東方照歩記   作:たま紺

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一冊目 とある古代のことでした。
第二話 最初の出会いは密林で


 ここはとある森の中。鬱蒼と生い茂るジャングルと呼ぶことは難くないこの場所に優陽は降り立った。

 空は蒼く、白い入道雲がどうしようもなく夏だということを感じさせる。ジャングルにいるので暑いかと思ったが、そうでもない。逆に影が出来てとても涼しい。

 そして、周りをキョロキョロと見回したあと一度考え込んだ。

 

 ──俺はアテナに古代の日本に降り立ってくれと言われたんだが、ミスったか?

 ──まさか古代ってここまで昔なのか? 氷河期とかまだ来てなさそうだし。

 

 だが考えている途中にガサガサ、という音が聞こえたので中断した。音がした方へ顔を向けじっとしていたら、なんと人が出てきた。その人物は白い、前世があるからわかる防護服というものに身を包んでいた。

 降り立った直後でまだ何も考えていないうちに出会ってしまったので取り敢えず優陽は逃げてみた。後ろを振り返ってみると、向こうはキョトンとするように首をかしげていて追いかける気配はない。

 これはチャンスだということで、 真っ直ぐ逃げてきた道を右に曲がる。もともと鬱蒼と生い茂るジャングルなので一瞬にして見えなくなった。

 しばらくして走るのをやめ、ゆっくりと歩いた。その間疲れるってこういう感覚だったんだな、と神界で失っていた感覚を取り戻していた。これぐらいでは全く疲れないのだが。

 歩き始めて数十分、前方が開けてきていた。そこを目指しまた歩く。鬱陶しい森から抜けると、目の前には平原、そして遠くには現代日本の東京をも退けるほどの巨大な都市があった。高層ビルが建ち並び、全体を覆うようにドーム状のバリアのようなものが張ってある。

 

 ──本格的にミスった気がするなぁ。まあ、間違ってたら間違ってたらでアテナが言うだろうし、このまま楽しむか。

 

 そして、よく目を凝らして都市の方を見てみると、塀のようなもので囲われているのが見えた。塀で囲まれている、即ち簡単には入れるようなところではないということがわかる。最高神だからって簡単に入るわけにはいかない、そもそも最高神ということをあまり知られたくない。

 でもジャングルで生活するのはキツいから入りたいな、と思う。

 どうすればいいのか、再び思案する。

 

 ──取り敢えず人に会おう。それで、今の自分の状態を伝えて都市に連れていってもらおう。その為にはここにいる理由を考えないと。

 ──塀がある、ということは敵がいるのか……ってことは軍隊がいるはずだから、この森で鍛えてることにしたらどうだ?

 ──でもどこの誰だ、って聞かれたら答えられないしなぁ.……俺を孤児にしてみる? 親に捨てられて自分の名前しかわからない、って言ったら通じるか。

 ──あぁ、でもさっきの人防護服着てたからここはいろいろまずいんだろうな……そうだ、能力を使えばいいんじゃねえか。能力のおかげで生きてこれたってことにすれば……イケる!

 

 考えが纏まったであろう優陽は再び歩き出した。さっきの人がいた場所にむかっていたが、どこへ進んだのかが全くとしてわからなくなったので、取り敢えず平原と森の境目を歩くことにした。このルートなら平原を歩いている人に見つけてくれるし、見つけることもできる。

 そろそろ太陽が沈み始めるであろう頃、ようやく人を見つけることができた。しかし、普通に喋りかけると余りにも不自然かつ不審なので、見失わない様にしながらあらかじめ捕まえていた動物を放す。そして、相手の方へ動物を追い込む。いかにも捕まえようとしていた様に飛び出して、その人の前に出る。

 

「!?」

「おっと、すいません。怪我はありませんか?」

「はい……あ! あなたさっきの! というよりあなたは大丈夫なの!? こんなに穢れが多い森に防護服なしで居るなんて」

 

 よっしゃ、と優陽は思った。ここから自分の思惑通りに事を進めれば、都市に入れるという確信があった。

 

「ええ、まぁ。小さい頃からここで暮らしていますからね。それに能力もありますし」

「小さい頃から!? それにこんなところで生活できる能力なんてそうそうないわよ」

「いえいえ、それがあるんです。それよりお名前は?」

「そういえば言ってなかったわね。永琳、八意(やごころ) 永琳(えいりん)よ」

「俺は白神 優陽です。敬語はなしでいいですか?」

「ええ、もちろん。それより能力について教えてくれないかしら」

 

 キタキタキタキタ、ここまで来れば逆に、都市には入れないという可能性の方が低くなった。というよりはほぼ百パーセント入れる。

 

「いいけど、その代わり俺を都市へ連れていってくれないか? 昔から軍に憧れててさぁ」

 

 目を演技っぽくキラキラさせながら言う。

 優陽はここで一世一代の大勝負に出ていた。それは、『軍』という言葉を使ったことだ。もしも、この世界に軍がなかったら疑われ怪しまれる。都市に入る事ができても狭苦しい思いをするだろう。ということは、この賭けで失敗するとこれから都市で普通の生活することは難しくなる。

 まあ、ここで失敗したときのことも考えて、その先の答えも用意しているのだが。

 永琳は少し難しい顔をしたが、それよりも好奇心が勝ったようで承諾した。『軍』という言葉もあったようだ。

 

