雪柱の少女   作:白雪琉衣

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「閑話」年下の先達と、困惑する年上たち

蝶屋敷の中庭で、月唯と無一郎が並んで座っているところに、炭治郎に連れられた善逸と伊之助がやってきた。月唯と目が合った瞬間、善逸はピタリと動きを止めた。

 彼はその場に固まり、鼻の下を伸ばしながら、信じられないものを見たという顔で月唯を見つめる。

「……え。何、今の音……。雪が降る時みたいな、すごく、しんとしてて……。でも、お布団の綿みたいな、あったかくて優しい音がする……」

 善逸はガバッと起き上がると、月唯の元へ膝をついて滑り込んできた。

「結婚してぇぇ! こんな綺麗な音がする人、初めてだよ! 俺を養って! 雪の中に閉じ込めてくれてもいいから!」

「……え、ええと……」

 月唯が困惑して固まっていると、背後から氷のような冷気が立ち込めた。

「……ねえ。その手を離さないと、今すぐ君をバラバラにするけど、いいかな」

 無一郎が、無表情ながらも殺気のリミッターを外して善逸の襟首を掴んだ。

一方、猪の被り物をした伊之助は、善逸のことなどお構いなしに月唯を指差した。

「おい、女! お前、柱なんだろ! 炭治郎が言ってたぞ、『雪の柱はすげえ強くてかっこいい』ってな! 俺様と勝負しろォォ!」

「嘴平君……よね。……ごめんなさい、今はまだ怪我の療養中なの。戦うことはできないわ」

 月唯が穏やかに断るが、伊之助は猪の鼻からフンフンと息を荒げる。

「ああん? 逃げるのか! お前のその白い羽織、雪山で隠れるのに便利そうじゃねえか! 俺様がもっと派手に塗り替えてやるぜ!」

 月唯はふと微笑み、伊之助の猪の頭の毛並みを優しく撫でた。

「……あなたは、元気ね。山育ちだと聞いたけれど、あなたの筋肉の付き方は、とても力強くて美しいわ」

「ほわ……っ!?」

 伊之助の周囲に、ふわふわとした「ほわほわ」が浮かび上がる。褒められ慣れていない山の王は、月唯の凛とした美しさと慈愛に満ちた手に、一瞬で毒気を抜かれてしまった。

 

 

「……えっ、今なんて言ったの炭治郎? 聞き間違いかな? 耳の掃除しようか?」

 善逸が耳を疑うような声を上げる。炭治郎は至極当然という顔で頷いた。

「だから、雪柱の月唯さんと霞柱の時透様は、二人とも俺達より年下の『十四歳』だよ」

「十四歳ィィ!?」

 善逸の絶叫が屋敷中に響き渡った。

「嘘でしょ!? 俺より二つも下!? なんでそんな子供が柱なの!? 才能の暴力だよ、神様は不公平だよぉ! こんな可愛くて強くて年下とか、俺もう立ち直れない!」

「ああん!? 十四だと!?」

 伊之助も猪の頭を揺らして詰め寄る。

「俺様より年下じゃねえか! おい、白い女! お前、飯を食ってないのか! なんでそんなに細いんだ! 俺様がもっとデカくしてやるから勝負しろォ!」

 

 騒ぎ立てる二人を前に、月唯は静かに、けれど揺るぎない眼光を向けた。

「……我妻君、嘴平君。階級に年齢は関係ないわ。私たちは、あなたたちが山を下りるよりもずっと前から、死線に立っている」

 その言葉に含まれた重みに、善逸は思わず息を呑んだ。

 月唯の瞳は、十四歳の少女のそれではない。数え切れないほどの別れと、極寒の孤独を越えてきた者だけが持つ、深く澄んだ「氷」の色をしていた。

「……ねえ。あんまり月唯に馴れ馴れしくしないでくれる?」

 無一郎が月唯の肩に頭を乗せ、無表情に、しかし鋭く釘を刺す。

「僕たちは君たちより年下だけど、君たちよりずっと強い。……邪魔をするなら、今すぐ追い出すよ」

「ヒィィィ! ごめんなさい! 柱様、時透様、月唯様!」

 善逸は即座に土下座した。年上としてのプライドよりも、目の前の十四歳コンビが放つ「本物の強者」の圧が勝った瞬間だった。

 

 月唯は、怯える善逸と息巻く伊之助を宥めるように、優しく微笑んだ。

「……でも、こうして賑やかな人がいてくれるのは嫌いじゃないわ。……はい、これは私から。喧嘩しないで食べてね」

 月唯が差し出したのは、彼女が丁寧に握ったおにぎりだった。

 伊之助は「……ぬ?」と声を漏らし、差し出されたおにぎりを受け取る。月唯がその猪の頭をぽんぽんと撫でると、伊之助の周りにはまたしても大量の「ほわほわ」が浮かび上がった。

「……なんだこれ。年下なのに、すごく……落ち着く……。なんだこの感覚、癪に障るけど嫌じゃねえ……」

「(あぁ、わかるよ伊之助……。この子、年下なのに聖母みたいな包容力があるんだよ。時透君が離れない理由がわかるよ……)」

 

 二人がおにぎりを頬張るのを眺めながら、月唯は無一郎の手を握り返した。

 自分たちは、普通の十四歳が過ごすような青春を、あの日雪山に置いてきた。けれど、こうして年上の少年たちが、自分たちを「柱」としてではなく「人間」として騒がしく受け入れてくれることに、月唯は微かな救いを感じていた。

「……また、いつでもおいで。おにぎりなら、いつでも作ってあげるから」

 雪柱の柔らかな言葉に、善逸も伊之助も、気づけば彼女を「頼もしい先達」として、そして「大切な仲間」として、心から受け入れていた。

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