コミケに向けたゲーム制作のため……日隈がまずネタを考えなくてはいけない、しかしコミケにふさわしいゲームの内容、更に今回売りに出すとなるとより凄い規模のものを求められるので気を引き締めなくてはならないのだが……求められるものが大きくなった分プレッシャーも凄い、北宮と対峙したときとは違う、本当に大手多数のライバルが存在する界隈だ。
まず売れるかどうかはともかくバズる為にある。
「白卓の今の目標は2つだ、グッチッパーズとかそれ以外に趣味で作ったやつとか公開してきたが今度はマジのストアに出して売るものをリリースしたい、少なくともコミケ入るまでに2つか3つは出しておいて最低限の知名度を確保しておきたい」
「おお、そうすれば私にも利益が入ってお金が貰えるんだな!さっそくゲーム作ってくれ少年!」
「待て、まだ二つ目があるだろ……おい日隈、どんな設定どんなキャラクターどんな立場でもいい、次作るゲームに出すために……かわいい女の子考えてこい」
その能登の一言が全ての始まりというか詰まりだった、日隈橙は長らく一人遊びをしてきた以上に交友関係というものが無いに等しい人生を送ってきた、当然女の子と面と向かって話したことなんて能登に誘われた時が初めてに決まっている。
そのため可愛い女の子と言われても何をどこから考えればいいのかと、アイデアが無限に思いつくと言っても肝心な最初で詰まっていては始まりようがない。
だかしかし、能登が狙うようにゲームないしはサークルのシンボルになるようなヒロインキャラクターさえ作れたら多少は話題が出来る事だろう。
彼にとって最大のピンチが訪れようとしていた……。
「可愛い女の子なんて好きな要素混ぜて作ればいいんじゃないのか?自分だってそうしてるぞ」
「あのね琥珀、貴方だって一応私の作ったゲーム売りに出してるんでしょ……好きなモノだけで作って成り立つならこの世は創作サバイバルなの」
「まあ売ってるけどアレでもそこそこ売れてるよ?しかし……日隈くんの才能を思えばじっくり育成すれば化けそうではあるか……」
「……だったら日隈さん、私に考えがあるんだけど」
忘れてはならない、彩月も一度は日隈達と戦い本気でその才能をモノにしたいと思っていること。
何か種になれるものを捕まえる事が出来るなら手段を選ばない……女の子と話したこともなくて困っているなら自分から解像度を上げさせればいい……能登は引きこもりなだけあり、こういうところで気を回さないし発想に至らないから甘いと内心でほくそ笑んでいた。
――
「え……えっと、待ったかな?桜井ちゃん」
「ううん、むしろ暇だったからいくらでも時間を潰せると思ってたぐらいだよ」
その結果が休日の日隈をデート……デート?に誘う彩月、こんなところでも学生服を使用するわけにはいかないので初めて人前で私服になり、彩月もいつになくオシャレをしている。
小学生と高校生だし特別恋愛的な感情すら経験していない日隈ならなんの問題もない……のかもしれないが。
お決まりの展開というか観察するように後ろから後をつける琥珀と瀬尾
「君はゲーム作ってたほうがいいんじゃないのかな」
「案ずるなプログラミングくらいノートパソコンで補える、こうしている間にもあいつのネタを形にしておきたいしな」
「マメだねぇ……しかしまさか、自分以上に彩月が日隈くんに関心があるとは思わなかったよ」
「おおかたアンタに前々から愛想尽かしたようにも見えるが……いい加減話してくれないか?桜井彩月、星谷ピッフィー、そして今回のサフィーナ・ブルー……一体どんな関係だ」
「……僕はあの三人と特別な関係だったわけじゃないよ、いやあの
言おうとしたが瀬尾が止める、やはりこんな荒唐無稽な話を信じることはないか……そう思っていたが少し異なる。
瀬尾はなるべく理解する側になって、『そうだった』という前提の元に一言だけ伝えた。
「その事情は確かに俺達には全部理解できないものかもしれない、現実を見ろって奈落に落とすような言い方する気はないが……彩月や星谷さんはアンタの理想を叶えるためにゲームを作ってるわけじゃないんだぞ」
「…………」
「ゲームのセーブデータと同じだ、もう二度と再現は出来ないが全く別のカタチに作り直せる……そんなものだよ、関係は」
