「つまらねえ……」
能登來暇は実の所、絶望していた。
コンテンツショックは……不礼勇は軽弾みに世界を動かした結果、自分から多くのものを奪っていった。
大好きなゲーム、ゲーム発表の頂点という輝かしい夢……その為に試行錯誤して苦労をかけて作ってきた、不出来ながらも自分が作ってきた自分のゲーム。
それがあんな奴のためにほんの一瞬のうちに消された。
ゲームをする気にもなれない……というか、出来るゲームも少ない。
だがゲームをやらないと正気を保てない、ゲームがなければ……しかし作ろうという気力がない……?
というよりは……もしこのまま生き続けたら?ずっとゲームを愛して、作る側になりたくて、面白いゲームを作りたくて。
あの名作に憧れていたはずなのに、それさえも欺瞞だったら?
コンテンツショック、新世代ゲーム制作エンジン『SEO』の開発開始から一ヶ月が経った。
あれからほかのメンバーはどうなったのかというと、サフィーナと音牟はエンジン開発の上で3Dとグラフィックが必要なのでSEOの為に駆り出されており、少しでも早くゲーム開発出来る環境を整える為に頑張っている。
なので今、デスクは貸切で日隈は部屋で琥珀と一緒にいることが多い。
といっても何もしていないわけでもなく、いつか完成するその時に向けてゲームのアイデアを一緒に掘り下げているところだ。
「琥珀さん、しばらくはその……勝手にどこか行ったりはしませんよね?」
「バカ言え、あいつがやってきた影響はここからだ、ここでいなくなったら何の解決にもならん」
「不礼先生はなんだったのか……僕らには知る由もなかった、話してくれないんですか?」
「悪い、もうアイツは戻ってこない以上話したところで……ただそうだな、あいつは酷いやつだよ、とても酷いやつだよ、こんなことをしたのもそうだが……」
『なあ琥珀!このマンガ見ろよ!一八先生!俺さあこういう作品が無限に増え続けたらいいなぁって思うんだ、決めた!俺はこの世界で一八先生になるんだ!俺もこんな風にキャラクターを片っ端から使いたい!』
「……相当昔から嫌いだったことまで忘れていた俺も、なかなか世界にとっては悪いやつだな」
琥珀はおそらくSEOが完成してゲームが作れる環境になったら去ってしまうのだろう。
その時までに、あるいは去った後にでもゲームを作りたい。
しかし琥珀にばかり向いていられない、能登が……能登が心配なのに顔を見ることも出来ない。
こういう時強引に乗り込むべきなのかも分からないし法律が許さない気がする。
「琥珀さん、なんというかその……現実離れしてますが時を超えてるんですよね?」
「まあその、うん、俺別に人間とは言ってないしな……いや今は人間なんだけとな?ここ話すと複雑だし
「じゃ……じゃあ3年とか5年経てば、また会えるんですよね!?」
「……その可能性もあるがいいか日隈、もし自分がまた来たとしてもまた記憶喪失になってるから白卓のことは覚えてない、琥珀という名前もまた使うとは限らない……何より俺が来たところにはあいつもいるんだぞ!?」
そう、ここで例えるなら琥珀と不礼は表裏一体。
不礼がなにかやらかしそうだから琥珀が現れ、現にコンテンツショックや20年前の時間のズレなど大きな出来事が繰り返されている……しかも、不礼が持ち帰って消失したアニメやゲーム……あの数だけ同じことをこれからもずっと繰り返すことになるという。
自分や能登がとっくに亡くなってずっと未来になっても、恐らく……。
「もしかして3000年になっても?」
「3000年どころか紀年法が5回は変わっても相変わらず追いかけっこしてそうだな、タチが悪いのはそれまでにあいつぶっ殺してもなんの解決にもならね〜こと、アレはもうガンがステージ4だからな……あっステージで思い出したんだがスパナマンシリーズで試したいことがあってな……」
「ああー……海を舞台にとか言ってましたね?潜水艦を使うよりは……」
