最終的にはこの国の案内をしていたんだが。

 

「疲れたねー」

 

 そう、のんびりと言う雪輝は全く疲れている雰囲気がないんだが。何故。

 というような感じで雑談をしながら穏やかな時間が過ぎていく。

 そして玄関にたどり着いて足を踏み入れた瞬間に事件は起こった。

 ビシリと背筋に走る感じたことのある悪寒に思わず固まる。

 俺が固まったことにより不思議に思った雪輝も、同じようにこの悪魔の領域に足を踏み入れてしまった。

 俺同様ピシリと固まる雪輝。

 顔がおもいっきし引き攣っており、嫌な予感をひしひしと感じているんだろう。

 家の奥からひたひたと聞こえてくる足音は死へのカウントダウンのように思える。

 やがて奥から修羅のごとき形相の諏訪子が出てきた。

 

「や、やべぇ」

 

 逃げ出そうにもそのあとが怖いのでそんな選択肢は存在しない。

 そしていつか見た時と同じ表情の諏訪子がそこに立ってた。

 

「何か言うことは?」

「えー……と。なんでそんなに怒ってらっしゃるんでしょうか」

 

 ちょっとした疑問が浮かび上がったので尋ねてみる。

 

「勝手にどこかへ行って……心配したからに決まってるでしょうがああああああ!」

 

 ついで飛んできた攻撃を甘んじて受ける。

 ……理由がなんか嬉しかったからしっかりと受け止めよう───。

 

 

 

 

 

 

「いってー……」

 

 気円斬ばりの回転で俺の頭にヒットした特殊な帽子は雪輝も巻き込んで、多大なダメージを残したそうな。

 詳しくは知らないのでなんとも言えないが。

 今は説教が終わって晩飯を食べて一休みしているところである。案の定俺と雪輝はぐったりしている。止めなかった罪として雪輝もとばっちりを受けたらしい。なんか申し訳ない。

 あと、俺が不在の間に向こうの使者が来ていたらしい。

 内容は今から話すって言って手紙を取りに行った。

 その諏訪子が居間に戻ってきて、手紙を俺たちの前に出した。ちなみにそらちゃんも内容は知らなかったらしく興味があるようである。

 

「えーと。内容は……この前の手紙の無礼は悪かったっていうのと、決戦は七日後……だってさ」

 

 七日後か……。

 その間に諏訪子と特訓かな。

 本格的に一騎打ちに向けて生活してかなくてはならない。頑張ってアテナから受け継いだ技を伝授しないといけないな。

 そんなことを考えながら俺はいつもと変わらずに寝床へ着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




閲覧ありがとうございました。
評価の際の文字数をゼロに設定したので、どんどん酷評しちゃってください!


次回予告!

ついに始まる諏訪大戦。
勝者は、最後に笑っているのは誰だ!
穏便に一騎打ちで終わるのか⁉︎

次回 第十六話 戦いの火蓋は鮮烈に落とされる
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