雪柱の少女   作:白雪琉衣

23 / 40
「閑話」雪と太陽の約束

刀鍛冶の里での死闘を経て、太陽を克服した竈門禰豆子は、蝶屋敷の庭で過ごすことが増えていた。

 雪柱・宵咲月唯が縁側に腰を下ろすと、どこからかトコトコと足音が聞こえ、桃色の着物の裾が視界に入る。

「ルイ……! ルイ、おはよ!」

 たどたどしくも、明るい声。禰豆子は月唯を見つけるなり、その隣にぴたりと座り込んだ。

「禰豆子ちゃん、おはよう。」

 月唯が微笑むと、禰豆子は嬉しそうに月唯の白銀の髪に触れ、「キラキラ、ゆき、みたい」とはしゃいだ。

 

 かつて鬼だった頃、禰豆子は月唯を「不思議な匂いのする人」として認識していた。冷たい雪の匂いがするのに、その奥には炭治郎と同じ、自分たちを慈しむ熱い鼓動があることを、本能で感じていたのだ。

「ルイ……だいじょうぶ? いたい、ない?」

 禰豆子は月唯の首筋、そこに出ていた「痣」を小さな指先でそっと撫でた。太陽を克服した代償として知性が戻りつつある彼女は、その痣が月唯の命を削っていることを、言葉にはできずとも察していた。

「……大丈夫よ。これがあるから、私は強くなれたの。禰豆子ちゃんや、炭治郎くんを守るための力を、神様がくれたんだと思う」

 月唯は禰豆子の手を握り返した。鬼から人間に戻りつつあるその手は、驚くほど温かかった。

 

 月唯はふと、自分が二十五歳までしか生きられない運命であることを思った。もし自分が死んだ後、人間に戻った禰豆子はどうなるだろうか。

「禰豆子ちゃん。いつか、鬼がいなくなって、あなたが完全に人間に戻ったら……やりたいことはある?」

 禰豆子は小首を傾げ、それからパッと顔を輝かせて答えた。

「みんなで、おはな……みる。ルイも、いっしょ。おにいちゃんも、みんな、いっしょ!」

「……そうね。みんなでお花見、しましょうね」

 月唯の視界が、少しだけ潤む。自分にその「いつか」が訪れる確証はない。けれど、この少女が笑って花を見上げられる世界を作るためなら、残りの命を捧げることに、一片の後悔もなかった。

 

 禰豆子は、月唯の少し悲しげな匂いを感じ取ったのか、不意に月唯の正面からぎゅっと抱きついた。

「ルイ、ないて、ない……。ねずこ、まもるよ。ルイ、まもる!」

「……っ。ありがとう、禰豆子ちゃん。……嬉しい」

 月唯は、禰豆子の小さな背中に腕を回し、その温もりを胸に刻んだ。

 雪は太陽に照らされれば溶けてしまう。けれど、この「太陽」のような少女が放つ光は、月唯の凍てついた心を溶かし、生きる喜びを教えてくれる。

「約束よ。春になったら、一緒に桜を見ようね」

 庭に咲く名もなき花が、風に揺れる。

 二人の少女が交わした小さな約束は、これから始まる地獄のような決戦において、月唯が最後まで心を燃やし続けるための、確かな灯火となったのである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。