あれから2年、日隈と能登ももう少しで卒業、晴れて成人という段階になっていた頃。
琥珀が去る直前に買っていた新しい職場も、あの頃はかつての白卓を表していた最初のようにさっぱりしていたが私物やトロフィーなどが飾られて随分と派手になったものだ。
「ごめん!ちょっと遅れちゃった」
「何やってるんだよ日隈、一番の主役はお前だぞ?」
瀬尾もこの日はスーツを着こなして正装姿、すっかりプログラマーが板についてバッチリ決めている。
……この日は白卓にとって大事な日、そのためデスク内をちょっと弄ってパーティを開こうというわけだ。
その為、今回は色んな人も既に集まってきているが……。
「……ん?おい、能登はどうした?一緒じゃないのか」
「あの人こういう時ギリギリにするから……絶対間に合わせるとは言ってたけど……」
「あいつはなぁ……ピクセルサミットの時もそれでバタバタしたよな、申請も介さず飛び入り参加しようとして音牟さんが強引に止めたんだよな」
「うん、あの時の迫力見てたらやっぱり音牟さんちゃんと男なんだなぁって実感したよ」
「あれ?今ボクの話してた?」
「あっ、音牟さん!」
瀬尾と話しながら奥に進んでいくと、ちょうど瀬尾よりもスーツをきこなしている鈴蘭音牟と会う。
2年経っても女性のようなゆるくて小綺麗な顔は変わらないが、筋肉をちょっと付けて男らしくなろうとしている、そろそろ結婚願望があるらしくその上で美女と仲良くなりたいらしい。
だが何よりも異様なのは……つややかな肌、しわ一つない顔。
「音牟さん……なんか気の所為かもしれませんが、全然老けないですよね、確かそろそろ30ですよね?」
「ここに能登まで加わるからファンの中で性別バグが……」
「ボクとしてはそろそろ女性ファンが欲しいんだけどねえ……未だに女の子と思われることもあるし」
「それは本当になんとかしてないと困るんだよねむ兄さん、ウチのブランドでも色々言われてるんだから」
「あっ、桜井ちゃん」
音牟のそばにきたのは桜井彩月……本名、水神三月。
あれから音牟は白卓黒卓両方のイラストレーターとなり、暇な時に各自の絵を担当しているが絵本作家に復帰する道はないらしい。
彩月も完全にAIを使いこなし、七夜が特別こだわった作品を引き立てるためにAIによる安値で軽く遊べるミニゲームを量産、合間を見て七夜の作り出した高クオリティの格ゲーエンジン流用のゲームを作成しているらしい、七夜は何やら諸事情で残念だが欠席しているものの日隈にメッセージは残している、能登のことを諦めてからは随分とさみしい顔をするようになったがゲームに没頭しているのは相変わらずらしい。
その一方で彩月はたまに日隈にちょっかいかけてくる。
「ねえ日隈さんさぁ……次作はもう考えてるんでしょ?私にも何か教えてよ」
「さ、桜井ちゃん……もう中学生になるんだからそんなにベタベタしたらまずいよ」
「その中学生を相方にしてる黒卓のあの男はどうなるんだ?」
「確かに……ところでなんか、デスクに対して人が多くない?」
「そりゃまあ……2年で色々やったからね、ピクセルサミットのこともそうだけどここまでやるために色々頑張ったからね」
「むしろ俺等が琥珀いなくなってからダイジェストみたいな勢いで色々ありすぎたからな……兄貴の走馬灯追うこともあった」
そう、ここでは話せない……というよりは不礼が今更聞いても『どゔでもいい』と返されてしまうのがもったいないかもしれないくらいには色々あった、しかしそれを話すにはあまりにも面倒すぎるがそれによって様々な人脈や交流も得た。
もちろん白卓や黒卓も2年でメンバーが増えたがやってることとしては相変わらずなので、ゲームを作ったり何かあったりの日々ではあるのだが……。
「そういえば叔母さん見てない?母さん来れないからって代わりに来たんだけど」
「え?朝日さん来れないの?せっかくボクが誘ったのに」
「それがさあ、例の不礼勇の話をしたときから近くに行くのも怖いって言うんで叔母さんに泣きついてきたわけ」
「ああ……不礼先生が20年前になんか時間をどうとか言ってたけど、もしかしてそれに関わって……?」
「あっその話はボクも館長さんから聞いたことあるかも……で、その館長さんがなんでかあそこに一緒にいるけど」
音牟の指差す先には何故かバチバチと静かに、しかし青い炎のように未だに確執を感じるような争いの種を感じるような二人の姿が。
「おう相変わらずあのボロっちい店の背中追ってるのか、暇つぶしも20年続けば酔狂になるものだな」
「私としてみれば……貴方が児童館をやっていたことに驚きだけど、あの絵本も保管するなんて何の気まぐれ?」
「大人買いして独占した奴の一角に言われたくないんだが?」
「……ねえさっちゃん、
「さ、さあ……?館長さん、昔はワルい人だったとか言ってたからスケバンとかやってたんじゃないの?」
どこか古い因縁がありそうな二人はさておき、音牟も彩月と仲良くしている人たちで集まっているので離れて別のところに行くと……何やら細々と震えているものがあり、瀬尾が手を掴んでみるとそこに現れたのは……サフィーナ・ブルーだった!
