その夜、産屋敷邸の空気が一変した。
月唯と無一郎は、邸の近くで待機していた。突如として夜空を真っ赤に染めた巨大な爆炎。耳を劈くような轟音と共に、主である産屋敷耀哉が、その家族と共に自らを爆破したことを悟った。
「……お館様!!」
月唯の悲鳴にも似た叫びが夜風に消える。
無一郎は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに氷のような無機質な表情に戻り、月唯の手を強く引いた。
「月唯、走るよ! お館様が繋いでくれた最期の機会だ。絶対に、無惨を逃がしちゃいけない!」
瓦礫の山となった産屋敷邸の跡地。そこには、再生を試みる鬼舞辻無惨と、執念で彼を捕らえた珠世の姿があった。
そして、爆音に導かれるように、全ての柱たちが集結する。
悲鳴嶼の鉄球が無惨の頭部を砕き、実弥の荒々しい風が吹き荒れる。
月唯もまた、白銀の刀を抜き放ち、これまでにない殺気を纏っていた。
「雪の呼吸、壱ノ型――」
だが、刃が届く寸前。無惨が不敵に口角を上げた。
「……貴様らを、一人残らず地獄へ叩き落としてやる」
足元の地面が、唐突に消失した。
襖が開き、床が消え、空間そのものが組み変わる。月唯の視界には、上下左右の概念が失われた異形の城――「無限城」が広がっていた。
「無一郎!!」
落下する中、月唯は必死に手を伸ばした。
「離さない! 離さないよ、月唯!」
無一郎が月唯の腰を強く抱き寄せ、二人は絡まり合うようにして闇の中へと墜ちていく。周囲には同じように、驚愕の表情を浮かべながら散り散りになっていく柱たちの姿があった。
蜜璃が叫び、伊黒が手を伸ばし、実弥が呪詛を吐き散らしながら、それぞれの戦場へと強制的に引き離されていく。
激しい衝撃と共に、二人は建物の屋根らしき場所に激突した。
立ち上がった月唯の瞳に映るのは、無限に続く階段と、蠢く襖の迷宮。
「無惨の本拠地だ。……覚悟はいい? 月唯。もう、後戻りはできない」
無一郎の声は、震えていなかった。彼は月唯の震える指先をぎゅっと握り、自らの唇に当てた。
「絶対に、僕が守る。君も、自分も守って。……二人で、夜明けを見るんだ」
月唯は、無一郎の温もりに支えられ、静かに頷いた。
かつて雪山で絶望に呑まれた少女は、今、愛する人の手を取り、本当の地獄へと立ち向かう。
鎹鴉の悲痛な鳴き声が、城内に響き渡る。
「お館様崩御! お館様崩御! 柱一同、鬼舞辻無惨を討て!!」
運命の歯車が、最期の回転を始めた。
雪柱と霞柱。若き二人の「命」を賭けた戦いが、今、幕を開ける。