日隈は家に帰り、日が経ってその翌日も……あの体育倉庫でゲームを作った時の体験が忘れられなかった、なんといえばいいだろうか、まるで一気に脳汁が溢れ出して駆け巡るかのような……溜め込んでいたものを解放されたような感覚。
しかし、能登と一緒にゲームのネタを考えたあの時間だけはこれまでの何よりも楽しく感じられた。
(まさか巨獣バルディスがこのまま発表されちゃったり? ……いやいやまさか、合格って言ってたけど琥珀さんは満足して帰っちゃったし、ちょっとアンケートしてくださいってだけだよな、勉強会のお礼?)
日隈は未だにどうして琥珀がわざわざ学校まで来て自分を試したのか分かっていない。
だが……ゲームを作るということはこんなにも楽しいんだと心で理解している。
しかし考えてみてすぐに冷静になる。
(い……いやちょっと待ったほうがいい!! 全部が僕の力じゃない! 僕はちょっと思いついたことを口に出して書いただけだし、ゲームの軸やルールを細かく考えてたのはのとさんじゃないか!!)
自分はあくまでゲーム設定を思いついたり、能登の考えたルール構成をより解釈を広げただけでただの妄想に過ぎない。
それをゲーム作品として成立するように構成させたのは能登のおかげだ、あの人は……自分よりずっと凄い。
あの人も琥珀に合格と言われていた、もしかすると本当にスカウトされてクリエイターになるかもしれない、自分と違って……。
考えを巡らせながら日曜日の貴重な時間をちょっとずつ消費していると、静寂を遮るようにインターホンが鳴り、扉を開けてみると。
「よう、ヘタ頭」
「の……のとさん!?」
なんと能登が自分の家にやってきた、交友関係希薄な彼にとって女の子が自分の家にやってきただけでも大事件なのだが考える余裕もなく部屋に上がり込んでくるのでさっきとは違う意味でパニックになるがお構いなしとばかりに自室にまで乗り込んできた。
何を言えばいいのか何を話せばいいのかテンパる様子もなく、能登は学習机にあったノートを手に持っていた。
「なんだこれ」
「あ──っ! 見ないでそれちょっと見られたらまずそうなやつ!」
ノートに書いていたのは……色んなゲームのアイデアや要素、巨獣バルディスを作ってから……いや、昔から学校でサッカー部の練習などを観戦してる時に既存のルールアレンジなどは考えていたのだがターニングポイントは間違いなくあの経験、思いついては掘り下げてを繰り返してノートが全部埋まってしまった。
「これ全部ゲームの設定か、ノート一冊で10個くらいネタが出来てる……コイツはこの部分を……じゃなかったな」
「そうですよ! のとさんどうしてここに!?」
「悪い悪い急だったな……逃げてきた、かくまってくれ」
「え? 逃げるって誰から……」
「この間の仮面野郎からだ」
「琥珀さんから!?」
なんとあの後、本当に能登のことをスカウトしようとして家まで来たとか。
まあ、突然自分達の学校に来て体育倉庫を独占するような変人だったことがわかったのでそれだけの行動力があってもおかしくないが見つからないように逃げてきたという。
「それがなんで僕の家に……?」
「隠れ場所になりそうな関係者がお前の所しか思いつかなかった」
「そ、そうですか……事情はわかりましたけど、なんで琥珀さんから逃げてきたんですか?」
琥珀は常に狐のお面被ってて変わった性格っぽくはあったかもしれないが、それでも近頃一気に話題となったゲーム専門のプロモーターだ、この間そんな人から直々にテストを受けて合格までもらったのだからこの手の技術を持つものとしてはとても羨ましいものだろう。
このまま誘いを受けたら能登は間違いなくゲームクリエイターになれる、彼女の目線は素人の日隈から見てもゲームに携わってる人だと分かっていた……が、ここでデリケートな話題に触れてると思い、考えることをやめる。
「あっ、すみません……もしかしてその、能登さんってあまりゲームを作ることとか……」
「いや面白いゲームはいくらでも作りたいに決まってるだろ」
「えっ」
「オレだってついこの間までゲームは作ってたしな、てかそれ持ってきた」
能登は鞄からパソコンを取り出して日隈に出す、やれと言っているような気がして手をつけて……やっている間に能登が自分のノートを一通り確認している。
