少年は一人将棋盤を見つめていた。少年一人しかいないはずなのだが、盤上では明らかにもう一人のプレイヤーがいると思われる。しかし周りを見渡しても少年以外に人影は見つからない。盤上の状態を言うとすれば、少年の負けは確定している。少年は考えて考えて考えて考えて考えた末に思考を放棄して負けを認めるように手を挙げる。
悪戯神「これで72962戦全勝・・・なぁそろそろ終わりにしないのか?謙信」
犬神謙信・・・それが少年の名前である。
謙信「・・・・」
謙信は虚空を見つめていて彼の前にいる前世からの親友であるロキの言葉を聞いていない。否、聞こえていない。ロキは狡知の神などと呼ばれている有名な神話の神であり、謙信の親友でもある。姿は謙信にしか見えていないため周りに人がいたとしても気づかれる事がない。最初の説明もそのためである。そんなロキがため息をついて謙信の顔の前まで自分の顔を近づけて、指を鳴らす。すると糸が切れた人形のような状態であった謙信の意識が次第に復活していく。
謙信「あれ、ここは?・・・そうかそういえばそうだったな」
謙信はなにか悲しそうな顔をした後にロキに礼を言う。だがロキは”いつもの事だ、気にするな”と礼を受け取らない。このやり取りはもうやりなれたことで謙信はそれ以上礼を言うことはなかった。その後飯を食べてロキと軽い雑談をしていると・・・いきなり頭上から手紙が表れて謙信の目の前に落ちた。ロキもいまの事に興味を持ち手紙をみに近づいてくる。
謙信「これは・・・」
手紙の宛先を見ると【犬神謙信殿へ】と書かれており、間違ったということではなく意図的に送られてきたのがすぐに分かった。ロキを見ると、はやく見てみれば?と若干中身が気になっているが先に謙信が読めとばかりに譲ってくる。謙信は恐る恐る手紙を開け、内容を確認する。
『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能を試すことを望むのならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの〝箱庭〟に来られたし』
謙信はその内容に不思議に思いながらロキにも内容を見せるとロキは一瞬驚いた顔をした後にニヤリと笑い
ロキ「170年間ずっと待ってた・・・お帰りだな謙信」
そんな言葉をロキは呟く。なんのことか問いただそうとする瞬間、謙信とロキは光に包まれる。次に謙信が違和感を覚える。それは謎の浮遊感。目を開けるとそこには広大な大地に生い茂ている緑、遥か地平線の先には世界の果て、というべきか、滝が底の見えないほど深い場所に流れ込んでいた。反対側には、天空を貫く柱のようなものが聳え立っている。
ロキ「ようこそ箱庭へ、久しぶりの歓迎をしよう」
そんなロキの言葉とともに4人+一匹は湖へと落ちて行った。