雷電将軍へ復讐せんと襲いかかった!!
残穢には夢想の一太刀を破る秘技があったのだ!!!
「うおおおおおおっ!!無敵の一太刀いいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
どうする雷電将軍!?どうなる稲妻!?
出版社:八重堂
八重堂主催:この小説はすごい!大賞受賞作品
編集長オススメの一作!
対峙するは二人の女
一方、目狩り令、鎖国令の発令に突然現れ、不遜にも雷電将軍へ御前試合を挑んだ無名
一方、治安維持を司る"天領奉行"の九条裟羅
だが試合は8合、九条裟羅は刀を斬鉄され敗れた。
周りの立会人達が驚愕する中、納刀した無名は雷電将軍に向き合う。
「前座は倒した。あとは雷電将軍、アンタだけだ。」
その言葉に雷電将軍は静かに刀を抜き、九条裟羅を処刑するための夢想の一太刀を放った。
しかし、それは無名の一撃により流され、天守閣の梁を斬るだけに留めた。
夢想の一太刀を一介の人間が破った。
その事実に立会人達が更に驚愕、そして畏怖する中、八重神子は顔色を変えず。
(いくら願力の乗らない夢想の一太刀といえども、影の一撃を防ぐなんて。あの童、それほどまでに強くなっているなんて...それに)
「何か、何か嫌な気配がするわね」
内心驚愕した。そして、無名から漂う本能的な警鐘を鳴らす気配にどこか落ち着かない様子だった。
しかし、いくら流せることができてもやはり神技。無名の持つ刀身に罅が入り、やがて砕け散った。
同席していた岩蔵光造が静かに口を開いた。
「ですが神子様。あれでは将軍様とは戦えませぬぞ。その予感も杞憂でありましょう」
光造の戦えぬの言葉に応えるかのように、無名はどこからともなく刀を取り出した。
瞬間、周囲の立会人達は肌が泡立ち、怖気が走った。
「あれは...妖刀か?」
「この気配...ッ!?まさか、ヤシオリ島のオロバシか!魔神の死体を刀にしたのか!?正気か、あの童!」
その刀は呪われていた。そこにあるだけで全て蝕む瘴気を放っていた。
死してなおヤシオリ島にて祟り神として封印された魔神、オロバシの気配を色濃く残していた。
そして、その瘴気は持ち主たる無名も蝕もうと牙をむいた。
しかし、無名が3本しかない指で強く握りしめると瘴気が霧散した。
「...どうやら貴女は絶対に斬らなければいけないみたいですね」
先ほどの九条裟羅を処刑しようとした時にはなかった、明確な殺意と意志が雷電将軍から放たれた。
それにより晴天がいつの間にか曇天、そして雷雨に変わった。
雷電将軍、神の殺気を浴びてもなお無名は静かに構える。
応えるように雷電将軍は真言を唱え、相対するように構えを取った。
「合図は?」
「雷鳴と共に」
無名の問いかけに雷電将軍が答えた。
一際強い稲妻が天守閣を打ち付けた
瞬間、無名と雷電将軍は刀を抜き放った。
始まりは拮抗していた。だが、雷電将軍の返し刀によって斬られてから決して浅くない刀傷が増えていた。
(あの童、影と打ち合う毎に動きが鈍くなっている?)
「これなら将軍様は負けることはないわね」
神子の言うように無名は少しずつ雷電将軍に押され始めていた。
その様子を光造は顔を顰めて見ていた。
「刀に迷いが出ているな。あれではそう長く持たんな」
「迷い?」
光造の言葉に神子が反応する。
「あ、いや失礼。ですが、とても見れたものでもありますまい。あそこまで動揺した剣とは...。先程まで九条殿を下した人物にはとても見えませぬな」
ため息をつきながら光造が視線を無名へ向けると、無名は居合の構えをしていた左腕を斬り裂かれていた。
(流水のような剣術であれども、たかが凡人が神に敵うまいか。まあ、いい。将軍様の剣術を見れただけで上々か)
腕を斬り裂かれた無名は、雷電将軍から数歩距離を取った。
しかし、雷電将軍はそれを追わず静かに見ていた。
なぜ追撃しない、と立会人の心に浮かんだがそれはすぐに納得へと変わった。
無名の持つ刀から瘴気が溢れ出していたのだ。
持ち主が弱り切ったことで呪いが今ひとたび溢れ、蝕もうと現れた。
それを雷電将軍は先程と同じように静かに見、無名は無垢な赤子のように不思議そうに見ていた。
しかし次の瞬間、無名は刀身部分を左手で思い切り握りしめた。
鮮血が飛び、瘴気が雨と共に地に落ちた。
そして刀は血に濡れ、陽炎のように揺らいでいる。
(あの小娘の気配が変わった。...何に目覚めた。いや、開眼したか)
周りが無名の奇行に動揺する中、光造は無名の雰囲気が変わったことに気づいた。
同じように気づいた雷電将軍は、その変化に呼応するように大上段から刀を振り下ろした。
だが、その刀は無名の緩やかな刀によって地へと流された。
雷電将軍はそこから追撃せず半歩下がった。
いつの間にか雷電将軍がいた場所が斬られていた。
「無拍子。そのような小細工、私には通じませんよ」
「なら、押し通すまでだ」
無名は流しきれない刃は己の身を斬らせてでも無理矢理流し、雷電将軍へと迫っていった。
紫電に身を焦がされる痛みでも無名は笑みを浮かべ、刃を振るう。
無傷の雷電将軍に全身から絶えず血を流す無名。
勝負の行方は見るまでもないが、立会人の中には雷電将軍の圧倒的有利を確信できずにいた。
血と紫電が飛びかう剣戟の中、無名の刃は雷電将軍に届こうとしていた。
だが、その剣戟は無名が雷電将軍から弾き飛ばされることで終わりを迎えた。
着地した無名は膝立ちの状態で立つことができずにいた。
血を流しすぎたのだ。
(将軍に届こうとしていた者の最期がこれか)
もったいないとばかりに、光造は奇跡と呼べる剣戟の終わりにため息をついた。
だが、神子は落ち着きがないように何度も辺りを見回していた。
(あの童が剣を握りしめてから嫌な気配が消えない。いえ、むしろ気配が増えている。まさか...)
