「……やべー、どうしようタイミングがつかめない、出ていくにはまだ早いか?しかしなぁ、SEO完成してゲーム作れる環境戻ったら基本的にやることないんだよなぁ……」
その一方で焦った様子をしているのは琥珀、実は彼、完全に帰るタイミングを見失っている。
少なくともゲームエンジンが完成するまでは残っているつもりなのだが、不礼もいないし時代的に困っていることは多いながらも……白卓としてはやることはほぼない。
記憶を取り戻したからこそこんなことを言えるのだが、行ったり来たりするのだって楽ではなく当然充電が必要になってくる……現状、帰るには足りない、ほんのちょっとだけ足りない。24/26くらいには足りない。
というか、こういう時少なくとも今回は白卓に仕事を与えるのが自分の役目だったことを思い出して、SEOの宣伝を徹底的に行なった。
もう不礼がいないからこそ好きに出来る、たまにデスクを覗くと瀬尾が魂抜けている。
「い……一応出来るところまでやってバックアップは取れた、根本的な問題はこいつでちゃんとしたゲームを作れるか、その上で不便なところは何もないかってところだが……」
「CGは作ってきたが本当に大丈夫なのか……?」
「となると……そうだねぇ、RPGツクールやウディタがやってたみたいにサンプルゲームを作るとか?」
求められるのは参考例となるサンプルゲーム、ただしSEOはRPG専門の補助ツールではなく、なるべく全ジャンルを対応できるようにしておきたいところだが、簡単な内容とは言え分かりやすいゲームを作れるのだろうか?
とにかく、SEOの試作版がようやく形になった。
「サンプルゲームは……ツクールだって5〜6あるんだ、それくらいバンバン作ろう、白卓で手分けして何個か作るんだ」
「既に日隈は作りたいものが決まってるそうだ、他何かあるか?」
「だ……だったら私も作るぞ!ポケモンとは言わずともそれっぽい収集系モンスターRPG!」
「あっ、ボクはサウンドノベル作ってみたいかも……暇だったからゲームブックも色々作ってみたけど、そろそろボクもそういうゲーム作りたい!」
「じゃあ俺も暇だし……So…ゴニョゴニョ、まだ思いついてる奴のネタがあるんだよ、バカゲータイプで」
「とすると予約はサフィーナ、鈴蘭さん、日隈と能登、琥珀……あと1枠くらいは欲しいよな」
「よしじゃあネットで呼びかけてみるか、SEO試作段階完成したので、サンプルゲームを作ってくれる方を募集しますっと」
こうして琥珀がブログ感覚で近況を報告して、相談すること数時間。
瀬尾が日隈に試作型SEOが完成したとメールを送って、ようやく帰ってきたのだが……。
「お……お前、めっちゃ満喫して帰ってきてるじゃん……」
「うん……僕もこの1日で全部消化する勢いとは思わなかった」
「無駄を取り戻すために必要なことだ」
能登は邪魔されたくない気持ちとゲームを優先すべきという感情、おまけに引きこもってた分を取り戻す勢いのタスク消化によってたった数時間で数日分の思い出作りを一気に進めてしまった、なんで青春でRTAしているんだコイツら。
何はともかく、ゲームエンジンとセットで追加されるサンプルゲームの開発が始まるのだが……その前に能登が試運転を行う。
起動してみると、始まって早々画面に複数のチップセットとテンプレートが開かれる。
「作り対ゲームに応じて様々なテンプレを用意した、もちろんRPGからアドベンチャーを作るのも自由だが……」
「UIデザインが見辛い、公開するときにはもう少し分かり易くするぞ」
「それはそうだな……サンプルゲームは今現在3種類決まっている、日隈は前もって作りたいゲームがあると聞いたが」
「あっ……うん、実は僕元々はらいかさんを説得するためと、また世に出したいという気持ちによるものだったんだけど……」
「オレが昔一人で作ってた頃のゲームを作り直したいんだってよ」
「えっ……もしかしてクリエイター流の惚気話を聞かされてる?二人の共同作業で物作りってもしかしてボク全年齢のいい感じの表現見せられてる!?」
「おい猥談好きが反応したぞ」
「初めていい大人をしばきたいと思ったよオレは……」
