「とりあえず灼熱波動拳撃てるくらいには指南するつもりだから」
「右も左も分からへん奴がやるにはハードル高すぎへんか?」
「レイジングストームよりはいいでしょ」
「せやけども……お前、もう5時間ぶっ通しさせてんのやぞ……まあ一番ヤバいのはそれでついていけるお前や日隈」
北宮による格ゲー指南は日が暮れるまで続いた、MUGENを用いることもあるのでお金の消費は最低限だが何回レバーの回転を頭に入れて必殺技の効果音を聞いたか、ある時は死兆星が見えたり絶命したりで色んなゲームのノウハウを叩き込まれたが……北宮と日隈もこのままでは勝てないことはわかる、どんなにスキルを磨いても相手が土俵に立たなくてもいい試合だから。
「ワイはMUGENとかいう奴の界隈の詳しくないんやけど、聞いた限りだと即死級の攻撃をこの狭い画面でバーッと貼り付けるんやろ?ガッチガチにレギュレーション組んでおくべきやったんやないか?」
「そこまで対等に勝つ気なら最初からゲーム制作で能登さんとやらに決めさせるでしょ?何も知らない彼を一方的に蹂躙出来る可能性があるなら私はそうする」
こうして思い返して重要なところに気付く……なぜこの試合は成立した?そもそも自分が引き受ける前に能登が自分達の前から姿を消している、先に七夜にルールを聞いて受けたということだ。
能登は自分よりずっとゲームに詳しい、MUGENの神キャラ等の可能性は真っ先に気付いてルールが釣り合わないことなど見抜けるはずだ。
それなのにキャラ制作からの試合という互いがリスペクトしなければならないもの、能登でも認めるはずはない。
「のとさんはどうしてこの勝負を受けた?」
可能性としては色々ある、立崎学園の監視……あるいは調査、さらにもう一つ考えたくもないが可能性としては……白卓を捨てようとしているのかもしれない。
だが、今の自分に出来ることはゲームを作り、ゲームが上手くなることだ。
「お前ほんまにあの相方やないとダメなんか?」
「北宮さんを追ってマスクウェアに入る人がそれ言うのどうかと思います」
「いやワイの場合はこいつ野放しにしたらマスクウェアがジャングルにされそうやから痛え!!こいつまた痛いところ蹴りおった!!」
能登がそばにいないといけない理由……自分に存在意義をくれたことより、何より……あの頃からずっと持っている、全ての始まり。
アレが楽しかったからに他ならない。
「あの時みたいに2人でまたゲームを作りたい、いや……のとさんだけじゃないな、あのコンプゲームだって僕の考えたネタを皆が形にしている、それって……凄く楽しいことだったから、のとさんと一緒がいい」
「……案外、彼もそうだったりしてね」
「え?」
「あの口の動かし方を間違ってるお面の人は暇してるんでしょう、調べてみたら?立崎学園のこと」
――
そして視点は移り変わり、日隈達がコンプゲームを作っている頃、試合が決まってからの能登は七夜といた。
試合までの間自分は白卓と一切関わらないことにしており、日隈にもメールでそれを伝えてある……後は開いていればだが。
互いのゲームの情報は全く知らない状態で対峙したい、まさか自分としても自分が欲しいと言ってくるとは思わなかったが……七夜はというと、日隈と同じかそれ以上のペースで制作していたが、能登が制作中にも関わらず話しかけてくる……七夜にとって、立崎学園にとって触れられたくない言葉だった。
「他の奴はどうした?サークルなんだろ、1人で作ってどうするんだ」
「俺だってそう思う、けど遅刻してんだからしょうがねえだろ……俺はプログラムを組んで書かれたものを責任持って形にするだけだ」
そっけなく倉庫のような所にあるソファで横になるだけの生活をこれからしばらく繰り返すことになる能登、日隈はどんなゲームを作るのか……と考えてまた横になる、どうして自分はこんなことを意識するようになった、あいつはただの……アイデアマンで自分が見込んで……自分の夢のために、巻き込んで……。
「お前遠からずあの男に気があるんだろ」
「……は?バカ言え、オレはあいつとそんな仲じゃない、ただ少し……気に病むこともあるだけだ」
数年間引きこもり続け、親や近所の温かい援助にも恵まれながらゲームを作り続けていた能登、自分の夢を応援してくれることがどれだけ恵まれているか分からないほど恩知らずでもない。
そして……その優しさ故に逃げ道が存在しないこともまた事実、世界一を目指すのは憧れもあるが引き返せないところまで来てしまったようにも感じる、もうなると決めたからにはその景色まで登らなくてはならない、気分としてはエベレスト登頂と同じだ、少しでも足を踏み外せば何が起こったのかも分からず死に至る……。
もし自分が出来なかったら、これまで応援してくれた人達の想いは?
