東方照歩記   作:たま紺

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どうもたま紺です。

今回から新たな章ですね。
では、どうぞ。


二冊目 神様たちと邂逅しました。
第九話 新たな時代が始まりを告げる


 あの戦乱から幾星霜。

 俺はすべての遺体を地面に埋めて供養した後、あてもない旅に出た。

 理由は簡単である。一定の場所にとどまって関係を深く築いてしまえば、またあの悪夢を繰り返してしまうからだ。

 ……そう、あの荒野を。あの戦場を、もう二度と俺の手で作ってはいけないのだ。あんな思いは、これからもずっとずっとゴメンだ。

 だからこうして旅に出た。あてもない旅だが、これがまた面白いのなんの。

 俺が降り立った世界はかなりの古代だったようで、旅を始めてすぐに氷河期が訪れた。もちろんあの氷河期である。猿人からアウストラロピテクス、だったっけ? いや、あれは猿人の種類だったような……。なら新人だったっけ? 忘れた。まあいいや。が誕生し、縄文時代へ突入していったのだ。

 ならば、あの都市はなんだったのか。遠い未来では残されることのなかった歴史を見ていたことに、ちょっとだけ興奮している。もしかしたら“ナスカの地上絵”とか、“クリスタルスカル”だとかいうオーパーツはあいつらが作ったものかもしれない。なんて妄想も楽しいしな。

 んで、今俺は仲間を作り出した人間たちの集落を木の上から色々と覗き見している。なぜ中に入って見て周らないのかというと、………中に入ったら攻撃されるんだよね。

 初めて集落を見つけた時は嬉々として突入したんだが、不審者だどうする? とりあえず攻撃だー、みたいな感じで襲われた。

 まあ俺が来ている服は、未来の洋服ってやつだからな。襲われても仕方ない。

 ちなみにどんなのかというと、七分丈の黒いズボンに白のなんか英語がいっぱい書いてあるTシャツだ。前世の時の基本的な外出スタイルである。

 これは後から気づいたことなんだが、なんか前世の記憶は消えないらしい。前世で死ぬ瞬間に覚えていたものをそっくりそのまま引き継いでいるらしく、忘れかけているものはいつまで経っても思い出せないし逆に当時勉強していたものははっきりと思い出せる。

 そしてこの世界で記憶したものは例外なく忘れていくらしい。……まあ、大きなことも起こらなかったので、あの悪夢はしっかりと覚えているが。その分どうでもいいことは色々と忘れている。

 例えば……って忘れてんだから出てくるわけないか。

 心中でボソボソとしゃべっていると、なんだかムラが騒がしくなってきた。

 

「なんだなんだ?」

 

 見つかったかもしれない。そう思って注意深く彼らを観察していると、どうやら違うらしい。

 ここ最近は知能が発達してきたようで、祭事のようなものをやっている。そろそろ渡来人によって米とかが入ってくるんじゃないだろうか。

 こんな感じで全く見当がつかない理由。なぜかわかるだろうか。それは……教科書にほっとんど縄文時代のことが載っていないからだ!

 日本の歴史の中で最も長い時代が縄文時代である。年数は今から三千年ほど前まで七千年間続いたのだ。なのに教科書に載っているのはほぼ見開き二ページで終わり! 多くて三、四ページだろう。

 だから、いまどこらへんなのかまっっったくわからんのだ!

 ──ハァ、ハァ、ハァ。

 でもいつかは縄文時代から弥生時代へと移行し、古墳時代と続いていくのかな。うーん、でも今が縄文時代のどこかははっきりとはわからないからなぁ。

 都市っていう前例もあるし、もしかしたら俺の知っている史実とは違った歴史を歩んで行くことになるかもしれない。

 

「あれ?」

 

 そんな予想とは裏腹に、遠くで地面を掘るような動きを見つけた。

 田んぼでも作っているのだろうか。となると俺の予想よりは早く弥生時代へと移り変わりそうだ。

 弥生時代。それはムラが大きくなってクニとなり、だんだんと争うようになっていった時代である。

 ──戦争。

 ふと、あの悪夢が甦る。

 いや、あれはもう戦いとは呼べない、ただの蹂躙である。

 気づかぬうちに荒れ果てた草原、突き刺さった大量の刃。そして……右手に握りしめた血濡れた日本刀。

 

「うぐっ………!」

 

 心臓を握り締められ、心が震え上がった。……もう考えるのはよそう。過去を振り返っても自分の行いを反省することしかできない。ならば、この反省を生かして次に繋げることこそが一番大事だ。