「ご……ごめんなさい、二度とからわかないから踏むのはやめて……いや本当に足のその部分はやばいから!」
「あと1枠……あと1枠に関してはどうだ?」
「エグいなんてものじゃない……作らせてくれってDMがパンパン来てるぞ、みんな相当ゲーム作りに飢えてたなコレ…」
白卓の公式垢代わりの琥珀のアカウントはもう既に百を超えるサンプルゲーム制作の応募が来ていた。
その中には当然北宮や七夜達らしきものもあるが、それ以外にも調べたら代表作は何かしら浮かぶような腕利きのクリエイターばかりである。
これだけSEOが期待されている……というよりは、ゲームを作れる環境が一刻も早く欲しいと見た。
「しかし誰にするか……個人的には北宮がいいんだけど身内びいきになるか?でもなぁ……」
「なんでもいいが選ぶのは早めにしておけ、コンテンツショックの影響がまだ根深いとはいえ代わりの制作ソフトを作ってるのがオレ達だけとは限らないぞ」
そう、当然ながらゲームを少しでも早く作れるように期待を込めてツールを開発している企業などいくらでもある、瀬尾も想定していたので出来に影響を及ばさない程度に急いでいた。
権利や名誉を独占するつもりは……少しはあるのかもしれない、だって自分の名前使ってるくらいだし。
そんな事はともかくサンプルゲームの制作……といっえも、今回は簡単な内容なので数人に分かれて大部分を個人で製作し、ひと仕上げを一気に済ませて確認し、これが全部上手くいけば『SEO』は無事に公開されるというわけだ。
琥珀としてはもう既にそこまで進んでいる事に驚くが……デスクを覗いてみると、そこにはもう既に資料があった。
これから先、どれだけの時間をかけても作り出して見せるとされる……100年先でも続くだろう作品。
たとえ自分がいなくなっても……問題ないだろうと。
だがそれよりも、今度は自分もゲームを作っていこうと手を動かすことにした……。
――――
「ではそれぞれ企画をしていこう、大まかに動かして遊べる範囲は出来たからな」
サンプルゲーム開始から3日、各自大雑把に動かせる範囲でプログラムをセッティングし終えた。
ゲームエンジンのおかげでほぼ一人でも多少それっぽいものを数値や記号、イベントを弄るだけである程度それっぽいものが出来るが……?
「どうだ?SEOの様子は」
「名前絶対に変えろ、なんか呼ぶ時ややこしくなるから」
「一応Selection・Orderの略称なんだが……そんなにダメか?」
「うーん……ちょっと我が出過ぎているというか……」
「お前がそれでいいのなら私は止めないぞ、よくわからないし」
「しかしサフィーナさんでも作れるのはいい宣伝ポイントになるな……それで、各自どんなゲームができた?」
振り返ってみる日隈と能登の作ったゲームは過去に2年かけて能登が作ったもの、必死になってコード繋いでプログラム組んでイラストなども頑張って勉強してなんとか出来たものが今となっては数日のうちにパズルのピースをハメ直すように出来た。
「自分の苦労はなんだったのかとは思わないの?」
「いいや?むしろあの程度あっさりあれくらいのものを作れなきゃこれから先話にならねえだろ」
「そういえばボク、昔の能登ちゃんがどんなゲーム作ったのか知らないなぁ……どんな作品だったの?」
「僕は1回らいかさんに遊ばせてもらいましたけど……確か横スクロールアクションで題材は熱と氷、電子レンジを人にしたような……そういう系統ありましたよね?」
「ああ異形頭?アレたまに凄く反応する人がいるくらいには結構人気らしいんだよね、その電子レンジ人間を主役にしたアクションゲームってわけだな?」
「そうです、20面くらいあって……」
「昔のやつはいいだろ、同じ内容じゃ通用しないことはオレが一番わかってる、だからオレは大まかなシステム周りを復活させ、アレンジを日隈に一任する」
つまり能登のゲームを元にして日隈が作るという、まるでマンガのコミカライズ方式のような形を取る。
しかしそれは……過去に自分が作り出した我が子のような作品を別の人間に託すことになる、たとえ信頼しているような人物だとしても相当覚悟のいることだ、不礼は自分の作品を誰かに書かせるということの深刻さを分かっていない。
