なんか気づいたら押入れの中で座っていた上に目の前にメガネの男の子がいました。
「わぁ!!」
いや驚きたいのはこっちなんですよ。
ただもうあまりにも状況が意味不明ですし推定小学生男児の前で取り乱すのも格好悪いですしそもそも頭にヘイローないからあんまり暴れすぎるとこの子に怪我させちゃうかもですから結果的に落ち着いてますけど私。
「えっと……とりあえず私は天雨アコといいます。それでここはどこであなたは誰ですか?」
「え、えーっと……僕は野比のび太です!」
目の前の少年――のび太君は緊張しながらも名乗ってくれました。
しかし相当な状況なのに随分と順応が早いですね? まるで慣れているような感じです。
それでまた詳しく話を聞いてみるとここはキヴォトスではなく日本という国の東京という街、そこの練馬という自治区らしいです。
はい、完全に異世界です。
ああ、さすがにこれはちょっとキャパオーバーですね……キヴォトスでいろいろな事件に遭遇しましたが、異世界に飛ぶなんてのはちょっと頭の処理が追いつきません。
もうどうすればいいんですかこれ……ヒナ委員長や先生に会いたいです……。
「ハァ……これからどうしましょうか……」
ああ駄目ですね、こんな小さい子の前なのに陰気な姿を見せてしまいます。
私もまだまだ情けないですね……。
「あ、えっと……ちょっと待ってて!」
と、そんな私を見たのび太君は急に走り出して目の前から去っていったかと思うと、すぐさま戻って来ました。
その手にはお皿と和菓子が。なんでしたっけこの和菓子……見たことはあるんですが名前が出てきません。
「えっと……これは?」
「どら焼きだよ! 僕の友達の大好物なんだけど、まあ今いないみたいだしいいかなって!」
「は、はぁ……」
どうやら私を元気づけてくれようとしているようです。
優しい子ですね……なんだかちょっとだけ先生を思い出します。
「ではせっかくですから……はむっ! ……んっ?」
あ、美味しいですねこれ。
生地のフワフワ具合がいい噛み心地ですしあんこの甘さが口の中に広がってちょうどいいです。
今まで食べたことがなかったですけど好きになりそうですねコレ。
「……ありがとうございます。ちょっと元気が出ました」
「よかったぁ!」
屈託のない笑顔を見せるのび太君に気持ちが安らぐのを感じます。
まあくよくよしてても仕方ないですね。今は前を向いて元に戻る方法を探さねば。
「と、そのためにはいい加減このタンスから出ないとですね。ちょっと失礼しますよ」
私は前にいるのび太君に断りを入れて押入れから出ました。
のですが……。
「って、なんですかこの部屋は!?!? 汚すぎます!!!!」
そこら中にマンガやらオモチャやら食べかけのお菓子の袋やらが散乱していますしそもそも掃除が行き届いていません!
押入れの中にいたときは気が動転していたのもあって気づきませんでしたがひどすぎませんかこの部屋!?
「いやーいつの間にかひどいことになっちゃったからドラえもん――あ、さっき言った僕の友達になんとかしてもらう道具を出して貰おうとしてたところで……」
「……です」
「え?」
「お掃除です! 自分の手でちゃーんと綺麗にしていただきますっ!!」
「ええっー!? そんなーっ!」
泣き出すのび太君ですが私は容赦しません。
こういう部屋を私は許せないので!
