上弦の弐との死闘を終え、ボロボロになりながらも生き残った栗花落カナヲ。彼女の元に鎹鴉の声が響いていた。
「伝令! 伝令! 上弦の壱、討伐ッ! 討伐ッ!!……雪柱・宵咲月唯……霞柱・時透無一郎、死亡」
その言葉を聞いた瞬間、カナヲの胸の奥が、鋭い氷で刺されたように冷たくなった。
「……あ」
カナヲは、かつて月唯が自分を抱きしめてくれた時の感触を思い出していた。「また一緒に、お茶を飲みましょう」と笑ってくれた、あの静かな微笑み。
しのぶを失い、そして自分を「友人」として、一人の女の子として認めてくれた月唯までも失った。
感情を出すことが苦手だったカナヲの瞳から、ボロボロと大きな涙が溢れ出した。
「月唯さん……約束、したのに。……どうして。どうして、いなくなっちゃうの」
カナヲはその場に崩れ落ち、震える手で月唯から貰った髪飾りを触った。その指先には、月唯が最後に放った「雪の呼吸」の名残のような、清らかな冷たさが微かに残っている気がした。月唯が遺してくれた「心」が、カナヲの胸を痛いほどに打ち震わせていた。
珠世の薬によって人間に戻った竈門禰豆子は、戦場へと急いでいた。
道中、鴉が告げる「ルイ」の死。
「……ルイ……さん……」
禰豆子の脳裏に、太陽の下で自分を抱きしめてくれた月唯の姿が鮮明に蘇る。
「だいしゅき」と言った自分を、あの人は泣きそうな、でも幸せそうな顔で見つめていた。
「いや……嫌だ。そんなの……」
人間に戻ったばかりの喉が、悲鳴を上げる。
月唯は、自分のために、兄のために、そしてまだ見ぬ誰かの未来のために、あの「二十五歳まで」という短い命すら使い切ってしまったのだ。
禰豆子は空を見上げた。月唯の髪のような白銀の夜明け。
「月唯さん……私、お花見……待ってるって言ったのに……っ」
太陽を克服した自分を誰よりも喜んでくれた、あの優しい雪柱はもういない。禰豆子は、月唯が自分にくれた温もりを抱きしめるように、胸元を強く握りしめた。
戦場の一角で、カナヲと禰豆子の視線が交差した。
二人は言葉を交わさずとも、同じ「雪の女性」に救われ、愛されていたことを知っていた。
「……カナヲさん」
「……禰豆子ちゃん」
カナヲは、月唯から教わった「自分の心で動くこと」を。
禰豆子は、月唯が守りたかった「人間の幸せ」を。
二人は互いの手を握りしめ、月唯と無一郎が命を懸けて守り抜いた、この眩しすぎるほど明るい朝日を見つめた。
「……忘れないわ。絶対に。月唯さんが、私を愛してくれたこと」
「……私も。月唯さんが守ってくれたこの命で、幸せになるよ」
月唯の肉体は塵となって消えたかもしれない。
けれど、彼女たちが遺した温もりは、カナヲと禰豆子という二人の少女の心の中で、決して消えることのない「光」となって生き続けるのであった。