「いいのか、そんなにのんびりして」
突如無名が口を開いた。
その言葉に呼応するように城下町の方では赤黒い瘴気が立ち上がり、悲鳴と怒号が城下町を埋め尽くした。
「まさか...」
「ワタシが潰した呪いは雨と共に城下町へ落ちているぞ」
(あの童、なんということをしでかした!今すぐ城下へと向かわねば!)
無名の告げる事態に周りが動揺する中、八重神子は我先にと向かった。だが、天守閣を去る前に無名の声が豪雷の中ハッキリと聞こえた。
「アンタは自分の民を死なせるか?それとも化生へと変えるか?かつての盟友のように」
無名の言う盟友について八重神子は考えないようにして、城下町へと飛んで行った。
しかし、その言葉に雷電将軍の目に一瞬悲しみと怒りが交じり合った。
「貴女は...」
「夢想の一太刀」
「何を?」
「夢想の一太刀、あの時と同じくらいになったんじゃないか?使えよ」
確かに無名の言うように雷電将軍には、かつてオロバシを斬った時と同等の願力が集まろうとしていた。
(彼女の言う通り確かに願力は集まっている。ですがこれを使えば民を、神子も、そして眞に託された稲妻も斬ってしまう...)
無名が立っている位置は城下町が背になるようになっていた。
いつもの雷電将軍だったら使えた。だが、無名に指摘されたかつての盟友。かつて己の手でその盟友へ行ったことの再現を無意識に避けていた。
だからこそ、夢想の一太刀を使えずにいた。
「?ああ、そういうことか」
無名は自分が立っている位置に気付き、雷電将軍から回り込むように移動し海を背に立った。
何故無名が場所を変えたのかに気づいた立会人達は慌てて無名の背後から逃げたが、光造は無名の背後から動かずにいた。
逃げた立会人が光造に逃げるよう言うが光造はそれらを無視して、無名と雷電将軍の決着を見ようとしていた。
「これで使えるだろ」
「貴女は何故そこまで...」
「雷が煩いんだ。だから、斬りたくなった」
雷電将軍が問いかけに無名はただ一言答えた。立会人はそんな理由で挑んだ無名を気狂いと心の中で罵倒した。
その答えに雷電将軍は、夢想の一太刀を全力で放てる構えを取った。
無名は居合を行おうと構えようとしたが、左手が鞘を握れなくなっていた。
それに気づいた無名はフッと笑った。
「感謝を」
感謝の言葉と共に己の左手に刀を突きたてた。
ただ鞘に納刀するように刀が左手に押し込まれ、のまれていった。
雷雨のせいか、骨肉を断つ音は聞こえなかった。
(なんと!?血迷ったか!己の腕を鞘にするなど)
立会人と同様に光造も目を見開き動揺した。
しかし雷電将軍はその行為を、覚悟を決めた目で見ていた。
いつの間にか、雨は止んでいた。
「合図は?」
「雷鳴と共に」
雷電将軍の問いかけに無名が答えた。
一際強い稲妻が天守閣を打ち付けた。
瞬間、雷電将軍と無名は己の技を放った。
勝敗は決した。
雷電将軍は無傷で立ち、無名は倒れていた。
夢想の一太刀により雲と海は斬り裂かれ、天守閣は技の威力に耐え切れず吹き飛んだ。
立会人達は雷電将軍の勝利に賛辞の言葉を次々に挙げ、城下町で起こっていた事態の収束の報告に安堵のため息をついた。
そして、無名の背後に立っていた光造が無傷の姿で立っていることに驚いたが、雷電将軍が斬らなかったのだと判断した。
「将軍様、この者は如何様にいたしますか?」
九条孝行が雷電将軍へ無名についての沙汰を聞いたが、雷電将軍はただ黙って首を横に振った。
周りの者たちが不思議がる中、雷電将軍は空を見上げた。
そこには夢想の一太刀によって縦に斬られ、霧散しようとする雲に横一文字が刻まれていた。
雷電将軍はその雲を一瞬だけ悔しそうに見つめ、光造も刻まれた雲を目にした。
城下町で突如起こった瘴気はオロバシの怒りによる呪いの具現化とされ、その具現体は雷電将軍が倒したと大本営発表があった。
そして、後に珊瑚宮心海による祓い清めによって平定したとされた。
その際、無名が所持していたオロバシの刀は珊瑚宮心海に預けられ、同様に祓い清められ海祇島にある珊瑚宮へと神刀として奉納された。
事態が収束した数か月後、改めて目狩り令と鎖国令が発令された。
そして、八重堂出版より雷電将軍の戦いは小説化され、瞬く間に稲妻中で大人気の娯楽小説となった。
しかし、その時の戦いを知っているものからしたら、小説の内容は顔を顰めるようなものであった。