そんな中で気付いた自分には才能がないという感覚はあまりにも重い、そして自分は。
「オレの夢の為にアイツを道連れにさせた、そんなことをしたってオレにのしかかってるものが和らぐはずもないのにな」
日隈にとっては能登の夢がアイデンティティになりつつある、自分は彼の人生を軽く弄んでしまった。
それに対する後ろめたさもある、普段は余裕綽々でなんともないように見せているが、案外メンタル的には多少堪えている……ゲームを作るとき以外は。
「でもな、アイツとゲームのネタを一緒に考えたときは不思議と結構楽しかったんだ、1人で試行錯誤してることそんな変わらないけど、アイツと一緒に何かするとき不思議と満足した、ゲームジャムのときやシューティングの時もそうだったな」
「…………お前本気で言ってる?そこまで自分のやりたいことと不満なく向き合ってくれて、それでいて意識するならそれはもう好きなんじゃねえのか」
「……え?……え!!?」
多分生きてきた中でここまで『えっ』と言ったのは初めてかもしれない。
七夜は隣の芝生は青いというか、自由にやっているかと思えばここまで気を使いながらゲーム制作をしていたとは思わなかった、このまま胸にしまっていたら本当に壊れていたかもしれない。
「俺はさ……これでも昔の立崎学園は楽しかったんだぞ?4人組でワーワー言いながら絵を描いて音楽作って、MUGENエンジンでコンプゲー作ったりしてさ……ま、大半は俺がやってたんだが……一作……二作……作っていくごとに奴らの熱意がなくなっていくのを感じた」
だから七夜は能登を引っ張ってきた、女っ気が足りない、やる気が欲しいというメンバーの思いに少しでも構えたかった。
全てはただ……憧れていただけだ、誰かと一緒にゲームを作るということが相当楽しいのだろうと、偶然目に留まったのが白卓の公式サイト、和気あいあいとゲームを作る……日隈と能登の姿だった、あんな風に格ゲーを作れたらどんなに良いのかと羨ましかった。
「あいつは本気でお前を取られたくないみたいだ、なんつーかいい男見つけたよな……本当に、憎たらしいくらいに、俺だっていい思いしてゲームを作りたいから勝つ」
「一応言っとくが……MUGENだぞ?論外みたいなキャラ出してくることだって」
「お前の相方はそんなつまんねえやつなのか?俺は格ゲーがしたいんだよ、そんなもん出すわけもねえ、てか俺もそんなもん出さねえよこっちとしてもコンプゲー作ってきたプライドが……あ……?」
七夜は作っている時にメールが届き手が止まる、これまでの戦いが全部無に返すような出来事。
「俺が……立崎学園から出て行けだと……俺のサークルなのにか……?」
――
その一方で同じ頃、不思議なくらいの人脈で七夜が立崎学園から追い出されていることを琥珀は調べており、一通りの情報を印刷してまとめ上げるが、北宮は何か知っている様子だ。
「ねえこのサークル、前にゲームジャムにいなかった?」
「せやったか?多分日隈より前のゲームジャムの話しとるやろ」
「えっ……北宮さんどんな人が居たか覚えてるんですか?」
「さすがに全員ではないけど、もしかしたらそんなこともあるって大体は軽く覚えておくわ」
やはり場所が近いとゲームサークル同士で巡り合うことも珍しくないのか、もしかしたら七夜も北宮達を知っているのだろうか?
