雪柱の少女   作:白雪琉衣

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無限城編・黒死牟戦「夜明けの雪と、霞の消える場所」

月唯と無一郎が命を賭して赫く染め上げた刀は、上弦の壱・黒死牟の再生を根底から打ち砕いていた。

 二人の身体が黒死牟から生じた無数の刃に貫かれ、血飛沫が舞う中。悲鳴嶼の鉄球と実弥の斬撃が、ついにその首を断ち切った。

 首が落ち、崩れゆく黒死牟。

 自らの醜い執着、そして弟・縁壱への届かぬ想いに焼き尽くされながら、最強の鬼は塵へと消えていった。

 静寂が、広間に戻る。

 だがそれは、あまりにも残酷で、空虚な静寂だった。

 

「……宵咲! 時透!!」

 実弥の叫び声が聞こえる。

 身体を両断されかけ、それでもなお刀を離さなかった無一郎。

 そして、胸から腹にかけて無数の刃に貫かれ、白銀の髪を血で染めて横たわる月唯。

 実弥が駆け寄り、月唯を抱き起こした。

「おい、しっかりしろ……! 宵咲! 目を開けろ、こらぁ!!」

 実弥の手が震えている。まだ若いこの少女を失うことへの、耐え難い怒りと悲しみ。

「……し、な、ずがわ……様……。無、一郎、は……?」

 月唯の白銀の瞳は、すでに光を失いつつあった。それでも彼女は、自分の隣に転がっている愛する人の姿を求めた。

「……ここにいるよ、月唯」

 無一郎が、微かな声で答えた。実弥の手を借り、二人は手を繋げる距離へと寄せられる。

 

 二人の血が床で混ざり合い、一つの川のようになっていた。

 無一郎は残された右手で、月唯の冷たくなり始めた手を、ぎゅっと握りしめた。

「……月唯。ごめん……守るって、言ったのに」

「……謝らないで……無一郎。……私、幸せだったよ。……あなたに、出会えて……隣で、戦えて」

 月唯は、最期の力を振り絞って微笑んだ。

 二十五歳まで生きることはできなかった。お花見の約束も、もう叶わない。

 けれど、今、二人の胸にあるのは、絶望ではなく、共にやり遂げたという確かな充足感だった。

「……ねえ、無一郎。……向こうに行ったら、また……二人で……笑い、合えるかな」

「……うん。約束する。……どこにいても、僕が……君を見つけるよ。……霞と、雪が……ずっと、一緒にいられる場所に、行こう」

 

 月唯の瞳から、一筋の涙が零れた。

 その涙が頬を伝い、床に落ちる前に――彼女の呼吸は、静かに止まった。

 後を追うように、無一郎の瞳からも光が消え、繋いだ手の力がふっと抜ける。

「……南無阿弥陀仏」

 悲鳴嶼が数珠を鳴らし、天を仰いで慟哭した。実弥は二人を抱きかかえたまま、顔を歪めて叫んだ。

 広間に残されたのは、ボロボロになった白銀の羽織。

 そして、二人が死の間際まで固く握りしめていた、赤く輝く二振りの刀だけだった。

 黒死牟という巨悪を討つために、若き二人の柱は、その命を燃やし尽くした。

 無限城の暗闇の中で、二人の魂は光となって溶け合い、いつか春が訪れる、暖かい場所へと旅立っていった。

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