*****
のび太君の部屋を掃除した後、私は彼と一緒に外に出てみました。
道行く人々にヘイローはなくロボットや動物の住人もいません。
本当に異世界なんですねここ……。
「いやしかし視線を感じますね……やはりヘイローがない人が住む世界で外に出るのは早計だったでしょうか」
とはいえ何か手がかりを探さないとではありますし、それを全部のび太君に任せるのも私の気が済みませんからね……。
「うーん、その頭の輪っか? は問題ないと思うよ? 変なものは見慣れてるしみんな」
「そうなんですか? ですが先程から……」
「えっとそれは……えへへへ……」
のび太君が顔を真っ赤にしながら私に視線を向けてきます。
なんですかね……なんというかイオリさんの足元を眺めているときの先生みたいな視線でちょっと気持ち悪さを感じるんですけど……。
「おいのび太! 何やってんだよ! ちょっと手伝え!」
「うわっジャイアンだっ!?」
「ジャイアン?」
「うん、乱暴で嫌なガキ大将でさ……」
二人で歩いているときに横から聞こえてきた声にのび太君は怯えています。
だいぶ荒っぽい声でしたし「乱暴で嫌なガキ大将」という評価からも間違いなく『問題児』なのでしょうね。
あの手のはゲヘナでもよくいるタイプですし……ええいいでしょう、のび太君のためにもここは一肌脱いであげましょうか。
ですがあえてエレガントにいきましょう。
私はのび太君達と比べてお姉さんなのですから。
「駄目ですよ。お友達に乱暴な事をしては――」
「――キャハハハハハ! その調子だぞタケシ! 人の上に立つ者は常に尊大であらねばならんのだ!」
………………………………は?
「おうマコト! 目指すは世界一のガキ大将だぜ!」
「ああ! 共に目指すぞ! 世界征服の頂きを!」
「うわ!? ジャイアンのそばになんか角の生えた人がいる!?」
「……はぁ~~~~~~~~~~~! なんであなたがいるんですか!!!?? 羽沼マコト議長ッ!!!!」
私達風紀委員会を散々……さんっざん! さんざぁーーんッ! 困らせて来るバカ共の
のび太さんが怯えていたジャイアンとかいう子供と一緒に空き地にある土管の上に二人揃って立って肩を組み高く指を空に掲げています。
凄いバカアホマヌケアホンダラで恥に満ちた絵面です。
「むっ!?!? 貴様は風紀委員の行政官!?!? 何故貴様がこんなところに!?」
「だーーーーかーーーーらーーーーっ! 先にそれを聞いたのはこっちなんですよっ! というかなんで小学生と一緒に世界征服とか言ってるんです!? ほんっとおおおおおおおおに! バカの王様ですねあなたは!?」
「何をっ!? フン、気づいたら右も左も分からぬ知らない世界にいた私を助けてくれたのがこのタケシだからな。ならば! 万魔殿の議長たるもの一宿一飯の恩義には報いるもの! そのために私はコイツをこの世界の王にするのだ! キキキッ!」
「律儀なのか横暴なのかハッキリしてください!」
あぁ~頭が痛くなってきました……なんで異世界でまで万魔殿に困らされないといけないんですか……本当に最悪です。
「ア、アコさん!? あのお姉さんと知り合いなの!?」
と、横でのび太君が困惑しています。
おっといけませんね、これでは彼を困らせてしまいます。簡潔にでも状況を説明せねば。
「すみませんのび太君。あれはマコトさん、ガキ大将がそのまま大きくなったらどれだけ迷惑な存在になるのかといういいモデルケースです。ああならないようちゃんとお勉強はしましょうね?」
「キキキ随分な言いようだな天雨アコ行政官……まるでこのマコト様がバカのようではないか」
「ほら見てください、見事に自覚すらありませんよ」
「なっ……!?」
まーたアホ面下げて驚いてますね……。
そのせいで横のジャイアン君もちょっとびっくりしてるじゃないですか。
ああはなりたくないですね。
「……アコ行政官に、マコト議長?」
「ハーッハッハッハッハ! これはこれは、見知ったメンバーが揃ってるじゃないか!」
……なんだか、後ろから凄く安心できる声と凄く疲れる声が一緒に聞こえてきました。
おかげで振り向いていいやら悪いやらでもう既にめちゃくちゃ複雑な気持ちが襲ってきているんですが……まあ振り向かない事には話が進まないでしょうから振り向きます。
