なつみさんから事情を聞いて、ここにきて瀬尾達も日隈と能登が経緯はどうあれ付き合い始めたことを知る、しかし不安なのは能登がちゃんとした恋愛を出来るかどうか、夢はいくらでも持ってていいが現実的な話となると母親として見過ごせないが、とても客の親父どもに相談など出来ずこうして琥珀のところまで伺った始末である。
「あいつら付き合ってるとか言ってたか……?」
「いや……自分から見てもいつも通りだったからなぁ、いつも通りゲーム作ってそのネタを考えてって形で……」
良くも悪くもいつも通りに過ごしていたのが発見が遅れた形になり、肝心な日隈と能登の方も特にラブラブしてるようにも見えないし今現在もやっていることはゲーム作り、今日話したことはというと『このネタどうかな』『この間の並行して大部分作っておいたぞ』ぐらいだが……まあビジネス的な関係であることは安易に分かる。
「大丈夫ですよお母さんあの子多分リアリストだから目的の為に付き合ってるっぽくて……というのが問題か」
「いやむしろどっちかと言うと來暇を上手く貰ってほしいけど彼的に」
「日隈くんに対して申し訳ないという感情どこにあるのこの親子」
「むしろ日隈が能登を養うべきな気がしてきた……それで実の親から見て娘の心配ポイントは何?」
「ちょっと回想に入るけどポップコーンの準備はいる?」
「ああうん……やっぱ能登ちゃんの親もこんな感じなんだな」
――
ということで回想、能登が日隈と付き合うことを決めて翌日、当然なつみにも知られることになる。
動機が日隈に可愛い女の子を作らせること、そして自分の夢を追ってくれることへの責任と保証を兼ねた生活保護のためという、長年引きこもっててむしろ保護されてた人間が何言ってるんだ馬鹿野郎となつみは少しツッコミたくなったがここはちゃんと話を聞いてあげることに。
つまりは生活面で何か日隈を支えたいという普段らしからぬ女っぽいことを決心したのだ。
「んで來暇、その子のことちゃんと出来るの?」
「男を落とすなんか簡単だろ、オレだってずっと引きこもって作り続けていただけじゃねえんだ」
「『ときメモ』全シリーズがっつりやり込んでるから落とし方なんかばっちりだ」
――
「めっちゃくちゃダメなやつじゃんそれえええ!!!」
琥珀でも回想を切り上げてもう既にダメなことを確定させてしまう、まさかリアルでギャルゲー知識で恋愛しようとする奴が存在するなんて思いもしなかった。
瀬尾もこれには言葉を失うが、改めて自分達にどうにかできるか分かったものじゃない、瀬尾だってまだ年頃の学生で琥珀は彩月がいなくなったばかりでバタバタしている……残されたサフィーナなんて全くそういう面で期待できない。
「で、その2人をなんとかすると言ってもなあ……」
「まあここまで言われてるんだからちゃんとしたカップルにさせようってことでいいんじゃないの?」
なつみが帰ったあともゲーム作りをしながら別枠で作戦会議……といってもコミケの予定までどんどん迫り、次に何を作るかという段階の話だが格ゲーはコミケに間に合わないとちょっとずつ作るとして……瀬尾は1つ思ったことがある。
「俺らって実は正統派のゲーム作ったこと一回もないんじゃないのか?」
「まあ……その、今のところ遊び感覚みたいに思われてるし」
「……いやさ、それで言ったらアンタの考えたゲームも何かしら正統派じゃなくないか?」
「は!?」
琥珀に突然の飛び火、マジで正統派のゲーム作っていないのか?と焦る琥珀だったがリストを見てちゃんとしたゲームも出してもらっていることを確認させるかのように見せつける。
「ど、どうよ!?自分だって変な逆張り野郎じゃないってことがわかるだろ!?」
「今時カセット製のゲームでやる『スーパーバイソンライダーズ』とか……あと『ワシのこの手はブッダハンド』を正統派扱いは無理がある、『スパナマン』と『パチモンブラスター』も正統派っていうかパロディだよな……」
「僕の傑作共を正統派じゃないと宣うかーッ!!?」
「コレだけのものを『傑作』としているから桜井はお前より日隈が良いって言ったんじゃないのか」
「ぐふぅ!!!」
琥珀に容赦ないメンタル攻撃、確かに元々ネットでも『何かしらのパクリゲーしか作れない』とか言われているのは見たが彩月から『いいじゃん売れてるんでしょ』『どうせ好きでやってることじゃないんだから妄想を形にして貴重なファンにチヤホヤされてたら?』とアドバイス……いやアドバイスかこれ?