「何してるんですかこんなところで」
「何してるとかじゃない!!なんでここでやるんだ!!ここはもはや私の家だぞ!!」
サフィーナは唯一パーティに乗り気ではなかった、やること自体は嫌ではないがこの場所でやってほしくなかったところはある。
あれから2年、サフィーナは人工衛星を作るアテもなかったので光線銃型おもちゃを作ったかと思えばその次にはカードゲーム、その次には太陽光を使うゲームソフトなど奇抜なものを作ってはしっくりくるものを模索していたがやはりサテラビューに勝るものはないということで、要するにスランプなのである。
「やはり私にはあれしかない!!しかし人工衛星を用いたゲームなんてものから類似品を作る事もできない……絵は鈴蘭音牟がやっている!私にあるのはCGと3Dプリンターだけ……ブツブツ」
「あんまそんなこと言わないほうがいいっすよサフィーナさん、周囲からすれば嫌味っぽくなるから」
「そうですよ……下手したら貴方、白卓の中で一番売れてるんですから……なんですかあの遊園地」
「あんなもので満足できるか!!」
日隈達が言っているのは、過去にサフィーナが根城とした廃墟を改造した秘密基地、あれのようなものを廃村を買って丸ごとテーマパークにしてしまったらあれがびっくりするほど売れた、しかしサフィーナは下よりも上、サウンドリンクゲームのあのトキメキを超えられる気がしないという。
まるでリアルさながらのミリタリーな雰囲気がマニアを熱狂させたのもあってか白卓三大美女として数えられている……まあ、その内の一人は男なのだが。
「私がスピーチしろとうるさいんだ!やだやだ絶対やだ!瀬尾!権利はくれてやるから好きにしろと言ったじゃないか!」
「改造した廃村の管理とかどこのシミュレーションゲームでもやりたくない、だから俺はヌルゴンランドにしておけと……」
「それにほら、世界各国に面白いものを届けるって夢は叶って……」
「人工衛星を使ったゲームを作りたいんだわたしは!!」
「手段と目的がすっかり逆転している!?」
こうなったサフィーナはもう仕事は出来るがすっかりどうしょうもない人になってしまった、改めてこのサークル、あくまでインディーにすぎない、テーマパークとか作ったり色々やってるけどあくまでインディーに過ぎないというのに大丈夫だろうか?
しかしサフィーナは白卓が見ておけば大丈夫だろう、別の席に行ってみると……そこにはもはやお馴染みとなったライバルと思ってる企業、アクションゲームの総本山『マスクウェア』の関係者。
つまり北宮と星谷も参加していた、この2年で色々あったようななかったような……?そんな中でも交流が深かったのが北宮だ。
「やっぱり来てくれたんですね北宮さん!」
「ええ、私もちょうどヒマしてきたしなんとかね」
「簡単に言うなや……抱えてるプロジェクトも多いってのにどんどん仕事回すんやから……北宮もようそれでピンピンしとんなぁ、心を交換でもしとるんか?」
「なんというか……2年経ってもそっちは変わらないっすね」
「変わる余裕がないと言っておくで、お前らもいずれはそうなるんやからな」
星谷が実際に仕事としてやるゲームづくりの苦労などを酒の鈕にして話している中、ようやく日隈に連絡が入った……かと思えば足音に人影。
手を伸ばすが絶妙に届かない手が日隈の頬に当たる。
「誰だ」
「あ……あの、らいかさん、当たってるんですけど……」
「あててんだよバーカ、お前が2年ででかくなったんだ」
2年経って少しは変化した……ようで小綺麗になったぐらいで成長度合いでいえば日隈にも負けている能登、周囲からイケ女で同性人気はぶっちぎりで高いのだが、良くも悪くも彼女だけは相変わらずのようだ。
何せこれまでの生活で2人の仲が進展したこともない。
「らいかさん遅かったじゃないですか!もう時間ギリギリですよ!」
「申請とか初めてだったからな……分からない事が多かったから母さんにも付き添ってもらったしな」
「なんやなんか出してきたんか?お前にしては結構焦っとるみたいやしなあ」
