アトラス・アンチェイン   作:TTKTW

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第一章 『胎動の祈り』 完

 

 

アトラス社本部のビルの足元、少女が一人、這って、這って。ゆっくりと進んでいた。

 

「パッチ!」

「ケイ…!成功した…のか…。随分と…酷くやられたな」

 

 自分でさらに治療を進めたのか、パッチの足の状態はさっきよりは良くなっていた。

 

「パッチとお揃いだね。この怪我は…治せない?」

「…!。ハッ…お前も、ロマンチックな事するんだな。いいや、治すさ」

 

ケイを担ぎ上げ、パッチが片脚を引きずりながら歩く。普通ならカメラに捉えられ、即病院コースであるが、今のケイとパッチは、論理的に否定される存在になっていた。いわば、アトラス・シティに限れば無敵時間中だ。

 

「お前の傷を直してやりたいところだが…先にミラーのやつを回収するぞ。あいつは再教育施設にいる筈だ」

「…私のせいで」

「んなこと言うんじゃねぇ、2回目だぞ。お前を作ったのは俺らだ。だから、責任は俺らにある。当然、ミラーのやつも同じだ。自業自得にちけぇよ」

 

アトラス・タワーの真横にある、『再教育施設』名前は立派だが、中身はどうなっているのか、想像はできない。

 

 自動ドアをこじ開け、施設内にズカズカと侵入する。警備ドロイドも監視カメラも、ケイとパッチを認識しない。

 

「ミラーのやつは…ここか」

 

 モニターに映る名簿を確認し、E-01号室に向かう。

 廊下にいるのはドロイドだけで、人なんて一人もいない。こんな空間で一人でいては、孤独で寂しくなってしまうことだろう。

 

「おい!ミラー!」

 

 バンバンと扉を叩き、周囲のドロイドがこちらに目を向けるが、原因が特定できないため、視界のバグと処理し、目を外す。

 

「その声…バン?」

「そうだ、ケイと一緒だ。よくもこんなポンコツ送りつけて来やがったな!」

「聞き捨てならないわ!ポンコツ!?私の可愛い娘が!?あんたでもそれは許せないわよ!」

 

思ったより…元気なようだ。特技の長話は今は本調子ではないみたいだけど、なんというか、私の話をする時には活発になるのは変わってないみたいだ。

 

「ふんだ。私はもう博士の言う事しか聞かないし」

「…悪かったな。お前はポンコツじゃねぇ」

 

「んん゙っ」と、ミラーは咳払いをした後、「喧嘩はしないの。元々、ケイは私だけの娘でしょう」と、平常時のテンションに戻り、場をまとめようとし始めた。

 

「勝手にしろ。いいから、早く出るぞ」

「…そうだ、どうやってここまで来たの?外のドロイドには、どう対処したの?」

「こいつが頑張ったんだよ。今じゃ俺らは街を歩く幽霊だ。簡単に言えば…アーサーは俺たちを認識できなくなった」

 

「あぁ…!つまり…アーサーの論理思考システムに干渉して――」と、博士が言いかけた途端、パッチが口に手を当てて黙らせ、腕を引っ張り外に連れ出す。

 

 「こうでもしねぇと、こいつは丸一日喋り続けるからな」

 

 博士の話が長いのは、私とパッチのなかでも共通の認識だったみたい。

 

「このあと、どうするの?」

 

ストリートに戻るのかな?きっと戻るよね。いきなり飛び出ちゃったから、色々持ってこないといけないだろうし。

だが、パッチの答えは、想定していた返答とは違った

 

「ストリートには、戻らねぇ。このまま郊外まで行くぞ」

 

 そう言ったパッチの目には、決意なのか、なんなのか。固い意志が感じられた。

 

「あら、ストリートにはいかないのね?ケイの暮らしたところを、一度見てみたいのに」

「今戻っても…お前らが見たくねぇ光景が広がってるだけだ。俺も見たくねぇ」

 

 

 

 パッチに抱えられ、アトラス・シティと郊外を隔てる物理的なゲート前に辿り着いた。人工的な雲のような膜が、外の砂嵐からシティを守っている。

 

「行くぞ」

 

堂々と規制を通り抜けても、ドロイドが反応を示すことは無い。今のケイたちは、アトラスからすればホコリと変わりないのだから。

 

ゲートの先は、辺り一面に広がる金色の大地と、シティの中と違い、青く澄んだ本物の空だった。私から空を奪っていた人工の雲は、こんなにも薄くて、ハリボテでしかなかった。

 

「絶景だろ?俺も…何年ぶりか分からねぇぜ」

「私は初めて見たわ…これは…砂の性質を調べたいわね…」

 

パッチは、肩に私を抱えているその手で腰をポンポンと叩き。ミラー博士は、私の手を握った。2人の手が温かいのか、砂漠が暖かいのか。私はまた、分からなくなった。ただ一つ分かるのは…私は愛されているってことだ。

 

 

 

[ System Log K-03 ]

全ストレージ容量: 1024PB

割り当て状況:

・アトラス公式任務データ: 0.00%(もう縛られない)

・私の記憶:今度は博士の顔も撮り始めた。(32kキャプチャ+34件)

・空き領域: 73.10%

・予測の寿命…約217年分

・思い出記録

パッチ――『今思えば、お父さんみたいなのかも』

ミラー博士 ―― 『相変わらず話が長そう。こっちはお母さん』

 

 (アイノも、私たちの家族だよ)

 

 →…

 

 返答は返ってこなかったが、それは『無視』とはまた違う気がした。

 

 

 

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