「ついに来やがったか問題の……」
「ああ、今度はどんなゲーム作りやがったってオレも警戒している」
「そんなヤバいんかアイツ」
「かくかくしかじか」
「その8文字でとんでもなさを表現するには語彙力足りへんのよ、まあ伝わったからええけど」
何か知らんが猛烈に嫌な予感がしてくるので、ガタイのいい瀬尾と星谷が揃って止めに入れるように準備を整えるが、日隈は案外ちゃんとしたゲームを作ってきたのではないかと期待もしている、だって今回はゲームジャムでグループを組んでいるんだ……そんな変なものなんて出るわけがない。
そう思っていた……しかし、能登と琥珀は確信していた。
そんなことあるわけないと。
不礼が公開したゲームは……『ペンギンのわいわいオセロ』
名前や雰囲気はゆるふわなペンギンを用いたオセロゲームのようだ、じっくりと皆は眺めているが……試遊を覗き込んだ瀬尾は画面を眺めるがその時点で違和感に気付き、プレイしていた子供からパソコンを持ち上げて豪快に取り上げる。
何をしているのかと言う前に響き渡ったのは恐ろしいほどの悲鳴、姿が見えなくてもその絶叫が響き渡ればただ事ではないと周囲も気付き、スタッフ達が駆け寄る。
「な……何今の悲鳴!?ゲームから!?」
「ゲーム……ちげえよ日隈!!こんなものはゲームなんてもの呼ぶにはふさわしくねえ!人を傷つける為に作られたゴミのようなデータだ!!」
瀬尾は声を荒げてパソコンを離さないが、フォローするように北宮が気付いて説明を入れるが、さきほどの超集中モードの入りかけよりも険しい目つき……憎悪の目だ。
「そう……くだらない結果ね、だます内容ではあるけど悪質ではある、ジャンプスケアを使うとはね」
「のとさん、ジャンプスケアってなんですか?」
「ホラー表現の1つだよ、ほらお化け屋敷とかで妖怪どもがワーッと突然現れて驚かせてくるの聞いたことあるだろ?あれもジャンプスケアだ」
「ゲームでもジャンプスケアを演出に使うのは珍しくあらへんけどな、デケえ音に恐ろしい怪物が突然ドアップで出てくるみたいなもん……人を選ぶやろ、だからホラーゲームはCEROみたいな年齢規制以外にも大体で『心臓の悪い人はご遠慮ください』みたいな注意書きがついとんねん」
「だがこのペンギンのわいわいオセロはそういった前情報も無しに
「なんでそんなもの作ったんですか!?」
「なんでって……テーマが騙すだったから、俺の知ってるゲームでも普通のゲーム内容のようで突然ホラーになっていくやつ山ほどあるし……」
「その手のゲームだって注意書きくらいあるわ!それだけつけりゃ良かったやろ!第一グロすぎるねん!子供連れ理解しとるんか!?」
「……?前もってホラーの内容を教えたら、騙せないじゃないか、騙すゲーム作ろうとしているんだけど、俺」
――
ゲームジャムの空気は一気に変わってお開きになり、星谷としては腑に落ちない結果になった。
「なんやアイツは!?言われたお題を果たすために周りのこと一切考えとらん」
「恐らくですけどこれもまた、自分がそうしたかったというのに忠実だった……ここからは変なこと言うんですけど、不礼先生はやりたいことを優先するように中身を作り変えられるんじゃないですか……二次創作みたいに」
「なんだよそのバカみたいな話……と言いたいが、少年Dだってその浦嶋ってやつが知らないデータが入ってたんだろ?ゲームジャムに参加している以上グループで組んでて、あんな結果になるということは」
「私達の仲間が作っていたときは普通のゲームだったものを彼が独断で直前にすり替えた……」
実は今回のゲームジャムの時にも北宮が聞いてみればあんな風にゲームを作った覚えはないと揃って言い出した。
責任逃れのように聞こえなかったので一旦信じることにしたが、そうなると不礼は人知を超えた力を持っていることになる、まだまだ非現実的というほどではないが……一度作ったものを自分好みに全く別物に作り替えるなんてとんでもないスキルだ。
「先生、もしかして12年間コミケで当てたってこんなやりかただったのかな……あれ待って、そもそも先生って何歳だ……?」
