白卓〜Re:maystar〜   作:黒影時空

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この作品は実在するゲームとこの作品のために考えたゲームとSoraに出力した架空のゲームが入り乱れて登場します。
ご了承ください。


GAME1『リスタートだ』

 神様は人々に平等に才能を与える、しかしその内容は時に極めて不平等な結果を招くことは珍しくない。

 野球選手に憧れた少年が無事にメジャーリーグに足を踏み入れることもあれば、どんなにモデルを目指して茨の道を越えてもなおスタートラインに立てない人もいる。

 

 同じ夢を追いかけて同じ道を目指し、どこかで挫折してる人と同じ時間で同じ人が階段を多く踏みしめている。

 

「……は? また止まりやがった、ああ、マジかよ……おいおい、こいつを作るのに2年もかけて……まいったな」

 

「向いてねえ」

 

 それはゲーム業界でも同じ、この日……一人の少女が才能が無いことを自覚して、また別のところでは涼しい顔してそれより幼い少女が大量のパソコンを叩き、簡単なゲームソフトを作り出して転送していた。

 

「琥珀、依頼されてたもの出来たから確認しておいて……それで次またゲーム作ってって言うんだよね」

 

 無数のサーバー、張り巡らされたコード、大量のディスクにシステム……まるで一つのオフィスの大黒柱のような機械音が鳴り響く部屋で作業する少女とリモート越しに相手をする声の者。

 二人は『プロモーター』と『クリエイター』として何個もゲームを作ってきた、しかし……琥珀と呼ばれた男は思う。

 

「箔が足りないな……」

 

 そして同じ頃……忘れてはならないのが先ほどとは別の少女、才能がなかったことを自覚しつつも……その目は曇ることはなく諦めることを知らなかった。

 この日、クリエイター達が新たなリスタートを歩む……。

 

 ──

「……え? 琥珀、今なんて言った?」

 

「聞こえなかったならもう1回言うけど、スカウトしに行ってくる」

 

 琥珀は久々に顔を見せたかと思えば仕事の話でもなくなんとも素っ頓狂な発想を張り巡らせてスカウトに行くと言い出した。

 ただのスカウトならまだしも、学生を捕まえたいと言い出したのだからそりゃ聞き返しもするだろう。

 琥珀はプロモーターとして彼女……桜井彩月(さくらいさつき)を天才小学生クリエイターという触れ込みで押し出して、その実アイデアマンとしてゲームのネタを思いついては彩月に作らせているのだが、琥珀には最近悩みがあった。

 

「実はアイデアに限界を感じているんだよ……」

 

「うん、創作力は年々枯渇するっていうからねおじさん」

 

「まだそんな年でもねえわ!! ってそういうことじゃなくて、AIの学習じゃ深堀が足りなくなってきたというかね……」

 

 そう、大っぴらに公開している情報ではあるのだが彩月はゲームを作成する際に大幅にAIのサポートを受けている。

 天性的なプログラムの才能を持っていた彼女はゲームシステムを作る上で不備はなかったが神は二物を与えず、最初はサウンドやグラフィックなどで苦労していた時期もあった。

 その問題を彩月は強引に解決したが……それはともかく現在琥珀が行き詰まっているのはゲームのネタの掘り下げ。

 ゲーム製作開始の流れはまず琥珀が簡単なネタを思いつく→彩月が資料を受け取りチャットAIに送信→作り出したネタを元に音楽やイラストを用意という形なのだが、やはりネタの掘り下げをAIに任せているとどうしても何個も設定だけは味気のないものが出来上がってしまうのだ。

 

「……つまり、その学生にゲームのストーリーとか考えさせようってこと?」

 

「そう、君が昔人の声当てを使ってAIボイス作る時があっただろう? そんな感じだよ」

 

 彩月はふうんと声を漏らしながら軽く受け答えをして、かっこつけてタバコの煙を吐き出してはすぐに携帯灰皿に捨てる琥珀を見ながら続ける。

 

「なんでわざわざ学生から引っ張ろうとするわけ? ネタ探しならその辺の小説家とかでもいいじゃん……大体どうやって集めるの?」

 

「おいおいお嬢さん、今自分達は昔と違って……圧倒的知名度と人気があるんだぜ?」

 

 琥珀はにやりと笑い、パソコンを操作してイベントの準備を始める……その知名度と人気を作ってやったのは一体誰だとも言ってやりたいが、ゲーム作りの為になるならとあえて泳がせることにした。

 まさか本当に、彩月にとっても長い付き合いになるとは知る由もない……。

 

 ──

 

