気が付けば我先にとネタにしたくて白卓、黒卓、北宮組は一斉に同じ部屋に籠っている、目的はもちろんゲーム製作。
音牟が描いた絵本、不礼が作ったゲーム、そして妙な世界の異常……音牟が突然思いついたことも含めると、結論はこうだ。
音牟が描いた『七人姉妹物語』の舞台は2000年代、ちょうど琥珀が想定していた時と同じだが……能登は昔、たまに児童館で遊んでいた時の事を思い出す、彼女の幼少期なので2030年頃だろうか。
「鈴蘭、あの頃って魔法少女アニメというか女児向け作品みたいなの流行ってたよな」
「そうそう!あの児童館もそのブームに乗っかったお金で出来てね、七人姉妹物語も子供もだけどあの世代の人達に結構気に入られて……でもボクとしては突然思いついて商売の為に作ったわけじゃないから、そこら辺は館長さんに一任したんだけど……」
「そいつは俺も聞いたことあるがネットで説明を見たぐらいなんだよな……確か廃屋敷で両親のいない七人の姉妹が力を合わせて生活していく話って書いてあったか……で、それ売れたのか?」
「ボクは詳しく聞いてないけど……館長によるとここから少し離れた街で大衆食堂をやっている人達が100冊くらい欲しいって言って……結果的にその人達が広めたのかな?それで七姉妹物語が広まったんだけど」
「その大衆食堂の名前って……念のため聞いとくが『ひいらぎ』じゃないんだな?」
「あーそれなんだけど、2020年辺りにそんな名前の店もあったような気がするけどほぼ都市伝説なんだって」
「うん、全然違う名前だよ」
「……まあそんな気はしていた、彩月、ちょっと2020年代の都市伝説とか調べてくれよ」
「琥珀さんなんかキャラ変わりました?」
「そりゃ全部の記憶なくしてなんだからキャラぐらい変わるだろ、まあ今の俺も不完全みたいな感覚なんだが……んで、君らこれ本当にゲームにするのか」
「もちろんよ、不謹慎な要素があったら見なかったことにして何かしらゲームに使えそうなところだけ拝借させてもらうわ」
「アイツの口ぶりは癪に触るが、おもしれーことには首突っ込んでおきたいからな……」
3グループ共々真実がどうかより、ゲームとして作りたいことが第一の一同。
ここまで清々しいとこいつらを見込んでよかったとも思うが、琥珀も形はどうあれ創造者として負けられないところがありメモを持っていきゲームに使えそうな要素を一通り確認してい。
「鈴蘭さん、その時描いた七人姉妹物語って何か特徴とかあるのか?」
そして、瀬尾に言われて音牟は何時でも読み返せるように出しておいた絵本を見せる。
最近音牟がイラストレーターを担当してくれたり、ゲームブックを作っただけに分かるが……確かにこれは音牟が同じものを作れないとなったのも分かる、まるっきり別物の作風、別人の絵柄だ、音牟が描いたことにして誰か代わりの人間が描いたようにしか見えない。
その絵本の特徴は先ほど語ったように女児アニメのエッセンス……特に『魔法少女モノ』を軸としている。
メインとなるのは七人姉妹物語の舞台となる街では現実に魔法少女が存在していることになっており、姉妹は変身せず特殊な世界で平凡?に暮らしている奇妙な世界観である。
ヒロインと悪の戦いの観察者というわけだ。
「まさかとは思うが、この世に本当に魔法少女が存在したと言うつもりでは……?」
「いやいやあらへん!どこのアニメやねんそんなこと、現実に起こるわけないやん!」
「まあ実際……そういう痕跡は一切無いからそういうことなんだろう」
いくらなんでも突拍子もなさすぎる時代もある、もし本当に2020年代に絵本のように魔法少女が存在していればネットはその情報で飛び切りのはず、2046年の今でもそれは残っているはずだが……だが、絶対ありえないとも言い切れなかった。
何せこの頃は都市部が一気にダウンしたり一斉に街の人間が走馬灯……まるであのSF小説の1幕のように恐竜を蜃気楼のように見たりなど不可解な現象が起きていたそうだが、日隈はニュース記事で興味深いものを見つける……街で突如屋敷が吹っ飛んで跡形もなくなるという事故のニュース、これが起きたのが2024年……被害者というよりか、その屋敷に住んでいた7人の住人が行方不明になっているが消えてなくなったので死んだのだろうとされている。