「……作品を貸すってのは軽いことじゃない、作り直すってのは簡単じゃない、だからこそこの経験にはオレの人生を捧げてまでやる価値があるんだよ」
「……不礼を、そういう形で拒絶するのか」
「それはお前らが勝手にやってるだけだろ?オレ達はお前らが及ぼした影響以外は何も関係ない、橙には悪いがオレはアンタのことだって正直ここにいてはいけないと思っている」
「ま、それはそうだな……本来俺はそういう立場なことは分かってる……不礼の反省点が自我を出し過ぎたことと言っていたなら、俺の場合はちょっと行動が大胆すぎたか……」
「とは言ってもな能登、この人が嘘を言ってないなら出会って間もない頃は記憶喪失だろ?」
「記憶を失おうが人の本質は変わらない……だが瀬尾の言うこともまた事実、まあオレ達も世話になったところも結構あるがアイツは……受け入れられないと」
「あいつ?」
「……お前のことより今はゲームだ、これだけ見て判断しろ……続きはオレ達が判断することじゃないからな」
「あっ、らいかさん……失礼します!」
能登はまたゲーム作りに戻り、日隈もそれを追いかけるようにデスクに戻った。
琥珀は能登から受け取った手紙を開くと、そこには更に2つの紙。
まず片方を開いてみるとそれは能登からだった、かつて不礼から『永遠に終わらない物語があれば』と問われたことを今になって思い出したらしい。
その時不礼にはそれなりの答えを返したが、一緒になって追いかけている琥珀にも答えを示すことにした。
「終わらないものに価値は無い、物語はいつか来る終わりに期待しているから人はこんなに夢中になれる、夢っていうのはその終わりを自分で決められる特別な時間だ……夢を放棄した人間は、立ち止まる意志を捨てて、もしもそのまま永遠に生きられるとしたら……口に出すまでもないよな?」
「……夢か、なんつーかあいつらしい答えだな……まあ、出来ることなら忘れないようにするか、それでもう片方は……彩月か……ぁ」
刹那、その手紙を見てゲームに取り掛かろうとした。
見たくはないが理解した、まるで旧世界の邪神の呪文でも唱えたかのように精神につよい揺さぶりをかける。
それは……誰よりも慕ってほしかった、桜井彩月からの決別の一言、いや……最初からあの頃から変わってなかったのかもしらない、僕はあそこから。
いつもの彼女らしくもなく、書き殴ったような……どこか悔しさを感じさせるような筆跡で記されていた。
「お前は私を『桜井彩月』として見ているが、全く手の届かない何かしか見てない、貴方はずっと後ろを向いたまま歩き続けてる……ねえ、もしかしてさあ、貴方って、まがい物しか作れないんじゃなくて、まがい物にしか興味がないんじゃないの?」
周囲のことをマガイモノとしか思えない。
マガイモノ……今も自分の中に残り続けている、謎の言葉。
きっとここでは理解出来ないのだろう……だって、見てたら自分自身を拒絶したくなり、涙が溢れる。
しかしこの涙を流せるのも……あと少しの間だけだろう。
「その……だ、大丈夫……ですか?」
「鈴蘭音牟、その……自分がいなくなった後、あいつを……彩月を頼むぞ」
「え?ああ……うん、いなくなるなら、そうなっちゃうもんね……後さ、凄い今更になるけど聞いてもいいかな?見た感じどこでもさっちゃんのこと……
「え!?ちょっと待て、桜井彩月って本名じゃないのか!?」
「えっ、うん……だって普通に考えて小学生を本名でクリエイターにさせるって危ないじゃん?だからさっちゃんは、ゲーム作るときだけ『桜井彩月』を名乗ってたから、学校とかだと全然違う名前だよ?」
「俺は知ってたぞ、妹の友達だって言ってたろ……むしろお前知らなかったのか?鈴蘭さんだってペンネームで苗字は鈴蘭にしてるだけで実際は全然違う……え?マジ?下手したら俺たちよりずっと長い付き合いなんだろ?それはさすがに記憶喪失でも擁護出来ないぞ、
彼女はまた別の『××××』であり、琥珀の『昔』が想定していた桜井彩月とは全くの赤の他人、それを彼が彩月であると思い込んでいた、それでも尚……自分は彩月ではないのに彩月ということにされてそれでも、琥珀に従い続けたのは何故なのか?
