闇夜を切り裂きひた走る、無限列車。その車内には、炎柱・煉獄杏寿郎と、雪柱・宵咲月唯の姿があった。
「よもやよもやだ! 雪柱、君と共に任務に当たれるとは心強い!」
「煉獄様、声が大きいです……。でも、私も光栄です。あなたの熱気に、私の雪が溶けてしまわないか心配ですが」
月唯が少しだけ口角を上げると、煉獄は豪快に笑い、山盛りの弁当を頬張った。
そこへ、炭治郎、善逸、伊之助の三人が合流する。
下弦の壱・魘夢の血鬼術により、月唯もまた深い眠りに落ちた。
夢の中で彼女が立っていたのは、雪山だった。
目の前には、記憶を失う前の無一郎と、生きていた頃の有一郎が並んで笑っている。
『月唯、早くおいでよ。三人の印、もっと大きく描こうよ』
無一郎が手を振る。月唯の足が、無意識に彼らの方へ動き出す。……けれど、月唯はその足を止めた。
「……行かなきゃ。あの子たちを、守らなきゃいけないの」
夢の中で、幼い無一郎と有一郎に背を向け、月唯は自らの腕を薄氷で傷つけた。その鋭い痛みが、強制的に彼女の意識を引き戻す。
目を開けると、列車内は異様な肉塊に侵食されていた。
「……雪の呼吸、壱ノ型――薄雪」
月唯は抜刀と同時に、客席を覆おうとしていた触手を一瞬で粉砕する。
「よもやよもやだ! 雪柱、目覚めるのが早いな!」
車両の奥から、煉獄杏寿郎が炎を纏いながら現れた。
「煉獄様。……竈門君たちは?」
「炭治郎少年は既に先頭車両へ向かった! 我らはこの五両の客を守るぞ!」
魘夢が列車そのものと融合し、数多の触手が乗客を襲う。
月唯は車両の連結部分に立ち、深く、冷たく長い呼吸を繰り返した。
「雪の呼吸、伍ノ型――永久の初雪」
月唯の周囲から無数の氷の鎖が伸び、触手の一本一本を凍らせて砕いていく。
煉獄が後方の三両を、月唯が前方の二両を受け持つ。
「……逃がさない。この雪の檻からは」
月唯は、怪我をした乗客の傷口を冷気で止血しながら、押し寄せる肉の波を完封し続けた。炭治郎が魘夢の首を斬り落とし、列車が断末魔を上げて激しく脱線するまで、彼女は一人の乗客も死なせなかった。
激しい衝撃と共に列車が止まった。
立ち込める土煙の中、月唯は肩で息をしながら炭治郎の元へ歩み寄る。
「……大丈夫、炭治郎君。みんな……みんな無事よ」
炭治郎は出血しながらも、安堵の涙を浮かべた。煉獄もまた、止血の指導を終え、月唯の元へ合流する。
夜明けまであとわずか。
――ズゥンッ。
空気が、一瞬で凍りついた。月唯の『雪の呼吸』による冷気とは違う。
それは、暴力的なまでの殺気と、圧倒的な力の塊が着地した響きだった。
土煙の向こう側、そこにいたのは、桃色の短髪に全身に紋様を刻んだ男だった。
その瞳に刻まれた文字を認め、月唯は全身の毛が逆立つのを感じた。
「……上弦、の……参……」
猗窩座は、獲物を定めるような鋭い眼光を煉獄へ、そしてその傍らに立つ月唯へと向けた。
「良い闘気だ。……特にそこの女、お前の冷気は素晴らしい。これほどの雪を使いこなす人間がまだいたとはな」
月唯は、震える手で刀を構え直した。
「炭治郎君、下がって。……煉獄様、行きますよ」
「うむ! 宵咲、背中は任せたぞ!」
朝日を拒絶するような濃密な夜の闇の中で、炎と雪、そして上弦の死闘が始まろうとしていた。