振り返ってみると立崎学園のことは何も分かってないので北宮から見た七夜達の話を聞いてみることにした。
「立崎学園ってそんな名前なのに学生じゃないのね、私と歳近いくらいで3、4人ぐらい……確かに私も直後に検索したら色々格ゲーを作っていることは分かったけど……せど、本当にゲームを作りたくて組んでるのはその七夜って人だけに見えた」
「こいつみたいなもんか?」
「えっ自分ってゲームでやる気ないように見えてるの?じゃあ遊び感覚……というのも違いそうな顔だね」
「思い出作りでも充分尊いとは思うけど、言ってしまえば女漁りに来たようなヤバい連中だった思い出よ、ゲームを作っていたのもただ知名度を上げたかっただけのようね……ほら、彼を抜いた後にもうチャンネル開設して配信者になろうとしてる」
「……どうする?一応勝負しかけてきたのは七夜だけど」
「僕と勝負を仕掛けてきてのはその人です……それに向こうがどうするか、じゃないですか?」
「そりゃそうだが……じゃ、このまま特訓続行でいいんだね?」
「骨が鳴るわね」
「腕鳴らせや」
どっちにしても自分が上手くならなければ勝機はない、このまま一日中北宮にみっちりしごかれて最低限格ゲーの動きが染み付くようになればいいが……琥珀は、その間にも七夜にメールを入れる。
「そいつらが能登ちゃんに関われないように根回しは僕がやっておくから遠慮なく試合しろ」
――
「とか届いたんだが、そいつ何する気なんだよ」
……そして2日後、限界を感じて無駄に時間を過ごしても仕方ないと悟った七夜はパソコンを持って白卓デスクに訪れる。
日隈もパソコンを開いて準備万端だが、自信満々な顔ぶりのわりに1つ問題点がある。
「……キャラクターを作るのは思った以上に難しかったということ、ゲーム上手くなるのと並行して作業していたらキャラ1人しか作れなかった……」
「へっ、なんだそんなことか……俺も1人でやるにはギリギリ前から作ってたやつを改変するしかなかったな」
互いに1キャラ、これらをそれぞれダウンロードしてMUGENに導入すればいい。
競い合っていたはずだが、それぞれのキャラのデザインやコンセプト、動きなどを確認して試合中でも気になることは口にしていく。
「お前これ重機を格ゲーにしたのか?そりゃよ、相当昔にはそんなのあったがな……『ブチギレ金剛』だったか」
「いやなんかこう……ショベルカーとかブルドーザーで格闘できたら面白いかな……と」
「まあコンセプトは分かるぞ、俺も『のりもの』という概念を知ったときはレースと格ゲーを組み合わせようとした、プログラムが複雑すぎて断念したが……」
会話が続くくらいには接戦になっている、日隈もあれだけ北宮に叩き込まれてレベルが高いAIにも多少は追いついてジャスガやガードキャンセルも出来るようになり戦える、幸いにも不礼が危惧していたような狂ったAIではなかったのでなんとか戦える。
「この場合、七夜さんが勝ったらのとさんは貴方の所に行くんですか」
「だろうな、例のお面付けた野郎が何か手を回したらしいからそうなる、それが嫌だからお前は俺を叩き潰す……わかりやすい流れだよな、だが俺だって譲らん……俺は、俺は!!誰かと組んでゲーム作りたかっただけなのになんでこうなるんだよ!!」
「そんなもの僕が知るか!!」
その言葉が力に出るように両者ライフを削ってラウンド1が終わるが……2人は物足りなくなってキャンセルキーを押してMUGENを閉じる、ここまでやっていくとやはりPVPで実際に勝負しなければ満足できない、それにゲームはまだ完成すらしていない。
「大体1週間で格ゲー作れるかってのバカがよ!それが出来たら俺らはCAPCOM超えだっての!!」
「はは……確かにそれはそうでした、僕らとしてもまだ作り足りない感じで……」
「よし、ならこの勝負預ける、俺は絶対にこのゲーム完成させるからお前もやり切れ、その時に決着を付けて……そん時能登を手に入れてやるからな」
たとえ立場が変わってもゲームを作りたい気持ちがある限り終わらない、七夜は一からでもリトライしてまた挑むつもりだろう。
そんな彼の背中を追いかけるのは彩月の姿だった。
「貴方、そんなに能登さんがいいの?」
「ま、ツラが良いのは事実だからな……女っ気はともかくまともにゲームの話出来て相手になる奴そうそういないだろ」
「いるじゃん、ここにいるじゃん」
「まあいるが……まだ足りねえな、もっと頑張ってゲームできる奴増やさねえと」
「まあ確かにね、白卓だって最初は2人から始まったんだから……そうだね、じゃあ私たちは『黒卓』だ」