大事な話もするし、ゲームのことで相談し合う仲になっていた。
だがそんな二人の関係も近いうちに終わりを告げてしまうのだろう、コンテンツショックが回復するその時……だがそれ以上に日隈は早くゲームを作りたいとも思っていた。
「日隈、はっきり言うとお前は俺よりめっちゃすごい、俺の物作りは何かに頼らないとなんも出来ない、スパナマンもスーパーバイソンライダーズも……その、彩月より先に別の物に作ってもらったんだ、喪失した時にその時のことが残っていたから、俺はプロモーターになれた」
日隈なら間違いなくアイデア力で優れたゲームを作ることが出来る、それどころか白卓は……間違いなく頂点に立てると自負していた。
それ以上に……一生まがい物しか作れない自分からすれば日隈が羨ましくもあった……ゲームのネタを考えていると、ノックして音牟が出てくる。
「日隈君、ちょっと難しかったけどなんとか2デッキ分完成したよ〜」
「すみまさん鈴蘭さん、専門じゃない人にこんなこと頼んでしまって……」
「ボクもさっちゃんにちょっと助けてもらったし、怪獣を描くのも意外と楽しかったよ〜」
「お……お前それ!!」
……鈴蘭音牟が持ってきて作り出したゲーム、それは日隈にとっては全ての始まり、怪獣映画制作TCG『巨獣バルディス』
琥珀が軽弾みに思いつき、日隈と能登が掘り下げて形になった、日隈がゲームを作りたいと思うきっかけになったあの作品。
彩月はカードゲームなんて負担やべえだろボケ!と琥珀にキレられて形になることもなかった、あの作品。
「そっか……軽弾みに思いついて、お前が考えたゲームってこんな形になるんだ……」
「前もってテキストやカード枠はデザインしておいたから、組み合わせてもらってすぐ遊べるようにしておいたんだ」
「へー……こりゃ凄いな、クオリティは同人系と比較しても引けを取らないぞ」
「琥珀さん……元々コレって、桜井ちゃんに作らせて売りに出すものでしたよね?」
「ん?ああまあ予定としてはそうだが……どうした?俺に何か許可が必要なのか?」
「はい、僕は現品版と電子版両方で『巨獣バルディス』を白卓を売ります」
白卓では初となる有料ソフトの公開、バルディスの簡単なルールやイメージ自体は以前からサイトで公開していだか、それが遂に形となって公開される。
白卓で能登が言っていた、金になるものを公開する目標はこれで果たされる……はずなのだが一つ問題がある。
物を売ることに対して素人、琥珀だってほぼ描写しないことで誤魔化してきたので実際はよくわかってない。
つまり、巨獣バルディスの適正価格がよくわからない。
「カードゲームっていくらで売ればいいんだろう」
「同人となるとな……印刷や量産とかだったら得意分野だが、金出すとなると利益まで考えないといかん」
「ボクもその辺りは一任させていたし……実はね、瀬尾くんも悩んでいたんだ、SEOをフリーで提供するか……それとも有料にするか」
「そっちを有料にした場合予想としてもいくらぐらいになりそうだ?」
「うーん……こっちは本当にゲームを作るために便利なものをありったけ入れたいって言ってたから……制作時に複雑なプログラミング無しでやると最終的には一万円近くになりそうって」
「い……一万円!?」
「ツクールだってそれくらいするんだ、簡単に誰でもゲームを作るとなるとそれ相応の費用は求められるか……」
やはり現実的な話がまとまらない、やはりここに能登がいてくれたら……話を終えて、時間が来たので帰る。
その度に日隈は能登酒屋に立ち寄るが、結局能登に会うことはなかった。
そして、今日もまた……そうやって終わろうとした時に、今日は扉が開いてなつみさんが迎えてくれる。
「橙くん、だっけ?今日はちょっと会ってくれないかな?何か來暇にしてやれないかな」
「わかりました」
あれから……能登の部屋に来たのは2度目か?
