琥珀のメルアドを通してすぐに返信を送る日隈、シューティングゲームに関しては多少分かった、デザンスXを使えばゲームを作ること自体も容易だが……大事なのはどうやって個性的で面白い作品にしていくかという大まかなコンセプト。
シューティングの肝は如何にしてスコアを伸ばす手段を用意して熱狂させるかにあると思うが……過去の歴史のような画期的なものが思いつくか怪しいと送るとすぐに電話が来た。
「なんで番号まで知ってるんですか!?」
「まあまあ、プロモーターを舐めちゃいかんよ」
「プロモーターでもそこまでは出来ない気がしますけど!?」
「さて、しっかりゲームについて学ぼうとしているのはいいがまだまだ弱音を吐いちゃいかん、まさかこれがうちの彩月とそちらのお嬢さんとの対決とばかり思ってるわけじゃないだろうね? ……自分もゲームのネタを考えて、彩月と能登ちゃんに送っている」
それだけ言うと電話が切られて……そういうことだ、これは単なる能登VS彩月のSTG政策対決ではなく、日隈VS琥珀のアイデア提供対決でもあったわけだ、自分がこのまま何も思いつかずにゲームのアイデアを提出できなかったら琥珀のネタが通る、そういうことだ。
自分は一躍話題になっているあの男と戦っている……?
「そんなプレッシャーかかるような相手でもねえだろ、第一ちょっとトレンドに乗っただけの個性がある変人だ」
そんな能登の励まし? もあって改めてゲームのネタを考えることになるが、バタバタして大急ぎでネタを考えても仕方ないので新しいノートを取り出してシューティングゲームのアイデアを考える、スコアを伸ばすことかま楽しさに繋がるためどうやって夢中にさせるか……というところ席を立つ、デザンスXのサンプルゲームにあるベーシックな要素も研究した上でやることはレトロな作品に触れること。
「ついてこい、オレんちにアテがある」
そうして場所を日隈から能登の家へと移し、向かった先は『能登酒屋』とあるいかにも古風な酒屋、ここに何があるのかと思えば……なんと、店の中にゲームセンターから引っ張り出してきたかのようなアーケード筐体が置いてある!?
帰ってすぐ母親と思われる店主が気付いて声をかけてくる。
「ああ來暇おかえりぃ、あの変なお面つけた人追い払っといたから」
「悪いな迷惑かけて、急でなんだがコイツ動かせそうか?」
「もちろん、來暇以外もたまにやってく客はいるしメンテもやってあるよ……おっ、もう友達まで?」
「あ……あの、ちょっと聞いていいですか? のとさんがゲーム好きなのはさっき聞いてはいるんですが、なんでこんなのが置いてあるんですか!?」
「オレが生まれる前はここ駄菓子屋だったそうでよ、酒屋に作り変える前に置き場所どうするかって時に金にもなるからそのまま置いとけってわけだ」
そんなこともあり日隈はお金を入れてゲームをやらせてもらうことになった……初めて触った素人でも分かる完成度、間違いなく当時を熱狂させたことは感じられる引き込ませるような出来栄え。
昔ながらの味があるドット絵は時代遅れを感じさせず、操作性も悪くない、使い慣れないレバー操作にオート連射のない攻撃……不便なところもあるがそれを帳消しにできる魅力があった。
それと同時に不安も感じた、これと同じくらいと言えずとも人々を湧かせられるものを考えられるのか?