「私のコネで何とかしておくわ。でも試験があるからそれに受かってからね」

「わかってるよ。ここで小さい頃から生活してんだ、普通のヤツより強いさ。それで能力だったな、俺の能力は概念を司る程度の能力だ。あんまり人に言いふらすなよ」

 

 コネで何とかしておく、つまり永琳は都市の中ではかなり位が高いということがわかる。

 

 ──幸先の良いスタートだな。これならあの都市でもすぐに溶け込めそうだ。

 

「了解よ。それで、その能力は何ができるの? 痛みの概念を操って敵の攻撃で怯まない様にするとか?」

「! よくわかったな。他にも○○する程度の能力、という概念を付与してその能力を使えるようにする、とかだな。一日一回しか使えないけど」

 

 永琳は能力を聞いただけで、使い方を言い当てた。かなり頭の回転が早く、聡明でないとこの早さで、尚且つ一発で当てるなんてできないだろう。

 

「よし! それじゃあ都市に連れていってくれ。」

「わかったわ。でも都市に入る前に穢れを無くしてね」

 

 そう言って、二人は歩き出した。永琳は丁度帰るところだったので気兼ねなく帰ることができる。

 歩きながら、二人は優陽について話していた。優陽のもう一つの能力や、なぜあの森にいたのか、夜は妖怪に襲われなかったのか、など、優陽が予想していた質問やそれを上回る質問に四苦八苦しながら、矛盾が起きないように頭をフル回転させていた。

 ここまで頭を使った会話は初めてかもしれない、なんて事を考えながら。

 

 ◇◆◇

 

 門の前についた。あの平原からは意外と結構な距離があり、傾いていた太陽はすでにほとんど顔を隠している為、もう一つの能力で自分達の周りを照らしている。

 門の前では門番がしっかり見張っており、勿論とでも言うように防護服を着ている。門を強行突破しようというものならば、すぐに見つかるであっただろう。その門番の下へ永琳は走って行き交渉をしている。

 しばらくすると、永琳が戻ってきた。そして、こっちに来いというように手でジェスチャーをした。

 

「許可が出たから、ここで能力を使ってから入ってね」

 

 それだけ言うと、さっさと永琳は門を潜っていった。

 優陽もそれを追うように走って入っていった。そのときに門番が少し睨んでいたため、歓迎はされてないんだな、と思う。

 門、といってもとても機械的なもので奥に長く、道が二つあった。一つはバツと、もう一つはマルと表示されていたので一方通行ということが分かる。まだ防護服を脱ぐと思われるところが無いため、ここで能力を使っても意味がないだろう、ということでどんどん進む。

 少し進んだところで、かなり重厚で硬質な扉が見えた。見た目に比例してかなり重く、どうやって永琳は進んだのだろうか、と思わせる代物だった。

 ギギギ、という音をたてながら開けると、また目の前には扉があった。しかし、扉には止マレ、と表示されていたため待機した。ここはストップって書いた方が自然な感じがするような気がするなぁ、と考えたが、そもそもここは古代なのだ。古代であるはずなのだ。多分英語が無いんだろう、と自己完結した。

 数秒たつと、ゴォーという音と共に凄い風が周りに吹き付けられた。エアシャワーと呼ばれるそれは、防護服を着ている前提の強さなので、生身の人間には少しキツく、目を覆って耐えていた。いくら神になったからと言って、元は人間。存在が変更されただけなので、優陽の耐久力はそこいらの人間とたいして変わらない。

 何とか耐えきると、扉には脱衣シテクダサイ、と表示されていた。近くには籠が有ったのでこれに入れるようだ。優陽は脱いだつもりで扉を開けた。するとまた扉があった。今度も同じような感覚で進み少し弱めのエアシャワーを長時間浴び、やっと外に出れると思ったが、能力を使っていないことに気づく。

 

 ──危ない危ない、“穢れという概念を自分から消す”っと

 

 しっかり能力を使ってから外に出ると、そこは圧巻の一言だった。中心部で建ち並ぶ高層ビルがとてつもない存在感を与えている。周りにはマンションが並び、一戸建ての家もちらほらと見えるが、どれも大きなものなので裕福な人の家なのだろう。どの世界でも一戸建ては夢なのだろうか。

 

「遅かったじゃない。何してたのよ」

 

 そう話しかけてきたのは美しい銀髪を三つ編みにした女性だった。一瞬誰だかわからなかったが消去法で永琳だと結論付ける。

 優陽は悪い悪い、と軽く謝ったあともう一度周りの景色を眺める。やはり凄い、近代的でありながらも日本の文化が残っているようだ。どうして日本の文化があるのかは甚だ疑問だが、気にしたら負けだと言い聞かせる。これからは何があっても気にしないようにしようと心に誓った優陽は都市に向かって歩き出す。

 途中なぜあんなに早くあそこを抜けられたのか永琳に問うと、何でも穢れの量によってかけられるエアシャワーの量が変わるそうだ。つまり防護服を脱いだ時点で能力を使っていればここまで時間はかからなかったんだと。

 アテナに言われた通り気楽に考えていこうと思った優陽の都市での生活はついには始まった。

 

 

 




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