東方照歩記   作:たま紺

20 / 27
どうもたま紺です。え? 投稿間隔早すぎる、だって? なぜならこの前投稿した時はこの話完成目前で、今日一気に完成させたからです。故にストックは無い。

もう僕からは何も言うまい。ただ、俺にもっとチカラがあれば……!
ではどうぞ。







第二十話 出会いがあるから別れがある

 

 一週間。

 それは俺と雪輝がまともに会話をできるようにまでかかった時間であり、神奈子の心に決心がついた時間でもある。

 ……まともに会話ができるようになっただけであって、若干まだ引きずっている感は否めないが。

 この前だって諏訪子から『なんで二人ともそんなによそよそしいの?』って不審に思われたり、そらちゃんから『喧嘩でもしたんですか?』なんて言われる始末。

 そろそろ旅のことも伝えないと。

 そう考えながら、俺は朝ごはんの箸を進める。……かといってうまく言える自信はないので、その辺は雪輝に丸投げするとしよう。

 やがてご飯を食べ終わり、のんびりとした時間が流れる。手紙でこっちに諏訪子連れてきてくれって言われているのでぼちぼち用意を始めるとするか。……この前、申し訳なかったのか別に時間は午前中でいいらしい。

 よいしょ、と立ち上がる。キョロキョロと周りを見渡して、俺は雪輝を探す。時間短縮のためである。

 この部屋にはいないので、探しに行こうかと考えていると廊下を通っているのが見えた。

 

「ゆきー」

 

 そう呼びかけると、ピクリと身体を硬直させてからこちらへ振り向いた。おかしかったのは硬直した瞬間だけである。っていうかまだ引きずってんのか。

 俺はちょいちょいと指でこっちに来てくれというジェスチャーをする。するとなぜか表情を引き締めてこっちに向かってきてくれた。

 幸い今は諏訪子もそらちゃんも近くにはいない。ここで相談(作戦会議)しても怪しまれることはないだろう。

 なになに、と雪輝が近づいてくる。俺の雰囲気から静かにして欲しいということを悟ったのだろう。尋ねる声は小声である。

 

「……これから諏訪子と向こうに行ってくるんだけど、その間そらちゃんに伝えといてくれないか」

「わかった」

 

 雪輝はこくりと頷いてくれた。一番大事なところを口に出していなかったが、ちゃんと伝わったようである。

 それだけ、と俺が言うと雪輝は何かの用事の途中だったのかさっさと部屋から出て行った。

 

「さて、と」

 

 そろそろいい時間帯だ。朝早すぎもせず、かといって帰ってくるのが夕方になるほど遅い時間でもなく。未来の時間で言えば八時か九時あたりである。

 俺には瞬間移動のアレを付与しておいて──頭ガンガンするけど──ちゃっちゃと行ってちゃっちゃと帰ってくるのが一番だ。

 それから俺はささっと支度を終わらせて、諏訪子を連れて神奈子の元へと向かった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 シュン、といういかにもワープしました感満載の音を聞いて神奈子の拠点の敷地内へ降り立った。……諏訪子はおんぶしている。

 

「おぉー。便利なチカラだねぇ」

 

 そう諏訪子が俺の背中から降りつつ褒めてくれたのを聞いた後、歩き出す。いくら見知った仲でも急に家の中とかに移動するのはいただけない。親しき仲にも礼儀ありってな。

 だからと言って敷地内の端っこに瞬間移動する必要も無かったかなぁ、とガシガシ頭を掻く。

 ここから中心にある神奈子の居場所まではなかなかに道のりがある。もちろん一時間もかかるような場所ではなく、数分で着くことはできるが。

 ゆっくりのんびり歩いていると諏訪子が唐突に話しかけてくる。

 

「……雪輝が言ってたんだけどさ、建御名方神が強気で出てこれないってホント?」

 

 不安げな目で俺を見上げてくる諏訪子。……なるほど、元気が戻ったのは雪輝にそう聞かされてたからか。

 

「ああ……うん。向こうも申し訳ない気持ちは持っているはずだから、横暴なことはできないはずだ」

「そっか……。なら話の方は任せたよ。白神さん!」

「は? え、ちょっ、おい!」

 

