東方照歩記   作:たま紺

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どうもたま紺です。

そろそろ二冊目も終盤です。
今回ちょっとした実験で、超視点変更祭りです。酔う人はさすがにいないと思いますが、気をつけてください。

では、どうぞ。


8/26 前回の次回予告とタイトル名が違っていたので修正しました&誤字修正。



第十六話 戦いの火蓋は鮮烈に落とされる

 胸の奥がざわめくような不快感を感じて目が覚めた。

 腕が疼くように震え、呼吸が乱れる。……今日は一騎打ちの日である。

 いつもは身を震わす寒さも、腹の底でうごめく不安感によってかき消されていた。

 ……俺が直接戦わない。そのことが何よりも気にかかる。俺が一騎打ちをして負けるなら俺の責任だ。責められてもいい。

 しかし実際戦うのは諏訪子だ。もし諏訪子が負けて責められるようなことがあれば、一騎打ちにしたのは俺なのに……という罪悪感で押しつぶされるだろう。

 ……ダメだな。戦う前にこんなことを思っていてはいけない。俺たちは信じて見守ることしかできないのだから。

 できるだけ気丈に振る舞おうと心に決めて居間へと向かう。

 そこにはすでに三人がいたが、俯き加減で誰も言葉を発していなかった。

 

「お、おはよう」

 

 俺が若干その空気に気圧されながらも挨拶をすると、今まで気づいてなかったのか、いつの間に……みたいな感じで見られた。

 

「おはようございます」

「おはよう、優陽」

 

 そらちゃんと雪輝の二人は答えてくれた。

 しかし残りの一人、今日の主役は俯いたままだった。

 気にかかった俺は心配げな視線で見つめていると、そらちゃんも異変に気付いたようだ。

 お母さん、と肩を揺すりながら起こそうとする。諏訪子の頭が船を漕いで二往復。

 やっと気がついたようである。

 

「あ、ぁえ?」

 

 …………なんか今まで爆睡してました、みたいな感じなんだが。

 これは心配して損したタイプのやつかもしれない。

 

「おはよう諏訪子」

「あ、おはよう。……ふゎぁー……」

 

 大きなあくびをする諏訪子。……こいつ絶対爆睡してたな。マイペースすぎるだろうが。

 何はともあれ緊張しているのなら、ここまでマイペースに過ごすことはできないはずだ。何かしら沈んでいたり、そわそわしていたりといった動きを見せたのなら別だが。

 今は……ちょっとだけ血の気が引いているように見える。

 全員揃い、雪輝とそらちゃんの二人が朝ごはんを作るために席を外した。雪輝は絶賛修行中で、メキメキ腕が上がっているのが感じられる、と嬉々としながら言っていたのを覚えている。

 諏訪子と二人だけになったので、改めてその心情について尋ねた。

 

「諏訪子、その……緊張したりしないのか?」

 

 するとうーんと難しそうな顔をする。

 少し下を向いて唸る様子はいかにも考え込んでいるようだ。

 やがて顔を上げて結論が出ました、という顔をして一言。

 

「よくわかんないや」

「おい……」

 

 じゃあなんで覚悟が決まりました、って顔したんだよ。紛らわしすぎる。

 しかしそれで何かが吹っ切れたのか、いつもの血色のいい状態になっていた。

 

「んー……何でかはわからないんだけど、優陽と喋ってたら安心するんだよねー……」

 

 …………。

 …………………なんで?

 つぶやくように言った諏訪子の言葉は俺も気になる超重要な情報な気がする。

 よく考えてみよう。

 俺は諏訪子に何か特別なことをしただろうか。そして諏訪子の口ぶりから鑑みるに、常に安心できるということだ。

 それは違う。俺は常に何かをしているわけではない。……そうなると無意識下で何かしているということになるな。

 考えられるのは……人柄、雰囲気、あとは能力か? 前者二つはもうただの長所なので俺じゃわからないが、後者なら考察できる。

 多分概念の方は関係ないだろう。そもそも無意識下で使っていたら、一日一回の制約のせいでいつでも使用不能になるはずだ。

 そうなると、あらゆるものを照らす程度の能力、か。

 最近はめっぽう使う機会が減ったと思う。昔は野宿してたから灯りは必須アイテムだったが、今は暮らす家がある。

 そのため日常的に使うことはなくなった能力だが……。

 なんとなく手のひらの上の空間を照らすという名目で光の球を出してみる。

 