「来た来た……まさか本当ひに来れるなんて!」

 

 それから3日後、視点は変わり1人の少年へ軸を移す。

 彼の名前は日隈橙(ひぐまだいだい)、ごく普通に生きて人並みにゲームが好きな高校生……

 人間関係は希薄だが特別不満があるわけでもなく、むしろ一人遊びを極めていくうちに生活の細かいタスクをゲームのミッションやシステムのように楽しみながら消化する術を身についた少年である。

 そんな彼はせっかくの休日、一人遊びもいいがPCを付けて当たればいい感覚で応募した今話題のクリエイター『琥珀』による勉強会にまさかの当選、日隈もこんなゲームを作ってみたいみたいなことを軽く思いつくことはあったので今回参加できたことはとても幸福だ。

 

(琥珀さんと相方の謎の小学生クリエイターSの作るゲームは色々やったけど……まさか本物を見れるとは思わなかったなぁ)

 

 日隈の隣の席に座っていたのは自分と同年代の女の子、真っ白な髪に鋭い目付きでまじまじと琥珀の写真を眺めている……というよりは、何か強い眼差しを感じられる、まるで琥珀と同じもののような。

 とても話しかけにくい雰囲気だが、遂に時間が来て琥珀が現れる。

 ……その舞台裏で、彩月は後ろから琥珀の様子を確認する。

 まさか今回の勉強会がヘッドハンティング及び琥珀自身の勉強会であるとは夢にも思うまい、それに学生を狙う予定だったのに年齢層を20歳以下にしたせいで普通に大人もかなり幼い子まで来ているではないか。

 

「あの人、そういうところは適当なんだよなぁ……まあいいや、適当にその辺のアマチュアでも捕まえて満足するはずだし」

 

 彩月は監視カメラを回して琥珀に言われた通り勉強会参加者を1人1人チェックしていく。

 琥珀の長ったるくて中身が特にないありがたいようなことを言ってるような話は全部カット、得にいいことを言ってるわけでもないのに実績を付けるだけで何か凄いことを言ってるかのように感じさせるのだからブランドというものは凄いと小学生並みの感想。

 実際、ゲーム業界にあまり縁のない日隈は普通に聞き惚れている。

 

 そしてようやく本題、琥珀にとって有望な存在を探せるかどうかを判断する際……一旦時系列を勉強会開始前まで戻す。

 

「この手のやつは読書感想文が上手いんだよ」

 

「偏見が過ぎない?」

 

 琥珀が考えついた作戦とはつまり、読書感想文ならぬ『ゲーム感想文』を作って試しに触れてみたゲームについて気に入った所や逆に気になった所などをなんでもいいから書き殴るというもの、感想元にしても自分の試作ゲームを用意すれば話題も呼び込めるということ。

 

「自分のブランドを酷使して恥ずかしくないの?」

 

「あのねえ! 我々は話題のクリエイターである、でも一次的にバズってるだけで絶対このままじゃ有象無象に埋もれる! 鉄は熱いうちになんとやらとか言うじゃないのさ!」

 

「おじさん自分の立場ちゃんと分かってるタイプだったんだ」

 

「おじさんじゃねー言っとるが!?」

 

 そんなこともあり琥珀はゲーム感想文作戦で自身のブランドを余すことなく利用して逸材を見つけようと画策、この日のために用意してきた(ほぼ彩月が開発した)新作ゲーム『スーパーバイソンライダーズ』を取り出して試遊会を開催。

 

「自分の提示する内容はシンプルだ、この日のために用意したゲームを1時間遊んでその感想を何でもいいから紙に書く! どんなことを書いてもいいしアンチ意見も受け付けるから!」

 

「ゲーム遊ばせてくれるんですか!?」

 

「というか、今時カセットかよ……」

 

 かくして勉強会で次々と参加者グループがゲームをプレイしては時間が来て感想文を紙に書き始め……日隈達の番が来た、琥珀のゲームの特徴は時代に左右されない自由な媒体と独特な感性。

 スーパーバイソンライダーズの内容は例えるなら昔さながら、ファミリーコンピューター時代を参考にしたようなドット絵の横スクロールアクション。

 主人公は赤きバイソンのロッキーに跨った少年ライダー、カイト。

 ロッキーは一度走り出すと決して止まらない伝説の魔獣で、プレイヤーは迫り来る障害をジャンプ/ダッシュ/角突きアタックで突破していくスピード重視のゲームだ。

 

「いつものクリエイター癖が出たやつか、何がトレンドかは考えず好きなものを作ってそれを最低限売れる形にする……どこまでがあのお面野郎の考え方か」

 