「あっ、はい……らいかさんも来たし、そろそろ全員に伝えますね」
日隈は申し訳なさそうな感じで能登を連れていき、席の一番目立つところを用意して隣合わせになるように伝える。
もう既にパーティは始まってるみたいなものだが瀬尾が電灯で電気をつけてようやく言葉を出せる段階に入った。
「あっ……えっとその、らいかさんから話すのは……」
「何言ってんだよやったのはオレだが元はお前だ、ちゃんと勇気出せバカ橙」
「そ……そこまで言うなら……えっと皆さんに報告します、えーこの度白卓から大事なお知らせといいますか……まあ大したこと……ではあるか、この度その……籍が変わることになって、今から僕、日隈橙ではなく能登橙ということに……」
おそるおそる歯切れの悪いような言い方でちょっとずつカミングアウトした日隈の発言に周囲は沈黙に包まれた。
今日から能登橙ということは、橙はつまりそういうことであり、能登がやってきた申請というのはつまりそういう……線と線が繋がった結果、真っ先に乗り出したのは北宮のグーパンだったがそれを陰キャ特有の危機察知能力でかわし、それを引き金にして一同が乗り出す。
瀬尾と音牟も裏切って一緒になって殴る蹴るに混ざりそうになっている。
「歯ぁくいしばれお色直しよ」
「やめてください!」
「まさかとは思うがこの為にこんな大規模なことしたんじゃないだろうな!?つまり今回は」
「ああ、オレ達の結婚式だが?」
「んなもん公式アカウントでサラッと報告しとけや!!ワイらはてっきりピクセルサミットのあの件とかインディーの大きなアレとかで記念に祝ってきたんやないかと思ったんやで!?」
当然のごとく怒り狂うギャラリー一同、確かに普通ならゲームサークルで祝い事となれば何かしらで賞を取ったとかそういうものだと思って祝いに来てるのに、突然サプライズ感覚で結婚報告なんてされたら祝うことなんてできるわけないので大パニックに陥る。
「どうするんだよ結婚なんて……まさかここで式やるつもりだったんか本気か!?俺だって初めて聞いたぞ!?」
「オレは本気だし結婚決めたのも最近だからな」
「ご、ごめん!僕は予定だけ決めていたんだけどこんなに早くらいかさんが行動するなんて思わなくて……」
「どうしようボク想定外だったからご祝儀なんて包んでないよ!」
「今七夜さんに能登さん結婚式するってメール打ったらダッシュで向かうって来た」
「こうなったら私たちも今ここで結婚式しない星谷」
「アホかぁ指輪の1つもないのに結婚なんざ出来るか!!……いやでも北宮ならギリそれでも通せそうな気ぃしてきたな」
「しっかりいたせー!!」
一応晴れ舞台だというのに北宮達は騒いだり物が飛び交ったりでカオス空間に早変わり、サフィーナはマジで憎悪を向けてくるしで普通の結婚式だったらもう既にぶち壊しムードだが瀬尾はなんとかこの空間を維持しようと質問をする。
「お前ら……結婚って早くないか!?まだ高校を卒業するまであと少しって段階だぞ!?」
「だからこそだよ、学生生活あと少しでこれからは大人だ、だったら早いこと身の回りの準備くらいできるように整えておいたほうがいいだろ」
「これからさきもっと忙しくなるから籍を入れるくらいさっさとやっておこうって……」
「そ……それで日隈が納得しているなら俺たちにとやかく言う権利はないが……」
瀬尾はどうにも心の底で気になるところはあるものの、普通にこの二人が進行しようとしているのなら良しと言うことにしておくかと思考放棄というより諦めの境地に入る。
考えたら止まらない男と、やるからには止まらない女。
こんな2人が夫婦になってしまえば本当にブレーキも化からず突っ走ってしまい、瀬尾達はこれから追いかける為に余生を過ごす事になりそうだ。
それに気付いた瀬尾はサフィーナと音牟の肩を叩き、合図を送る。
これは予行演習だ、コイツラはこういう奴らなんだって前もって分かっておけば最低限のトラブルはスッキリできるのだろうか?