「コミケの年齢制限に関してならサークルの代表は義務教育を終えてることが前提やな……けどあの性格で独立してるように見えるか?」
「制限ギリギリとしたら三十路近くだからおかしい話でもないが……12年か、しかもそこにあのお面野郎との師弟関係もある」
不礼勇の経歴などにも一切の謎が多い、こちらで関わらないようにも出来るがそれはそれでも向こうから近づいてきてくるのだから迂闊に動けない。
ましてや、浦嶋や今回の例みたいに怪しい出来事になある可能性だって……。
「なら決まりだな日隈くん、あいつの事調べるついでに箔出ようって思って出れるもんちゃうぞアレ、当落式やからどんな意気込んでも落ちるときは落ちるで」
「うるせえなあそういうのは都合良く当選するものなんだよそういうツキに恵まれているんじゃい!!」
琥珀の独断により次の目的はコミケということになり、白卓は次に開催するイベントに向けてゲームを制作する……ということになりそうだが、それまでまだ余裕はある。
もちろんゲームは作っておきたいが……プログラマーが加入したとはいえ、能登からすればまだ理想を叶えるために足りない、音楽は星谷に頼みたかったが贅沢は言えないとして新しいものを探そうとすると、星谷から手紙を貰う。
「これはワイからちょっとしたお疲れ様みたいなものや」
それだけ言うと短いようで長いようだった北宮と星谷ともお別れ、なんだかんだいい関係で終わったと思う。
「なあ、アンタら一緒にマスクウェアで名作目指してみいへんか?ワイは見込みあると感じるんやがな」
「いいや、オレ達はインディーでゲームの頂点の景色を見る、ゲーム・オブ・ザ・イヤー入賞をな」
「ほん、ワイは応援しとくわ……まあその前にワイらが叩き潰して先に登ったる事も忘れんなよ」
「ああ……いやちょっと待て、ワイたち?確か貴方は……」
「あっ、しもた言いそびれとったな……実はワイも内定ゲットしたんや、それも北宮とおんなじでマスクウェアや!」
「えっそうだったんですか!?でもなんで北宮さんと同じところをわざわざ……」
「んなもんお前と同じやろが、ワイの作ったもん完璧にデバッグ出来るのなんかこいつしかおらへんやろ」
「……え?貴方内定してたの?」
「ま、そういうことや、北宮にも黙っとったことやでな……ほな!お互い大物になろうで!ッてイデエエエエ!!!なんでお前足首蹴るねん!騙すゲームジャムやからドッキリさせたくてなぁ!?ああコイツマジで蹴ってきおる!」
――
そして数日後、改めて瀬尾の顔見せも兼ねて白卓デスクに案内すると彩月がお出迎えしてくれる。
「あっ……やっぱりあの子のお兄さんだったんだ」
「……能登が言ってたことマジだったのかよ、こんな小さいのにゲームづくりとか……」
「年はアレだが作るものはマジだ、留守中ひましなかったか?」
「ううん、日隈さんのノートを盗み見てそれを元にゲーム作ったりしてたから……それに『グッチッパーズ』もめちゃくちゃやったし、プログラム弄ってネット対戦出来るように頑張ってるところ」
「え!?まさか僕のノートを」
いつの間にか彩月はゲームジャムで苦労して白卓がゲーム作っている間に日隈のネタからゲームを3本作っていたが、それら全部が落ちものパズルだった。
縦ではなく横に落とす牧場系の『ぎゅーしゃ』から、パズルで焼き鳥作りを表現する『わっしょい串焼き太郎』など芸風豊かで、これを作ってる際の彩月のビデオまである。
「お……お前まだパズルのネタがあったのか!?」
「いやぁ……実はのとさんにゲーム誘われた時、凄くワクワクしちゃって落ちものパズルだけでも20種類は考えて……これらもその内の一部でしかないよ」
謙遜したような態度で笑いながら日隈は語るが、瀬尾は冷や汗をかく、アイデアがいくらでも思いつくのは分かるがあの規模を20種類?しかも言い方からして当日ぐらいのものだ、星谷が目をつけたり琥珀や彼女が取り合いにしたりするのは見てきたが……なんでこんなもの、同じ学校でくすぶってきた?
