上弦の参・猗窩座の攻撃は、速く、重く、そして正確だった。
煉獄の放つ『炎の呼吸』が夜を焦がし、月唯の『雪の呼吸』が凍てつく刃となって追従する。しかし、上弦の鬼の再生速度はそのすべてを凌駕していた。
「素晴らしい、宵咲! 君の冷気が奴の動きを僅かに鈍らせている! だが、体力が持たんぞ!」
煉獄が叫ぶ。彼の額からは血が流れ、左目は既に潰されている。
月唯もまた、過呼吸寸前の負荷に肺が悲鳴を上げていた。雪の呼吸は、使い続けるほどに術者の体温を奪い、内臓を凍えさせる諸刃の剣だ。
「……まだ、折れるわけにはいきません。煉獄様を……誰も、死なせない!」
猗窩座が地を蹴り、煉獄の懐へ飛び込む。
「術式展開、破壊殺・乱式!」
無数の拳圧が降り注ぐ中、月唯は自らの限界を超えて刀を振るった。
「雪の呼吸、陸ノ型――氷晶の檻!」
月唯の周囲から鋭利な氷の柱が円状に突き出し、猗窩座の攻撃を散らす。しかし、猗窩座は笑いながらその氷を砕き、さらに出力を上げた。
煉獄の鳩尾に向け、猗窩座の拳が一直線に放たれる。その先にある「死」を、月唯は本能で察知した。
(……もう二度と、私の前で誰かが消えるのは嫌!!)
月唯は、自らの血を急激に凍結させ、全身の細胞を限界まで活性化させる禁忌の呼吸へと踏み込んだ。
「雪の呼吸、漆ノ型――終の結晶・永久欠片」
月唯の体が白銀の閃光に包まれ、煉獄の前に割り込む。
ドォォォン、という轟音。
猗窩座の拳は、月唯の右肩を貫いた。しかし、月唯の体内を流れる極低温の血が、猗窩座の腕を肘まで一瞬で凍結させ、煉獄への致命傷を数センチ逸らしたのだ。
「……なっ!? 自分の血を凍らせて、俺を止めたのか……!」
猗窩座が驚愕に目を見開く。
月唯は口から血を吐きながらも、凍りついた猗窩座の腕を両手で掴み、離さなかった。
「……逃がさ、ない……。もうすぐ、朝が来る……!」
地平線から、太陽の光が差し込む。
猗窩座は焦燥に駆られ、自らの腕を引きちぎって森へと逃走した。
静寂が訪れた戦場。月唯は力なく、煉獄の腕の中に崩れ落ちた。
「宵咲! 宵咲!!」
「……煉獄、様……。よかっ、た……。生きて……」
月唯の体は死人のように冷たく、脈は細い。
煉獄は、内臓を焼かれるような痛みに耐えながら、生き残った雪柱を強く抱きしめた。
「君が守ってくれたこの命……断じて無駄にはせん! 宵咲、死ぬな! 目を開けろ!」
朝日の中、炭治郎たちの慟哭が響く。
炎柱・煉獄杏寿郎は生き残った。しかし、雪柱・宵咲月唯は、その輝かしい未来と引き換えにするかのような、深い、深い眠りへと落ちていった。