――
「……それで、データは取れてるのかな? 日隈さん」
この日しばらく進んでショッピングモールの喧騒の中、少し歩き疲れたタイミングを見計らって彩月が足を止めた。
二人が腰を下ろしたのは、吹き抜けの広場が見渡せるベンチだ。手元にはタピオカ……ではなく、今の時代はもっと別の流行りがあるのかもしれないが、とにかく「それっぽい」飲み物が二つ。
日隈はストローを口から離し、真面目な顔でメモ帳を取り出そうとして、慌てて止めた。
「あ、うん。すごい参考になるよ。歩く速度とか、お店を見る時の視線の動かし方とか……彩月ちゃんが服を選ぶ時の『これじゃない』って顔のバリエーションとか……なんか変な言い方になるけど、どれも体験したことのない思い出だし」
「……最後のは忘れていいから、それにやっぱこの手の人間ってそういう事言うのかなぁ……琥珀よりはマシだけど」
彩月はため息をついて、ストローをかき回した。
白卓として『可愛い女の子を作るため』の予行演習。名目はそれだ。けれど、実際にこうして日隈と並んで歩いていると、自分でも奇妙な感覚に陥る。
これはゲーム制作のための取材なのか、それとも、ただの思い出作りなのか……無関係な自分が能登の付き合いでこんなことをしている。
映画を見て、ウィンドウショッピングをして、他愛のない話をする。自分が提案したことなのに、ふとした瞬間に、この時間が創作の糧として消費されるだけのものなのか、それ以上の意味を持つのか分からなくなる。
(……私、何やってるんだろ、そりゃ暇を持て余してたのは私だけど……)
ライバルサークルのエースを連れ回して、敵に塩を送るような真似をしている。
いや、これは投資だ。彼がもっと強くなれば、それを叩き潰す時のカタルシスが増す。そう自分に言い聞かせてきたはずなのに、今のこの穏やかな空気は、まるでバグのように彩月の思考回路に割り込んでくる。
「……ねえ、日隈さん。私のこと、どういう風に分析してるの?」
「え? えーっと……凄く、頭がいい人だなって、それにAIのこととか……」
「小学生並みの感想だね」
「小学生にそれを言われるのが一番キツい……でも僕なんて言われたことをやるだけで精一杯だけど、彩月ちゃんは全部自分で作れるし……生まれつき才能が違うっていうか」
「才能、か……」
彩月は自嘲気味に笑った。
日隈の言う「才能」が、今の自分のAI生成技術やゲーム制作能力を指しているなら、それは半分正解で、半分は間違いだ。
「……私ね、別に最初からクリエイターになりたかったわけじゃないの。家だって普通の一軒家だし、親も普通。強いて他の家と違ったところを挙げるとすれば……兄さんの部屋に、変なソフトウェアが山程あったことくらいかな」
「ソフトウェア……?」
「うん。『プロアクションリプレイ』って知ってるかな」
日隈が首を傾げる。世代的にも、日隈の性格的にも知らないのは無理はない。
「昔……日隈さん達がまだもっと小さかった頃に売られてた、ゲームの改造ツールだって。カセットみたいな形でゲーム機の間に挟んで、無理やりステータスとかを書き換えるの……そういえば3DSの頃には『セーブエディター』って名前だっけ、兄さんはモンハンダブルクロスやる時とかそれ付けて遊んでたっけ」
彩月の脳裏に、兄の部屋の光景が蘇る。
乱雑に置かれたゲームソフトの山。その中にあった、真っ白なカートリッジ。
兄が飽きて放置していたそれを、幼い彩月はなんとなく触った。
「まあ市販のチートコードだからレベルを最大にしたり、所持金を無限にしたり……最初はそんなことしか出来なかったけど、そのうち中身のコード自体に興味が出たの。十六進数の羅列を少し弄るだけで、ゲームの中の世界が劇的に変わる。ありえない場所にアイテムを出したり、壁をすり抜けたり……まあ、チートというかデータ改造の領域になってきたけど」
それは、既存のルールを破壊する快感ではなかった。
むしろ、ルールという「枠」を理解し、その裏側にある構造を自分の手で組み替えることへの知的好奇心。
「私はゲームそのものより、セーブデータを『作る』ことが好きだった。バグった世界を正常に動かすためにコードを継ぎ接ぎして……それが私の暇つぶしだったわけ」