「おお!」

 

 急に現れた光源に、驚きと好奇心の混じった声を上げる諏訪子。

 するとすぐに何かを考えるように眉間にしわを寄せた。

 数秒その状態が続いたかと思うと、唐突にぽん、と手を叩いた。

 

「この光、さっき言ってた安心感と同じ感じがする!」

 

 諏訪子は頭の中で違う形のピースがぴったりとはまったらしく、爽快感の伴った気持ち良さそうな表情をしている。

 やっぱりこっちの能力だったか。そういえばアテナからこの能力をもらった時に、抽象的なものも対象になるって言われたような……?

 つまり俺は無意識のうちに、周囲の生物の心を照らしていたのか。

 精神的に参っている時に心に闇を抱えている、なんて言ったりするということは、正反対の光で照らせばその闇に対して効果があるんだろう。

 諏訪子の『安心した』発言がその効果を確定付けているな。

 ということは、決戦前に勇気付けてやるにはピッタリじゃないか。

 これは今後もお悩み相談室的な感じの商売ができそうである。神社を作ってご利益を恋愛成就や合格祈願などの勝負や、鬱などの心の病にしてもいいかもしれない。夢が広がる。

 兎にも角にも、俺の言葉で安心できるならとびっきりの笑顔で────

 

「ま、気圧されずに頑張れよ」

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 サーっと抜けていく風は、太陽が天高く昇ったあとでも冷たかった。だがその太陽は厚いのっぺりとした灰色の天蓋によって顔を隠してしまっている。

 今にも降ってきそうだが、実際は雪は降っておらずこの時期にしては比較的暖かい。

 そんな中俺と雪輝は、諏訪の国と相手陣地のちょうど間あたりにある川のほとりにやってきていた。見渡す限りは平らで、春や夏であれば草が生い茂って蟲などの楽園であろうここは、地面の色のみの寂寥(せきりょう)とした風景と化していた。

 霜が溶けたらしく、泥水が増えているのもそんな感情をもたらしている原因かもしれない。

 ここに来た理由はもちろん諏訪子と神奈子のタイマンを見届けるためである。……ちなみに戦闘経験のないそらちゃんは万一のことも考えて置いてきた。雪輝はある程度護身術を身につけているので、あの時みたく大勢に囲まれさえしなければ大丈夫らしい。

 ギャラリーは俺たちと向こうの側近が数人なのでとても小さな決戦になっている。

 ギャラリーはこちら側に全員が集まり、本人たちは対岸でにらみ合っていた。

 

『ねぇ優陽。概念を司る能力は封印かなんかできない? 正々堂々と勝負したいんだ』

 

 ここへ来る前にそう宣言した諏訪子の顔が思い浮かぶ。

 ……俺はやるつもりなんて全くないが、負けるという概念を諏訪子から消したら彼女は永遠に負けることはなくなるのだ。

 そんなイカサマをしないように言ってきたんだろう。だから俺はすでに能力を使って雪輝と会った時と同じ、瞬間移動の能力を付与している。……移動が超便利かつ役得。

 ジリジリと緊張感が高まっていく。

 二人とも最初から本気モードのようで、互いの神力がはじけた奔流によって風が発生していた。

 一段と二人が姿勢を低くする。どちらも徒手空拳で、最初から手の内を明かす気はないようだ。

 足に力を込めたらしい。霜が降りていて少しぬかるんだ地面にめり込んでいる。

 周辺の音が、消えた。──遠方より聞こえる雑多な足音を除けば。

 チラリと勝負から目を離し、音の方へ目を向ける。

 遠くから雷鳴のような足音が何度も何度も身体の芯に響いてくる。

 その足音の正体をよく見てみると────そこには大量の敵がいた。

 瞬間、諏訪子と神奈子が激突する。

 敵勢が大声を上げる。

 俺は目眩を感じてしまう。

 