だが打倒コミケには使えるかもしれないが、能登と琥珀の中で目的は食い違っていることは共有される。
更に……。
「今回のゲームジャムで世間にも明るみになるかもしれないけど、あいつ……多分ゲームのネタを作るには技量がまだ足りない、ニセバルバの話は私も聞いたけどさ……思ったよ、それバルバ使わなくてもポーカーでよくない?って」
「それ俺も言わないようにしたんだけどさぁ……そういえばまだ見てないなあの人」
「探しに行ったんだろ、あの星谷というやつ以外に『誰か』を」
能登も彩月と同じ結論に達していた、琥珀という男は何の関係かは分からないが特定の人物を集めようとしている、桜井彩月と星谷ピッフィー……更に彩月は琥珀の所有しているパソコンを監視できるように細工していたらしい(それは犯罪では?というツッコミはドブに捨てられる)が、そこに書いてある名前のリストにはしっかり自分や星谷の名前もあるし、それ以上に何十という名前が込められている。
「この名前心当たりありますか?」
「いや全然……というかアイツ、私がAI技術でゲーム作って名乗りを上げたからクリエイターとも無関係な可能性だってあるしこの数」
「オレらとしては箔をつけるだかなんだかで仕事をくれるならなんでもいい、実際泊は付けたいし……コミケに向けてまず言うことは人材はまだ足りねえ」
優秀なプログラマーが付いたはいいがまだ心許ない、本格的に浦嶋をスカウトして絵のクオリティでも上げたいところだが救いの一手となるのが星谷の手紙……その内容を広げてみて要約すると、3DCGデザイナーをスカウトしてみないかというお達しだった。
「3Dか……日隈、お前立体的なものを作る予定はあるか?」
「立体的かぁ……少しレベルが高そうだけど、せお君がいるからなんとかなりそうな気がしてきた」
「簡単に言ってくれるなよ……まあ俺も3Dを使ったゲームは興味があるし作れると思うが、ただで済む話じゃないんだろ?」
「まあそういうことだ、言わばアイツからの挑戦状というわけだな」
星谷から宛てられた手紙によると、コミケに参加すると聞いて暇を持て余しているデザイナーがいるとのこと、その人物の名前は『サフィーナ・ブルー』
技術だけ先に語ると本当に本物と見違えるほどの精巧な3Dモデルを作成出来るが、典型的な一匹狼というよりは夢中になっているものが大きすぎて誰にも追いつけない、奴の好きなもので例えるなら威力はあるが大きすぎて弾がしっかり入らない主砲。
しかしもしも、それを上手くコントロール出来れば……白卓が目指すゲーム・オブ・ザ・イヤーも不可能ではないだろう。
更に手紙はそれらの情報の他に地図も描かれていたが……前もって連絡はしたが、1人で来いとのことなので日隈が向かうことになった。
――
星谷から渡された地図が示していた場所は、オフィスビルでもなければ、クリエイターが隠れ住むようなお洒落なシェアハウスでもなかった。
辿り着いた先、目の前に広がっていたのは雑草がアスファルトの隙間から顔を出し、錆びついた遊具がキイキイと風に揺れる寂れた廃墟――かつて幼稚園だったと思われる施設だ。
「……ここだよね? 地図の通りなら……いやでもここってどう見ても……」
日隈は何度も地図と目の前の光景を見比べる。
不況のあおりを受けて閉園し、解体費用も捻出できずに建物だけが取り残された、そんなありふれた地方の憂鬱を煮詰めたような場所だ。
だが、一歩敷地内に足を踏み入れると、単なる廃墟ではない奇妙な違和感が肌を刺す。
荒れ放題に見えて、人が通るための動線だけは綺麗に確保されているのだ。
廃校をリノベーションして複合施設やカフェにするという話はよく耳にするが、ここは違う。
業者が介入したような大規模な工事の気配はなく、もっと個人的で、執念深い何者かがたった一人で手を加え続けているような歪な生々しさがある……人間の関わったものとは思えない。
「ダンジョン探索ってレベルじゃないなぁこれ……せお君がそばにいてくれないと心細い……」
軋む玄関を抜け、廊下を進む。かつて子供たちの笑い声が響いていたであろう空間は、今は静まり返り、どこか油と焦げたような匂いが漂っていた。
その匂いの元を辿るようにして、日隈は体育館の扉を開ける。
「うわっ!?」
瞬間、日隈は思わず身構えた……目に映ったそこは体育館ではなく戦場だったからだ。
崩れた瓦礫、転がるドラム缶、そして無造作に突き刺さる重火器の数々。窓から差し込む夕日が砂埃を照らし、まるで映画のクライマックスシーンに迷い込んだような錯覚を覚える。