当然、最初からパソコンを使いこなせたわけではない。
ただ、論理的な思考と、望む結果を得るためのプロセスを構築する力だけは、その遊びの中で養われた。
そして、そんなある日。
パソコンも持っていない、ただの少し変わった遊びをしていた小学生の前に、あの男が現れた。
「……琥珀さん?」
「そう。あいつ、間違いなく初対面だったはずなのに、不思議なくらい私のことを知ってた。『君、面白い遊びをしてるね』って、私の名前から家族関係、好きなゲームまでまるで1回見てきたように全部知ってる変な奴だった……あっ、最初会ったときはお面付けてなかったよ」
不審者そのものだ。だが、当時の彩月には、その男が放つ奇妙な引力のようなものを無視できなかった。
「なんて言って誘ってきたと思う?」
「……『一緒にゲームを作ってほしい』とか?」
「ううん。あいつは私に『ハッカーになれる』って言ったの」
「は、ハッカー!?」
日隈が目を丸くする。彩月はカップの縁を指でなぞりながら頷いた。
「そう……私のやっていたことは、突き詰めればクラッキングに近いことだったから。あいつは私の技術を、裏の世界……情報の解析とか、システムの穴を突くようなことに使わせようとした。まだ小学生の私に、だよ?正義のエージェント?それとも……もっと私が大きな存在に見えたのかな?」
琥珀という男は、時折ぞっとするほど冷徹に人の才覚を見抜く。
彼にとって、当時の彩月は「優秀な鍵開け」の原石に見えたのかもしれない、もしくはハッカーの仕事をさせるのではなく『ハッカーになった自分』を見たいのかもしれないと考えたこともあったが、どっちにしても気味が悪かった。
「それで私は断った。誰かの作った鍵を壊すだけの人生なんて御免だったしあいつに従いたくないなって思ったから。だから……あいつを見返すために、私は『作る側』になったの」
ハッキングではなく、クリエイティブへ。
コードを破壊するのではなく、生成AIという最新の「魔法」を使って、0から1を生み出すこと。
そうやって圧倒的な作品を見せつければ、琥珀も自分を「ハッカー」ではなく「クリエイター」として認めざるを得なくなる。
だから尽くした、パソコンで絵を描いてイラスト生成AIを作り、機械音声を組み合わせてメロディを作るAIを作り、ゲームを作るたびにまた別のAIを作り直して……あの異常な
「あいつが私のプロモーターやってるのは、その時の名残みたいなものじゃないかな。私がハッカーにならないように監視してるのか、それともまだ諦めてないのかは知らないけど……星谷さんはプロモーターとしてやる気あるのかって言ったらしいけど、私に言わせれば間違いなく、無い。」
彩月の異常進化した生成AI技術、そしてゲーム制作への執着。その根底にあるのは、琥珀という理不尽な運命への反抗だった。
話を聞き終えた日隈は、ぽかんとした顔をした後、真剣な眼差しで彩月を見た。
「すごいね……彩月ちゃんは、自分で自分の道を選んだんだ」
「……ま、それはそうかも」
素直に称賛されると、調子が狂う。
彩月は視線を逸らし、広場を行き交う人々を眺めた。その中には、おそらく自分たちを監視しているであろう、瀬尾と琥珀の姿も混ざっているはずだ。
自分の過去を話したのは、日隈橙という人間をもっと深く知りたかったからだ。
彼もまた、能登來暇や琥珀という台風に巻き込まれて、更には自分やゲームジャムにも引っ張り出され、遂には瀬尾やサフィーナまで支柱に入れた。
だが、日隈は彩月とは違う。彼は抵抗するどころか、その嵐を楽しんでいるようにすら見える。
「ねえ、日隈さん」
彩月は核心を突く質問を投げかけた。
それは、今日一日ずっと喉元まで出かかっていた言葉。
「結局日隈さんは……能登さんの事をどう思ってるの?白卓としてじゃないよ、もっと人間関係として……」
ただのクラスメイト? 巻き込まれた相手? それとも――。
日隈はストローを離し、少しだけ空を見上げるように考え込んだ。
その表情に、迷いはない。ただ、適切な言葉を探しているだけの顔だ。
「どう、かぁ……」
日隈橙にとって、人生はずっと一人遊びの連続だった。
誰かに頼まれる「おつかい」も、一人で黙々とこなす「作業」も、彼にとっては自分の中で完結するゲームだった。