 トテトテー、と道を走っていく諏訪子。はたから見れば子がはしゃいでいるように見えるが、実際はとんでもないことを言い残して行きやがった。

 なんで俺が交渉しなくちゃいけないんだよ。諏訪の国の領主あんたでしょうが。

 ……まあ、いいけど。そういうの得意だし。

 はあ、と溜息を吐きつつ目頭を押さえて俺は駆ける諏訪子を追いかけた。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「……うーん」

 

 雪輝は腕を組んで考え込んでいた。

 理由は優陽から言われたことをどうやってそらちゃんに伝えるか、である。もちろんすぱっと言ってしまえば一番楽でいいのだが、雪輝が逆の立場だったらオブラートに包んで欲しいからこうして考え込んでいるのである。

 出だしは……。酷な話かもしれないけど? 心して聞いてね? 違うか。

 雪輝はがあー、と頭を抱えて項垂れる。いい案が浮かんでこない。

 どうしようかと床でゴロゴロ転がっていると、不意に声をかけられた。

 

「なにしてるんです?」

 

 背後から、あからさまに馬鹿にされているような声色で声をかけられる。

 雪輝はピクッとしてから固まり、錆びた機械のようなぎこちない動きをして声の主の方へ顔を向けた。

 そこには腕を組んで見下すような視線のそらちゃんがいて、雪輝のことを見つめている。

 雪輝は、あぁう、えっと……と言い訳を懸命に探しているようだが、あいにくこの状況を言い訳できる言葉なんて一瞬で出てくるはずがない。

 とりあえず。

 

「見てた?」

「ええ、もちろん」

 

 須臾の間さえ許さないほど素早いリターン。

 雪輝は顔を羞恥に染める。

 彼女はもうどうもできない状況になったと思ったのか、いっそのことと思ったのか、この状況を打開する唯一の策を展開した。

 

「そらちゃん。わたしが転がってたのにはちゃんとした理由があってね?」

 

 寝転がっていた体勢から正座をして雪輝は話し始めた。なにやら長くなりそうだという雰囲気を感じたそらちゃんも正座をする。

 だがいざとなって言葉が出てこない。……さっきまでずっと考えてたことをぶっつけ本番でやっているからかもしれないが。

 

「大事な話だからよく聞いてね」

 

 本題に入る前のつなぎ言葉。

 雪輝は嫌な間を無理やり引き伸ばして、考える時間を作った。もごもごと口を動かし、そらちゃんが怪訝な様子で眉間にしわを寄せ始めた頃やっと雪輝は口を開いた。

 

「驚かないでね……」

 

 ゴクリとそらちゃんは生唾を飲む。

 

「わたしと優陽、旅に出るんだ」

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 そらちゃんは目を点にして驚いた。

 それも無理はない。なぜなら彼女たちが出て行く理由がないからである。

 どうして、という感情が顔に浮き出ている様子を見た雪輝はゆっくりと丁寧に説明を始めた。

 

「ちょっと前にね、優陽と話してたんだ。そろそろ優陽も潮時だって思ったらしいよ。わたしも神奈子様には会いたくないし……」

 

 個人的な理由でごめんね、と雪輝は付け足す。

 顔を俯かせたそらちゃんはしばし考えていたようだが、ゆっくりと顔を持ち上げ湿った瞳をのぞかせた。

 

「そう、ですか。確かに神奈子さんはこっちに来るようですし、優陽さんも長居してましたしね」

 

 震える声で紡いだ言葉の後、座禅でも組むようにそらちゃんは姿勢を正し、目を閉じた。

 一滴。その目から涙をこぼすと、空元気なのか受け入れたのか、いつもの彼女の目に戻りしっかりと雪輝に言い放った。

 

「わかりました! 私特製の御守り作って渡しますから、それまでは行かないでくださいね!」

 

 元気よく立ち上がって部屋から出て行くそらちゃん。

 その背中を見ながら、雪輝はホッとため息をつく。

 ──そらちゃんが気丈な子で良かった。

 そう安心したと同時に、雪輝の胸にはぽっかりと風穴が空いてしまったような喪失感に襲われる。

 今までふんわりとしか考えていなかったが、これで旅立つことがはっきりとしてきたのである。後戻りすることはできない。

 そんなふうに考えてしまうと、どうしても……。

 

「……ちょっと寂しいな」

 

 つぶやいた言葉は誰にも拾われることなく、部屋の空気と同化していった。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 いつぞやの家の中。

