『いたるところ歓楽、利得、放蕩。いたるところ未来への爆発がある祭りの日』
『その中でただひとり、あばら屋の柱にもたれて、老いた曲芸師がうずくまっている』
『彼はあきらめている。もはや何も望まぬ、絶対的な無私。あるいは、救いようのない没落』
詩人は、祭りの中、老いた曲芸師を見て自分の将来を幻視しました。
私の祭りは終わりません。
青春の祭典は、今日も明日も、輝かしく続いていきます。
放課後。私は一人、窓ガラスに映る自分と対峙していました。
鏡像の私は、美しく整えられた制服を着て、手入れの行き届いた銀髪をなびかせ、完璧な微笑みを浮かべています。
けれど、私には見えます。
その皮一枚下にある、しわがれた魂が。
誰にも見向きもされない見世物小屋の隅で、膝を抱えてうずくまる「老いた曲芸師」の姿が。
◆
あの日、先生に「嘘」という名の毒を盛ってから、数日が過ぎました。
効果は覿面でした。
先生は私と目を合わせるたび、ほんの一瞬、戸惑いの色を浮かべるようになりました。
『本当に冗談だったのか?』
『もしかして、自分は本当に名前を呼んでいたのではないか?』
その疑念の種は、彼の心の中で静かに発芽し、私という存在を「ただの生徒」から「異物」へと変質させました。
透明だったガラスは、もう戻りません。
会話のテンポはわずかに遅れ、視線は不自然に逸らされ、そこには常に薄い緊張感が漂うようになりました。
私はそれを、満足げに記録し続けています。
これでいいのです。
愛されないのなら、せめて惑わせたい。
透明なまま通り過ぎられるくらいなら、濁った染みとして記憶に残りたい。
なんと醜く、なんと滑稽なエゴイズムでしょう。
「――あら、ノア。まだ残ってたの?」
ガチャリ、と扉が開き、祭りの主役が現れました。
早瀬ユウカ。
私の親友であり、この物語の正当なヒロイン。
彼女が入ってきただけで、薄暗かった部屋がパッと明るくなった気がします。
彼女は生命力に溢れ、未来を信じ、愛し愛される者のオーラを纏っている。
「ええ、少し整理することがありまして。ユウカちゃんこそ、先生のお手伝いは終わったんですか?」
「もう、聞いてよ! 先生ったらまた書類を溜め込んでて……結局、全部片付けるのに二時間もかかっちゃった」
プリプリと怒りながらも、その声は弾んでいます。
彼女は語る。先生との時間を。二人の苦労を。共有された幸福を。
私はそれを聞く。
いつものように。完璧な相槌を打って。
彼女の背後には、見えない「群衆」がいます。
祝福という名の喝采。正しさという名の光。
彼女の見世物小屋は大盛況です。誰もが彼女の
対して、私はどうでしょう。
隣にいながら、私は決定的に「外側」にいる。
私の小屋の前には、誰も立ち止まらない。
中には、書きすぎた記録と、捏造した記憶と、乾いた嫉妬が転がっているだけ。
「……ねえ、ノア」
ふと、ユウカちゃんが言葉を切り、心配そうに私の顔を覗き込みました。
「最近、元気ない? なんかこう……笑ってるけど、目が笑ってないというか」
詩人は、老いた曲芸師を見て涙し、金を恵もうとしましたが、人波に流されて果たせませんでした。
彼女もまた、私に何かを恵もうとしてくれているのでしょうか。
同情か、友情か、あるいは敗者への無自覚な慈悲か。
私は首を振りました。
これ以上、優しさを恵まれてしまえば、私は本当に惨めになってしまう。
「いいえ、考えすぎですよ。私はいつも通りです」
私は最高の笑顔を作りました。
頬の筋肉を引きつらせ、口角を完璧な角度に固定して。
これが私の芸です。
誰にも気づかれず、誰の心も動かさず、ただそこに在るだけの曲芸師。
「そう? ならいいんだけど……あ、そうだ。これ、先生から預かってきたの」
ユウカちゃんがカバンから取り出し、差し出したのは、小さな小瓶でした。
新しいアロマオイル。
「『ノアが疲れてるみたいだから』って。……先生、ノアのこと気にかけてたわよ」
受け取った小瓶は、ひんやりと冷たく、重い。
それはまるで、先生の「罪悪感」を凝縮した塊のようでした。
ラベルを見れば、私の好きな百合の香り。いつか先生がくれた香り。
ああ、先生。貴方は本当に、残酷な硝子屋ですね。
割れたガラスを修復する代わりに、こんな小手先の慰めを寄越すなんて。
自分の手で渡すことすら避けて、よりにもよってユウカちゃんを「運び手」にして。
私の傷口に蓋をするための絆創膏を、私を傷つけたナイフに持たせて寄越すのですか。
気にかけている?
違います。
貴方は、私がついた
あの日の嘘で生じた気まずさを埋めるために、直接渡すことさえ避けて、ユウカちゃんを介して。
ああ、なんて愚かな人。
ああ、なんて愛しい人。
だから、私はそれを受け取ります。
「ありがとうございます。……嬉しいです、と伝えておいてください」
「ノアが直接伝えたらいいじゃない」
「…ちょっと、立て込んでまして。シャーレにはしばらく寄ることができないかもしれないので」
「…そうなの?私にできることがあれば手伝うわよ?」
「いいえ、大丈夫ですよ。ユウカちゃんは先生の側にいてください」
「な、なぁっ!?ノア!?」
言葉とは裏腹に、心の中では何かが完全に停止しました。
諦め、と言えばいいのでしょうか。
詩人はそれを「
私は、戦うことを辞めました。
逃げることも、泣き叫ぶことも、ガラスを割って暴れることも、もうしません。
ただ、この場所に立ち続けましょう。
親友の幸福を記録し、先生の偽善を受け入れ、作り笑いを浮かべる「生塩ノア」という役を、死ぬまで演じ続けましょう。
それは、緩やかな自殺と同義です。
鉄仮面の内側で、肉体が腐り落ちて骨だけになっても、私は記録を止めない。
だって、私は「記録係」なのですから。
「帰ろうか、ノア」
「はい、ユウカちゃん」
私たちは並んで歩き出します。
夕陽が二人の影を長く伸ばしていました。
一つの影は濃く、力強く。
もう一つの影は薄く、今にも闇に溶けてしまいそうに。
私のポケットの中には、先生からのアロマオイルが入っています。
甘い百合の香り。
私はこの香りを、一生手放さないでしょう。
たとえ中身が空になっても、瓶が古びても。
私の心臓は、まだ動いています。
けれど、私の心はもう死んでいるのかもしれません。
もし、誰かが私の胸に耳を当てたとしても、何も聞こえないでしょう。
悲鳴も、嗚咽も、破砕音も。
腐敗とは、発酵とは、本来とても静かな現象なのです。
水が澱み、バクテリアが繁殖し、清らかだったものが毒へと変わるプロセスは、無音で進行する。
だから、安心して笑ってください、先生。ユウカちゃん。
貴方たちの幸せな世界に、不快なノイズは混ざりません。
私の壊れる音は、誰にも聞こえないのですから。