右も左も、上も下も何も分からない都市での生活は既に三ヶ月が経とうとしていた。俺は永琳のコネによって、軍へ入隊しそこそこ大きな部屋で生活している。今日は休みだ。
俺は、大きな布団に寝転がりながら今までの事を思い出していた。ベッドは無い。
本来軍には試験等や面接みたいなのに受かってから教育訓練へと進めるのだが、俺は面接とちょっとした身体検査だけを終えて教育訓練に移った。
落ちた者たちには申し訳なく罪悪感を感じるが、全部永琳の好奇心の所為だと決めつけることで考えないようにした。
教育訓練自体は、そこまでしんどいとは感じなかった。いや、楽と言うわけでは無いがあれに比べると月とすっぽんほど差があった。
なので、頑張って最高成績で通過することによって、コネによって入隊したヤツという肩身の狭い肩書きから、何か体力が意味わからん位あるヤツに変わることができた。……よかったのかどうかはわからないが。
そして、ある程度の知識もあったことから新人ではあり得ない地位を貰った。もしかしたらここも永琳のお陰かもしれない。
因みに貰った階級は二等陸曹だ。普通は陸士や海士、空士と呼ばれるものになるはずである。まあ、海も近くにないし飛行機を飛ばす必要もないので陸軍しかないのだが。
士になった者は、二、三年の間に軍人としての資格があるかどうかを見られ、資格がない場合は解雇される。資格がある場合は曹へと昇格することができる。
俺の貰った階級は士の一個上なので、解雇の心配がない。ここも永琳の(以下略
俺の二等陸曹という階級は、曹の中では上から三番目である。この世界では頑張れば陸将という最高の位にまで行けるらしい、ということは全ての軍人が陸将になれる可能性があるということだ。がんばろーっと。
何かさっきは永琳が悪者みたいに言ったが別にそんなことはない、むしろ仲良くさせてもらっている。ただ、親密というよりは仕事の同僚みたいな感じ。永琳自身は都市の研究チームのトップらしく、ツクヨミという都市のトップと対等に話せるうちの一人である。もう一人は陸将だ。
このツクヨミはここのキャラであって、本物は神界にいたはず。
それはそうと、都市には寿命という概念が無いそうだ。永琳に訊くと、穢れというものが寿命を縮めているらしい。生まれた直後からこれを浴び続けると、個人差はあるが大体八十年で寿命と自分の歳が重なる、即ち死が訪れると言っていた。逆に、穢れさえ浴びなければ悠久の時を過ごせるということである。
……さすが研究所のリーダー、俺には理解できん。できないことはないんだが、いかんせん掴んだっていう感覚がない。あれだ、数学で例題の通りやったらできたが何でできたかわからん、みたいな状況になっている。
そんなリーダーが急遽俺の家に来ることになった。
風が涼しくなってきた今日この頃、秋である。秋雨前線か台風でも来ているのだろうか。今外はどしゃ降りの大雨、しかも急に降りだしたため雨宿りさせてほしいとのことだ。
都市の外を覆っていたものは何だったんだ、と訊くと穢れを防ぐ為だけのもので雨とかはすり抜けてくるらしい。やっぱり科学力がよくわからん。
俺の家はマンションの七階である、因みに十五階建てだ。
このマンションのとある面は前のビルに丁度重なり、一切太陽が当たらない部屋がある。最上階付近になるとビルよりも高くなるので太陽が当たる。下の階は申し訳程度のサービスが付いている。このどちらの恩恵も得られないのが、俺の部屋と一個下の部屋である。
その分安いからいいし、太陽程度能力でどうとでもなるしね。しかし日照権とかで訴えれたら勝てんじゃねぇの? そんなのあるかは知らないけど。
──ピーンポーン
玄関のチャイムが鳴った。永琳が来たらしい。
小走りでタオルを取ってから玄関へ行きドアを開ける。誰かなんて確認する必要はない。不審者だったら即撃退すればいいだけだ。
「はいよー」
「急に来てごめんなさいね」
「いいっていいって、どうせ暇だし。はいタオル」
「ありがとう」
「ある程度拭けたら入ってきていいからな。なんならシャワーでも浴びるか?」
「そこまで迷惑かける訳にはいかないわ」
そう言って永琳はタオルを返してくる。
汚い部屋だけど~、と言おうとしたが今さら言うような関係でもないので言わなかった。
永琳は玄関で靴を脱いでいる。なんか元気がない。というよりどこか上の空だ。その後彼女は俺に案内を求めるような目で見てきた。
最初なぜそんな目で見てくるのかわからなかったが、初めて入る家にズカズカと入っていくほど礼儀知らずではなかったらしい。むしろそこまで考えが及ばなかった俺の方が礼儀知らずになるところだった。