 日隈の隣にいたあの少女はブツブツと何かを言いながらも日隈のプレイを観察して、今からでも感想文を書き続けている。

 しかしこのゲーム大きな罠があった、バイソンは止まることなく進み続けるのでクリアのタイミングまで手が休まらないので中々終わりどころが見つからずおまけに時間は限られている……それでも、遊んでいる日隈に焦りは感じられない。

 

 ──

 

 勉強会は終わり、何十人分の『バイソンライダー』感想文を一通り確認して回る彩月と琥珀。

 元々汚い作業室だったが余計に資料が散らかってだいぶ酷いことになってしまったが、それでも優れた人物を確認する為に一通りチェックする。

 感想文くらいで見極められるのか? と思うかもしれないが、単純にそのゲームに対する熱意を図る他にこのゲームをどうしたら良くなりそうか、どういう所が良かったかという発想力が一気に出てくる、感想文はそれだけ大事だからそりゃ宿題にもなる。

 しかし案の定というか、スーパーバイソンライダーズをプレイした感想文の大半は人並みなファンレターぐらいの内容だが、それはそれで励みになるのでしっかり保管していくと彩月はある物が目に留まった。

 

「ねえ、これなんて読むの?」

 

「ん? ああ、難しい漢字だもんな……能登來暇(のとらいか)、珍しい名前だな……この子が気になるのか?」

 

「この人多分ゲーム作ったことある、完成してるかはともかくとして相当手を付けてやってる人っぽい」

 

 そう言って彩月が見せてきた能登來暇の感想文は確かにクリエイター目線でシステム面やデータの工夫に対する疑問や探求、止まらず走り続けるゲームコンセプトを通すためのデザインや続編を視野に入れた設定など開発者目線でこのゲームの感想を書いているではないか。

 だが、単に好意的に見ているようにも感じられない……。

 

「じゃあこの人を入れるってことでいいよね」

 

「いや待て!! ……参加者の中にとんでもない化け物がいるぞ!!」

 

 琥珀はさらに別の一枚の感想文を見て慄く……あの1時間で紙に収まりきるかというほどの文章がびっしりと書き込まれている。

 しかもその文章は全て……スーパーバイソンライダーズをより面白くするにはどうすればいいかと思ったという内容の無数のアイデア! 琥珀が考えて彩月が作ったゲームのうち、琥珀のアイデアを1、彩月にゲームにしてもらうためにチャットAIで設定を掘り下げて100にするなら……まさか、この人物の手を借りれば10000になるんじゃないのか? 

 琥珀は既にそう確信していた……しかも、なんという都合が良すぎる奇跡が起きていた。

 彩月が目を付けた能登と琥珀が惹かれた文章の持ち主……日隈橙が調べてみればほぼ近い住所、つまり同級生の可能性は高い。

 ここまでの逸材が同時に見つかったのだ、絶対に逃がさないとばかりに琥珀は即座に支度するのだった……!! 

 彩月はまだ作るゲームがあるので留守番。

 

 ──

 

 そして当の日隈本人はというと学校内でいつものように雑務を押し付けられて駆け回る、体育部員のためにボールを集めたり代わりに学級日誌を教師に渡しに行ったり……。

 とは言っても本人は特に苦痛とは思っていない、一人遊びを極めた彼は万物を『ゲーム』のように楽しむことが出来り領域にまで達してきた。

 

「……よし! 1ヶ月分の記録を突破した! なんか達成すると気分が良くなる!」

 

 たとえ周囲から見れば情けないパシリのようでも、彼からすればまるでタイムアタック。

 様々な観点や要素から攻略記録を達成して帰ろうという時に鞄を持って呼び止めるものが。

 

「気まぐれに学校に来てみれば隣の奴があいつだったことにも驚きだが、まさかこんな度を越したゲーム脳野郎だったとはな」

 

「えっ……あっ! あの時の人!」

 

 見てすぐ分かった、日隈橙と能登來暇はあの日勉強会で会った隣がクラスメイトだったことに。

 わざわざ能登が日隈に会いに来た理由など1つ、無理矢理にでも引っ張って誰も使ってない体育倉庫のような場所で……まるで自室のように体育倉庫でくつろぐ琥珀の姿が。

 

「やあだらしないところだが悪いね、周りの人間に邪魔されなさそうなスペースがここしか思いつかなかった」

 

「こ……琥珀さん!? どうして僕の学校に!?」

 

「よく分からんがテストしたいんだってよ、オレと……お前を」

 