まあとにかく色々言われてたが若干プロモーターとして傷ついたところもある。
「そういえばアンタって例の不礼先生の弟子だったんだよな?だから中途半端に二次創作から外れようとしてるゲーム考えるのか」
「なんかこう……酷い言われようだなまあ事実だからしょうがないけどって言うべきなのかなコレ……まあ師弟関係というか腐れ縁というか……ってか中途半端な二次創作もどきじゃなくてマガイモノソフトね!」
瀬尾が聞きたかったのは当然、不礼と琥珀の間に何があったのか……師弟関係だった二人は当然2人で二次創作を作っていた。
しかし相容れないところがあり、琥珀は相当昔に喧嘩別れのような形で去っていったが、その理由だけは頑なに口にしなかった。
「……もしかして桜井や星谷……サフィーナ、あの立崎学園とかも関係してるのか?」
「まあちょっとだけね、今の彩月達には知ったことではないけど」
「いつも桜井たちに関してだけは含むような言い方するな……で、不礼ってどんなやつ?偽名を使ってるとか言ってたな」
「『フレイン』が本当の苗字」
(外人だったのか……)
「んで内面の話か?日隈くんが見た通りの二次創作に全てを費やしてるというか、むしろ自分が作る二次創作の世界以外に関心を示さない、奴は二次創作を作りたいから漫画を読んでるようなタイプだ……ま、そんなやつの弟子を一時期でもしていた僕が言えたことではないがな」
「それでも相容れなかったと」
「うん、アイツも苦労してなかったわけじゃないんだが……」
時代が進んでいくとどんな媒体でも要求される需要が変わっていくんだが、それは二次創作という存在も例外ではなかった。
いつの日か二次創作は常に高クオリティを求められるようになった、あるいは気付かなかっただけでそうだっただけかもしれないが唐突にアップデートされたかのように景色が変わった。
巷ではコミケで一発当てたとかとんでもない大成した人物のように扱われているが琥珀からすれば二次創作を書いてただけの変な人だ。
「聞くがね、いつから二次創作ってこんなに気難しいものになっちゃったのかな」
「最初からじゃないの?」
「そんなわけあるかい、こんな昔からそんなんだったら俺でもそうしてたわ!」
時代に適応できず流れるがままだった時代もあるにはあった、現在こそ溶け込めているが苦労も多かったことは散々聞かされている。
「台本形式は小説じゃないとかいうけど、キャラクターが動いて喋って何かしているだけで『物語』であり、それを文字だけでやっているなら『小説』!絵なら『漫画』じゃないか!敷居が違う?文字を使ってるなら全部同じだ!俺からすればカレーライスとハッシュドビーフぐらい同じだ!」
「全然違くない?」
「それにいつから設定だのを守る風潮になった!?俺が二次創作を楽しんでた時期はみんな普通に『名探偵コナン』や『ドラえもん』や『サザエさん』のめちゃくちゃな二次創作を書いたりそれを楽しんだりしていたじゃあないか!」
「二次創作界隈にも老害っているんだな……もう無理なんじゃないのそのノリ、あの名作二次創作の『のび太のバイオハザード』だって消されるんだから」
「大丈夫だよアレはドラえもんキャラにモザイクかけたらまだ動画に出来る」
「そこまでしてネットに出したいものでもなくない!?」
「……んじゃ作るしかないか、あの頃のドリームを」
不礼はその日、小説だけでなく『ゲーム』の二次創作も手を出すことにした。
まあ言ってしまえば好きなように作りたいというのと、ゲームを作ることの難しさを全く理解してなかったのもあるが……きっかけは自分の好きなゲームの素敵なニュースを見たことだった、そのタイトルの名前は『のび太戦記ACE』
「確かのびハザと同じ作者のゲームだったっけ、途中で制作が止まったけど……」
「いつの時代もクロスオーバーが面白いんだ、何せあの手の作品は原作を知らなくてもなんとなくで見れるからな……確かに止まっていたがね、実は別の人が続きを作り始めたんだ!ロマンあるよね!」
二次創作ゲームにはまだあの頃の『思い出』と『ドリーム』がある、だから不礼はゲーム制作を始めた。
しかし同じ頃に、琥珀は『琥珀』と名乗りを彼のもとを離れた……
――