だが、日隈の目はすぐにその違和感を見抜いた。
爆撃の跡に見えた壁の焦げ付きも、重厚な輝きを放つ銃器も、近づいて触れてみればその正体がわかる。
軽い。そして、硬質でありながら金属ではない手触り、写真を撮って能登に見せてみると衝撃の答えが帰ってくる。
「嘘!?これ、全部……3Dプリンターで作ったの!?」
全てが模造品だ。しかし、そのクオリティは異常だった。
錆の浮き具合、金属の摩耗、布の質感に至るまでが、塗装と造形のみで完璧に再現されている。
ゲームで言えば、高スペックのソフトを抜群に使って超ハイポリゴンのモデルを現実世界に出力したような、狂気じみた解像度。
星谷の手紙にあった『主砲』という言葉の意味がようやく理解できた。
サフィーナ・ブルーという人物は、確かにここにいる。そして、これほどの技術を持ちながら人を寄せ付けない理由は単なる人間嫌いや協調性の無さなどではない。
……既に奥で、誰にも邪魔されたくない『何か』を作っているからだ。
体育館の戦場セットを抜け、さらに奥へと進む。
そこは幼稚園の職員室などをぶち抜いて改造したとおぼしき、巨大な秘密基地のような空間だった。
無数のケーブルが床を這い、大型の業務用3Dプリンターが何台も低い駆動音を上げている。そして、その部屋の中心部。黄色と黒のバリケードテープが厳重に張り巡らされた先に、ひときわ重厚な鉄扉が鎮座していた。
立ち入りを拒絶するようなその扉。だが、日隈の視線はその扉の上部に彫り込まれたプレートに釘付けになった。
そこには、幼稚園の遊戯室のような可愛らしいフォントとは裏腹に、およそ個人のクリエイターが手掛けるにはあまりに不釣り合いで、途方もない計画名が刻まれていたのだ。
「もしかして……人工衛星……?」
「来たか、白卓」
扉の先から重々しい声が響く……おそるおそる中を除いてみるとそこはかつて職員室だった場所か、当時のまま残された大きなデスクに3Dプリンターが何台も載せられて設計図のようなものを貼り付けられ……奥に青い髪で軍服姿の時代錯誤な謎の人物。
この人物こそが……。
「私がサフィーナ・ブルーだ」
まるで司令室の椅子に座るように……サフィーナは待機していた、ここだけ別の世界に来てしまったように重苦しい雰囲気がする、不礼と相手した時とはまた違うプレッシャーだ……本当にこの人を白卓に入れることが出来るのかと不安になるが、あれだけの3D技術を手にしたら本当に夢を叶えられるかもしれない。
しかし、これまでの流れから推測して普通に入ってくださいと言われても応じないことは分かる……そこで、もっと踏み込んでサフィーナへの理解を深めなくてはならないだろう。
「げ……ゲームを作ることに興味はありませんか?」
「間に合っている……というよりは、貴様らの手を貸す時間がない」
「それはやはりあの人工衛星ですか?ちょっと興味ありますけど……もしかして3Dプリンターで?」
「大部分はそうだ、もちろんコレを用いても作成することを推奨されないものもあるがそこは手段を問わず資金を振るい着々と構築させている……が、まだ及ばないだろう」
「そうですか……あれ、そういえば」
自分はゲーム作りに興味があるかと聞いた、それに対してサフィーナは間に合っていると返した。
言い方としてはもう既にゲームに携わっていることになるが、今作っているものは人工衛星のはず。
……まさか、関係している?
「もしかして……人工衛星を利用したゲームを作ってるんですか!?」
「作っているのではない、よみがえらせる……この私の手で革新的といわれた伝説の作品を……時は遡り1995年、人工衛星からデータを送り今までにない体験をさせてきた、現代にも通用する作品、その名も『BS-X -それは名前を盗まれた街の物語-』」
サフィーナが見せてきたのはいかにも大昔のカセット、1995年と言っていたので当然だが相当古い。
この時期のゲームというとファミコンとかあの辺りだろうか?全く聞いたことない作品だが、実際に存在しているのだろうか……?
とりあえず事情は分かったが、あきらめるつもりはないので作戦を考えなくてはならない。
「どうしてこの作品を蘇らせようと?」
「このゲームを遊びたいから……以外にあるか?」
「……気持ちは分かります、でも僕はどうしても貴方を白卓に入れたいんです」
「まあ当然か……星谷ピッフィーがあれだけ目をつけた男だ、ただで引くわけもない……」
「それに僕は貴方の夢も否定したくないから」
日隈の決心した言葉にサフィーナが少し反応したような感じがしたが、まだ振り向くには早い。