 奇しくも、諏訪子と神奈子のタイマンの火蓋が切って落とされるのと、敵軍が鬨の声を上げるのと、俺が目眩で倒れこんで雪輝に支えてもらうのは全くの同時だった。

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ──ぐちゅり。

 醜い音が足元から聞こえる。

 しかし諏訪子はそんなことは一切気にせずに集中力を高めていた。

 二つの双眸は神奈子の姿を射抜くほどに睨み、しっかりと相手の姿を捉えるたびに全身の感覚がなくなっていく。

 踏ん張っている足も、今にも飛び出ていきそうな腕も、すでに感覚がない。否、痺れているといったほうが正しいだろう。

 全身の筋肉は突撃の号令が脳から掛かるのを今か今かと待ち望んでいた。

 既に動いているのは脳だけである。

 視界がだんだん狭くなる。周りから徐々に黒くなっていき、神奈子の姿だけをその目は捉える。

 風は気にしない。ぬかるんだ地面も気にしない。

 ──しかし。

 どこからともなく聞こえてくる轟音の号砲はしっかりと聞いていた。

 まるで地面に弾かれるかのように諏訪子と神奈子は飛び出す。

 両名徒手空拳ではあるが、鋭い神力が刃のようになっていた。

 刹那の時間。それだけでお互いは手を伸ばせば届くほどの場所に到達する。

 先手を取ったのは諏訪子。事前に打ち合わせをしていたミシャグジとの連携で、自分の後方の地面を隆起させる。

 神奈子がその様子に一瞬でも目を取られている間に一撃。死角になっていた下方へとしゃがみこんだ位置からのボディブロー。

 

「かはッ!」

 

 不意打ちじみた攻撃は神奈子に強烈な一撃として決まった。

 しかし諏訪子の後ろにある岩と化した地面に脅威を感じた神奈子は、意識をそらすことなく、倒れこむことなく耐え切った。

 神奈子は腹部を押さえながらすぐにバックステップで距離を取る。その様子を見た諏訪子も急に反撃してくることはないだろうと、集中しながら距離を取る。

 岩はそのままの状態で置いておく。隆起させた岩は壁のようになっていて、容易く攻め入ることはできないだろう。

 その上に諏訪子は立つ。未だに集中力は最初の状態と変わっておらず、延々と神奈子のことを睨めつける。ここならば妙な動きを捉えやすく、素早く対応できると思ったからである。

 そんな悠然とした態度の諏訪子を突如台風でもきたかのような突風が襲った。

 立つことさえままならない風に、彼女は両手を顔の前で覆って防ぐ。岩の後ろへ隠れることも考えたが、それでは相手の姿が見えなくなり余計に不利になると思い実行しなかった。

 しかし、それは悪手だった。

 神奈子は狙っていたのだ。諏訪子が一瞬でも視界から自分の姿を外すことを。

 先ほど諏訪子がやったように、一瞬でも相手の視界を遮れば攻守は逆転する。

 神奈子はまるで風に乗っているかのようなスピードで諏訪子へと肉薄する。

 たかが一瞬。されど一瞬。すでに諏訪子の眼前には身体をひねった状態で構えている神奈子がおり、彼女は顔の前で両腕を交差させて守るしか打つ手がなかった。

 限界まで引き絞った中段回し蹴り──腹部への蹴りが諏訪子の身体へめり込んだ。

 もちろんその幼い肢体では耐えきることができずに吹き飛ばされる。だが、不幸中の幸いか高度が地面よりも高い場所でそれも水平に食らったので、叩きつけられることはなかった。……それも叩きつけられないだけ、というほんのわずかなものだが。

 しかし諏訪子には滞空しているだけの時間があれば十分だった。痛みに思わず顔をしかめるが、未だ地面についていない分瞳には余裕があった。

 仮に地面を転がったならば身体の自由を奪われ、そこからは神奈子の独壇場になってしまうが、空中にいるならまだなんとかなる。

 全力で神力を使って慣性の法則を無視し、身体の体勢を整える。

 いきなり物理的な法則に逆らったので身体に多少のダメージが入るが、神奈子の蹴りに比べれば造作もない。

 手をつき足を滑らせながら着地する。完璧なタイミングでミシャグジのサポート──諏訪子の足が来るであろう位置に壁を作って足場にした。

 ぐーっと膝を曲げて力を貯める。それを一気に放出してこっちへ向かってきていた神奈子へと突撃する。

 神奈子も壁を見た瞬間からどんな攻撃をしてくるのか予知していたため、迎撃する体制は整っていた。

 諏訪子は神奈子が拳を放ってくると踏んでいた。そのため途中で方向転換をしていこうと考える。

 両者の間に距離がなくなった瞬間、諏訪子の姿が上空へと消えた。

 神奈子はそこまで考えておらず、諏訪子へと背中を見せてしまう。結果がら空きの場所へと諏訪子の一撃が叩きつけられた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ──ぐちゅり。