 琥珀は二人を軽く試すために、その場で思いついたゲームの企画書を見せる、名前は『巨獣バルディス』

 ざっと確認してみた所、怪獣映画を題材としたカードゲームらしいことが分かった。

 琥珀が二人を待っている間に思いついたゲームらしく、本人としては簡単な所しか決めてない(いつも思いついたら彩月にすぐ資料を差し出してるので企画書なんてものを作ったのもこれが初めてなのは秘密)が、日隈達にちょっとどんなゲームにするのか考えてもらいたいとテストのつもりで差し出す、もちろんどんな風にアイデアを広げてもいい。

 日隈は少し考えてペンを書き殴り、アイデアを掘り下げるが琥珀が考えてたものとは異なり、怪獣より『映画』の方、つまりゲーム内で特撮映画を進行させるルールへと進行させる。

 

「巨獣バルディスのルールは互いに怪獣映画を撮影して最後まで撮れた方が勝ちというのはどうですか?」

 

 能登は簡潔な企画書をゲームルールの方を何度も確認してアイデアを軸にカードタイプなどルール性を調整させる、映画を軸にするなら怪獣や兵器だけでなくCG演出などの撮影手法やアドリブ展開をカードにすることでランダム性やデッキの個性が出るのではないのか? 

 

 そうして『巨獣バルディス』の企画書が完全な形になる頃には既に日が暮れていたが、琥珀は今回の結果に対して実感した……本物だと! 

 そして日隈の方も変わった体験をしたが、不思議と今までにない充実感を感じていたのだった。

 これがこの奇妙なクリエイター達との大きな付き合いになっていくことを彼はまだ知らない。

 

 

 ──

 ご提供いただいたテキストファイルの内容と、指示されたプロットに基づき、物語の続きを作成しました。

 

 ──-

 

「テストって……何をですか?」

 

 日隈は困惑しながら、体育倉庫のマットの上にどっかと腰を下ろした琥珀を見下ろす。

 隣にいる能登來暇は、相変わらず鋭い視線を琥珀に向けたまま、無言で警戒心を露わにしていた。

 

「簡単なことさ。この間見てきた君たちのその才能が、あの感想文一回きりのまぐれ当たりなのか、それとも俺が求めている『本物』なのか……それを確かめたいんだ! それだけの為にここに来たわけ」

 

 琥珀はイカした大人ぶってニヤリと笑うと、懐からくしゃくしゃになったルーズリーフを取り出した。

 そこには殴り書きのような文字と、簡単な怪獣のラフスケッチが描かれている。

 

「来るのを待ってる間に暇だったから考えた企画だ。タイトルは『巨獣バルディス』。怪獣映画を題材にしたカードゲームってことだけ決めてあるんだけど……ま、自分の手にかかればこれくらいはね?」

 

 能登がその紙をひったくるように手に取り、日隈も横からそれを覗き込んだ。

 内容は本当にお粗末なものだった。「怪獣を出して戦う」「強い方が勝つ」「街を壊すとポイント」……企画書と呼ぶにはあまりにも中身がスカスカだ。

 それもそのはず、琥珀はいつも頭の中にある断片的なアイデアを口頭で伝え、それを相棒の彩月がAIを駆使して形にしているため、自ら企画書を書くなどこれが初めてだったのだから……スーパーバイソンライダーズの時から思っていたが、恐らくゲーム制作にあまり携わってないのではないのかと既に能登は感じていた。

 

「……本気かこれ、小学生の自由帳以下の落書きだろ」

 

 能登が冷たく言い放つ。しかし琥珀は動じない。

 実際二人が万が一来なかったらそのまま彩月に資料渡して終わりだったゲームなだけになんとも言えないしこういう時、仮面をつけてるとポーカーフェイスのつもりになれるので悪くないものだと思った。

 

「う……言ってくれるね、だから君たちに好きに弄ってもらっていい。これを『遊べるゲーム』にするにはどうすればいい? ルール、ギミック、勝利条件……好きに書き足してくれ」

 

 試されている。

 日隈はゴクリと喉を鳴らした。だが、不思議と嫌な気はしなかった。

 例えるなら目の前に未完成のパズルのピースがばら撒かれている……しかもちょっとした……大物かと言われるとちょっと怪しいけどそんな人から。

 それを組み立て、最適解を導き出すミッション。彼が普段、学校生活という名のゲームの中で行っている「一人遊び」と同じ感覚が、指先を刺激した。

 

 日隈は能登の手からルーズリーフを受け取ると、持っていたペンを走らせ始めた。

 怪獣映画。カードゲーム。テーマは怪獣同士のド迫力な戦い。……いや、違う。

 

