雪柱の少女   作:白雪琉衣

37 / 40
キメツ学園物語:桜と雪の乙女茶会・恋する看板娘と憧れの少女

放課後の商店街。香ばしい出汁の匂いが漂う定食屋「しらつゆ」の軒先で、月唯は幸せそうなため息をついていた。

「わあ……! 蜜璃さん、この新作の『桜うさぎパンケーキ』、とっても可愛いです!」

 目の前には、ピンク色のクリームがたっぷりと乗り、雪うさぎを模したマシュマロが添えられた豪華な一皿。それを持ってきた看板娘の甘露寺蜜璃は、桜色の三つ編みを揺らしながら、月唯以上に目を輝かせている。

「よかったわぁ、月唯ちゃん! あなたに一番に食べてほしくて、一生懸命考えたのよ。さあ、冷めないうちに召し上がれ!」

 

 月唯が一口食べると、あまりの美味しさに頬が落ちそうになる。蜜璃はその様子を見て「きゃあ! 可愛い!」と身を悶えさせた。

「蜜璃さん、最近伊黒先生とはどうなんですか? 先週、理科準備室でお会いした時、先生なんだかそわそわしてましたよ」

 月唯の問いかけに、蜜璃は顔を真っ赤にして「もう、月唯ちゃんったら!」と顔を覆う。

「小芭内さん、この前、一緒に縞々模様の限定マフラーを見に行こうって誘ってくれたの……! 私、嬉しくて心臓が飛び出ちゃうかと思ったわ!」

 二人がキャッキャと盛り上がっていると、店の外から「……おい」という低い声が響いた。

 店の窓ガラス越しに、こちらをじっと見つめる中2の時透兄弟である。

「月唯、甘いものはもう十分だろう。晩飯が食えなくなるぞ」

 有一郎が暖簾をくぐって入ってくる。

「……月唯、甘露寺さんにあまり変なことを吹き込まれないで。恋なんて、まだ月唯には必要ないんだから」

 無一郎も、月唯の隣の席を陣取り、牽制するように蜜璃を見つめた。

 

 蜜璃は、双子の過保護っぷりを見てクスクスと笑った。彼女には前世の記憶がある。かつて、孤独な戦いの中で、自分を「蜜璃さんはそのままで素敵です」と励ましてくれた雪柱・宵咲月唯の優しさを、彼女は一生忘れない。

「時透くんたち、相変わらず月唯ちゃんが大好きなのね! でも大丈夫よ、月唯ちゃんは私がしっかりエスコートするわ!」

 蜜璃は月唯の手を取り、内緒話をするように耳を寄せた。

「月唯ちゃん。今度ね、しのぶちゃん(高等部3年)と一緒に、お洒落なカフェのハシゴを計画してるの。……あの双子くんたちには内緒で、三人で行かない?」

 月唯は目を丸くした後、いたずらっぽく微笑んだ。

「……はい! ぜひ行きたいです、蜜璃さん!」

「あ、今絶対こっそり約束しただろう」

「……不公平だよ。僕たちも行く」

 双子の抗議を笑い飛ばしながら、蜜璃は月唯に次々とお代わりの甘味を運んでくる。

 

 定食屋に差し込む夕日は、桜色の髪と白銀の髪を優しく照らしている。

 前世では、戦いの合間にしか許されなかった束の間の休息。

 けれど今は、明日も、その次の日も、こうして笑い合える約束ができる。

「月唯ちゃん。私、あなたとこうして笑い合える今が、本当に幸せなの」

 蜜璃がそっと月唯の頭を撫でる。

「……私もです、蜜璃さん。なんだか、ずっと昔から、こうして二人で笑ってた気がするんです」

 記憶はなくても、心は覚えている。

 恋する看板娘と、彼女に憧れる少女。

 キメツ学園の商店街には、今日も二人の甘い笑い声と、それを必死に守ろうとする少年たちの足音が響いていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。