「あーやっぱりチナツさんと……そして、はぁ……温泉開発部ですかぁ……」
そこにはまた私達のように小さな女の子を連れた我らが風紀委員会の救護担当、火宮チナツさんが何故か浴衣姿で、そしてまた男子の隣にはゲヘナでも屈指の問題児集団である温泉開発部が部長、鬼怒川カスミさんがいました。
なんですかこの組み合わせ? もうお二方までこちらにいるのはいいとして、なんでこの二人が並んでるんです? 私もう分からないです……。
「あっ、しずかちゃんにスネ夫!」
「のび太さん! そちらの人は、もしかして?」
「あれ!? ジャイアンの隣にもいる! しかもなんか凄い偉そうな人が!」
「……まあこちらの事情はチナツさんならだいたい察してくれたと思いますが、私はそちらの事情がまだちょっと把握できないのでチナツさん、説明を」
「あっ、はい……。あの、私はちょっと休暇に温泉でくつろいでいたと思ってたら気づいたらこちらのしずかさんの所にいまして、仕方なく着の身着のまま外にいたらその……遭遇しまして」
「フム、まるで人をお化けのように言ってくれるじゃないか? 私もまたこちらの世界に迷い込んでたところでこちらのスネ夫君の寛大な心に助けられてね、どうにか恩義を返せぬものかと散策してたところでまさかのチナツちゃんとばったりじゃないか! ならば共に巡ったほうがいいかとなったわけだよ。ハッハッハ!」
「あーそうですか……それは良かったですね……」
私は見逃してませんよ。チナツさんの身体からまだ湯気が漂っているのを。
あなたこちらの世界でも温泉……いえ、こんな町中ですし銭湯ですかね? まあともかく入りましたね? せっかくだしと疲れを取りましたね?
「…………」
あ、私の視線で言わんとする事を理解して目を逸らしましたねチナツさん。
これは反省文ですね……って、結局ゲヘナの風紀委員会の部室に戻らねば書かせるものも書かせられないんですが。
「しかし我々がこうして揃って異世界とは……何か陰謀の気配を感じますね……!」
そうです、こんなことが偶然な訳がありません。
きっと今頃キヴォトスを揺るがそうとする悪意がその手をゲヘナに伸ばし委員長や先生の身に危険が迫っているに違いありません!
「いけません! 私達は共に協力し、共に巨大な陰謀に打ち勝たねば――」
「――あーっいたいた! ごめんのび太くーん!」
「あっ、ドラえもーん!」
「クルトくんとペプラー博士が研究してる新しいどこでもドアとタイムマシンの合体ひみつ道具が暴走しちゃって後始末を手伝ってたんだけどもしかしたらこっちに変なものが……ってうわっ!? 知らない人がいる!?」
「ムッ!? あれは……タヌキが空を飛んでいる!?」
「ほう! こちらの世界にもロボットがいたか! しかしあのカラーリングは行政官殿にそっくりじゃないか! つまり行政官殿はタヌキだったということかな? コレは愉快だ! ハーッハッハッハッ!」
「だ、誰がタヌキですかッ!! そもそもタヌキと言ったらむしろあなたでしょうがマコト議長ッ! 姑息で卑怯な万魔殿のタヌキのボス!」
「違ーう! 僕はタヌキじゃなーい!」
「……まあその、陰謀論があくまで陰謀論で済んで良かったですね」
横でチナツさんが凄い大きなため息をついていました。
ともかく、マンガなら大長編とでも言うべき騒動が起きそうな気配は気配だけで終わったのでした。
*****
「それではのび太さん、ほんの僅かな間ですがありがとうございました」
その後、私達はのび太君のお友達でありなんと未来から来た猫型ロボットであるというドラえもんの協力によりキヴォトスに帰る事ができる手筈を整えて貰いました。
今は帰るために空き地に置かれた扉の前で集まり、最後の分かれの時間と言った段階です。
「ううん! むしろ異世界があるんだって知れてむしろワクワクしたよ! ドラえもん、今度はこっちから行こうよ!」
「気軽に言ってくれるなぁのび太君は。今回の帰り道だって本当に頑張ってなんとかしたもので気軽に行けるものじゃないんだよ」
「それに関しては私からも反対です。キヴォトスはこちらの世界とは違って毎日銃弾や爆弾が飛び交い、あなた達のようなヘイローのない人にとってはとても危険な世界ですので」