けれどそれはあの時、興味持って入った体験会と、あの人に誘われた時に変わった。
「のとさんはね、僕に思い出をくれたんだ」
「続き?」
「うん。僕一人じゃ、きっとクリアして終わりだった。でも、能登さんは夢のために次から次へと新しい試練を持ってくるし、僕が思いつかないような僕の使い方を言ってくる。……一緒にいると、エンディングが見えないんだ。ずっとワクワクしていられる、だから僕はのとさんの夢をかなえたい」
日隈は、はにかむように笑った。
その笑顔を見て、彩月は悟ってしまった。
(……ああ、やっぱり)
入り込む隙間なんて、最初からなかったのだ。
日隈にとって能登はただの友人ではない。彼の人生というゲームを拡張し続ける、不可欠な「運営」であり「相棒」なのだ。
どれだけ彩月が技術を磨いても、どれだけ彼を自分の側に引き込もうとしても。
日隈橙が、能登來暇の元を離れることはない。
悔しいけれど、不思議と清々しい気分でもあった。
手が届かないからこそ、燃えるものもある。
「……そっか。まあ、日隈さんらしい答えだね、あれだけ言ったんだもんそりゃそうか」
彩月はベンチから立ち上がった。
スカートの裾を払い、いつもの自信に満ちた表情で日隈を見下ろす。
「さ、休憩終わり! まだ見てないお店あるんじゃない?可愛い女の子を作るためのデータ収集、最後まで付き合ってもらうから」
「え、あ、うん! お願いします」
日隈が慌てて立ち上がる。
その背中を見ながら、彩月は小さく呟いた。
「……でも、私は絶対に負けないから。覚悟しといてよ……」
それは、ゲーム制作においての宣戦布告であり、それ以外の何かに対する、自分自身への誓いでもあった。
遠くの柱の影から、怪しいサングラスの男と、疲れ切った顔のプログラマーがこちらを覗いているのにも気づかないふりをして、二人は再び歩き出した。
……未だにあなたを独り占めしたい、そんな気持ちを押し殺しながら。
……だが、同じ頃に能登と日隈の関係を揺るがすような出来事が待っている事を知らなかった、可愛い女の子を作るというのがまだ試練の1つに過ぎない事まで。
二時間ぐらい後、日隈と彩月が帰ってくると……白卓デスクで焦って正座しているサフィーナと、見慣れない自分より若干年上そうな……だが自分や瀬尾とは全く違う学生服を着た男がいた。
「あ……あの」
「よう、邪魔してるぜ」
「邪魔するなら帰ってと言うわけにもいかない感じだよね……何者かより、何しに来たかだけ聞こうかな」
「そうだな……この様子じゃ別件でなんの事情も知らねえと見た、改めて説明すると俺の名前は三波七夜、簡潔に説明すりゃ隣の街の……立崎学園のもので一応格ゲーサークルを出してる、学園つってもそういうサークル名だ」
「あ、はあ……どうも」
「立崎学園の格ゲーサークル……あっ、聞いたことあるかも、SNSでフォロワーがたくさんいる話題の奴らだよ」
「ほう、AI技師にも覚えられるとはな」
「そりゃ私もフォロワーだし……それで?道場破り?」
「まあそれもあるか、コイツに呼ばれてもいるんだが」
「え……サフィーナさん?」
「だ……だって、サークル同士の中に集まれば宣伝になると思ってな……人気の人と仲良くなればいいと宣伝をしたら連絡が来て……住所教えてほしいって言うから」
「それでのこのこ来た俺もなんだがこの女ちゃんと義務教育受けてるのか……」
「そのお姉さん義務教育をゲームボーイアドバンスで済ませたような人だから」
七夜という人が現れたのはコミケに向けて知名度を上げることに繋がりそうだが……おかしい、これは何かおかしい。
こんな事があったとき、自分達が留守でも多少強引にでも始動して既に何かしらの交渉に持ちかけていそうなはずの……。
「のとさんは……どこですか?」
「察しがいいな、まあ焦るだろうがしっかり話を聞いてくれ……というのが難しいのも分かる、だから結論から言う……能登來暇を賭けて、俺らと格ゲーやることになったってな」
ついこの間とんでもないこと言われたばかりだというのに、全然理解が追いつけなかった。
能登が、どうなった?
あの人はどこだ?一つ分かる事は……このままでは白卓は終わってしまうということだった。