霞柱・時透無一郎による「高速移動」の稽古を命からがら突破した隊士たちが次に辿り着いたのは雪屋敷だった。
そこには、白銀の羽織を静かに靡かせた雪柱・宵咲月唯が、氷のように澄んだ瞳で彼らを見据えていた。
「無一郎のところを終えてきたのね。お疲れ様」
月唯の柔らかな声に、隊士たちは一瞬だけ安堵の色を浮かべる。しかし、その後に続いた言葉は、冬の夜風よりも冷たかった。
「でも、ここからは一歩も動けなくなるわよ。――私の稽古は、無駄な動きを一切削ぎ落とす『静寂』と『回避』の訓練」
稽古の内容は単純、かつ過酷なものだった。
月唯が放つ、目視不可能なほど速く、かつ不規則な軌道を描く「雪の礫」を、最小限の動きだけで避け続けること。
「ひ、ひぃぃ! 当たると凍るように痛い!」
「どこから飛んできてるんだ!? 雪柱様は指一本動かしてないように見えるのに!」
月唯は呼吸を整え、周囲の空気そのものを凍らせるような静寂を纏っていた。
「呼吸が乱れているわ。……無惨は、もっと速く、もっと予測不能な攻撃をしてくる。心の揺らぎは、そのまま死に直結するの」
月唯の指導は、無一郎ほど辛辣ではないが、その「完璧さ」を求める姿勢は他の柱に引けを取らなかった。
稽古の合間、隣の山で稽古をつけていた無一郎が、ふらりと月唯の元を訪れた。
「月唯、進捗はどう? ……あぁ、やっぱりみんな全然動けてないね」
無一郎の毒舌が飛ぶと、隊士たちは震え上がった。
「無一郎。少し厳しすぎるんじゃない?」
「そうかな。……でも、月唯の『雪の波紋』を捉えられないようじゃ、上弦には勝てないよ。……頑張ってね、みんな。できないなら、僕のところに戻してあげてもいいけど?」
無一郎の提案に、隊士たちは必死で「いいえ、月唯様のところで頑張ります!」と叫んだ。彼らにとって、月唯の静かな稽古の方が、無一郎の高速乱打よりは(精神的に)救いがあったからだ。
夕暮れ時、疲れ果てて倒れ込む隊士たちを横目に、月唯は一人、夜空を見上げた。
二十五歳までの命。残された時間は刻一刻と削られている。
「無一郎。……あの子たち、少しずつ良くなってるわ」
「……そうだね。月唯の教え方は丁寧だから」
無一郎が月唯の隣に並び、その手をそっと握った。
「私が教えられるのは、生き残るための技術だけ。……一人でも多く、夜明けまで生きていてほしいの」
その願いは、静かに、しかし強く隊士たちの心に染み込んでいく。
次に待ち受けるのは、甘露寺蜜璃による「地獄の柔軟」の稽古。
柱たちの絆と、隊士たちの決死の覚悟。最終決戦へのカウントダウンは、もう止まることはなかった。