「君をトップにしたい。そのためなら俺はどうなってもいい」 それはプロデューサーとしての献身か、あるいはただの独りよがりか。

過労で倒れたPに対し、藤田ことねが涙ながらにぶつけたのは、 「トップ」への執着ではなく、隣にいる男への剥き出しの愛だった。

――これは、自信のないプロデューサーと、彼を誰より愛するアイドルの、再出発の物語。

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無自覚な自己犠牲プロデューサーに、藤田ことねが愛を叫ぶまで

プロデューサー室。

 

 

藤田ことねのプロデューサーは、今日も彼女をトップアイドルにするために短い睡眠時間で大量の作業を行っていた。

 

 

(俺は、藤田ことねのプロデューサーだ。彼女は最高のアイドルで、油断するとすぐに置いていかれてしまう。そうならないためにも、もっと頑張り続けなければ……)

 

 

そんなとき、部屋の扉が開かれる。

 

 

「お疲れ様でーす、プロデューサー」

 

 

「……藤田さん、お疲れ様です。」

 

 

「うわ、目のクマすごいですよ。また睡眠時間削ったんですか?」

 

 

「すみません……どうしてもやっておきたい作業があったので」

 

 

「もう、仕方ないですね。愛しのことねちゃ~んがプロデューサーに膝枕……」

 

 

「結構です」

 

 

食い気味に返した言葉とは裏腹に、視界がぐにゃりと歪む。限界まで酷使した神経が、悲鳴を上げるよりも先にぷつりと断線した。

 

 

「ええ!?まだ話してる途中なのに……」

 

 

「心配せずとも、すぐに終わります……の、で……?」

 

 

ガタン、という鈍い音。椅子の背もたれから力が抜け、吸い込まれるように視界が床へと落ちていく。

 

 

「ちょ、プロデューサー!?」

 

 

(ああ、まだ彼女のためにやらなければならないことがたくさんあるのに……)

 

 

「プロデューサー、プロデューサー!!」

 

 

(すみません、藤田さん。こんな不甲斐ないプロデューサーで………)

 

 

彼女の叫び声を聞きながら、意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

夕方の保健室、Pはゆっくりと目を覚ます

 

 

「……ここは?」

 

 

「目覚めましたか?プロデューサー」

 

 

「……藤田さん」

 

 

(状況から察するに、俺は仕事中に倒れてしまい、保健室に運ばれたのだろう)

 

 

「……俺が倒れた後、どうなったんですか?」

 

 

「プロデューサーが倒れた後、私が男の先生に頼んでプロデューサーをここまで運んでもらいました」

 

 

「そうですか、後でお礼を言わないと。藤田さんはいつからここに?」

 

 

「プロデューサーが保健室に運ばれた時から、ずっとここにいましたよ」

 

 

「……申し訳ありません。俺のせいで、藤田さんの貴重なレッスンの時間を奪ってしまい」

 

 

「もう、プロデューサーったら。いつもあたしが無理しないでくださいって言っても、全然言うこと聞いてくれないから。だからこんな目にあうんですよー」

 

 

「……返す言葉もありません」

 

 

「まあ、あたしの為に頑張ってくれるのは凄い嬉しいですけど、少しは心配するこっちの身にもなってくださいね。もう今度から、無理するの禁止ですから」

 

 

「……はい」

 

 

「あ、まだ納得してない顔してる。なんでそんなに無茶しようとするんですか?」

 

 

「……それは、別に……大したことじゃありません」

 

 

「そうやって誤魔化すんですか?言っときますけど、プロデューサーがちゃんと話してくれるまで、プロデューサーのこと逃がしませんからね」

 

 

「……藤田さん」

 

 

「さあ、早く話してください。なんで、プロデューサーはそこまで無理するんですか?」

 

 

「……怖いんです」

 

 

「え?」

 

 

「藤田さんに捨てられるのが、怖いんです」

 

 

絞り出すような声だった。窓から差し込む夕日が、シーツを掴むPの震える手を無慈悲に照らし出す。ことねの表情が、驚きから徐々に険しいものへと変わっていく。

 

 

「……どういうことですか?」

 

 

「藤田さんには、比類なきアイドルの才能がある。きっと、これからもどんどん成長するでしょう。その過程で、俺よりも優秀なプロデューサーや、超大御所のアイドル事務所等からスカウトされるかもしれない」

 

 

「…………」

 

 

「俺は、藤田さんと全く釣り合っていない。そんな俺が藤田さんに出来ることなんて、誰よりもあなたの為に尽くすことぐらいしかない。だから、今まで自分が出来る限りの無理をしてきました。これからも、倒れない範囲でこれを続けていくつもりです」

