黒死牟の振るう「月の呼吸」は、あまりにも異質だった。
刀身の周りに纏わりつく、不規則に大きさを変える三日月形の刃。それが掠めるだけで、月唯の白銀の羽織は引き裂かれ、肌に幾筋もの深い傷が刻まれていく。
「くっ……あ、あああ!」
無一郎が「霞の呼吸」の最速の型で肉薄しようとした瞬間、黒死牟の目が一際鋭く光った。
「……遅い……。末裔……よ……」
一閃。
月唯の視界の中で、何かが宙を舞った。それは、見慣れた無一郎の「左手」だった。
「無一郎!!」
月唯の叫びが広間に響き渡る。
無一郎は激痛に顔を歪めながらも、残った右手で刀を握り直し、黒死牟を刺そうと踏み込む。だが、黒死牟はその動きすらも読み切っていた。
「……もはや……。剣士として……終わり……だ……」
黒死牟の刀が、無一郎を柱に縫い付けようと振り下ろされる。
その刃が届く直前、月唯が間に割り込んだ。
「させない……!! 雪の呼吸、肆ノ型――吹雪纏い!」
全神経を研ぎ澄ませた迎撃。だが、黒死牟の斬撃は月唯の防御を容易く貫いた。
ザシュッ、という嫌な音がして、月唯の脇腹から肩にかけて深い切り傷が走る。鮮血が白銀の羽織を赤く染め、雪山のような彼女の肌に、おぞましい鮮烈な色が広がった。
三、繋がれた命
「がはっ……!」
月唯は大量の血を吐き出しながらも、膝を折ることを拒んだ。
彼女は、柱に突き刺されそうになっていた無一郎を抱え込むようにして、床を転がって距離を取る。
「月唯……逃げろって……言っただろ……。君まで、死んじゃう……」
無一郎の声は、失血と激痛で掠れていた。左手の断面を必死に抑えるが、血は止まらない。
月唯は自分の羽織の帯を引きちぎり、無一郎の腕を固く縛り上げた。
「……約束、したでしょ……? 無一郎がいない世界で、私だけ生きていても……意味がないの……」
月唯の瞳からは、静かな涙が零れていた。だが、その瞳に宿る光は、かつてないほどに鋭く、そして狂おしいほどに「生」への執着に満ちていた。
黒死牟は、深手を負った二人が寄り添う姿を、六つの眼で冷ややかに見下ろしていた。
「……傷口を……止血したか……。だが……。内臓まで……届いたはず……。死……は……免れん……」
黒死牟がゆっくりと歩を進める。その足音は、二人の鼓動を追い詰めていく。
月唯は震える腕で刀を構え直し、無一郎の前に立った。
脇腹の傷が痛み、意識が遠のきそうになる。けれど、背後にいる無一郎の呼吸を感じるたびに、彼女の魂は燃え上がった。
「……まだ……。まだ、終わらせない……。無一郎を……連れて行かせない……!」
その時。
広間の巨大な扉が、凄まじい風と共に吹き飛んだ。
「――ガキどもが、よく粘りやがった。あとは俺たちに任せろォ!!」
荒々しい声。風柱・不死川実弥と、岩柱・悲鳴嶼行冥。
鬼殺隊最強の二人が、ついに地獄の最前線へと降り立った。