白卓〜Re:maystar〜   作:黒影時空

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GAME13『立崎学園の七夜』

 

 「僕がそれに負けたらのとさんが取られるんですか」

 

 「宣伝の代償がソレなのは重いかもな、だがそいつは乗った、本当に綱渡りしやがる」

 

 「……のとさんを貴方達は欲しいんですか?」

 

 「俺としては……まだ分らんがウチのサークルむさ苦しいからな、女っ気が欲しいんだと、まあ面倒なことは起こさないように善処はする」

 

 「分かりました……ルールだけ教えてくれませんか?今は僕らが勝ったとき、のとさんの安否以外考えられない、のとさんは()()()()()()()()、だから今回は結構大胆に我儘になります」

 

 つい先程能登のことをどう思っているかと聞かれたばかりなだけに鮮明になる、自分でも分かっている。

 本当は自分が能登から離れてしまうのが嫌なだけなことも、代わりに出来るやつを探しているだけの彼女にとって別のサークルに移ることも選択肢のなかにはあるのだろう、だが日隈にとってその結果は認めたくないものだった。

 七夜は日隈の様子を見てすぐに説明に入るようにUSBソフトを差し出す。

 

「こいつにはデータがほぼ空っぽの『M.U.G.E.N(1.1)』が入ってる、ダウンロードから始めたら面倒だからな……MUGENってのはまあざっくり言えばパソコンで好きなように2D格ゲーを作れる基盤みたいなもの、俺らもコレを元に色んな格ゲーを作った」

 

「対戦する…とかですか?」

 

「いや、MUGENはネット対戦の手段がだいぶ面倒だからな……ルールは変則的だ、最大3体までのキャラクターを作り、それを配布してそれぞれダウンロード、自キャラで対戦して勝つだってよ」

 

 つまりはMUGENを使って何かしらの格ゲーキャラを作り、互いにそれらと対戦する制作とプレイングスキル両方が求められる戦い。

 ゲームを作るよりは多少簡単……かどうかはともかく、この戦いに能登がかかっている、それを日隈は躊躇いなく……二つ返事で両諾した。

 

「MUGENで勝つコツは何を作っても良いところだ、能登ってやつはお前のアイデア力をだいぶ見込んでたからな、一週間でどこまでできるか……」

 

 七夜はそれだけ言うと去っていき……しばらくしたあと、瀬尾達が帰ってきた際に事情を話して謝る。

 

「ごめん!!僕が勝手にこんなこと言って……でも、どうしても力を貸してほしいんだ!のとさんがいないと白卓は……成り立たない!」

 

「……いや、こっちこそお前のことばかり見て能登に目を向けられなかった、こんな結果になったのは白卓がナメられてるからとうのもある、能登の判断は正しかったわけだ」

 

 今回は完全に白卓の存亡がかかってると言ってもいい戦い、ここで知名度を上げられなければコミケ出品どころではないが、今は立崎学園に勝たなくてはならない。

 それなりに有名な格ゲーサークルで、MUGENを用いたコンプゲームを作ったりしているとかで話題の所だ。

 瀬尾がMUGENを解凍しながら日隈により詳しい説明を入れる。

 

「そいつは好きなようにと言っていたがアレは比喩表現じゃない、俺も軽くネットで見たことあるが……お前や俺のランクで言えば格ゲーの範疇に収まる範囲のことは全部コレをもとにして作れる!キャラやステージは当然としてゲージ、タイトル、ライフバー、選択画面といったUIデザイン……本当にここから格ゲーを1から作ることだって出来る。」

 

「そして僕たちは立崎学園が作るキャラクターを相手にした上で、向こうに対抗するキャラクターを作らないといけない……」

 

 能登を抜きにしたゲーム作成会議、キャラクターを作ることに関してはコンセプトを日隈、動かすためのプログラムを瀬尾が行い……サフィーナはサウンドリンクサテラビューを作った経験で音楽方面を任されることになるのだが、瀬尾はここで日隈の狙いに気付く。

 立崎学園との戦いに必要なものはキャラクターだが、MUGEN丸ごと改変してコンプゲームを作ろうとしている、そんな悠長な事をしている暇なことは分かっている、キャラクターを作るだけなのは理解している……それでも。

 

「ただキャラクターを作って七夜さんを倒し……のとさんが帰ってきたところで、そんなものを見てなんて思うんだろう、のとさんのことは大事だけど、あの人は僕以上に面白いゲームを愛している、だからどんな勝負でも何かを作ることに妥協させたくない……なんて言うけど、瀬尾くん達が無理なら1人で……」