「という経緯で、不礼のやつは交わることはないと思うよ……アイツの目的は二次創作をゲームでも作れるようにすること、だがどうやら『二次』なら手段は選ばないところがあるみたいだな日隈くんのアレ的に」
これまで作ってきたあの2作もあくまで自身のスキルアップにすぎないものだったということになるが、それよりも瀬尾としては未知の世界すぎて何言ってるのかすら分からない、他所の二次創作を無関係な人間が後から続きを作る?一般人からすればよくわからないものだが、更に琥珀はとんでもないことを言う。
「でもまあ、アイツ珍しく他の人の二次創作を観るなんてやってたしな」
「えっ二次創作やってる人って大体誰かの二次創作見るほどアニメとかゲーム好きなもんかと思ってたけど」
「うーんまあ普通の人はそうなんじゃないの?あいつはほら、二次創作やりたいだけで漫画を読むようなやつだから」
二次創作をやりたいだけでどんなことでもできるような不礼勇と、そこから脱退しても尚センスが版権作品の二番煎じから抜けきれない琥珀。
こうして見ると彩月におんぶされて当然の似たもの師弟だな……と思っていた、あの格ゲーを作るときまでは。
「……声でやっていこうとは思わなかったのか?」
「いやほら、声真似って需要が一部にしかないしあの程度なら彩月でもAIで作れるからさ……でも僕の中で得意なことといったら、喉をちょっと調節してどんな声でも再現出来るだけで」
「それ人間を超越してないか?俺正直ボイチェン使ったのかと思ったぐらいだぞ……」
キャラボイスだけは完成している、8キャラあらゆるパターンの声を全部琥珀が再現している、ただ男性や女性の真似が上手い程度ならまあそういう個性で片付くがこの格ゲーにおいてはそうではない。
だって日隈が考えた格ゲーは重機を戦わせる、つまりボイスというよりは乗り物の駆動音などだ。
そりゃ琥珀も「え!?ブルドーザーの音をゲームに!?」とどこかのネタみたいな事を一度は言い出したのだが決心したら口から人とは思えない機械音が鳴り響いたものだから度肝を抜いた。
「……んでえっとだいぶ話が逸れたけど正統派のゲーム作ってないだっけ?格ゲーは僕がなんとかしてみるから、ちょっと能登ちゃんに相談してくるよ」
琥珀が席を立つが、瀬尾は今でも考える。
コミケに行って……恐らく能登はさらにその次としてインディー界の大手イベント『ピクセルサミット』にも出るつもりだろう。
だが今のままではとても選考まで漕ぎ着けられるかも怪しい、今の日隈にかかっているところはある。
悩んでいるとちょうど日隈が訪れた、そういえば元はといえば日隈が能登と付き合ったという話がこじれにこじれて制作中の雑談みたいになっていたが、本格的にふっかけることにした。
「どうしたんだ日隈」
「の……らいかさんが琥珀さんと相談したいことがあるらしくて僕はせお君の手伝いをしようかなって」
「名前呼び……」
「僕の中だと結構勇気出したんだけど……」
「だからって何も進まないままじゃだめだろ男として、なんかこう……いい感じのイベント起こそうとは思わないか?」
「そういうの言われてもらいかさん、どういうのが好きなのか分からなくて……ゲーム作りもしないとだし……」
「ダメだお前から近づけ!あいつ恋愛ゲーのエアプ知識でお前落とそうとしてる!」
「え!?それはそれで興味ある」
「言ってる場合か!それじゃまずいからってさっき能登の母親が俺達の所訪ねてくるぐらいだ!」
「相当!?……じゃあ実際どうしようか」
「どうするって……そりゃほら、桜井と一緒に付き添った時みたいなことすれば……」
「いやぁ……あの時は可愛い女の子作らないとっていっぱいいっぱいだったしほぼ桜井ちゃんに振り回される形だったから……」
思い返してみれば自ら進んでゲームに昇華するほどのパシリ体質、自分から動いてリードするなんてものは自転車に自動車と同じ道路を走らせるようなものだ。
しかし、能登相手なら出来るかもしれないのが彩月の嫉妬の炎が燃え上がる要因。
「……デート先に中古ゲーム屋とかどう思う?」
「絶妙にギリギリどうなるか分からないところ突いてきたな」
「なんかこう数十年前の昔ながらのゲーセン筐体とか置いてあるんだけど」
「話変わってきたな」