 小さい机を挟んで俺の隣に諏訪子、向かいに神奈子がいる状況になっている。

 初めてやってきた諏訪子が珍しそうに周りを見渡しているのが終わったのを神奈子が見てから、彼女は口を開いた。

 

「さて、戦勝国であるこちらの意見を聞いてもらいたいんだが……」

 

 歯切りのよくない言葉で神奈子は言う。一騎打ちで戦うと言っていたのに混戦になったことを気にしているんだろう。

 

「別にその辺のことは後で言うから気にせずに言ってくれ」

「わかった。ならこちらの目的は諏訪の土地の受け渡しと洩矢神の信仰だ」

 

 自分は聞くだけ、と考えていたらしい諏訪子が急に顔を上げる。

 

「ちょ、ちょっと待って。さすがに信仰は……」

 

 手を合わせて諏訪子は懇願している。しかし神奈子はその様子を見て腕を組みながら難しい顔をして考えているだけだ。

 どうやら信仰の件は譲れないらしい。……どうしたもんか。

 

「……難しいのは後だ後。とりあえず土地の受け渡しについてどうだ?」

 

 俺は諏訪子にそう問う。すると今度は諏訪子が難しい顔をした。

 

「うーん……。土地に関しては、共同じゃダメなの?」

 

 新たな案を諏訪子が出す。共同というのはおそらく共にこの地を治めるということである。

 

「それは……また国内で割れそうな意見を」

 

 神奈子が口ごもりながら言った。

 ……まあ確かにそうである。諏訪の国の人たちは優しいからまだなんとかなるにしても、神奈子のところはなぁ。プライド高そう。

 

「……形だけでも支配されるのは嫌なのか?」

 

 俺は諏訪子に聞いてみる。

 うーんと考える諏訪子。同時に神奈子も考え込んでいる。

 

「それなら、うちの連中はまとめられるかもしれないけど……」

 

 手荒いこともするかもしれない、と神奈子は続けた。

 

「神奈子だけがこっちに来るのはダメなのか?」

「それこそ無理な話だ。あたしがいなくなったら何するかわからない」

 

 話が平行線をたどっていく。

 埒があかなくなってきそうだなと思ってきた頃、諏訪子が口を開く。

 

「わかった。土地の方は私たちが折れるよ。……その代わりそっちが何かしたらしっかり罰してね」

 

 諦めたようにため息を吐きながら諏訪子は言った。

 それを聞いた神奈子は嬉しそうに目を輝かせ、恩にきると言う。

 

「こちらの者が何かしたら通報してくれ。諏訪の国から追放しよう」

「なら、今度は信仰の件だな。諏訪子どうする?」

 

 俺は諏訪子の方を向きながら聞いた。またもや腕を組んでうーんと考えていたがしばらく経ってから──

 

「信仰も折れる。私は土着神だから信仰がなくても生きれるしね」

 

 ……………。

 沈黙が流れる。俺はその信仰の大切さがいまいちわかってないので、あ、そう、程度にしか思っていなかったが神奈子は違ったようだ。

 驚いた表情のまま固まっている。空いた口が塞がっていなかった。

 

「ほ、本当にいいのか?」

「うん。……まあうちの民衆に聞いてみないとなんとも言えないけど」

「そらそうだよな」

 

 実際に信仰するのは民なんだし。

 ……これでやることは終わっただろうか。

 双方を見てみると、これ以上言うことはない感じだったのでお開きにする。

 

「じゃ、これで決まりだな。引越しの準備が出来次第また連絡くれ」

 

 俺は神奈子にそう伝え、返事を貰うとこの建物から諏訪子を連れて出て行く。

 神奈子と会うことは無いだろう。旅に出て、いつか会うその日まで。

 空に対する雲の量が八対二の割合の青空を背に俺たちは元来た道を戻って行く。神社に戻るにはさっさと瞬間移動をすればいいのだが、まだ大切な話をしていない。

 人通りの少ない道を歩きつつ、俺は諏訪子に言った。

 

「諏訪子」

 

 ん? と顔を持ち上げながら諏訪子が続きを促してくる。

 

「俺……いや、俺たち旅に出ようと思う」

「ふーん。そっか」

 

 ……俺にとっては結構考えた末の旅に出るという決断だったのだが、意外にも諏訪子は淡白な反応をした。もう少し感情をあらわにして欲しかったような気────

 