ゲームをやりながら話を続ける。
「のとさんはどれくらい……ゲーム作りを?」
「そのゲームをって話なら、ここまで作るのに2年かかったな」
「2年!? 学校に行きながら……あれ、そういえばのとさんを学校で見た記憶がない」
「そりゃそうだろオレ昨日まで学校ほぼ行ってねえし」
「え!?」
さっきからゲームしながら驚くことしか出来ない日隈、つまり能登が言うには2年間学校に行かず引き篭もり続けてこのゲームを作ったことになる。
……このゲームは思ったより長く感じたので、話を続ける。
「ゲームを作ろうと思ったきっかけがあったりしましたか?」
「元々オレは相当なやる側だった、洋ゲーも自分で翻訳したしレトロな奴も電気屋のオヤジに頼んで手を付けさせてもらった、自ら作る側に回ったキッカケは……1人のゲームデザイナーの新作発表動画」
その時能登は思った、たった1人の人間の一声が世界を超えて何万人もの人間を熱狂させて幸せを運んだ、同じことをやってみたくなった。
そこからはひたすら繰り返して繰り返して、ゲームの作り方を学んで、作って、試行錯誤して……それを6年、このゲームに2年……そして自覚した。
「オレはゲーム作りの才能がない」
自分には彼らのような優れたものは持ち合わせていない、人真似して勉強して彼らの背中を追いかけてもこれが限界、このゲームがそれを証明している。
「口に出さなくてもわかる、つまんねえだろそのゲーム、オレも大体同じ意見」
「……それでもあなたは、あの勉強会に行きましたよね?」
「ああ行った、そしてお前を捕まえた」
「行って……え? 捕まえた?」
「簡単なことだ、オレが出来なきゃ出来るやつを探せばいいって」
ゲームを作る上で役立てるものは何でも使う、6年の経験で分かったのは自分は解釈を広げること、巨獣バルディスの時にカードルールやタイプを形成してゲーム内容を掘り下げたのと同じ、だがこのネタは『映画を完成させる』という大本の要素が無ければ成立しなかった。
「バルディスを作ったのは他でもないお前の力だ、日隈」
「な、なら尚更! 琥珀さんの所に行って教えてもらえば」
「あの胡散臭いお面野郎は間違いなくゲームを作ったことねえ、おおかた宣伝している例のクリエイターに口出してるとかその程度だろう、中身のねえ企画書ですぐわかったよ……分からないか?」
そう、つまりこれは……能登と琥珀、あのタイミングで二人のゲーム関係者が同時に日隈にロックオンしていたことになる、どうして自分にそこまで目をつけるのか分かっていなさそうだが改めて能登はこのノートに書かれた山のような設定から目が離せない。
だが目が離せないのは琥珀も同じで一軒家の2階にべったりと張り付いていた!!
「ぎゃあああ!!!」
「警察呼べ」
「ごめんそれはやめて悪かったから!!」
──
改めて家に入り込んできた琥珀、がっつり日隈もハンティングする予定だったので当然なのだが、確かに能登が家から逃げ出したくなる気持ちも分かるかもしれない。
しかし今回の琥珀は、少し事情が違い直ぐ側に大量の資料と大きめのノートパソコンを構えた少女を連れている……他でもない桜井彩月だ、見た目は完全に普通の小学生のように見える。
「紹介しよう、自分の作ったゲームを開発している桜井彩月だ! この間のスーパーバイソンライダーズを作ったのも彼女だ!」
「え!? ゲームを作ったって……その子まだ子供じゃないですか!! 僕たちよりずっと下の……」
「いやありえなくもねえな今の時代……AIを使ったな?」
「うん、大体その通り……普段はこいつの考えたゲームをチャットAIにぶちこんだあとプログラムを組んで、音楽やイラストをAIに任せて成立させている」
「つまりお前はプログラマーなのか」
「そう、私の人生の大半はパソコンを触ってたから」
……彩月はパソコンを通して数々のゲームを作ってきた、自分にできないことは全てAIに任せて芸術品のように精巧なコードを組み合わせてゲームを作る。
ただし随分リスキーなことをしていることだと能登は分かっているので、琥珀に壁ドンして問い詰める。
「確かに生成AIってやつは何でも出来て便利だろう……ゲーム会社でも実際使ってるところはそれなりにある、未だに世間の目ってやつはその利便性に恐怖と嫌悪を感じてるやつも多い、まだ大っぴらに言えるかという空気でよくそんなことできるな」