 

「……お前って、結構はっきりと自分の意思言うような奴だったんだな」

 

 瀬尾も日隈のことは見てなかったわけでもない、学校でずっと見てきた彼はパシられて自分の意思もなく従い続けて、なんというか空虚なやつだと思っていた。

 それがまさかこんな才能を1人で押し殺していたものとは知らず……何かのために一生懸命になっている、そして過去には……彼女の夢を叶えるため同じ景色を見たいとまで言っていた。

 日隈はまだ気付いていないのかもしれないが、その気持ちはつまり――。

 

「やるさ、立崎学園に負けないぐらいの強い格ゲー作ろうぜ、全力でな」

 

「その件に関してだけど……自分にも関わらせてくれ」

 

 話に入ってきたのは……一人の男、誰だか分からなかったが、雰囲気で理解した。

 その男も、自分が誰なのか分からないだろうと察しているのか……お馴染みの狐面のお面を顔に重ねた。

 

「えっアンタ琥珀か!?お前、そんな顔してたのか」

 

「なんだ?お面で隠してるからもっと不細工とでも思ったかい、これでも彩月には見せたんだけどね、しかし七夜に立崎学園か……ちょっと、こんなこともあるんだなって思ったよ」

 

「琥珀さん……その、今はまだ言えませんが」

 

「そうだね、能登ちゃんにもはっきり話しておきたいからには絶対に勝たせる、僕が全部話せるように」

 

 完全本気に入った琥珀は改めて白卓に一次的に協力して、それはつまり彩月も今回は休戦、元々次に得意ではあったグラフィックを担当するが……今回は1キャラでも数百のアニメに技のエフェクトなども全部描く必要があるが、AIを作るために同じ物を繰り返して描いてきた彩月には苦ではない。

 しかし問題はまだあった、どういうキャラクターなら立崎学園に勝てるのかというところで瀬尾がプログラムを急ピッチで組む。

 

「作ったキャラクターのAI、つまりCPU戦で最適な動きをするアルゴリズムを作成することも出来る」

 

「なるほど瀬尾くん、MUGENキャラはAIランクによっては人間でも勝てないようなもの……狂ランクとか呼ばれるものもあるからね、立崎学園に勝てるAIを組めばいいわけか」

 

「……でも、それだと僕も対戦したとき勝てるかどうか……」

 

「そうだな、だから最悪、操作を放棄して最初からAIが動くようにするというのもあるが……あるがなぁ、もしもの場合アレで来たらまずいな……」

 

 瀬尾はこの選択肢に頭を抱えながら簡単なプログラムを組む、何か大きな問題があるように感じたが触れてほしくなさそうなので今は放置する。

 テンプレとなるものを用意して、デフォルトキャラのカンフーマンというものに導入するとそれだけで見違えるような動きになりあっという間にライフを削った。

 

「それで……私は音楽を作るわけだが、お面の人は何をするんだ?」

 

「自分は……僕は、ボイス系だったらなんでも出来る」

 

「えっ琥珀そんなことできるの?」

 

「……あんまやりたくなかっただけだよ」

 

 こうして、MUGENコンプゲーム(題材未定)は始動したのだが……日隈は困っていた、格ゲーを作るまではいい、だが今回は明確に大きな問題、立崎学園に勝てそうなキャラだ。

 瀬尾が優れたAIを作ったとしても生半可なキャラで歯やられると言っていた、MUGENには詳しくないがとんでもないインフレが起きていることは確かで、そんな環境で七夜やその仲間たちはコンプゲームを作ってきた。

 だから普通の格ゲーを作るのとは訳が違う。

 学校内でもその事で頭をいっぱいにして集中できない、能登が学校に来ないのは珍しくないことだがこの日に限って言えばとても不安な気持ちで空いた机から目が離せないでいると意外な相手が話しかけてくる。

 

「不礼先生……?あれ、なんでここに」

 

「酷いな、俺一応君のクラスの教師だよ?そりゃまあちょっと前には大変だったけどさ……一大事くらい察せられるよ」

 

 不礼勇、いつもとんでもない恐ろしさを感じて……琥珀の師匠で、とてつもないプレッシャーを掲げる二次創作家。

 しかし自分がやりたい作品のためなら周りを考えず『作りたい』という欲求に従っており、ゲームジャムでは公的に反するようなゲームを作成したことで学校でもこってり絞られたらしいが全く反省の素振りは見せない。

 こんな人物でも今はいないよりはいいし……この手のサブカルはずっと詳しいと事情を話すと案の定食い付いた。

 