 ブンブンと頭を振り、嫌な記憶を振り払う。

 ……変なことを考えてしまった。

 もう寝てようかな。俺はこの何億という時の中でずっと起きて過ごすのは不可能………っていうか狂っちゃいそうだと思ったので、寝るという方法を編み出した。

 方法は簡単。俺から【目覚める】という概念を何かが起こるまで消去する。と、身の危険を感じるまで仮死状態になれるのだ。

 というわけで、寝よう。

 キョロキョロと周りを見渡して、ある程度安全な場所を探す。さすがにそこらへんで寝ていては、ずっと寝ていられない。

 んー、木の上とかいけるかなぁ。

 

「よっと」

 

 ひらりと身を翻して木に登る。

 

「よし、いけそうだな」

 

 俺はいい感じに体を動かして、幹に背を預ける状態で目を瞑った。

 

 ──俺から【目覚める】という概念を身に危険が迫るまで、削除。

 

 すると、すうっと意識が遠くなり深い深い眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

「キャ───────ッ!」

 

 耳を劈くような悲鳴が鼓膜を揺さぶり、強制的に意識が覚醒した。

 あまりに焦ったせいか、眠りこけていた木の枝から滑り落ちてしまう。三メートルほどの高さがあり、なおかつ背中から落ちたので、激しく咳き込む。

 

「ゲホッ、ゴホ! ───ッ! ハァッ」

 

 兎にも角にも俺が起きたということは、身に危険が迫ったということだ。

 それにさっき幼い悲鳴が聞こえたので近くに敵がいるんだろう。

 助けてやるか。

 周りを見渡し、異常がないか確認する。風が揺らす以外の不自然な木の音を聞き漏らさないように、目を閉じて集中していると俺の左後方から木の枝が折れる音がした。

 

「見つけた!」

 

 音の鳴っていた方へ飛んでいく。

 我ながらこの頭の回転の速さは褒め称えれると思う。寝起きでこれだから、実際はもうちょっと早いかもしれない。なんにせよ、俺の数少ない武器だ。

 と、心の中で誇っているとすぐに標的を見つけた。

 状況は少女と熊……の妖怪か? 詳しくはわからないが、少女は尻餅をついて後ずさり熊が必殺の一撃を放とうとしている。

 つまり、絶体絶命のピンチというやつだった。

 今にも襲い掛かりそうなので、速度を上げて鋭い爪を振りかぶっていた熊の横顔へ右ストレートをお見舞いしてやる。

 飛んできた速度も合わさった痛烈な一撃はドゴッという鈍い音をたてた。その威力に熊がよろめいたので、隙をついて足へと追撃する。

 脛の部分に向かって、神力を込めた右足を思い切り振り抜いた。

 俺の足が熊へと接触する瞬間に膨大な量の神力を流し込んだので、熊の足が膨張し破裂した。

 飛び散る血飛沫が頬を滑る。

 ……それを見て、また嫌なものを思い出してしまった。

 

「───っく!」

 

 これ以上ここにいては俺の精神が持たないので、近くで唖然としていた少女を抱きかかえ、密林の中を逃走した。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ───ハ」

 

 あてもなく適当に逃げて数分ぐらい経っただろうか。そろそろ十分だろう。

 ふと視線を下ろすと、腕の中の少女は怖いのかギュッと目を瞑り俺の服の袖を掴んでいた。

 近くにあった巨木へと向かい、少女を下ろす。

 できるだけ安心できるように優しく、優しく声をかけた。

 

「ねぇねぇ、君、大丈夫?」

 

 するとゆっくりと閉じていた瞼を開けて、こちらをジーッと見つめてきた。

 歳は十歳程度だろう。日本人らしい漆黒の髪は肩口まで伸ばされている。幼いプニプニとした顔の所々には傷があり、血も滲んでいることからさっきやられたということがわかる。

 十秒ほど経過した時、やっと口を開いてくれた。

 

「……兄ちゃんが助けてくれたの?」

 

 細く消え入りそうな声が、小さな口からこぼれ落ちた。

 

「ああ、そうだよ」

 

 すぐに安心させるために言葉を返す。

 それと同時に頭を撫でてあげた。これがもう少し上の年齢だったらできないが、十歳ぐらいならできる。神様だって許してくれるはず。

 

「……うぅ、………ぐすっ、こわかったよぅ」

 

 その行動がいい感じに安心させることができたようで、泣き始めてしまった。

 ここからはちょっと勇気がいるが………いいや、やってしまえ。

 俺は思い切って少女を抱きしめる。その小さな身体を包み込むように。絶対に離さないように。強く強く。

 

「ぁあ、ぅわ──ん……」

 