「琥珀さん、このゲーム……視点を変えませんか?」

 

「ほう? 例えば?」

 

「怪獣同士を戦わせてHPを削り合うんじゃなくて、プレイヤーは『映画監督』になるんです。つまり、『巨獣バルディス』のルールは……互いに怪獣映画を撮影して、最後まで撮れた方が勝ちというのはどうですか?」

 

 日隈の言葉に、琥珀が目を丸くし、能登が眉をピクリと動かした。

 

「映画を……撮る?」

 

「はい。怪獣が暴れるのも、街が壊れるのも、すべては『演出』です。いかに派手な絵を撮って、予算内でクランクアップできるか。相手の怪獣を倒すんじゃなくて、相手より先に『完結』させた方が勝利なんです」

 

 日隈の脳内で、バラバラだった要素が一つのシステムとして組み上がっていく。

 敵の攻撃は「撮影トラブル」や「NGカット」として処理される。ダメージを受けると制作進行が遅れるのだ。

 

 そのアイデアを聞いて、今まで黙っていた能登が動いた。

 彼女は日隈の手からペンを奪い取ると、既存の走り書きの上に猛烈な勢いで修正を加え始めた。

 

「……悪くないが、それなら、カードの種類も『怪獣』や『兵器』だけじゃ足りないだろ」

 

 能登の瞳が、クリエイターの色に変わっていた。

 

「『特撮』ということは、着ぐるみの『スーツアクター』や、破壊用の『ミニチュアセット』が必要。それに『CG演出』のカードを使えば、低コストで高火力の映像が撮れる、リアリティ判定でサイコロを使用するという手もあるぞ」

 

「あ、なるほど! それなら『アドリブ演出』ってカードも面白そうです。手札を捨てて、山札からランダムに展開を引っ張ってくるような……」

 

「そう、そうすればデッキの組み方で『堅実な脚本家タイプ』や『現場任せの天才監督タイプ』……単純な回し方にも個性が出る」

 

 日隈と能登の言葉が重なり合い、加速していく。

 琥珀が提示した薄っぺらな紙切れが、瞬く間に赤字や修正線で埋め尽くされ、濃密な情報の塊へと変貌していく。

 体育倉庫の狭い空間に、熱気が満ちていた。

 二人はもう、琥珀の存在すら忘れているかのようだった。ただ純粋に、「面白いもの」を作るために思考を巡らせ、アイデアをぶつけ合う。

 

 ──そして、気付けば窓の外は茜色に染まっていた。

 

「……とりあえず、システムのアウトラインはこんなところか」

 

 能登がふぅ、と息を吐いてペンを置く。

 そこには、もはや原形をとどめていないが、確かに一つのゲームとして成立した『巨獣バルディス』の企画書があった。

 当初の殴り書きとは比べ物にならない。怪獣映画への愛と、カードゲームとしての戦略性が見事に融合している。

 

 琥珀は完成したその紙を拾い上げ、震える手で眺めた。

 

(……本物だ、ちょっと弄ってもらうつもりがコレかよ!?)

 

 彩月のAIサポートがあれば、これに近いものは作れるかもしれない。だが、ここにある「熱」は、AIには生み出せないものかもしれない。

 日隈の発想の飛躍と、能登の構築力。

 この二人がいれば、自分のアイデアは100どころか、無限に広がっていく。

 

「合格だよこんなの!! 彩月にすぐ持っていかないと!!」

 

 琥珀はとんでもないテンションで、しかし確信を持って告げた。

 

「え?」

 

「二人とも、合格だと言ったんだ。自分の想像を遥かに超えてきた。……いやあすげぇなコレ!!」

 

 琥珀は立ち上がり、大げさに手を広げて笑った。

 日隈は呆気にとられたが、同時に胸の奥からこみ上げてくる高揚感を感じていた。

 いつもの「一人遊び」でタスクを消化した時の達成感とは、何かが違う。

 誰かと共に考え、一つのものを創り上げる喜び。それは、孤独なゲームプレイヤーだった彼が初めて味わう、強烈な充実感だった。

 

「さて、そうと決まれば善は急げだ。これから忙しくなるぞ、クリエイター諸君!」

 

 夕日に照らされた体育倉庫で、奇妙な三人の影が伸びる。

 これが、後にゲーム業界を震撼させるチームの、本当の始まりだった。

 日隈橙の日常が、ここから大きく動き出そうとしていた。

 

 

 

「へぇ……日隈橙、か……あいつ、使えるな」

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