「創作者がAIというものに理解を得られないことはよくわかっているし、よく言われてるものもグレーだったことは把握してる……だから生成に気を使ってプログラムにも拘ってる」
「え……プログラムにもって、え?」
「ゲームを作るのに普通の生成AIなんか使うわけないじゃん……私のゲームづくりはAI作りから始まる」
仮にスーパーバイソンライダーズで例えると、まずチャットAIで琥珀が軽率に考えたゲームの設定を学習させて何度も出力させて形にする……その間に彩月はパソコンのペイントツールで絵を描いて、それを軸にプログラムを組んで専用グラフィックを作成し背景も同様に構築、サウンドも電子音声やフリー素材の楽器を合わせて完成させこれらを組み合わせてプログラムさせる。
もちろんこの例ではレトロ風のゲームだったのでこれだけで済んだが、これがキャラに台詞をしゃべらせたりする必要がある場合、自身の声をボイチェンで何度も加工するしムービーが必要なら動画生成AIまで作る、3Dならモデルも作るしこの為に生まれたアセットも数えきれないほどある……。
琥珀のリクエストに答えるため、さながら料理を作る為に専用包丁の加工から始めていることになる。
異常だ、たった1本のゲームを作るためにここまでの作業を平然と……能登もそうだが、自分には荷が重い……。
「あの……やっぱり僕には、琥珀さん達と一緒になんて、釣り合いきれません」
「そう、私じゃ貴方と付き合いきれない……逆に」
「えっ」
「貴方が思ってそうなことと逆……貴方の想像力では私に釣り合わないの」
自分はあくまで作業感覚でAIの力で作ってきた、だが日隈は琥珀が目をつけた通り想像力が並外れている、このノートだってどんなサーバーを使っても一気にここまで出力出来るか怪しいものだ。
今回の件も……それを伝えるためについてきた。
「じゃあもしかして……巨獣バルディスも駄目でした?」
「アイデアを考える分には悪くないけど作る方の気持ちも考えろお面野郎って感じ、まずカードゲーム作るのどんだけ大変だと思ってるの? カード何百種類作れと? おまけに1回作ったら終わりじゃないからじぞくさせないといけない、環境考えてる? つーかDCGにしてもどんだけ複雑なプログラム組めって言うんだっつーの、ゲームにしても作る方の気持ちを」
言われっぱなしになってそろそろ琥珀もお面の裏で泣いてそうだが、イライラしててもしょうがないと我に返って日隈に近づく彩月。
「私もね、ゲームを作るたびに何度もチャットAIを作り直したりアップデートも繰り返した、でも結局は検索エンジンと自分の思考を元にするしかないから可能性に限界がある……でも貴方なら、私のなかで満足できるゲームを作れるかもしれない」
まるで一つの高嶺の花を奪い合うかのように、彩月は手を伸ばす。
どういうわけか日隈橙という男に皆が夢中になる……というのを、能登と琥珀が認めるわけがない。
「あーはいはい君? つまりウチで雇わせたくないけど、個人的にクリエイターとして付き合いたいとワガママ言う気かね彩月」
「言っとくがコイツは誰にもやらん、オレが先に見つけたんだから絶対にお前らと組むつもりはねえ、大体オレたち2人が巨獣バルディス作ってやったんだぞ」
「あ……ああうんそれは感謝してるよ!? 実際売れt……公開したら売れるって予想する人も多くてね!?」
「私は絶対作らないからねそれ!! やるんだったら外注しなよ!?」
クリエイター達の言葉がヒートアップしていく中、日隈はそれをなだめて止めることしか出来ない、まさかリアルで私のために争わないでを行うことになるとは思わなかったた、そして琥珀はというと能登の作ったゲームを勝手に遊んでる、そして思い出したかのように大人の発言でその場を諌める。
「話してもキリがないから彩月と能登ちゃんで勝負したら? こういう時こそ持ち味を活かすべきでしょ」
「どっちのゲームが優れているかってわけかおもしれえ」
「待ってくださいよ!? その場合だとのとさんが不利じゃないですか、相手はAIで一人で……」
「もちろん対等な勝負手段は用意してある、彩月はAI禁止……というよりはAIを使えないソフトを用意してある、コレだ!」