 より強く泣き始めてしまった。

 だいぶ長くなりそうなモードに突入したので、俺は抱きしめた体勢のまま巨木へ背を預ける。

 未だ泣き続けている少女の背中をトントンと叩きながら、俺も一息ついた。

 一戦したものの、寝起きという事実からは逃れられないらしく、逆に疲れたせいでだんだん瞼が重くなってきた。

 

「……ふわぁ」

 

 大きなあくびをする。

 腕の中の少女は泣き疲れたらしく爆睡モードに入っているので、俺ももう一回寝よう。次は能力をかけずに、ただの睡眠として。

 俺は襲ってくる睡魔に抗うことはせず、ゆっくりと目を閉じる。

 疲労と未だに覚醒しきってない脳によって、すぐに眠りにつくことができた。

 

 

 

 もぞもぞと腕の中で動く気配によって目が醒める。

 すでに日は高く上っており、一日が経過したということが分かる。昨日寝た時は、陽が沈みそうな時だったので半日は寝ていたのか。………寝すぎたな、こりゃ。

 

「う、うーん」

 

 うずくまっていた少女は目を覚まし、ぱちくりと瞬きした後じっとこっちを見つめてきた。

 ……と、とりあえずなんか喋ろう。さすがに気まずい。

 

「え、えと。名前、教えてくれる? ちなみに俺は、白神 優陽だよ」

 

 もう一度瞳をぱちくりとして少女は答えた。

 

「ゆーひ? わたしの名前は、そらっていうんだよー」

「そっか、そらちゃんか。おうちの方向分かる?」

 

 んー、とそらちゃんは考え込む。その後周りを一瞥して視線をこちらへ戻した。

 

「うぅ、わかんない」

 

 少し涙目になりながら、そらちゃんは答える。

 うぐっ……なんでこんなに純粋なんだ。……かわいい。娘にしたい。

 さすがにわかんないよなぁ。俺が適当に逃げながら連れてきたんだし。

 ……このままここに放っておくのは人として終わっているので、せめて親御さんのところへは送り届けたいんだけどなぁ。

 しゃーない。空飛んでムラかなんか探すか。

 

「そらちゃん。空を飛んで帰ろう」

「え? うん!」

 

 そらちゃんは二つ返事で了承してくれた。

 俺はそらちゃんの顔が前になるように、脇の下に手を入れて抱っこする。

 そのままある程度開けた場所まで歩いていく。俺だけなら別にいいんだけど、そらちゃんはさすがに生い茂る枝えだを突っ切るのは厳しいからな。

 しばらく歩いていると、眩しい光が俺たちを包み込んだ。

 ふと上を見上げると、ぽっかりと綺麗に穴が出来ており、ここからなら飛んでいけそうだ。

 

「じゃあ行くよ」

 

 一言断りを入れて離陸した。

 身体への負担を軽減するためにゆっくりと上昇し、森の上へと出てきた。

 周りを眺めると、寝る前にはあったムラがなくなっており、そこはすでに青々とした樹々が埋め尽くしていた。

 だいぶ地形が変わったなぁ。

 まあ、数十年で木は大きくなるから、めちゃくちゃ長い時間寝ていたわけじゃないと思うんだけどね。

 

「わぁ! すごいすごーい!」

 

 俺の腕の中ではそらちゃんのテンションが臨界突破している。

 ……キャッキャキャッキャとはしゃぐのはいいんだけど、あまり暴れてもらうと困る。俺の手だって限界というものが存在するんですよ、そらちゃん。

 

「あ! わたしの家見つけたー!」

 

 どこだどこだと探してみると、確かにあった。

 森の先の開けた場所にムラみたいなのがあり、木をとんがらせた策でその周りを囲っている。

 大きさは結構な規模で、ムラじゃ不相応だ。ということはクニかな? それほどの規模だ。

 ここから確認できるのはその集落の大きさと、ひときわ大きな家……っていうかなんていうか神社みたいな風貌の建物があった。

 ……………ん? さっきそらちゃん“わたしの家”って言ったよね。ということは、そらちゃんあの家の娘?

 とんでもないお嬢様じゃないか!

