無限城の入り組んだ回廊を駆け抜け、二人が辿り着いたのは、不気味なほどに広大で、静謐な広間だった。
柱の一本一本、畳の一畳に至るまでが、異様な威圧感を放っている。
「……待って、無一郎。何かが、いる」
月唯の白銀の瞳が、闇の奥を射抜く。
雪の呼吸の使い手として、周囲の「気」に敏感な彼女は、かつて感じたことのないほど冷たく、そして巨大な闘気を察知していた。
「……うん。僕も感じるよ。……これは、普通じゃない」
無一郎は月唯の前に一歩出ると、日輪刀を構えた。
闇の中から、ゆっくりと姿を現したその男は、侍の姿をしていた。
だが、その顔には三対、計六つの眼があり、刀には歪な目玉が埋め込まれている。
「……来たか……。末裔……そして……雪を纏いし……娘よ……」
重苦しく、地を這うような声。
黒死牟の視線が無一郎に向けられ、それから月唯へと移った。
「……無一郎。あの鬼、あなたの先祖なの……?」
「……みたいだね。血が、騒いでる」
無一郎の声は、微かに震えていた。それは恐怖ではなく、生物としての本能的な拒絶と、逃れられぬ血の繋がりに対する戦慄だった。
黒死牟が指一本動かさないまま、周囲の空間がミリミリと音を立てて軋む。
月唯は呼吸が止まりそうなほどの圧迫感に襲われた。かつて煉獄杏寿郎や、お館様から感じた「陽」の強さとは真逆の、全てを飲み込む「陰」の極致。
「月唯、僕の後ろにいて。……この鬼は、僕が……」
「ダメだよ、無一郎! 一人で戦える相手じゃない……。私も、一緒に戦う。約束したでしょ、最後まで隣にいるって」
月唯は震える足を叱咤し、無一郎と肩を並べた。
白銀の刀身が、暗闇の中で静かに輝く。
「……ほう……。慈しみ合う……無駄な情念……。だが……その雪の呼吸……。かつての……記憶を……呼び覚ます……」
黒死牟がゆっくりと刀の柄に手をかけた。その瞬間、広間全体の空気が凍りついた。
「来るよ、月唯!!」
無一郎が叫ぶと同時に、黒死牟の姿が消失した。
――月の呼吸、壱ノ型「闇月・宵の宮」。
視認不可能な速度で放たれた三日月形の斬撃が、空間を削り取りながら二人に襲いかかる。
「雪の呼吸、陸ノ型――氷晶の檻!」
月唯は反射的に刀を振り、無数の雪の結晶のような斬撃を展開して、無一郎と共にその一撃を辛うじて弾き返した。
だが、たった一撃で、月唯の手首には痺れが走り、刀が悲鳴を上げている。
黒死牟は微塵も動じず、六つの眼で二人を冷静に観察していた。
「……よく……防いだ……。だが……ここからは……絶望を……知るがいい……」
地獄の門が、完全に開いた。
霞と雪。若き二人の柱は、自らの命が砂時計のように零れ落ちていくのを感じながら、史上最強の鬼との、死闘の渦中へと身を投じたのである。