「へえ、つまり君は1からMUGENでコンセプトゲーム作りってわけね、『TheBLACKHEART』辺りが有名だけどクオリティ高いやつも多いからね〜」

 

「だけど、MUGENと他の格ゲーは違うってことは分かったまま……どんな風に作ったらいいのか分からなくなってしまって……」

 

「まあ実際その人たちが手段を問わず勝つつもりなら君がどんなにアイデアを絞らせても勝つことは不可能だろう、君という通り普通の格ゲーならまだしもMUGENだ」

 

「それでも僕はちゃんとしたゲームとして用意しないとのとさんに対して顔向けできないと思う」

 

「難儀なものだねえ……だったらMUGENについてもっと見解を深める必要がある、この間みたいにウチに来ない?」

 

「えっ」

 

――

 

 そうして日隈は学祭の時以来……しかしまだ昨日のことのように感じる不礼の別荘へ、相変わらず制作した作品らしきものが床など各地に散乱していたり、その一方で様々な漫画やゲームが綺麗にが積まれていたりと奇妙な部屋だがこれら全てが二次創作を作るための資料として用意されている。

 

「なんか前来た時より散らかっているような……」

 

「まあこの世の中、漫画だけでも沢山あるからね……異世界転生モノとやらだけでも山積みだ、その中からアニメ化しなさそうなやつを買ったらこんな風に」

 

「えっ、アニメ化するくらい人気な物から二次創作しないんですか」

 

「いやいやそんな人気なやつコミックス多すぎて金がかかるし、1クールは数巻分になるんだから待てば数百円でその設定を得られるんだ、お得だろ?」

 

 ……不礼はこういう人物だ、全ての作品で二次創作を作りたい、だからなるべく多く手に入れたい。

 そのため時にこんな考え方で創作品に触れる、それ故に時々相容れないこともあるが、今はこんな人でも頼りたい。

 不礼は更に見たことない部屋に案内すると、そこには大きなパソコンと大量のディスクにソフトと山ほど。

 更に起動すると大量のダウンロードファイルが開かれた状態だが、恐らくこれら全部も創作のネタだろう。

 

「フリーゲームだって使えるネタは山ほどあるからね、確かこの中にあるのが……あったMUGEN」

 

「不礼先生もMUGENをやってたんですね」

 

「まあね!パソコンでゲームやれば大体の人が知ってる名作!そして君は少しでもMUGENの試合を理解してどういうのが勝てるのかを理解するべきだ」

 

「MUGENってゲームエンジンだったはずでは……」

 

「単体はね、ステージとキャラクター次第でどんな風にも楽しめるまさに無限の可用性を秘めたゲームなんだ!……大昔ね、MARVELVSCAPCOMっていうゲームがあったんだよね、あのストリートファイターやロックマンがアイアンマンやキャプテン・アメリカと戦うんだ、それだけで沸き立ったものだよ」

 

 不礼のMUGENを起動すると……そこにあったのは想像を絶する代物だった、ストリートファイターのリュウ、キングオブファイターズの京……どころじゃない、瀬尾からMUGENを作るうえで色々教えてもらった格ゲーのキャラクターがここに揃っている。

 それどころかスーパーマリオに涼宮ハルヒなど格ゲーが存在しないものまで参戦している。

 

「どんなキャラクターでもあれば好きなように戦わせられる!それこそMUGEN!」

 

「いや待ってください、このキャラクター達、このデザインはもしかして……」

 

「ん?ああ、その辺は気にしなくていいよ、このゲームやってたらよくあることだし専用のサイトもあるから……それにきみにとってはそれどころじゃないでしょ?」

 

 そうだ、気になる所があるとはいえそこで躓いてる暇はない……自分が気になるのは瀬尾が言っていたMUGENの高ランクAIキャラの戦い方。

 不礼にキャラリストを見せてもらい、本題である強キャラの話をする。

 

 「実際に見ておきたいんです、せお君が言っていたような高ランクにキャラについて」

 

 「高ランクという扱いにも段階がある、まず弱中強は普通としてステータスがボス級のイカれた性能が凶級、AIによってはこのレベルが普通のキャラもいるね、更に上……普通にやったらゲームが成立しないのが狂……しかもそれらの中にも上中下、そして更にルールすら放棄して倒す事だけに特化した神!もはや倒す事を出来ないキャラを論外とインフレ世界の中で生きている!!」

 

 聞いているだけで頭が痛くなっていくが、どういうことが見るだけで分かった、狂ランクのキャラは試合が始まって早々に全てを焼き尽くして画面が見えなくなるほどのエフェクトを放ち、何かするまでもなく文字通り消し炭に変える、不礼によるとこのレベルのキャラをぶつけ合って鑑賞する遊びもあるらしいが……こんなものがゲームと呼べるのか?