 

 

自嘲気味に笑うP。その言葉を遮るように、ことねがベッドの端を強く叩いた。

 

 

「……言いたいことは、それだけですか?」

 

 

「……藤田さん?」

 

 

「確かに、あたしがトップアイドルになるためには、もっといいプロデューサーを見つけた方が確実かもしれません。もしかしたら今後、あなたよりも優秀なプロデューサーにスカウトされる可能性もあるかもしれません」

 

 

(……そうだ。俺よりも藤田さんにふさわしいプロデューサーなんていくらでもいる。だから、俺が彼女の隣にいるためには、少しでも無理をしないと……)

 

 

「でも……あたしは、あなたに救われたんです」

 

 

「……え?」

 

 

見開かれたことねの瞳に、涙が溜まっていく。それは悲しみではなく、自分の隣にいる男が、自分を信じ切れていないことへの「憤り」だった。

 

 

「プロデューサーはあたしのこと、毎日毎日死ぬほど褒めてくれて、借金まみれでバイト漬けの日々からあたしを解放してくれて、こんな劣等生のアイドルを拾ってくれて、ここまで連れてきてくれました」

 

 

「…………」

 

 

「……それに、離れ離れだったお父さんを、連れてきてくれた。あたしは、これ以上ないくらい、プロデューサーに救われたんです」

 

 

「……藤田さん」

 

 

「あたしは、ただトップアイドルになりたいんじゃない。アンタと一緒に、トップアイドルになりたいんだ!!」

 

 

「……!?」

 

 

「全くあたしの気持ちがわかってない鈍感プロデューサーの為に、ハッキリ言ってあげますよ」

 

 

 

「……はい」

 

 

「あたしは、他の超優秀なプロデューサーなんかよりも……ずぅ~~~~~~っと、アンタのことが……大好きなんだよ!!!」

 

 

保健室に響き渡る絶叫。肩を上下させ、涙を拭いもせずに真っ直ぐに自分を見つめる彼女を前にして、Pはただ呆然と聞き入ることしかできなかった。

 

 

「…………」

 

 

(俺は、藤田さんの気持ちを全然わかっていなかった。まさか俺が、こんなにも彼女に思われていたなんて。それなのに俺は、彼女の気持ちを全く考えずに自分勝手に無茶ばかりしていた………プロデューサー失格だな)

 

 

「申し訳ありませんでした、藤田さん。俺は、あなたの気持ちを全くわかっていなかった。今あなたに言われて、ようやくあなたの気持ちを理解しました」

 

 

「はぁ、はぁ………ようやくわかってくれましたか?あたしがどんだけ、プロデューサーのことを思ってるのか」

 

 

「ええ。ですから、俺もさっき藤田さんが言ってくれたことに、本気で答えます」

 

 

「………え?」

 

 

「俺も、あなたのことが大好きです」

 

 

「………え、ちょ………ええええええ!?いきなりそんなこと言わないでくださいよ、プロデューサー!ビックリして心臓飛び出るかと思いましたよ!」

 

 

今度は、ことねの思考が停止した。先ほどまでの勢いが嘘のように、彼女の顔が耳の付け根まで真っ赤に染まっていく。

 

 

「すみません。ですが、藤田さんが本気で気持ちを伝えてくれたので、俺も本気で返さなければいけないと思いまして」

 

 

「ま、まあ……気持ちは凄い嬉しいですけど………」

 

 

「照れてる藤田さんも、世界一可愛くて……大好きですよ」

 

 

「も、もういいですから!!プロデューサーの気持ちは十分伝わりましたから!」

 

 

「そうですか、それなら良かったです。では、藤田さん。こんな不甲斐ないプロデューサーですが、これからも俺の隣にいてくれますか?」

 

 

「……もう、当たり前じゃないですか。さっきも言いましたけど、あたしはプロデューサーと一緒にトップアイドルになるって決めてるんで。プロデューサーの方こそ、最後まであたしの隣から離れないでくださいね」

 

 

「当たり前です。これからも俺は、藤田さんを悲しませない範囲で努力して、全力で藤田さんを支えます」

 

 

「……いいましたね?プロデューサー。これからも、ずぅ~~~~~と一緒ですからね!!」

 

 

照れ隠しにふんぞり返りながらも、繋いだ手だけは決して離そうとしない。窓の外では一番星が輝き始めていた。

 

 

(この時俺は、彼女を絶対にトップアイドルにすると誓った)

 

 

 

 

 

 


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