 足下から聞きたくもない不快な音がする。降りていた霜が溶けて、泥と化しているのだ。

 優陽は雪輝に支えてもらって回復した後、すぐに敵勢への迎撃を開始した。

 彼は単身で敵の中心へと向かっていく。その手には護身用の木の棒を持って。

 木の棒は耐久力がほとんどないが、神力でコーティングすれば十分実用レベルまでに硬くなる。これは霊力、妖力、魔力等の別の力でもできることだ。

 その強化木の棒を持って戦場をかける黒髪の青年。

 今回付与している能力──瞬間移動をフル活用して戦場を縦横無尽に駆け回っていた。

 相手の背後へと瞬間移動をしてから足への一撃。全力を持って放たれる一撃は相当な威力を持っているだろう。

 しかし優陽はだいぶ参ってしまっていた。

 ──この量に対して戦えてんのは俺だけか。

 ──側近の爺さん達も手伝ってくれているが、自分の相手だけで手一杯っぽいな。

 ぎゅ、と木の棒を握りしめる。

 優陽は過去にあの大罪を犯してしまってから、不殺を貫いていた。もちろん生きるためには命を頂戴する必要はあるので、その分は目を瞑ったが。

 だからこの場においてもその心得は絶対に破らない。この場で破ってしまったら、それこそあの悲劇を繰り返してしまうから。

 そして瞬間移動をしてまた足への一撃を繰り返す。足の骨を折っているので、少なくともこの戦場では戦うことはできないだろう。仮に動けたとしても満身創痍の状態なので、意識を刈り取るのは造作もない。

 優陽はできるだけ諏訪の国を背にして戦う。相手のやりたいことは明白で、諏訪の国の陥落である。それはもちろん神奈子含む上層部は知らない。側近二人が諏訪側として戦っているのが最たる証拠だ。

 この状況、どこか優陽は既視感を感じていた。──そして、イヤな予感も。

 

「…………これじゃキリがない」

 

 優陽は小さく呟く。

 相手は建御名方神側の三分の二といったところだろう。

 それを一人で相手しているのだ。しかも相手は過去の敵よりも攻めるということに重きを置いているので、徹底的な防衛戦になってしまう。

 しかしあまりにも人員に差があるために、どれだけ優陽が頑張ってもその差を埋めることはできず、かなりのスピードで押し込まれていた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ──すごい。

 雪輝は戦場を駆け回る優陽の動きに目を奪われていた。

 彼女は自分に向かってくる相手を下すのに手一杯だったが、そんな中でも目に見えるほど減っていく敵に驚く。

 しかし同時に不安感も感じていた。

 優陽は諏訪子と特訓しているときに常に苦しそうな顔をしていたのだ。それは最近知り合った雪輝にでもわかるほど顕著なものだった。

 彼は最高神という自分にとっては理解できない天上の役職である。昔に何かがあってもおかしくないのではないか。その何かが戦っている間ずっと優陽を苦しめているのではないか。

 何もできない自分が悔しくて、歯を食いしばる。

 ──いや、何もできないわけじゃない。

 ──心の中で応援するぐらいならわたしも……。

 しかしすぐに首を振った。

 それでは意味がないのだ。行動しなければいけない。しかしそんな大層なチカラは雪輝は持っていない。

 何もできない自分に歯噛みしながら今もなお戦い続ける優陽のことを見守った。

 

 ◇◆◇

 