「ぇええええええええ⁉︎」

「ぉわあッ! ビックリしたぁ……」

 

 不意に大きな声を出されたのでビックリした。

 なんだなんだと人気の無い道にだんだんと人が集まってくる。俺は諏訪子の口を押さえながら騒ぎを起こさないようにさささっと路地に入り、周囲の視線から逃れる。

 

「ちょ、ねぇ。旅に出るってどういうこと⁉︎」

 

 腕を引きちぎらんばかりの勢いで引っ張りながら諏訪子が質問してくる。っていうか痛い。マジやめて、肩抜けるから。

 

「お、落ち着け。ゆっくり話すから。い、いたいっ、腕がとれるって!」

 

 全力でやめてくれと懇願する俺。だがその願いは儚くも散っていったようだ。聞いてくれる気がしねぇ。

 

「一回落ち着けっ!」

 

 諏訪子の肩を持ってちょっと強めに言う。

 すると我に返った様子で諏訪子が気をつけをした。

 

「ご、ごめん……けどっ!」

 

 わかったわかった、と諏訪子をなだめる。

 そして俺は旅に出るということのキッカケ、それからちゃんとした理由を一から懇切丁寧にしっかりと諏訪子に説明した。

 ……もちろん雪輝の両親についてもだ。

 

「そっか……。納得はできないけど、理解はしたよ」

 

 下を向いて、目尻に涙を溜めながらしょんぼりした様子で諏訪子が言う。

 別に雪だけの理由じゃ無い。俺だってまだここに居たい。けど元々は流浪人の身だ。十年近く居候させてもらったんだからそろそろ身を引くべきタイミングだとも思ったからである。

 

「ただ、すぐに出て行くわけじゃないから。盛大に送別会やってくれよ?」

 

 そう言った俺の心は何か大切なモノを失ってしまったかのように、何かあって当然のモノが突然消えてしまったような孤独感を感じた。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 春の息吹。葉をつけて枯れ木の色をしていた山が緑に染まり出し、道は様々な草花によって彩られていた。吹きゆく風は春のぬくもりを含んでいるがいささか冷たい。

 誕生した生命の活気がひしひしと伝わってくる諏訪の国では優陽と雪輝の送別会という名の宴が盛大に行われていた。場所は洩矢神社の境内である。

 宴と言っても代わる代わる国の人たちと喋るだけだが。まるで有名人の訪日のようである。

 

「それにしても旅に出ちゃうとは……寂しくなるねえ」「うんうん。諏訪子様は違うけどあたしらは会えなくなるもんね」「優陽さんのことは孫の孫のずっと先の代まで伝えるから、いつでも戻ってきてくださいよ?」「やっぱり狙ってたんじゃねぇか……」

 

 次々と発せられる言葉に果たしてついていけているのかはわからないが、優陽も雪輝も笑っていた。無礼講の宴はワイワイと続いている。

 活気のある宴は朝早くから始められたのに未だに楽しい時間は終わらない。

 今日旅立つ予定の彼らにはこの宴はいつ終わるのだろうかという疑問が先ほどからつきまとっていた。

 まあ楽しいからいいや、と優陽は楽観する。しかし雪輝は違った。

 

「ねぇ、ここに居たいのは山々だけど……。出るのが夕方になるのはさすがに困るよ」

 

 眉をハの字にしながら雪輝が言う。確かに出発してからすぐ近くで寝泊まりするのは変な感じがする。もしかしたらこのまま次の日までもつれ込んでしまう可能性も捨てきれない。

 

「……確かに」

 

 だが優陽達は諏訪子とそらちゃんにまだ会っていない。居候先に別れの挨拶なしに出るのは筋違いだと思った彼らは、諏訪子らを探す。

  見つからないということは神社の中にいるということだが、なぜか入る気にはならなかった。……もちろんあまりにも遅くなりそうならば別だが。

 陽は高い。上りきってすぐだからである。

 優陽は空を見上げながら雪輝に言った。

 

「あまりにも遅そうなら呼びに行こう」

「そうだね」

 

 そんな会話をした側から二人の姿を見つける。

 そらちゃんが手に何か持っており、周りの雰囲気のおかげかその表情は終始にこやかであった。

 まっすぐと優陽と雪輝の元へやってくる。

 

「優陽さん、雪輝さん。またどこかで会いましょう」

「早い早い。もうちょっとなんか話してよ」

 