あの時は唐突に付き合わないかとビジネス的とはいえ衝撃的な提案をされたことが記憶に新しい。
あれから……能登の部屋は綺麗に片付いた。
ゲームが半分近く無くなったのもあるが、引きこもってたにしては綺麗に片付いている。
まるで……新天地を見たかのように。
「日隈、どうしようもねえだろオレは」
「らいかさん……やっぱりそうだったんですね」
「見りゃ分かるだろ、この通りなんだよ」
「貴方は……どんな事があってもあの時のままで、だからこそ貴方は、追い込まれた時に引き返すことを選べない」
「貴方はゲームを作ることを諦める……それさえも諦めることができなかったんですね」
自分の夢に大きな足止めがかかってしまった、だからといって今更止まらない悪循環。
能登の人生にはこういった問題も抱えていた、もう彼女にとって面白いゲームを作りたいという好奇心だけで完結しない、これまで十年以上の人生を唐突に放棄することなんて出来ない。
これまで数年以上築きあげてきたお話を全てかなぐり捨てるかのような覚悟は……引きこもって何度も何度も諦めようかとも考えて、結局同じようにゲームに手を出す、そんな姿があまりにもみっともなくて姿を出せなかったらしい。
その間にも日隈達は立ち止まりそうになりながらもゲームを作ろうとしている……。
「らいかさん……その、無神経なこと言ってしまうのですが、そんなにショックだったんですね」
「そうだな……こればかりは聖域とばかり思っていたからな、これでキッカケの人物が自分が作った者が欺瞞としてショックで打ちのめされていたら余計に燃えていた所はあったと思う、だがそうならなかった、そうならなかったのはこれだ」
能登は……動画が消えているリンクを出す、上記の例で削除したわけでもなく、存在しなくなった。
その理由はゲームが消えたどころじゃない、検索してみれば……そんな人間が
「さすがに問い詰めてやったよあのお面野郎を、そしたらオレでも分かる範囲で創作用語を交えながら言ったよ」
『……それってあれだな、あいつ神様自分から神様って言っただろ?あいつは俺と逆で段取り、つまり自分の立場を確立させるまでは何でも出来る』
「そんな……まさか不礼先生が!?でもあの人は二次創作にしか興味がないって!」
「ああ、だがその一方で自分の代わりに作ってくれる奴が山ほど欲しいとも言ってたよな?」
不礼勇は自分でも言っていたが『今回、自我を出し過ぎた』が故に創作家を集めることに躍起になっていた。
琥珀曰く行ったこともないコミケで当てたという経歴と自身の趣味活動のためだけに他所から様々なサブカル文化を持ち出したり、琥珀や浦嶋を始めとした賛同者を弟子としていた。
つまり、ずっと昔から不礼はいる、後はどんな手段や技術を使ってでも……あの文化が広まった時間のように賛同者を増やし、一人が当ててしまえばそれだけで自身の地位は確立されたものになる、指導者を産んだ指導者を。
しかしそんなもの簡単に作れるのか?いや、創作家なら簡単だ、ましてや神なら。
「そ……そんな突拍子のない話……!」
「そりゃ信じられないのが普通の反応だろう、オレも引きこもりながらそれが事実かどうか確かめた、それを証明できるぞ……浦嶋の姿、旅行から帰ってから見たか?なんならアイツだって旅行まで失踪してたのに突然現れたんだ」
浦嶋がいなかった、それだけで立証出来る……不礼は自分の立場を確保するために役回りを作れる。
それだったら覚えもあると琥珀のお墨付きもある。
つまり、自分の夢は完全に不礼の手の上で転がされていた……。
『その件に関してはその……お前は悪くないよ、なんというかその、一回調整し直した結果そうなってるんだから!むしろアイツがいなくなって、後は俺がいなくなれば多少は元通りになるんだよ……多分、お前らが生きている間までは保証できないけど』
「なんて言いやがって……オレ達はただゲームを作りたいだけだったのにそんな勝手、勝手、勝手……正直言ってうんざりしてきた、こんな奴らの目的のためにオレは神ゲー作りに憧れたのか?そう思ったら、指を動かしたくても進まなくて……かといって、白卓を辞めたらお前らに無責任になり……夢もないのに引きこもっているわけにもいかない」
「結果的に毎日を排他的に消費して申し訳ないと」
「全部聞いたのか」
「まあ親から色々……でも、その……僕は別に構わないよ、ほら僕は『道連れ』だし」
「だがオレは……」