「勝手に決めんなよ……てか、お前はいいのか?確かお前白卓にいたんだろ」
「別に私は白卓のメンバーってわけでもないから……それにね、日隈さんを手に入れたい私と能登さんが欲しい貴方……利害関係はあるでしょ?」
「ま、いいか……黒卓だけは認めないがな、安直すぎるんだよこの業界でそういうのはキツイだろ」
「じゃあ考え直さないと」
こうして桜井彩月は七夜についていく形で去っていった、今度会うときは白卓の敵として立ち塞がるだろう。
自分では日隈の意識を自分に向けさせることが出来なかった、年はかなり離れてるものの魅力を出せなかったことに許せないところがある。
……日隈を自分に注目させたい、あの人を手に入れたいという要望はいつしか承認欲求へと変化していた。
七夜もまた、能登を捕まえるという目的の為に白卓と戦ってみたらどうなるのかと感じていた、それだけの為にあの男は格ゲーを練習したんだ。
次々と『箔が付き』つつある白卓だったが……数日後、日隈は感覚的には久しぶりに能登と再会したが浸る暇もなく部屋に誘われて、新しいゲームのプログラムを手伝う。
……去り際に七夜は能登が言っていたことを日隈にも伝えた、自分にとっては特別迷惑とも思っていないし確かに夢の大きさは凄いものだが心から応援したいと思っていた。
……あるいは、その労りさえも傷になっていたのかもしれないが。
「お前はさ、オレに何かワガママ言ったりしないのか?」
「え?えっと……そりゃ、あるにはあるよ、女の子にこんなこと言うのも恥ずかしいけど……そろそろ名前で呼んでみたいな、とか」
「……別にいいぞ」
「そうだよねやっぱり距離感が……えっいいの!?」
彩月と話して少しは能登に対する気持ちとして素直になった……ような気もする日隈、これでもぼっちだった故に女の子との距離感など分からなくてキモいと言われない最低限のラインを模索した結果である、それに対して能登は……休んでいる間考えていた。
「釣り合わねえ、オレは才能を見込んでお前を見つけて仲間にして引っ張ったのに、特にお前は聞いた限りだとオレの夢のためにマジで心中する覚悟まで決めてる、なのにオレはお前に対して何ができる?」
「何がって……僕の思いついたものを形にして、宣伝してくれるじゃないですか!」
「オレの夢のためにな……お前はそれでいいわけない、才能が無い程度でオレは辞めたくないが特別迷惑かけてることくらいは分かる」
「……あのっ」
「だからさ、オレ達付き合ってみないか?」
「えっ」
それはあまりにも日隈にとってとんでもない勢いでハードルを飛び越えた提案、あまりの出来事にゲームのようにフリーズして何も考えられなくなるが少しずつ脳を働かせて返答を仕掛ける。
「つ……付き合うってあの付き合う?」
「そうあれ」
「そ……そんな急に言われても!?僕相手でいいんですか!?」
「いいか、お前はオレの夢を抱えて人生を捧げているようなものだ、だからオレはお前の人生を背負っていく義務があると思っている……何、付き合うと言っても現状はビジネス的な関係だ、はっきり言ってしまえば異性的な面では全く見ていないからそこは安心しろ」
「それはそれで結構はっきり言われると心に来るといえか……それにしても唐突ですね」
「こもってる時に七夜に色々言われたからな、どうやらあいつの目にはオレがお前の事が好きなように見えたらしい、んで実際そうなのか考えてみた……その結果お前の事を強く信頼しているのは確かだし巻き込んたことに申し訳なさこそあるが異性的に見たことはなかった」
「ちょっと泣いていいですか」
「いや、これに関してはお前に魅力がないというよりはオレに解像度が足りないせいだな」
能登はゲーム作りで知識こそあるがその為にこれまでの人生の大半を制作に絶やして外にも出ず人間関係は希薄、知ってる男といえば近所で酒を買いに来る親父どもくらいで実を言えば能登、同年代の異性に対する認識で言えば同レベルだった。
「オレ達は夢を叶えるため二人三脚で運命共同体となる、オレが大成する為にお前の人生を保証してやる」
「あ……そのえっと、それって結婚まで視野に入れてる形?」
「結婚……さあな、多分そうかもしれないが」
「じゃあ、こ、こういう場合は……その、よろしくお願いします、らいかさん」
こうして白卓の2人はなんとも変な形でカップリングが成立した。
そして……それから数日後、能登ママこと能登なつみが、白卓デスクで瀬尾と琥珀に頭を下げていた。
「どうか來暇をいい感じに矯正させてもらえませんか」
「アイムアタイタニック…………」
「それって『自信ありません』って意味合いにもなるんだ……」