取り敢えずリビングへ案内し、椅子へ座ってもらう。何故椅子とテーブルがあってベッドが無いのか……おっと考えちゃいけないんだった。
初秋ではあるが水に濡れると少し寒い、その為毛布を永琳へ渡す。
暖かいお茶を沸かしてあったので、それも永琳へ渡す。近代的な都市のどこで育てているかだって?そんなもんちょっと離れた所は田園風景とまではいかないがそれぐらいはある。近郊農業を極めたらこうなるのだろう。
俺は自分の分も淹れた後、永琳の対面へ座る。ここに来たときからそうだったが、今日の永琳はどことなくしおらしい。
どうしたんだ? とでも訊くべきだろうか、お節介かもしれない。でも親密では無いからこそ話せるものがあるのではないか、と考えた俺は思いきって訊くことにする。
「元気がないように見えるんだが、……なんかあったのか?」
いきなり話しかけてきた俺にビックリしたのか、サッと顔をあげる。
やはり思い当たることがあったのか、言おうか言うまいか悩んでいるようだ。
「何でもないわよ。風邪引いたのか分からないけどしんどいだけだから」
「なーんだ、てっきり色恋沙汰にでもなってんのかと思った」
てっきり訊いた瞬間顔が赤くなったのでそう思ったんだが。
ちょっと残念な顔をしたのは仕方の無いことだ。永琳は俺がそんな顔をしたのが不服だったのか睨んできている。
「あ、そうそう貴方に仕事を持ってきたのよ」
む?この話の変えかた、そしてどこか顔が赤いということを考慮するとさっき言ったことはあながち間違いでは無さそうだ。
これはなかなか面白い、俺も昔告白されたときに相談したのは大の親友ではなく、いつも遊ぶ訳では無いがまあまあ仲の良いヤツに相談した記憶がある。質問しようとしたときに思いきって訊いた理由はこれである。実体験をした俺の考えだ。
しかし三ヶ月では短すぎたようだ。
この立ち位置に行けたら良いんだがなあ……絶対面白いし。
というか急に来たはずなのに何で仕事を持って来れたんだよ。
「仕事内容は、と……あったあった。えっとここに書いてある事をとりあえず見といて」
そう言うと永琳は本と紙の束を渡してきた。
なになに……これは勉強の教材でこっちは練習問題が書いてあるプリントか……俺に教師でもしてほしいんだろうか。まあ、教えるのは得意だけど。
ある程度目を通した後永琳を見る。
「読めたかしら。仕事内容っていうのは蓬莱山様の娘である輝夜の家庭教師をしてほしいのよ。今までは私が教えてたんだけど、研究が佳境に入ってきてね。頼みたいのよ、いい?」
「──分かった。その代わり、さっきの話の続きを所望する」
俺が受け入れたことでホッとしていた永琳の顔がぎこちない動きで見つめてくる。
「言わなきゃ、ダメ?」
とてもうるうるとした瞳で懇願するように見てきているのだが……ダメだこの目を見てたら覚悟が薄れる。
うーん、どうしようか。無理矢理聞き出すのは嫌なんだよなあ……妥協するか。
「永琳が言う気になったら教えてくれ。ああ、色恋沙汰じゃなかったら言わなくてもいいよ」
よし、保険もかけたしいつ話が聞けるかは分からないが聞けるときが楽しみだ。
今思ったんだが、俺の行動、なんかこういう話に興味が出だした頃の女子みたいだな……
「いつ家庭教師やればいいんだ? 出来ればちょっと時間がほしいんだけど」
教える側が教材の意味を理解していなかったら全くもって意味がない。だから俺がまず勉強したい、中途半端にするのは性格上絶対に許さないからな。
「うーんと、ホントは毎日教えてたんだけど最悪一週間までなら休みってことに出来るわ」
「了解、なら三日くれ。初日の問題だけでも分かればいいからな」
「ああなるほど、だったらある程度私が教えてあげるわよ」
さすが天才、ほとんど言ってないのに俺の言った主旨が分かったらしい。頭の回転早すぎるだろ……
そして数時間の間永琳に教えてもらっていた。と言っても、俺も元々分かってたところなので理解するのは早かった。だがそれを抜きにしても早かっただろう。永琳の教えかた上手すぎる、中学の時もこんな家庭教師が居たら受験なんて余裕だっただろうな……
あらかた教えてくれると永琳は帰っていった。その時は雨も止み、暖かい太陽が顔を出していた。この部屋には関係ないけど。
ちなみに予定も変えた。大体理解したので、明日にした。
さあ、明日初めてだけど頑張ろう。
あとから聞いたんだが、顔を赤らめたのは……その、女の子の日だったらしい。言わなくていいって言ったのに誤解されたままは嫌だとかいう理由で言ってきた。聞かなけりゃよかった、と思い後悔しまくったのはここだけの話だ。
ちなみに階級の名称は自衛隊からとっていますのでご了承を。
感想等待ってます。