「僕は琥珀さんがいなくてものとさんが話しかけてくれたから、らいかさんが僕を見込んでくれたから今があると思ってる、僕は貴方の夢が好きです、どんなに向いてなくても辞めようともしない、そして打ちのめされても心が折れそうになってもゲームを裏切らない、だから僕は貴方のことも諦めない……」
今白卓は逆境に立たされている、そんな時に必要なのが能登だ。
自身はゲームを作る才能がないと思った、一度は挫折していまここで折れかけたりもした。
だがそれでも……白卓は、日隈は能登を見捨てることはなかったし、使えないと思わなかった。
「せお君とサフィーナさんは今、多くのクリエイターのためにゲームエンジンを作ってる、鈴蘭さんは僕らの思い出の巨獣バルディスを形にしてくれた、後は管理だけなんだ、何より僕は……まだらいかさんをゲームキャラクターにしてない!!」
「あ……あ!?バカ!!オレは
「僕は本気ですよ!!!」
「声がデカいんだよバカ!!お前……お前よくもそんなこと言えるよな!?」
「それだけじゃないです、僕はせお君から試作型が完成したら……貴方の許可をもらってからあのゲームを作り直すつもりでした!!」
「はあ!?あのクソつまんねえゲームをか!?」
日隈は能登に詰め寄り、床に倒れてほぼ能登の目の前に日隈が乗っかる体勢になる。
どうしてこんなに息が荒くなるのか、どうしてこんなに意識しているのか。
ああ、そうだ。
(――やめてくれ)
「改めて、僕の口から言います……僕達の夢の、道連れになってくれませんか」
(やめろ、期待させるな……耳さわりのいい言葉をすらすらと並べるんじゃねえよ……)
自分が巻き込んだ日隈橙は、もはやただの白卓の初期メンバーじゃない。
それよりももっと大事で、それよりも深い関係で、つまりそれは日隈は能登のことが……いや、そんな言葉で済ませてはいけないこの気持ち。
だから……。
「そこまで言うなら、態度で示してくれよ……」
「……っ、わかりましたっ!!」
「え!?お前っ!?」
日隈は能登の挑発に乗るように、ゆっくりと顔を近づけて……。
――――
「は……はい、ということで、らいかさんが無事に白卓に戻ってきました」
「お……おう、それはいいんだがお前ら、なんか雰囲気変わった?」
しばらくしてたのもあるが琥珀は能登と日隈の変化には気付けない、何を隠そう彼、大昔からそういった関係に対する認識というものを全く理解していない。
それ故にどんな事が起きたのか、まあ何かしらの説得をしたんだろう程度にしか認識できない!
何はともかく白卓完全復活、さっそく能登が確認したことで適正価格を彼女になんとかしてもらう。
その後、能登は日隈に詰め寄って何かを確認している。
「お前予定あるか?」
「ゲームの予定だったら……い、1冊だけTRPGのルールブックを考えて、SEOに向けてやりたいことは琥珀さんと一緒にまとめてもらったので……」
「そうか暇か、暇なんだな……おいお面野郎、オレ達はこれから各地に下見に行くからな、これから先大事なのは新鮮なネタだ、だから行くんだよ……分かったな?」
「あっ、うん……僕も行きたいところは色々あったし」
「なんか能登ちゃんお前……変わったな?いや、俺が言えたことじゃないんだが」
もはや能登にとって日隈はアイデア以外でも離したくない存在らしい。
強引に引っ張っていくその姿を、能登がなんとか元通りになったみたいだと解釈してのほほんと眺めていたが……そうもいかないのが、1グループいた。
「おい琥珀、久しぶりにツラ見せて……あら」
そう、黒卓の桜井彩月。
彼女はAIがあるので唯一支障がなくゲーム進行出来ていたが、玄関開けてからかってやろうと思ったらちょうど二人が仲良く絡み合いながら出ようとしていたので、彩月は若干BSSの鼓動を感じ取りながらも小学生の余裕で頑張って耐えた。
「へ……へぇ能登さん、貴方付き合ってるとは聞いたけどそこまで進展してたんだ……」
「なんだ、お前にはやらねえからな?お?」
「うわ独占欲強っ……なんかこんな人だったんだって感じで嫌だわ……まあ、その件で言えばこっちのほうが重症だけど」
「うわっ!?七夜さん!?ガチで傷ついてる時の顔だ!」
「お前……オレに対して本気だったのかよ」
「悪いかこの野郎!!なんか……なんでだろうなめっちゃ泣けてきたよ!!」
「本当に哀れなやつすぎて同情してきたよ七夜、んでさ、琥珀に会いに行く予定だったけど急遽変更、遊ぼうよ日隈さん」
「え?僕は別に良…………」
「は?いいわけねえだろお前……」
「……あっ、ダメだガチすぎて入る余地ない」
「俺一周回って負けた気がしねえ、勝負が成立してねえもん」