……一致している、7人姉妹物語の数と、年齢設定までほぼ同じなのだ。
「え……つまり絵本のあの人たちは本当にいて、ボクってその事故で消えた7人を元にした物語を一人でに書いてたってこと?とりつかれて?」
「僕もよくわからないんですけど、そうでもしないと辻褄が……」
「まぁこの際出来たものはなんでもいいんじゃねえのか、後は……この時空の塔だな、アプデされてんな」
不礼が作ったあのフリーゲームに続きができていた、1層をループするしかなかったのが2層が出来た。
しかしこの2層も相変わらずループしか出来ないものの、石板によるストーリー年表には覚えがある、いや当然だ……当事者なのだから。
「これに書いてあんのって……ワイが白卓とゲームジャムで初めて会った時のことやないか?」
「俺が能登をかけて勝負した時のもあるな……見たことねえのもあるが」
「確かに僕にも覚えがない……けど、ここに書いてある大半のことや、この階のモチーフって」
「オレ達だな」
しかし、このゲームにも違和感がある。
時のズレをアプデで修正したのをあるが……三層に続きそうな階段にはバリケードが貼り付けられており、看板には『以降のアップデートの予定はありません』と書かれている、つまり急ごしらえでゲームを作れなかったことを現すがそんなことはどうでもいい。
「あいつ、お前らとゲームで勝負とか聞いたけどけどこのやり方卑怯やないか?無限にアプデを繰り返せばいくらでも付け足し出来る上に、体験版とかでもなく未完成品堂々とやるとかクリエイターのやることやないやろ、ホンマにコミケでアテてきたんか!?」
「……そのコミケで当ててきたっていうのもなんか都合よくない?そもそもちゃんとした人でも売れるか怪しいというか、コミケは金銭が絡む大舞台よ?彼の振る舞いと金勘定が絡むやり方は矛盾しているわ」
――
「……それで、その大荷物は?」
「荷造り……あ、君的には夜逃げに見えるかな?」
不礼はというとこれまで貯めたゲームもマンガも全部風呂敷に入れて……風呂敷というか大きなドームを担いているかのようだ。
端から見たら尻尾を巻いて逃げるかのようだがそうではないらしい。
「確かに俺はゲーム作りで日隈くんのアイデアに見事に負けた気がするよ、まあ参考になったこともあったけどね、それにさ見ろよ……あいつら、俺がこんなに世界規模で露骨に誘導してるのに、向いているのは自分のゲームの方だけ」
「当然だよ、クリエイターが自分の作品に一番興味しかないのは当たり前だろうが」
浦嶋達が話しているところで能登一人が割り込んでくる、夜も更けてきて徹夜確定、そんな中で……不礼だけが浮いていた。
これはもうはっきりとした決別になるのだろう。
「オレはインディーで頂点に立つんだ、お前は趣味でやる分には好きにすればいいが……アンタみたいな立場が一番人に頼ってはならないことを忘れるな、悪の大魔王でも救世主でもいいが、自分の遊びを誰かがやってくれると思うなよ」
「……うーん、参ったなこれは、多分言い返せない空気だ、こんなことなら私情を挟まず二次創作がどうとかじゃなくてインディーの頂点になっとけばよかったか……まあいいや、時に神様も筆を誤る、まだ作品はいっぱいあるんだからその時に頑張ればいいか」
自分と能登達では目線が違う、見るものが違う。
こういう時に力付くでも支配させるべきなのかもしれないが、ここまで関心がないとやる気もなくなってくるだろう。
思い返せば、琥珀とも色々あった……ゲームならあの頃の二次創作を作れたかもしれない。
「琥珀はどう?俺がいなくなったってなればあいつもすぐ消えると思うけど」
「…………そうだな、アイツはまだ残しておきたい、デスクが結構便利だし、使えるところも結構あるんだよ」
「そっか、アイツなかなかやるね……ま、たまにはアイツに華を持たせてやらないと、まあどっちみち消えるけどな!」
「消え……どういうことですか、消えるって!?琥珀さんが!?」
更に、能登がいるということは日隈もそばにいるということであり、琥珀も突然いなくなるかもしれないことに驚く。
確かに記憶喪失からの解放とか前兆みたいなものもあったが、日隈からすれば少し抵抗があった、変人ではあったものの琥珀のことをそれだけ気に入っていたらしいが、能登が止める。