 右手で弧を描きながらやってくる拳を防ぎつつ、左手で反撃する。

 それは神奈子によって下向きに払われてしまうが、その反動をうまく使って一回転。神奈子の頭上へかかと落としを繰り出した。

 しかし神奈子はうまい具合にバックステップで避け、一旦距離を取る。

 諏訪子も無理に追いかけようとはせず、同じように下がった。

 はあ、はあ、と肩で息をする諏訪子と違って加奈子には幾分かまだ余裕があるように見える。

 しかし少なからずその額には汗が浮かび上がってきており、多少のダメージを与えているという事実が諏訪子の闘気を燃え上がらせた。

 再び姿勢を低くして突撃の準備をする。

 加奈子との距離は十メートルといったところ。身体中の筋肉が活性化している今なら一歩で詰め寄ることのできる距離である。

 一瞬の静寂。風が通り抜け、この一撃で決めなければという使命感が諏訪子の身体を駆け巡った。

 その予感に逆らうことなく、彼女は鉄の輪を取り出し、両手に持つ。

 ──この一撃で決めないと。

 ──……私は負ける。

 次の一撃を全身全霊で放とうとしているのは加奈子にもわかった。

 己の全てを持って攻撃を放とうとしている敵に真っ向から勝負しようと、加奈子も重心を落とす。その手には自身の武器である藤の藁を持って。

 だが藁という名前の通り、攻撃などできない。

 真正面からぶつかってくる相手に相応の攻撃で応えることができないのはいささか悔しいが、全力での勝負というならばこの武器でいいのだ。

 この、金属を錆びさせることのできる藁で。

 

 ◇◆◇

 

「はああああああぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 優陽の叫びが戦場に木霊する。

 かれこれ何百振りか木の棒を振ってきているが、それでも相手が減っていく様子はない。

 実際はすでに三分の一程度が彼によって沈められているのだが、疲れともっと早く倒さなければという焦りで視界が狭くなっているため、その事実に気づくことはない。

 ──くそ……。

 ──まだまだ倒さなきゃいけないのに。

 ──何でもう俺はばてているんだ。

 敵勢の中でフラリと蹌踉(よろ)めく。

 大多数の人数を一人で相手にするのは度が過ぎた。

 いくら瞬間移動を使えるからといって、ノーリスクなわけではない。一回ごとにしっかりと体力を持っていかれるのである。

 そんな中で敵の三分の一を削ることができているのは、アテナに鍛えられた底なしの体力のおかげだろう。

 しかしその体力も今は尽きかけている。

 身体中が酸素不足のため痺れており、木の棒を持ち上げる力さえ残ってはいなかった。根性で無理やり立っているだけである。

 そんな絶望的な中、もっと優陽を絶望させることが起きた。

 フラフラの優陽を見て行けると考えた何人かが隊列を組んで諏訪の国へ向かったのである。

 もちろん優陽も気づいた。

 だがすでに力尽きている身体では振り返ることしかできない。

 棒を支えにしながら膝をつく。

 自分のあまりの無力さに失望してしまう。

 あの時から何も変わっていない。

 ぎゅ、と棒を握りしめている手から力が抜ける。

 最高神のクセして国一つさえ守れないのか。

 ──そもそも俺は何であの国を助けようと……?

 ふと自分が戦っている理由を見失う。

 しかしすぐに思い出す。

 ──ああ、そうか。

 ──俺はあの温かい人たちに迎え入れられて過ごしたんだ。

 ──なら、俺が護り抜かないと……!

 ──あの場所を失わないように……!

 目に燃え尽きることのない業火の炎が宿る。

 ──俺は今何しているんだ。

 ──膝をついている?

 ──諦めている?

 ──あり得ない。そんなことで心が折れているから、あの時選択肢を間違ったんだ……!

 ──だから俺は負けない。

 ──限界を超える特訓ならアテナの元でしっかりとやった。

 ──負ける理由など存在して良いわけがない。

 ──俺が、やる。

 ──俺がやらなくて誰がする。

 ──俺以外にこの重圧を押し付けちゃいけない。

 ──俺が最高神として、この腐った裏切りを是正する。

 ──俺が最高神としてこの戦いを処理する。

 ──俺が最高神としてこれは間違った方向だと決定し、処理する。

 ──自己満足? 横暴? 違う。

 ──俺がこれは間違っていると考えるから裁くのだ。

 ──そして俺が。俺が、俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が。

 ──俺がこんな自分自身のことで負けてちゃいけないんだ……!

 刹那の時間。

 一瞬にも満たない時間の中で優陽の心は復活した。

 

「もう俺は……絶対に負けないッ!」

 

 優陽は力一杯吼える。

 黒髪の中に群青色を交えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




閲覧ありがとうございました。


次回予告!

未だに続く神奈子との対戦。
その結果は⁉︎ 優陽はどうなるのか⁉︎

次回 第十七話 最後に頬を濡らすのは誰だ

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