キメツ学園中等部。三年の教室で課外授業を終えた宵咲月唯が廊下に出ると、そこには見慣れた二人の少年が待っていた。
「あ、無一郎くんに有一郎くん。まだ待っててくれたの?」
月唯の問いに、二年生の教室からやってきた双子の弟、時透無一郎がふわっと微笑む。
「……うん。月唯はうっかりしてるから、一人で帰すと危ないでしょ」
「何言ってんの、私の方が一つ先輩なんだよ?」
月唯が苦笑いすると、兄の有一郎が鼻を鳴らして彼女の鞄をひょいと取り上げた。
「学年なんて関係ねーんだよ。お前は昔から危なっかしいんだ。ほら、マフラーも解けてる。貸せ」
有一郎の荒っぽくも器用な手つきでマフラーを巻き直され、月唯は「うう……」と声を漏らす。記憶のない彼女にとって、一つ年下のこの幼なじみ兄弟は、時々どちらが年上かわからなくなるほど、大人びていて、そして異常なほど過保護だった。
校門を出ると、空からは細かな雪が舞い始めていた。
「わあ、雪だ……」
月唯が空を仰ぎ、掌を広げる。その瞬間、月唯の脳裏に激しい閃光のような映像が走った。
――暗闇、立ち込める霞、そして自分の指先から零れる真っ赤な血。
「……っ」
月唯が小さくよろめくと、左右から即座に手が伸びて彼女を支えた。
「月唯、大丈夫!?」
無一郎の瞳には、中学生らしからぬ、悲痛なほどの切実さが宿っている。
「……あ、うん。大丈夫。ちょっと立ちくらみしただけ。……なんだか、雪を見ると、胸がギュッとするの」
月唯が弱々しく笑う。
双子は顔を見合わせた。彼らは覚えている。前世で「雪柱」として戦場に立ち、十四歳で、命を散らした彼女のことを。
彼らにとって月唯は「何があっても、命に代えても守り抜くべき最愛の人」だった。
「……おい、変なこと考えてる暇があったら歩け。今日は月唯ん家シチューだって言ってたろ」
有一郎がわざとぶっきらぼうに言い、月唯の背中を押す。
「あ、そうだった! 無一郎くんと有一郎くんの分も、お母さんが作ってるって言ってたよ」
月唯がぱっと表情を明るくして歩き出す。
「……ねえ、月唯」
無一郎が月唯の手を、少しだけ強く握った。
「何があっても、僕たちがそばにいるから。……だから、もうどこにも行かないでね」
月唯は不思議そうに目を丸くしたが、すぐに優しく微笑んだ。
「もう、変なこと言うんだから。どこにも行かないよ。……ずっと、一緒だよ」
その言葉に、双子はどれほど救われただろうか。
記憶のない「先輩」を、今世では自分たちが「男」として、そして「幼なじみ」として守っていく。
舞い散る雪はもう、悲劇の予兆ではない。
三人の歩幅に合わせた、静かで平和な冬の訪れを祝う、ただの贈り物だった。
「……ああ。ずっと一緒だ」
有一郎が小さく呟き、三人の影は夕暮れの雪道に仲良く並んで消えていった。