「橙、そこにいるやつ見りゃ分かるだろ……住む世界が違うんだよこいつらは」
「住む世界が違うからこうしてそっちに自在に変えて合わせていたんだけどな……今回は余計な自我を出し過ぎた、これは反省点だな」
「どうして琥珀さんまで……」
「それは俺に言われてもねえ……むしろあいつがしつこいんだよな、本気で俺の作ったもの全部に侵入する気かよ……まぁこうしてフラれたんだ、現状こつこつ一人で頑張るかなぁ……」
「ところでその荷物は?」
「俺が消えるならもう必要ないものだろ?」
不礼は本当に勝負も最後までつけず、自分が場違いということにしてそのまま消えてしまおうとする。
何か引き留めるべきなのか、日隈と能登は何か言いたかったが……なんとか一言ずつ思いついた。
「お前、今度は何年後に現れるつもりだ?」
「さあね!君らの認識が届かないところだがまた20年とかじゃないといいけど!」
「……僕らのゲーム、どうでしたか!?3回くらい見ましたよね!?」
「……さあ?俺、日隈くんたちのゲームの出来栄えとか特に気にしてないからね」
言うだけ言って不礼は去る……いや、去るというよりはまるで、何か階段を登っているかのような……そうだ、あの塔と同じだ。
しかしもう見えなくなりそうと分かると能登は振り返る、向こうから関わりを避けたんだ、今さらどうということも……というところで、ポケットを探ると手紙が一切れ。
まるで不礼勇としての最後の試練を伝えるかのようだ。
『君はこれからどうするの?やりたいこと決まってる?』
「……お前と一緒にするなっての」
――
「はあ!!?アイツいなくなっただと!?」
「オレは見届けた、オレ達に興味を無くしたというか……身の程を知ったようだ」
能登はそれからすぐに琥珀に不礼が去ったことを告げた、今までの警戒もありすぐには信じなかったが額に手を当てて何かを念じた後事実だとわかった、逃げられたわけではない、倒したわけでもない……彼にとっては消化不良な結果になってしまったのでゆっくりとソファに腰掛ける。
その顔はこれからどうしようといった感じだったが、日隈にとってはそれどころではない。
「不礼先生は……自分がいなくなったら貴方もいなくなるって言ってましたけど」
「いなくなるっていうか、元々あいつを追いかけていたからな……追いつくたびに記憶喪失になる仕様だけに厄介なところだが……まあ心配するな、さすがに今抱えるプロジェクトほっぽりだしたりはしないよ」
何はともかくとしてもう既に不礼がいないなら……ということは前提で話を進めている。
なんてさみしいことを言うのだろうか、日隈はとても悲しい気持ちになった、不礼と一緒に琥珀まで遠く離れた気分になり……近くに来る。
「琥珀さんだって白卓じゃないですか!僕は貴方も一緒にらいかさんがインディーの頂点に立つところを見てほしいのに……桜井ちゃんだって、貴方がプロデュースしたじゃないですか!」
「そこまで想ってくれるのは嬉しいが、縦軸だからな……不礼は先に行って、俺はそれを追いかける、これから先それをず〜っと、何回でも何百年でも何千年でも追い続けることになるだろう、ずっとここに居座るわけにもいかない、素直に言うと俺が言い聞かせてるだけだが、俺のそばにいない奴は仲間になれない」
琥珀は……いや、『琥珀』を名乗っている者は、これから先自分にとって関係ないところでも孤独に戦い、不礼は自分が二次創作クリエイターとして好き放題したように……無法と無法の戦いを繰り広げる。
能登達からすれば自分の夢には関係ないので知ったことではないが、それで済ませるには彼との生活も地味に長かった。
何より日隈にとって……今の自分があるのは能登と琥珀が導いたからと思っている。
「縦軸と横軸というのは……その、僕は二次創作に詳しくないのでさっぱりですが、ずっと続いているならそばにいなくてもずっと残り続けるんですよね?」
「ああ?」
「らいかさん、これはその……僕の我儘みたいなところがありますが聞いてください、貴方と僕の白卓なら出来るはずです」
「なるほど考えたな」
「一応聞いておくか、何を作るつもりだ?面白いゲームなら歓迎はするが」
「百年先でもずっと、長い時代でも忘れられないゲームを作りたいんです、どんなに離れても琥珀さん達が忘れないように」
