上弦の陸・獪岳を倒し、深手を負って運ばれていた我妻善逸は、朦朧とする意識の中で鎹鴉の声を聞いた。
「……時透無一郎、宵咲月唯、死亡ッ!!」
その瞬間、善逸の「音」が止まった。
善逸にとって、月唯はいつも静かで、雪のように穏やかな音をさせている人だった。そして無一郎は、捉えどころがないけれど、どこか澄んだ空のような音のする少年。
「……嘘だろ。嘘だよ、そんなの……」
善逸は、ボロボロの手で床を掻きむしった。
二人は自分より年下だ。自分よりずっと小さな体で、どうしてあんなに重いものを背負っていたのか。どうして、自分みたいな情けない奴を置いて、先に逝ってしまうのか。
「月唯さん……、俺のことも『綺麗だ』って言ってくれたじゃないか……。時透くん、君だって……これからもっと、たくさん話そうって……」
善逸の目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。怒鳴り散らす元気もなく、ただただ、若すぎる二人の欠落を嘆き、嗚咽だけが静まり返った部屋に響いていた。
一方、地上で無惨との乱戦に加わっていた嘴平伊之助は、鴉の報告を聞くや否や、被り物の下で激しく歯を剥き出した。
「……あァ!? 何が死んだだコラァ! あの『昆布頭』と『雪ん子』が、そんな簡単にくたばるわけねぇだろ!!」
伊之助にとって、二人は「強え奴」だった。特に月唯は、伊之助の猪突猛進な振る舞いにも動じず、その鋭い野性の感覚を「研ぎ澄まされた刃のようね」と認めてくれた数少ない相手だ。
「おい、隠! 鴉の野郎を捕まえろ! 嘘をついた罰に俺が叩き斬ってやる!!」
伊之助は暴れ回った。そうしていなければ、胸の奥に広がる「得体の知れない冷たさ」に押し潰されそうだったからだ。
だが、ふと空を舞う白銀の火の粉のような粉雪を見た瞬間、伊之助の動きが止まった。
「……温かかったんだぞ。あの雪ん子の手は、……炭治郎みたいに、温かかったんだぞ……」
被り物の目の穴から、大粒の雫が滴り落ちる。
伊之助は刀を地面に突き立て、天に向かって獣のような咆哮を上げた。それは、言葉にできない悲しみと、二人の強さを称えるための、彼なりの葬送の叫びだった。
泣きじゃくる善逸と、暴れながらも涙を流す伊之助。
二人は、炭治郎がかつて語っていた「二人の温もり」を思い出していた。
「……やるしかないんだな。あの二人が、そこまでして守ったんだから」
善逸が、震える手で刀の柄を握った。
「当たり前だ、この紋次郎! あいつらが削った命の分まで、俺様が百倍にしてアイツをぶち殺してやる!!」
伊之助が、鼻息荒く立ち上がる。
雪は止み、霞は消えた。
けれど、二人の少年の中に刻まれた「雪柱」と「霞柱」の記憶は、彼らに「死ぬな、生きろ」という最後にして最大の勇気を与えていた。
善逸と伊之助は、互いに顔を見合わせることなく、ただ前だけを見つめた。
二人が命を懸けて繋いだ「今日」を、絶対に「明日」へと変えるために。