と、自然な流れでデートプラン組み始める日隈、スケジュール管理に関してはいい感じにタスク消化をする上できっちり考えてきたので意外とその面で言ったら問題ないのだが……。
「ギャーッ!!」
扉の向こうで琥珀の人とは思えないほどの悲鳴、大急ぎでまた入り直すとそこには……デスクの上に乗っかっている不礼の姿、大の大人がやる登場方法ではない気もするが……このタイミングで現れるのがとても恐ろしく感じる、不礼が、あまりにも不自然すぎるタイミングでこの男は笑いながら現れた。
「こ……この人だんだん分からなくなってきたな」
「そりゃ俺は人間に理解できない範疇にある神様だからね!……と、そんなことはいいよ、こうしてゲーム制作者として話すのは久しぶりだね、日隈くん」
「……MUGENのときは違ったんですか?」
「その時はほら、教育者としてね?今回はゲーム制作者としてって言ったでしょ?」
神様と自称する不礼の唯我独尊的振る舞い、琥珀もそうだがとても現代人とは思えないオーラとプレッシャー。
そしてなんといっても……加減を知らずどんなことでも平然とやってしまう遠慮の無さ。
一体どんな提案をしてくるのかと思えば……。
「俺とゲーム対決しない?」
と、ここにきてゲーム作りを『勝負』と言い始めた、確かにこれまでの流れもそんな感じだったが特に何の理由もなく始まったりはしなかったのでちょっと冷や汗をかくが、この程度のことで琥珀が動揺するわけでもないし能登も今回は目が据わっている。
「げ……ゲーム対決?どうして?」
「一応聞いておくけど浦嶋のことは覚えてる?」
浦嶋とは学祭の時にもしかしたら白卓と激闘を繰り広げるかもしれなかったりした優れたイラストレーターの才能を持つ日隈と能登のクラスメイト。
以前から不礼を『せんせー』と呼んで慕っていたのだが、そういえば最近浦嶋の姿を見ていない気がする。
何かそこで話が繋がらないような気もするが……?
「実はさ浦嶋のやつ、学祭の時以来どこ探しても見なくなった、そう、少年Dを作った時以来だね」
ということで本来は浦嶋も連れてフルパワー構成で挑むつもりだったが日隈達も浦嶋の事を知らないとなればしょうがないと一人で挑むことにしたということらしい、アレからウディタも使いこなせるようになったと自慢気に話しているがまだレベルの違いに気付いてないのか……?と本気で困惑するベジータみたいな心境で眺める瀬尾。
しかしちょうどよかった、能登と琥珀は先ほどまで正統派のゲームを作りたいと思っていたところだ。
「じゃあこういうのはどうだ、互いにモンスターから主人公、背景といったグラフィックはフリー素材を使ってRPGを作るというのは」
「いいね!そろそろ君たちもロールプレイングとかファンタジーとか作りたかったよね?俺もそうしたかった!」
こうして自然な流れ?で白卓VS不礼のゲーム作り対決が始まる、ジャンルはRPGフリー素材グラフィック縛り。
イラストが決まっているため脳内で動かすにも限界がある気がするが……その点で言えば不礼は何もないところから空論と気分だけで設定をつけ足し、日隈は遊びを導く才能がある、それぞれの得意分野のぶつけ合いとなるわけだ。
「で、オレらが勝ったとしてどうなるわけ?」
「うーん……君等にもメリット与えないとね……じゃあ俺の方から声かけて白卓がコミケに参加できるようにするっていうのはどう?」
「……ま、一回くらいならそうしてでも這い上がるべきか、それでオレたちが負けたら?」
「俺思いつく量に対して書ける量というか人力がどうしても足りない、だから俺の作りたい二次創作を3本!君等でゲームにしてよ」
「さ、3本!?そりゃなんでも多すぎではないか!私も暇人ではないのだ!」
「3Dプリンターでおもちゃ作ってる奴が言うセリフじゃないと思うが」
「……分かりました、その勝負受けます!」
これによってフリー素材縛り、個人二次創作作家と白卓の戦いが幕を開ける……のだが、琥珀はその様子を不審に眺めていた、この場所で彩月がいないことがここまで心細いと感じるとは思わなかった、やはり……不礼もここで大胆に動いてくるということは何かを狙っている?
そして日隈も不礼の発言が脳裏に残って気になり続けていた。
不礼勇は……神様。