だが、今更それを考えたところで手遅れだ、無関心から進めなかった一言が残されている。
「まさにお話みたいなことを言うけど、死んだ人間は二度と戻ってこない」
「俺は物語が終わるまで一生ひとりぼっちってことか……」
孤独、永遠なる孤独。
どこまで生きてもどこまで抗っても……どんなに誰かを愛しても、結局は自分と一緒にはなれない。
これが自分の鎖であり生き残ってしまった罰だろう、一人で勝手に贖罪のつもりだった。
けど……忘れるな、人に忘れられた自分はもう精神的には既に死人である、いや違う。
あいつが覚えている、そして……あいつのことを覚えているのは自分だけ。
……前を進んで生きている人たちはもう関係ない、自分たちの知っているあれらじゃない、不礼の言葉を借りるなら顔と名前と設定が同じだけの赤の他人。
この時確かに夢が出来た気がする、かけがえのない夢。
「ありがとう白卓、ようやく俺は一歩進めそうだよ……皆の夢を更にダッシュして、ずっとずっと先へ行ける……よし!ちょっとゲームの内容を変えよう!」
そうして琥珀はついさっきまで考えてた企画を全部捨てて、その場で新しいゲームを考え始める。
止めようとは思わなかった、過去最高にいい気分になった。
この思い出をずっと忘れないように……形になるように。
創作とは結局自己解釈だ、自分がこう思った作品、しかし誰がどう思うかは出してみるまでわからない。
不礼はそんなの気にしない、誰がどう考えてようが相手の予想などどうでもいいから、ネタにならないから。
だから創作は時に素晴らしい、自分のエゴを遠慮なくカタチにできるから……!
「出来た!!出来た出来た出来た出来た!!初めて俺はマガイモノじゃない存在を作れたんだ!!そして俺は……もうマガイモノじゃないんだ……」
「なんかあの人……記憶喪失から治ってからのほうがおかしくなってないかな……」
「世の中知らないほうが幸せなこともあるのかもしれないな……」
……こうして、白卓によるサンプルゲームがあれこれの話は終わりを告げた。
しばらくしてサンプルゲームのバグ取りやテストプレイも行い、SEOは問題ないと判断。
すぐさま公開されるとゲーム自体の反響は少なかったがSEOはたった一ヶ月で10万ダウンロードを記録。
コンテンツショックのうち、ゲーム作品はこの勢いでいけばインディー界隈は巻き返せるかもしれない。
しかしそれでも増えていっても、失われたものは戻らない。
クリエイターの熱意は場合によっては戻ってこないこともあるだろう。
それでも成し遂げた、白卓は大きな偉業を成し遂げたはずだ。
コンテンツショックで失われたものは大きい、日本の情勢ごと立て直すのはかなり時間がかかるだろう。
それでも……彼らがやってきたことは無駄ではないことは、これから作られる作品達が証明してくれるだろう。
「らいかさん、まさか……面白いゲームを作るはずがこんなことになるとは思わなかったなぁ」
「そりゃそうだろうな、ゲームや漫画どころか生活に必要なものまで丸ごと消えてなくなるとか予測できたやつはいない、だがコンテンツショックの影響はそれだけじゃない」
「えっ、まだ何かあるんですか?」
「考えても見ろ、世の中は可能性が出た時点でアウトとかいう言葉がある、たった1回でも前例があるだけで危惧するんだ、もう1回コンテンツショックが起きたら?とな」
もしもう1回突然脈略もなくコンテンツショックが起きたら?せっかく作り直してもまた突然奪い去られて、長年の苦労が2度も無駄になってしまったら?
同じ事がもう1回起きる可能性が1%でもあるというだけであまりにも怖い、おまけにこれは人間では太刀打ち出来ないほどの理不尽によって起きた事件だ。
だが白卓は諦めない。
「どんな理不尽が待ってるか分からない程度で怯えてたら何も作れねーだろうが」
「これからもよろしくね、らいかさん……ああそれと、インディーサークルで頂点決めるつもりなら、今後は生活についても考えていきますよ」
「……その辺のプランはまたあとで考えるとしてだ」
「ダメですよ、今後の人生に関わってくるんですから……僕聞きましたよ?らいかさん留年することも計画に入れてたって……ちゃんと卒業してもらわないと」
「くっ……こういうところ厳しいな……」
しかし厳しいのは日隈だけではなく、コンテンツショックがもたらしたことによる爪痕と異常はここからが本番であることを……能登はまだ知る由もなかった。