いつか……どこかで琥珀はまた記憶を失い、断片的に日隈のことを覚えるのだろうか。
7人姉妹物語がなぜ生まれたのか、きっとそれも琥珀や不礼が関わっていて、あの7人達は忘れられたくなかったのだろう、だから絵本という形で自らの存在を歴史に示した。
だから白卓もゲームを作ろう、形になる思い出を、無関係な人から見ても価値のある思い出を。
ゲームならそれが出来る……琥珀と能登が見込んだ才能を持つ自分にしか出来ないことだと。
「こりゃ言ってくれるな、やっぱお前は主人公級の素質があるよ……いいね作ろう、それぐらい気合い入った奴で成功すれば、確かにインディーで頂点なんざ余裕だろ」
こうして白卓に新しい目標が出来た、瀬尾、音牟、サフィーナにも声をかけてこれまで以上に凄い作品を作る準備に取り掛かろう……というところで慰安旅行も終わる。
休むために来たはずだが結局凄いヘトヘトになってしまったが、大きな目標が出来た。
別れ際に北宮組と黒卓にも『琥珀と未来に向けたゲーム』の話をする。
出来れば百年先にも届くようなゲームの話をすると……それを聞いて引き下がらないわけにもいかない。
「しかしなぁ百年って、たった十年でゲームハードが3回は一新するインフレ時代やで?どう作るんや?タイムカプセルにでも埋めるんか?」
「うーん……特別こだわりたい……そうだ、らいかさんと琥珀さんの好きなゲームを元にするとかで……」
こんな時でもゲームのネタは尽きない彼らを赤嶺は見送る、将来本当に有望な製作者になるのかもしれないが……不礼のことを考えるとここからが本当に大変だ。
赤嶺はよく覚えている、2040年代頃突然マンガやアニメが多く陳列されるようになったことを……誰も知らないがいつの間にか浸透していたメディアをクリエイターは危惧した、当然赤嶺を雇っているゲーム会社もそうだ。
自分たちの立場が奪われることが恐ろしいのではない……想像してみて欲しい、規制によるものではない、時代の変化でもない。
ある日、突然……何の脈略もなく忽然と突然増えた作品達、ならば消える時も突然訪れるのではないか?
そして、そうなってしまったら……どれだけの影響を遺すのか、普段のんびりとした振る舞いの赤嶺でもそれくらいのことは分かる。
そして運命の時、不礼勇が完全に姿を消したのと同時刻……『その時』は、まさに唐突に訪れた!!
慰安旅行から帰ってきた能登に訪れたのは、自身の髪よりも真っ白になるような惨状だった。
「……ない」
足りない、自分の部屋に置いてあるゲームが……甘費にもも少ない。
テーブルに置いてあるやり込んだゲーム、戸棚の積みゲー……積まれていたものが減っている。
両親は勝手にゲームを捨てるような親じゃないことはわかっているし、これは自分だけの事態ではない異常な出来事であることはすぐにわかった、パソコンに入れてあったダウンロードソフトまで消えている……データが消えていたのではなく、何もかもストアからなくなっていた。
更には能登酒屋で普段から置いていたはずのアーケードゲームすらなくなっている、これは明らかにただごとではないと能登は家に帰ってすぐに白卓デスクに向かうと、そこには……もう既に干物のようになっているサフィーナと、何が起きているのか分からない日隈、瀬尾と音牟はパソコンで何かを調べているが、日隈は能登に気付くと冷静を装うと話しかける。
「あ……あの、らいかさん……」
「いいんだよ無理するな……オレが言えたことじゃないな、ゲームが消えた、現実じゃありえねえがそうなってる……その様子だとそっちもか」
「……い、いいえらいかさん、ゲームだけじゃ……ないんです」
「だけじゃない、というと……嘘だろ?」
能登は日隈から見せられた資料……ニュースサイトの印刷記事を見せられると、どんなに余裕ぶっていても絶句せざるを得ない内容が記されている。
……消失、突如消失したのだ、数十年分の歴史があるもの、ゲームだけじゃない、この世のコンテンツが神隠しのように……消えてなくなってしまった!!
その時……彼の言葉を思い出す、不礼勇は二次創作を作るために原作が必要で、それを広めてきた。
……自分が関わることがなくなった以上、それも必要ないというのか?
そして世界は思い知る、その気になればどんなコンテンツからでも『二次創作』は作れるということを……。