 あそこに連れて行った瞬間殺されそうだぜ。気をつけねば。

 兎にも角にも、その家へ向かって飛んで行く。といっても途中で下りていかないと、襲撃されるんだけどね。

 そうだ、服もこの現代風──いや、この時代で言ったら未来風か──から変えなくてはいけない。

 

 ──俺に【服を創造する程度の能力】という概念を付与。

 

 んで、この時代と同じ服を創る。……確か貫頭衣って服だった気がするな。

 頭と袖の部分に穴開けて、すっぽりかぶるタイプのアレである。

 ちらりとそらちゃんの服を見てみると、やはり同じような貫頭衣を着ている。だが、ちょこっと豪華かな。高そうな勾玉ぶら下げてるし。

 いろいろ考えながら気持ちよく飛んでいると、だいぶ目的地までの距離が短くなってきた。ここからなら歩いてもたどり着けるだろう。

 

「そらちゃん、下りるよ」

「えぇ〜……うぅ、わかった」

 

 こ、心が……罪悪感で埋め尽くされていく………。

 なので、少し時間を稼ぎながらゆっくりと着陸する。

 腕からそらちゃんを下ろし、手には貫頭衣を創造して話しかけた。

 

「俺、着替えてくるからチョットだけ待っててね」

 

 すると彼女はコクリと頷いてくれた。幼いながらにも、俺の服装が変だったことに気づいていたのだろう。

 さっと木の陰へ行き、今着ている服を全部脱いで捨てる。どうせ俺の能力だから、俺の近くになければすぐ消えるものである。

 そして貫頭衣を頭からすっぽり被って準備完了。……と思ったけど、勾玉つけたいよね。服に限定しちゃったけど、いけるんだろうか。

 不安になりながら創ってみると、ちゃんとできた。質素な一個だけの勾玉だ。

 それを首につけて──

 

「よし、オッケーだな」

 

 ここまでにかかった時間、八秒程度。完璧である。

 そして木の陰から出ていく。そらちゃんはきちんとその場で待っててくれていた。

 ……まあ、八秒でどっか行くような性格とか好奇心旺盛すぎて困る。

 その点彼女はそこまでおてんばじゃなかったようだ。

 

「よし、おうちに帰ろうか」

「うん!」

 

 そらちゃんは元気に返事をしてくれた後、自ら俺の手を握って歩き出した。

 あー………これはヤバい。何がヤバいって超ヤバい。くそっ、俺は同い年か二、三個年下の娘が好きだったのに……このままだと新たな道を開拓してしまいそうだ。

 よーし、落ち着けー。相手はあくまで“幼女”だ。恋愛対象ではない。これは絶対だ。んでもって愛でる対象であって、執着などはしてはいけない。

 いやダメだ。愛でる対象とか言ってる時点でヤバい。そう、可愛いだけ。

 深呼吸しろ白神優陽。

 

「すぅ、はぁー」

「どうしたの?」

 

 そうつぶらな瞳で見てくるそらちゃん。ダメだ、君はなんでそんなに俺をロリコンという道へと突き落としたいんだ─────っ!

 深呼吸は怪しまれるな。よし作戦変更、素数を数えるんだ。

 一……は素数じゃねぇ! 二、三、五、七、十一、十三……あーわかんなくなりそう。やっぱやめよ。

 そんな葛藤もそらちゃんはつゆ知らず。ズンズンと歩き進め、ついには集落の入り口にたどり着いた。

 

「そこの者! 止まれ!」

 

 そう、厳つい顔の門番に止められた。

 デスヨネー。うん知ってた。止められるってわかってたよ。

 仕方ない、帰るか。できるならこのままここに残って、この時代の生活をしてみたかったんだが。

 そう思って、くるりと振り返りそらちゃんに別れの言葉を告げようとした時──

 

「そらか⁉︎」

 

 と、隣にいたそらちゃんを見て門番は驚きの声を上げた。

 ちなみにすでに手は離してもらっている。

 

「うん! そらだよー」

「そうか……その者に連れてきてもらったのか?」

「その者? あっ、ゆーひのことならそうだよ。わたしがクマさんに追いかけられてた時に助けてもらったんだー」

 

 そこまで聞いた門番はさっと顔色を変えて俺に対して姿勢を正してきた。

 なんで? と首を傾げながら次に来る言葉を待っていると、厳つい口元からその先の言葉が発せられた。

 

「そらを連れてきてもらったのにもかかわらず、先ほどの無礼申し訳ない」

 

 俺は急に頭を下げられたことに戸惑う。とりあえず何か言っておかないと。

 

「いえいえ、たまたまですから。頭あげてくださいよ」

「そうか……。なんにしてもこのクニの大事な娘だ。感謝しても仕切れない。……ふむ、見た所旅の者だと思われる。少しの間ここで我々にもてなさせていただけないか」

 

 おっと。願っても無いチャンスだ。お言葉に甘えさせてもらおう。

 

「そうですね。こちらも少し疲れているので、その申し出はありがたいです」

「そうか、それでは契約成立だな。ついてきてくれ。とりあえずそらの家まで連れて行く。ほら、そらも行くぞ」

「はーい」

 

 そう言って門番は俺たちを先導するために、先を歩いた。

 ………門番って、自分基準で入っていい人かダメな人か決めれんのか?