 会話もなしに別れの挨拶を言ったそらちゃんに雪輝がもう少し話そうと言う。

 そんな指摘にえへへと照れ笑いながらそらちゃんはあるものを優陽と雪輝に手渡した。

 

「これ。ここのお守りです。ご利益は農業産業に航海守護。それに縁結びと子授け」

「旅にあんまり関係無いよね。実際は陸路だし」

 

 自嘲気味に諏訪子が言った。

 しかし優陽は首を振って嬉しそうに受け取る。雪輝も同じだ。

 

「ありがとう! 俺も雪輝も大切にするよ」

「うん。いつまでも持っとく」

 

 そこで会話が途切れた。ワイワイとした会場の中で不自然な沈黙が流れる。

 

「ぁっ──」

「……そろそろ俺たち行くよ。もう、何も無いよな?」

 

 諏訪子が何か言おうとしたようだが、優陽の声が遮った。

 諏訪子もそらちゃんも優陽の問いに首を振る。

 

「そうか……。では、──────さようなら」

「またいつか会えるといいね──さようなら」

 

 優陽が先に言って雪輝がそれに続く。

 二人とも声が震えていたような気がするが、誰も気にしなかった。

 二人はゆっくりと歩き出す。

 

「っ! もう行くんですかい二人ともー」「そうよまだいればいいのに」「さよならー!」

 

 口々に国民達が声をかける。

 優陽達は諏訪の国を縦断している大通りをしっかりと、そして名残惜しそうにしながら進み、門から出た。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ただその二人だけが通る道を諏訪子とそらちゃんはずっと眺めていた。

 二人の姿が見えなくなっても。ずっと─────────────ずっと。

 

 

 

 

「さよーなら─────‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

「はい二冊目しゅーりょー」

 

 パタンと雪輝は無造作に大切な人の日記を閉じた。

 閑静な神社では、朝にあの騒動が起こってから雪輝が真海のご機嫌を取り続け──しまいには昂陽まで参加したが──やっと元に戻ってくれたので続きを話していたのである。

 ただ一冊目に比べて優陽自身が慣れてきたのかはわからないが、二冊目は文量も内容も多かったため話し終わった頃には陽が傾いていた。

 

「……なんか、一日を無駄にした気がする」

 

 ぽつりと雪輝が呟いた言葉に昂陽が、一日ごろごろしているよりはよっぽど有意義な気がするんすけど、と的確なツッコミを入れる。

 雪輝はその言葉をあえて無視し、奥の方へと向かっていった。

 何も言わずにどこかへ行ってしまったので、真海と昂陽は不思議な顔をしてお互いを見る。

 しばらくすると雪輝が少しだけ埃をかぶった、国宝にでも指定されそうな雰囲気を醸し出している御守りを持ってきた。

 

「これがその時もらった御守り」

 

 ほい、差し出されたものをじっくりと二人は眺める。

 ところどころ黄ばんでいたり、破れていたりするが、途方も無い年月を過ごしてきたものである。形を保っている方が不思議なぐらいのものがしっかりとここに存在しているということから、どれだけ雪輝が大切にしてきたかがわかるだろう。

 

「ご利益はさっきも言ったけど農業産業に航海守護。それから縁結びと子授け。わたしは縁結びのご利益しかもらえなかったけどね」

 

 ずーっと昔の話。それは聞いているだけでは現実味が全くなかったが、こうしてモノを見るとタイムスリップしている気さえする。

 

「雪輝様。その、神奈子様とは仲直りされたんですか?」

 

 真海の脳裏にふと浮かんできた疑問を率直に尋ねる。

 

「まだ、だね。諏訪子さんとも再会してないし、いつかは会いたいよね」

 

 それだけ言うと雪輝はその御守りを片付けに戻った。

 とりあえず休憩してもいいだろう。そう思った彼らは畳に寝転んでぐっと伸びをする。

 

「〜〜っ! はぁ……」

 

 何もしていないのになんか疲れた。

 二人の心の中は完全に一致し、数秒後には眠りについた。

 戻ってきた雪輝がそんな様子を見て苦笑したのは、また別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 




閲覧ありがとうございました。
ここで一旦更新を停止させていただきます。理由につきましては今年僕が受験生だからです。応援してね! 詳しくは活動報告へ。

また四月。みなさんとお会いできる日を楽しみにしております。

次回予告!

未定
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。