まあそんな中で奔走している先生みたいな人もいますがあの人はいろいろとイレギュラー過ぎるので勘定には含めていません。
にしてももっと自分の身を大事にできなんですかねあの人は? 心配するこちらの身にもなって欲しいです。
ああ思い出したらイライラしてきました……今度ちょっと言質を取ってご飯でも奢ってもらいましょうかね。
「そっかぁ……じゃあアコさんとはもうお別れなの?」
「……さあ。もしかしたらまた会えるかもしれませんし、結局これっきりかもしれません。でも……」
私はそこでのび太君に視線を合わせて、彼の頭を撫でました。
「あなたが教えてくれたどら焼きの味は忘れません。これからは仕事の合間のおやつにどら焼きを導入しようと思います。だから、私達が出会えた事は嘘にはなりませんよ」
「……うん!」
私とのび太君はお互いに笑い合います。
最初は相当にびっくりしましたが、まあ結果としては悪くない邂逅と言えましたね。
「マコト! 俺はなってみせるぜ! 世界一のガキ大将によぉ!」
「ああ存分に励めタケシ! 貴様には支配者たる素質がある! その才能をどんどんと開花させていくのだ! キキキ!」
「お風呂ありがとうございましたしずかさん。結果的にちょっとした休暇の旅行みたいになれて良かったです」
「いいえ! 私もお風呂を一緒に楽しめたのは新鮮で楽しかったです!」
みなさん思い思いに別れの挨拶をしていますね。
これもまた一つの青春……というやつなのでしょうか。
「いやーでもカスミさんがいなくなっちゃうなんてなー。せっかく新しいリゾートを作ってくれるって言ってくれたのに!」
「ハッハッハッハッハッ! まあそう惜しむなスネ夫君! 実は既に我が部は動いていてな! 君が家に帰った時、きっと面白いプレゼントが届いていると思うぞ!」
「ほんと!? やったー! いやーやっぱり僕ちゃんって持ってるなぁ!」
「…………ん?」
……なんだかちょっと……いえ、あまりにも不穏なワードが今……。
「……えっと、カスミ部長。今、『我が部』と言いましたか?」
「ん? ああそうか言ってなかったか。私は一人で来たわけではない。メグを含めた温泉開発部みんなで来たのだ。みんなには部で使っている通信機で連絡しているからもうすぐスネ夫君の家からここにつくと思うぞ?」
「…………」
「…………」
「…………」
目の前でのび太君達が不思議な顔をしている前で、今きっと私達三人の心は一つになっていると思います。
「あ、部長いたー! 帰れるんだってー?」
「ああ! ところで、首尾は?」
「うん! ばっちりばっちり! 部長の見立て通り凄いちょうどいいポイントだったししっかり完成させたよー!」
「ああ良かった! 例え異世界と言えど温泉が掘れるポイントは変わらんようだな! うむ、しかし異世界での温泉掘りとはまた珍しい経験ができたものだ、ハーッハッハッハッハッ!」
温泉開発部の下倉メグさんとカスミさんが凄いニコニコしながら話していますし、背後にはやりきった顔の温泉開発部の部員達が。
あーうん、はいはいはい……これは……うん……はい……。
「……よし! 帰りましょうか! さようならのび太君! またどこかで!」
「ああ! そうだな! 頑張れよタケシ!」
「ええ、なるべく早急に迅速に素早く帰りましょう。それでは失礼しますしずかさん」
私達は文字通り逃げるように目の前にあるドアを通りキヴォトスに帰る事にしました。
まぁ大丈夫でしょう、これほどの技術を扱えるドラえもんさんがいるわけですし……ええきっとそう、恐らく多分メイビー大丈夫なはずです。
「……アコさん! 僕、きっと忘れないから!」
と、そのときのび太君が私に手を振っていってくれました。
それがなんだか嬉しくて、私も笑顔で手を振り返して言いました。
「ええ、またいつか会いましょう。のび太君」
こうして私の大冒険なようで大冒険にならなかった”少し不思議な冒険”は終わったのでした。
*****
「ウワーッ!?!? 僕の家が温泉旅館になってるーっ!?!?」
「スネちゃまー! これは一体どういう事ザマスかーっ!?」
「そんなーーーーーーーーっ! どうしてこんなことにーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
スネ虐は基本。