 などというどうでもいい疑問を抱きながら、後をついていく。

 このクニは一本の大通りを中心に、両サイドに民家が大量に並べて建てられているようだ。そらちゃんの家はこの大通りの先にあるので、このクニの中心人物がいるんだろう。簡潔に言うと平安京みたいな造りだ。

 俺は一日ぶりの自分のクニにはしゃぎまくっているそらちゃんを尻目に、周りを眺めてみると、奇異……というよりは物珍しげに街の人が俺のことを見ていた。

 ……そんなに変な格好をしているだろうか、俺。もしくは普段全く人を入れない門番が人を連れているのに驚いている、とか? 普段の門番知らないから、ただの憶測だけど。

 しかしどの人も俺の近くで飛び回っているそらちゃんを見てほおを緩ませた。……やっぱかわいいよね。俺だけじゃなくてよかった。

 そう安心していると次第にそらちゃんの家が近くなってきた。

 ……それに伴って、さっきから感じる神力も強くなってるんですが。これは結構上位の神様がいるかも。一番上は俺だけど。

 不意打ちとかされたら困るからちょっと警戒しておこう。

 体の周りから神力を垂れ流す。……といっても気づくか気づかないかのギリギリのラインだが。この微々たる量に気づけるならば、相当敏感なのか、よほど警戒しているかのどちらかだろう。

 俺としては前者であってほしい。じゃないと見事に戦闘ルートに入っていく未来しか見えない。

 一抹の不安を抱えながらやっとそらちゃんの家に着いた。

 大きめの鳥居があり、その先には平屋の建物と注連縄。間は何もなく、広場のような作り──いわゆる境内──になっていた。見るからに神社ですね。……不安が大きくなっていく気がするんですけど。

 

「ここがそらの家だ。洩矢じ──」

 

 タン、と軽い音を立てて何かが地面に突き刺さった。

 そして呆然としていた俺たちに幼い声がかけられる。

 

「……何者だ。神でありながら我が領域に無断で侵入するなど。命が惜しくないのか?」

 

 ……………………。

 せ、戦闘ルート………。

 そうか、さっきの俺の言葉は見事にフラグだったってわけか。

 その声の主は未だ姿を見せておらず、どこにいるか皆目見当もつかない。

 

「答えない、か。そら、タケル、離れていよ。流れ弾が当たっても知らぬぞ」

 

 二人は有無を言わさぬ威圧感に気圧されて下がっていった。こうなればもう諦めるしかないだろう。

 逃げるという選択肢もあるが、それはそれでなんか嫌だ。最悪神力を研ぎ澄ませて脅せば俺の正体に気づくと思う。

 威圧感が強くなった。

 そして声の主は悠々と自分の家の屋根に立ち、こちらを見下ろしてきた。

 そらちゃんと同じぐらい幼く、頭に変な帽子をかぶった金髪の幼女。

 その行為になんとなくイラっとする。俺はこの世界で一番偉いんだぞーとか言って威張りたいわけではないが、見下されているという事実に苛立つ。

 よし決めた。少しおちょくった後に、本物の神力というのを見せてやろう。

 俺も相手を睨みつける。

 

「……戦う前に名乗らないのは無礼にあたるな。私の名は洩矢 諏訪子だ」

「その位置から言ってる時点で無礼でしょーが……。まあいい。俺の名は──」

 

 そのまんま言ったら俺の正体バレるよな。

 この世界では、すべての種族の上位にあたるものは俺のことを知っている、らしい。アテナから聞いただけだが、言伝で紡がれていく伝説として俺のことが出てくると言っていた。

 しかし神だけは例外で、本能的に俺の神力を知っているのだ。

 いくら神力を使わなくとも、名前をまんま言ったらバレる可能性が高い。

 

「……どうした?」

「いや、なんでもない。俺の名は……そうだな、ハクとでも名乗っておこうか」

 

 失言したかも……。名乗っておこうとか、普通つかわねぇし……バレたかも。

 

「そうか、貴様も戦う気はあるようだし……いくぞッ!」

 

 そう言って幼い敵は、屋根を蹴り突撃してきた。

 よかった。気にしてないみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 ──そして幼い神様と最高神の戦い、という名のじゃれあいが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




謎に長くなってしまった。
ちなみにそらちゃんの名前を漢字で書くとすると“宙”です。
宙→苗→さあだれでしょう。
ちょっと無理がありますかねw

閲覧ありがとうございました。
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