まるでこうなることが最初から分かっていた……あるいは琥珀は最初から狙っていたのか? 鞄から取り出したのはかなり大きめのゲーム機と1本のゲームソフトだった。
「既に作られたゲーム……?」
「デザンスX、自分のお気に入りコレクションの1つだ……デザエモンみたいなものっていえば伝わるか?」
曰くシューティングゲームコンストラクションソフト、ゲームでありながら簡単な編集を行い、好きな絵や音楽で縦スクロールのシューティングゲームを作ることが出来る優れもの、更にデザンスXはそれらから更にパワーアップしておりシステム面を調節したりなどかなり大発展させたものになっている、おまけに勝ったらデザンスXを動かすためのソフト『メガフレア』までくれるというのだ。
「ゲームを作れるゲーム……たまにあるが、こんなもんハンデにもならねえ、お前以上の作ってやる」
「上等、私はAI使わなくたってゲーム作れるって証明しろってことだよね琥珀……」
こうして日隈を巡って能登VS彩月の変な対決が始まってしまった……日隈としては仲良くしてほしいと思ったのだがそうもいかず、琥珀と彩月は一次撤退。
まさかの初めて作るゲームが、シューティングゲームになるなんて……。
しかし、このゲームは思ったより本気だ……おまけでシューティングゲームが遊べる制作ツールかと思えばサンプル作品は商用にも匹敵する出来栄えだしゲーム作りとなるとやれることも幅広い。
ここからどうするかだが、琥珀からメールが届く……いつの間に自分のアドレスを届けたのか疑問だがそこは気にしたらもっと深淵に飲み込まれそうなので気にしないようにして、メッセージの内容は単純に『シューティングゲームの内容は君が考えろ、つまり2つのゲームを同時に考えるんだ』
日隈にも試練が与えられ、かくして初めてのゲーム対決が始まろうとしていた……。
が、いくらアイデアが無限に浮かぶといっても知識がないものは手の出しようがない、ゲームセンター全盛期の大昔ならともかく今時の現代っ子はシューティングゲームをあまりやらないだろう。
「そもそも僕、シューティングとかあまりやったことがないんですけど……面白くするポイントはなんなんですか?」
「ポイントか……オレもちょくちょくゲームを遊んだ程度の知識で語るが、シューティングの魅力は
シューティングの仕組みはシンプルに言ってしまえば、敵を弾丸で撃ち落としてスコアを稼ぐゲーム。
1回のゲームにおける最終的なスコアの量が戦闘指数を表し、必ずと言っていいほど大昔のSTGにはハイスコア表がランキングのように流れていた。
プレイヤーはただ敵を倒すだけでなく様々な工夫をしてスコアを稼ぐ、連射はもちろんとして……死なないための工夫、勝ち進めば進むほどスコアが上がるので時に堅実にあるときは大胆に攻めていかなくてはならない。
頂点に立つには戦略ゲーム並みに頭を張り巡らせるのがこの系統だ。
「ということはゲーム側でもプレイヤーにスコアを上げさせる工夫が多く仕込まれてる……」
「だんだん分かってきたな、邪魔なものを一気に消し飛ばすボムから追加武装が得られるアイテム、膨大な隕石を一気に撃ち落とすボーナスステージにワープゾーン、特定の法則でスコアにボーナスがになるなど様々な手を出してきた」
「……あれ? でも全部聞いたことがあるような、ここから新しい個性を出していくって難しくないですか!?」
「だから今はあまり見かけないんだよ、だがネタが尽きたというよりは昔が一気に出し過ぎたというのも近いが……なら、弾幕系という選択肢もあるぞ」
弾幕系とは、その名の通り敵が画面を埋め尽くすほどの大量の攻撃を打ち出してくるタイプでありボス敵ともなるとまるでイライラ棒のごとく隅を越えていきながら敵を倒していく、コレも実際数十年も続いている名ブランドがあるにはあるのだが、生き残ることに特化したこの系統はクリアすることすら一苦労なので相当人を選んでしまう。
……思ったより奥が深いが、それ故に悩んでしまう。
長い歴史がある以上大まかな事は大体先任者がやっていることくらい分かるし、ある言葉にも「誰もやらなかった事に挑戦する」とあるが大抵それは「先人が思いついたけどあえてやらなかった」ことだともある。
……だが、自分が考えない限り二人が対決をするにはゲームを作ることもできない。
アイデアマンという立場は重い!