ゲームをしながら悩んでいるところに……また、能登が助言してくれる。
「何も新しいことにこだわらなくていいだろ、元をちょっとアレンジすりゃいいんだ……昔の例えになるが、『ポケモン』だって流行ったときはこそっでモンスターを集めて戦わせたゲームが作られまくったものだぞ」
『数々のモンスターを捕まえて、仲間にして冒険する』というコンセプトはそのまま色んなゲームが歴史のなかにある。
例えば『携帯電獣テレファング』という作品はモンスターそのものを捕まえるのではなく連絡先を交換することで仲間になり、戦いの際に電話して呼び出すのだが向こうにも事情があり遅れることがあるという、携帯電話をシステムに組み込んだ画期的な内容をしていた。
他にもロボットカスタム要素を加えてパーツ収集という楽しみもある『メダロット』や、食材を集めてモンスター料理を完成させる『ビストロレシピ』など……何も完全なオリジナルを作らずとも個性は生まれる。
シューティングもそうだ、強化のバリエーションは実質自機を増やすようなグラディウスのオプション……攻撃の当て方で強化アイテムのベルの効果が変わるツインビーなど方向性を変える……巨獣バルディスで自分がやったことをどうにかシューティングで合わせればいい。
しばらく集中しているとお客が集まってくる、酒屋なだけあり集まってくるのは父親みたいな年齢のおじさんみたいな連中だが、確かにこういったゲームを遊んでいそうだ。
だが時間が来た、日隈の操作していた戦闘機が撃墜されて自機を失いGAMEOVERになってしまった。
「お──っやるなぁ兄ちゃん、うちの奴らでも3面まで行った奴はなかなかねえよ」
「あっ……はは、どうもです、ここの人たちもゲームやったりするんですか?」
「ちょいと暇を持て余した時とかにな、これが結構ハマるんだよ……來暇嬢ちゃんがたまに何かしら持ってきたりするしな」
「そっか、皆のとさんのファン……」
自分には才能がないと自覚しつつ諦めを知らないその思いで込められた作品で虜になったり夢を応援してくれる人が確かにいる、やはり彼女はとても立派だと思った。
……そんな自分に手を組んで欲しいと言って、家まで連れてってくれて、このゲームを遊ばせてくれた。
叶えたい、叶えられるか分からないとかうじうじすることはやめることにした、自分を信じたのだから最後までやってやる……そう決意していると、他の人のゲームプレイを眺めていたおじさんの1人が言った。
「ん? なんだよ、抱え落ちしてるじゃんか」
「抱え落ち?」
「ボムを残したままやられちまうことだよ、まあもったいねぇって意味だ」
STGの肝となるのが、消費式だが使えば全画面を一気に消し飛ばすほどの破壊力があるボム。
大体のゲームに備わっており使い所でスコアが大きく変わることになる。
「ああー……僕もついつい残しちゃうんですよね、RPGとかでもボス戦で全回復の薬をギリギリまで渋って、結局使わないままだったりとか」
「その手のゲームはいいがシューティングに悩む時間なんてない、ボムをいつ使うかでどれだけ進めるかも変わっていくんだ」
「ボムの使い所ってたとえばどういう時ですか?」
「ただ攻撃するだけじゃないぞ? 弾を消すのもあるが撃ってる瞬間は無敵になるからコレを利用して当たりそうなときにボムで避ける! こういう奴やってた時は基本とまで言われたテクニックだ、それが決まれば『ナイスボム!』って褒め合ったりもした」
「そうそう、そんで逆にビビッてすぐに使ってしまうと『チキンボム』なんて言われたりとかな」
「なるほど……」
ボムという要素でも色んな使い方がある、基本的にゲーム内でため込めるボムは3つ……限られているからこそここぞという所で決める事でハイスコアを目指すのが基本だったらしいが……ふと、考えを巡らせる、もっとボムが使えたら?
ボムが10個くらい使えたら……ただし増やすだけでは抱え落ちは少なくなるかもしれないが、使いたい放題で難易度が落ちることになりそうだ、そうなると……。
考えてるところに、お客が一人でケースまるごとビールを買っていた。
「おめぇこんな時間からそんな呑む気かよ?」
「こういうのは貯め込んだもの一気にバーっと開放するように飲むのが楽しいんだよへへへ」
「貯め込んだものを……一気に!」
まるで脳汁が一気に解放されるかのように冴えわたる感覚、思いついたらネタは鮮度が命。
能登酒屋を飛び出して新品のノートを買った後すぐに家に帰り、琥珀に電話を掛けながら設定を書き殴り始める。
「なるほど、思いついたって感じだな……言っておくけどデザンスXは制作ソフトではあるし機能も多いが、それでも出来ない事は出来ないことは忘れちゃだめだぞ」
「ならちょっと質問がありますが、デザンスXはボムの最大数を増やせるようにできますか?」
「可能だね、ちょっとスイッチを弄れば10個くらいならいける、自分それでボムをドバドバ使えるゲームを軽く作ったことあるけど何回ぶちかましても処理堕ちしないから凄いスペックだよ」
