吹き飛んだ扉の向こうから現れたのは、怒りと闘志を限界まで研ぎ澄ませた二人の柱だった。
不死川実弥は、血塗れで倒れる無一郎と、脇腹を深く斬られた月唯の姿を視界に入れた瞬間、その双眸にどす黒い殺意を宿した。
「よくも……よくもそのガキ共をここまでしやがったなァ! この目玉野郎ォ!!」
「……南無阿弥陀仏。宵咲、時透。よくぞ堪えた。あとは我らに任せ、傷を塞げ」
悲鳴嶼の鉄球が唸りを上げ、実弥の風が空間を切り裂く。
黒死牟は六つの眼を不気味に蠢かせ、最強の二人の波状攻撃を「月の呼吸」で迎え撃つ。広間はもはや、人の踏み込める領域ではない、神域の剣戟の渦と化した。
柱に背を預け、激しい失血に耐えながら、月唯は必死に無一郎の腕を縛り続けていた。
「無一郎……無一郎、聞こえる? まだ、死んじゃだめ……」
「……月唯……。君こそ……その傷、ひどいよ……。内臓が、見えてる……」
無一郎は残された右手で、月唯の頬に流れる血を拭った。月唯の脇腹の傷からは、命そのものが零れ落ちるように鮮血が溢れている。
だが、二人は知っていた。実弥と悲鳴嶼がどれほど強くても、この化け物を倒すにはあと一歩、決定的な「隙」が必要なのだと。
「……ねえ、無一郎。約束したよね。最後まで、隣にいるって」
「うん。……わかってる。僕たちが……あいつを、止めるんだね」
月唯と無一郎は、互いの血に濡れた手を固く握りしめた。
二十五歳まで生きる。そんな未来はもう、この場所にはない。けれど、この瞬間に命を燃やし尽くすことで、夜明けを連れてこられるなら、二人に迷いはなかった。
実弥が黒死牟の斬撃を受け、絶体絶命の窮地に陥ったその時。
柱の影から、二つの影が弾かれたように飛び出した。
「雪の呼吸、漆ノ型――終の結晶・永久欠片!」
「霞の呼吸、漆ノ型――朧!」
月唯は自らの血を氷の結晶に変え、黒死牟の足元を凍りつかせ、一瞬の硬直を生み出す。
無一郎はその隙を突き、左手を失った身体で黒死牟の腹部へと日輪刀を突き立てた。
「――っ!?」
黒死牟の六つの眼が、初めて驚愕に見開かれる。
月唯もまた、反対側から黒死牟の腕を斬り上げ、自らの刀を黒死牟の肉体に喰い込ませた。
「……離さない……! 絶対に……!!」
月唯は血を吐きながら、刀を握る手に全魂を込める。
日輪刀が赤く染まっていく。――赫刀。二人の凄まじい「生」への執着と、死の間際の「熱」が、刀に命を吹き込んだ。
月唯と無一郎の刀が、同時に赫く染まる。
黒死牟の再生が止まり、内臓が灼かれる激痛が彼を襲う。
「……小僧……娘……。貴様ら……死に際……にして……これほどの……」
黒死牟の全身から、無数の刃が突き出す。
月唯の身体は、その刃に貫かれた。肩、胸、足。白銀の羽織はもはや原形を留めず、真っ赤な牡丹のように染まっている。
それでも、月唯は刀を離さなかった。無一郎も、身体を真っ二つにされかけながら、黒死牟の動きを封じ続けている。
「……不死川様! 悲鳴嶼様! 今です!!」
月唯の、命を振り絞るような絶叫が、広間に響き渡った。
風の刃と岩の鉄球が、黒死牟の首に向かって、最大の一撃を振り下ろそうとしていた。