日隈は空を見上げる、琥珀はこんな自分達をどこかで見ているのだろうか?あの海の中捜索されたが琥珀がいた痕跡は見つからないまま。
不礼と琥珀は本当にあの時夢のように粒になってしまったのだろう、しかし思い出をゲームというカタチで残してくれた……そしてこれからは、能登がそばにいてくれる。
かつてはコンテンツショックで色鮮やかな模様のように活気があった世界、しかし神無き今それは白く塗りつぶされ、人々は虚無の恐怖を抱えて生きている。
だがそれも終わる、この真っ白なキャンバスのように創作に飢えているこの街を白卓が塗りつぶしていく日々が始まるのだ。
不礼と琥珀が見ていてくれる。
「ねえ日隈さんさ、結婚するんだったら能登さんにキスの一個でもしてみたらどうなの?」
「おっそうやんキースキース」
「そうだな、もう少し日隈は大胆になってみろ、そうしないと一生尻に敷かれるぞ」
瀬尾の後押しと彩月の問題発言で遂に能登も余裕が崩れ何か反論でも言おうとしたが、もう既に日隈は能登の頭をがっしりと掴んでいた……今からでも接触するかのように。
頭を大きく振って抵抗する能登に日隈はしょんぼりとした顔をする。
「……のとさん、やっぱり僕とキスしたくないんですか」
「ここでしたくねえってやってんだよ!!どんな公開処刑だ!!」
「唐突な結婚報告でみんなに迷惑かけたんだし突然キスされても文句言えない立場だよねー?能登ちゃん」
「そういうことです……いきますよ」
「お、おい待て!!悪かったからちょっと止めっ……そういうのはオレの部屋でっんんんうううう!!?」
その瞬間あまりにも強烈で熱い口づけが人々の目を釘付けにした、この日初めて……日隈橙改め『能登橙』生誕。
存分に旦那の味を口に含むことになった能登は、それからパーティが終わるまで後ろに隠れて一言も発することはなくなってしまった。
そうして結果的には良い感じに結婚式は終わったのだが來暇はしばらくこの件を白卓メンバーにイジられることになるのは別の話。
そしてその後にあったことを軽く説明する。
・北宮と星谷
「籍が変わるわ私も『星谷』よ」
「いやどうしてくれんねん……マスクウェアの奴らになんていえばええんや、今後産休とか通るんかなゲーム界隈って」
あのあと本当に北宮は星谷と電撃結婚を決意して行動、愛というよりは能登への対抗心とゲームのネタにするためのリアルな夫婦生活のためということらしい、北宮のことなので建前とかじゃなくて本当にそうなのだろう。
なんなら、彼女は能登もその為に日隈と近づいたとばかり思っていたので話してみるとわりと本格的な交際だったので驚いているところはある、彼女にも人間らしさがあったということだろうか。
「じゃあお前、興味なくなっならワイと離婚するんか?」
「もちろん、バツイチになるのも貴重な体験だし」
「ワイとしては洒落にならんわ……あー絶対子供作らんとこ……」
・黒卓
七夜と彩月は結婚してから完全に街を離れた、二人への想いへの決別のつもりらしく今でも何かしらのゲームを作っているようで最近は面白いネタを見つけたらしい。
最近では『水神三月』としての交流も多い。
そして……コンテンツショックの混乱もようやく落ち着き、失われたものは帰ってこないと受け入れられるようになっていき……後少しとすれば復興の目処も立ってくるだろう。
特に最近は新しい番組も作られて、これからは新しい時代となるだろう。
それでも能登來暇は変わらない。
「これで終わると思ってたのか?橙、ゲームでエンディングを見ればもうやらないのか?出来るなら同じことを繰り返して見たくないか?」
頂点を取ること……景色を見ること、それさえもまだ通過点に過ぎない。
一度体験しても……今度は繰り返し体験することが出来る。
何度でも何度でも優れたゲームで感動させてやる、チャンピオンのベルト防衛戦のように憧れを通り過ぎて、新しい夢の為に進み続ける。
「いざ良い感じに夢が近づいてみればオレはまだ全然満足してねえ、だからこれからももっと……出来れば生涯現役でインディーでゲーム作り続けるぞ、橙」
「ええ、僕でよければいくらでも付き合いますよ!」
ゲームがクリアしてもいくらでも続けられるように、彼らの激闘は終わらない。
歴史が続く限り、白卓の激闘も人生も続く……まるで『結末の無い物語』のように。
ひとまずこれで、日隈橙の物語はおしまい。
そして世界は新たなる層…『白』から『桃』へと世代交代する。
「なりたい!!絶対なりたいです!!」
時は経ち、強い憧れを持つ少女がまた一つ進化した時代で夢を追いかける。
NEXT STORY……?
第二層『白卓』
【おしまい】
ということで、Wikiにも書きましたがD世界線は全作品が一つの世界観で繋がっていくつもりで進行することにしました。
前後の作品で言えば今回で言うと魔法少女にあこがれて→白卓→次回作の桃の園となります。
なお、この流れで前作版権キャラが出てくるのは基本的にクロスオーバーを前提として進行している今作みたいなもので次作で(今回で言えば能登達)が出るとは限りません、全部縦軸なので。
…それと前作今作とGeminiやGlokを使用して表現してもらった場面がありますが次作以降その頻度を増やしていきたいと思ってます。
その理由としては…これまで創作やってきた11年の設定ほぼ無駄になりかけてるので人力だけでは存在する作品達を消化しきれないと判断したからです、ご了承ください。
以上、D世界線メイドウィン小説をこれからもよろしくお願いいたします。