 

 「君はまだ勘違いしてない?MUGENは格ゲーを作れるものじゃなくて『格ゲーっぽいことをなんとなく出来るだけ』だ、試合内容を見るに君がどんなに格ゲーを作った所で蹂躙されるだけだよ、向こうは()()()()()()()()()()()()から」

 

 「そんな……もしこんなものが相手だとして、僕らはどうすれば」

 

 「まあぶっ壊れキャラを作るのだって簡単じゃない、殴ったら即死とかいくらでも回復するとかやっても生き残れるかって形だし、出してくるのは精々凶レベルだろう……まあもちろん、それでもヤバいところなんだけどね」

 

「……つまり僕は?」

 

「うん、まあMUGENやってるようなやつがそんなマジメに相手するわけないでしょ?それでも作る気なら……」

 

 

 

「能登は諦めたほうがいいね」

 

 

 

 そう言われて、現実を知っていながらも諦めきれない気持ちがある中白卓に帰宅……不礼の部屋で見たものを話すと瀬尾達も頭を抱える。

 

「やっぱりそうか……格ゲー勝負じゃなくてキャラ対戦勝負、おまけに好きなように作れるとなればそうもなる」

 

「格ゲーなのに格ゲーする気がないなど罠ではないか!!」

 

「あんま認めたくないが今回ばかりは不礼のやつが正しいよ、向こうとしては能登ちゃんが欲しいだけでちゃんとしたゲームを作る理由なんてないんだから、だが僕としては七夜がそんな奴に見えないから悩む所だ」

 

「……でも、ゲームのネタは出来ました、コンセプトやシステムはここに書いてあるのでせお君と桜井ちゃんにはこの通りにお願いします」

 

「りょ……でも、日隈さんはこれからどうするの?」

 

「キャラ性能だけでどうにかなるほど甘くないものであることは承知しています、僕は格ゲーにはあまり慣れてないので少しでも上手くなるしかありません……確かのとさんの酒屋に保管されたアーケード筐体のなかに『ストリートファイターZERO2』があったはずなのでそれで練習します」

 

「だな、せっかくだからゲーコンも買ったほうがいい……キーボードでコマンド入力なんざ正気の沙汰じゃないよ」

 

 日隈自身もゲームで勝たなければ何の意味もない、恐らく相手をするだろう七夜は格ゲーを作ってきたことはありスキルは相当なものだろう、しかし日隈は一人遊びを続けていたとはいえ格ゲーを始めとしたPVP系の戦績は人並み、この程度ではダメなことくらい承知の上だ。

 そんな時頼れる相手、ゲームが上手くて自分の知り合いで……それでも可能性にかけるしかない人物。

 電車に乗って……まだ最近のように感じられるあの場所へ。

 

 

「……あの、ありがとうございます、忙しかったかもしれないのに」

 

「いいえ、むしろ私としては面白い経験になると思ったから……ここまで全力で女を追っかける男、現実にいたのね」

 

「お前それ言う資格あらへんからな……いやまあそれにしたって、ゲーム上手くなりたいにしたって北宮頼るかぁ?お前……」

 

 日隈が少しでもスキルを磨くために頭を下げた相手はリアリティを求め、ゲームのためにどんなことでも自ら実験する……ゲームジャムで激闘を繰り広げたリアルデバッガーの北宮だった、もちろん相方の星谷も一緒にいる。

 

「少しの間でプロ級とはまでは言いません!!ただどうしても……どうしても僕は勝ちたいんです!!」

 

 

「どうしても?どうしてもってどれくらい?」

 

「どれくらい……そうですか、のとさんは僕を誘うときに言いました、オレの夢の道連れになってくれないかって……そんな形でも僕の中に意味を与えてくれたのなら、喜んで一緒に落ちてみるのも悪くない……かなって、これが意外と怖くなかったんです!」

 

 ……今、本気で言ったのか?

 北宮でさえもこれは()()()()()()()()()と判断した、本当だったらもっとどれくらい本気か色々言ってやりたいところだったが言ってはいけない、しかし。

 手は出した。

 

「うっ……」

 

「何かのために命を投げ捨てるなんて間違っても言わないで、クリエイターが向くべき視線はそんな所にはない、女々しい態度するような奴にゲームは作れないわ」

 

「お前が叩く必要あったかいな」

 

 

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