雪柱の少女   作:白雪琉衣

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キメツ学園物語:約束の桜、今世で咲き誇る

キメツ学園の裏山。そこには、学園創立の頃からあるという見事な千本桜が、今を盛りと咲き誇っていた。

 今日は、中等部3年生の月唯の卒業を祝うため、そして「みんなで集まろう」という禰豆子の提案で、かつての戦友たちが一堂に会するお花見会の日だ。

「わあ……! 禰豆子ちゃん、見て! 本当に綺麗ね!」

 白銀の髪を春風になびかせ、月唯が感嘆の声を上げる。

 隣に立つ中2の竈門禰豆子は、月唯の手をぎゅっと握りしめた。

「……うん。ルイさん。やっと……やっと一緒に見れたね」

 禰豆子の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。人間に戻ったあの日、そして戦いが終わったあの日。彼女がなによりも願っていたのは、自分を「太陽の下で」抱きしめてくれた月唯と一緒に、この景色を見ることだった。

 

 ブルーシートの上では、炭治郎が作った大量のサンドイッチや、蜜璃と月唯が持ち寄った色とりどりの重箱が広げられている。

「おい、善逸! 俺の海老天を盗むなッ!」

「伊之助、それは俺の……ああっ、もう!」

 相変わらず騒がしい同期組。その後ろでは、伊黒先生と蜜璃さんが仲良く桜餅を分け合っている。

 月唯の左右には、当然のように時透兄弟が陣取っていた。

「月唯、ほら、僕が剥いたリンゴ。……ウサギの形にしたよ」

 無一郎が月唯の口元へ運ぶ。

「……月唯、外はまだ少し冷える。俺の学ランを肩にかけておけ」

 有一郎が不器用に自分の上着を月唯の肩に回した。

 それを見たカナヲが、隣で優しく微笑む。

「月唯さん。……あの時、私たちが夢見ていたのは、きっとこんな光景だったのね」

 

 月唯は、舞い散る桜吹雪を見上げながら、ふと不思議な感覚に包まれた。

 記憶はない。あの日、自分がどのようにして命を落としたのか、どのような想いで戦ったのか、彼女は何も知らない。

 けれど、目の前で笑う禰豆子の顔、炭治郎の温かい匂い、カナヲの穏やかな瞳、そして自分を「今度こそ」と守り続けてくれる双子の温もり。

 それらすべてが、パズルの最後のピースのように、彼女の心にぴったりとはまった。

「……ねえ、禰豆子ちゃん。私ね、今、すごく幸せ」

 月唯が静かに言った。

「なんだか分からないけど、ずっと昔……もっと暗くて冷たい場所で、私、禰豆子ちゃんと約束した気がするの。……『いつか、みんなでお花見しようね』って。……ねえ、その約束、今日叶ったのかな?」

 禰豆子は言葉にならず、ただ月唯の胸に飛び込んで泣きじゃくった。

「……っ、うん……! 叶ったよ、ルイさん! ずっと、ずっと待ってたの……!!」

 

 炭治郎が、そんな二人を眩しそうに見つめながら近づいてくる。

「……よかったな、禰豆子。月唯さん」

 無一郎と有一郎も、月唯の背中を支えるように手を添えた。

 前世で失った未来。

 届かなかった言葉。

 けれど、魂が覚えている想いは、時を越えて、この平和な学園の桜の下で、満開の笑顔へと結実した。

「……さあ、みんな! 写真を撮りましょう!」

 蜜璃の呼びかけで、全員が桜の木の下に集まる。

 カメラのシャッターが切られる瞬間、月唯は双子の手を強く握った。

 もう、別れはない。

 霞のように消える約束もない。

 三人と、そして仲間たちの頭上には、どこまでも青く澄み渡った春の空と、祝福の桜が降り注いでいた。

「……また、来年もみんなで見ようね」

 その月唯の言葉に、誰一人として異を唱える者はいなかった。

 彼らの長い、長い冬が、ようやく本当の意味で終わった瞬間だった。

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