「……ゲームのアイデアが出来そうなので桜井ちゃんに繋いでもらえますか? もう既にゲームのネタを思いついたのなら、それも構いませんが」
「おいおい自分に振るのか? このまま君のネタをパクっちゃうことだって出来るんだぞ」
「それでも僕は構いません、このネタをどうしても口に出したい、のとさんでも桜井ちゃんでも形にしてもらいたい……世間的には貴方が考えたものだとしても僕は僕がゲームにしたものが見たい……
ただし今だけです!!」
「うおっ」
「僕はのとさんの家に行ってのとさんが色んな人に夢を支えられていたことを知った、それだけ本気で……立派で、そんな人が僕と一緒にゲームを作らないかと誘ってきたんだ、だから僕はのとさんの夢を叶えたい!! 僕の考えた僕達の作品じゃないとそれは叶えられないから、琥珀さんだけに従うわけにはいかないんです……ごめんなさい!!」
ここまでの人生でここまではっきりと物申したことがあっただろうか……能登の所に向かいながら、必死にがむしゃらになって走り出す。
これまでのタイムアタック感覚を思い出せ 、家の場所を思い出せ……1秒でも早くのとさんに会いたい、これを伝えたい、そんな気持ちで能登酒屋に辿り着くと、入り口前で既に彼女は待っていた。
「のとさんっ……はあはあ……待たせてすみませんっ、思いつきました……ゲームのネタ……!」
「おせぇよ待ちくたびれた……だが、上出来だ、桜井にも繋がっている」
「……というか、琥珀のすぐ近くに私いるから聞こえてるよ……なんかさ、ズルいよ……っはぁー……あんなこと大声で言われたらさぁ……将来本気で叩き潰したくなっちゃう」
……改めて、何やら火がついてしまった彩月を連れて琥珀も来て、能登の部屋でゲーム対決。
そう、まだ琥珀と日隈のアイデア勝負していただけでゲームに関しては何の進行もしていない。
改めて部屋に入ると2年引きこもっていたのも納得の散らかり具合だが、なんとスペースが確保されてる。
「うちの作業部屋も大抵コレくらい散らかってるから……」
「うん、自分ら座れる場所作る技術だけはプロ級になったんだよね」
「それははたしてゲームクリエイターに必要なスキルなんですか?」
それはさておき……日隈は能登と彩月が競うためのシューティングゲームのお題を言うことになるのだが……その場の空気が静まり返るような発言だった。
「あ……あの前もって、今から変なこと言うんですが……二人は、『納豆』と『シャンプー』だったらどっちがいいですか?」
「……納豆とシャンプー?」
あまりにも突拍子のない二択に、琥珀の声が裏返った。お面の下で冷や汗を流しているのが手に取るように分かる。
しかし、当の能登と彩月(琥珀のスマホ越し)は、日隈が息を切らしながら差し出したノートに視線を落としていた。そこには乱雑な字と殴り書きの図で、常識外れのシステムが記されていた。
デザンスXにおけるボムの最大保持可能数は10個。
日隈のアイデアは、このボムを「もしもの切り札」のために使うのではなく、「溜め込んで一気に開放する」ことでスコアを稼ぐというものだった。
「つまり……ボムを消費して放つ攻撃を、ストック数に応じてチャージできるようにするってことか」
能登がノートの端を指でなぞりながら呟く。
1個消費なら通常のボム。だが、これを撃たずに我慢して、我慢して、10個フルに溜まった状態で放てば、威力もスコア倍率も跳ね上がる必殺の一撃になる。
もちろん……どの数でもいい、5個でも2個でも。
「……正気じゃないね」
スマホのスピーカーから、彩月の呆れたような、しかし熱を帯びた声が響く。
「シューティングゲームにおいて、ある意味ボムは命綱だよ? それを攻撃のために、それも最大火力を出すまで多くて10個も温存しろっていうの?」
「内容次第じゃ3個や5個もボムを残したままステージを進めるなんて考えねえ……ゲーマーにとっちゃボムってのは攻撃じゃなくて最大の回避手段だ! それを封印して、高得点のために被弾のリスクを背負い続けるなんて、早々やらねえ……」
能登の言葉はシューターとしての本音だった。
死ぬくらいならボムを撃て。それが鉄則だ。ボムを抱えたまま死ぬ『抱え落ち』は、シューティングにおいて最も忌避されるミスの一つ。
だが、日隈のアイデアは、その『抱え落ち』のリスクを意図的に、極限まで誘導するものだった。
「でも、それを成功させて……もしも仮に10個貯めきって良いタイミングで放てば……簡単には埋め尽くせないほどのスコア差が生まれる」
彩月の言葉に、能登がニヤリと笑う。
一見すると悪魔じみた、完全攻撃特化のシステム。
自機の動き、敵の配置、ステージの流れ……その全てが「いつボムを溜め、いつどれだけ開放するか」という駆け引きのために再構築される必要がある。一辺倒な覚えゲーではない、極限のチキンレース。
「……それで、肝心の『納豆』と『シャンプー』っていうのは何なんだい? まさか自機が納豆パックだったり、敵がフケだったりするわけじゃないだろうね?」
琥珀が恐る恐る尋ねると、日隈は真剣な顔で答えた。
「チャージした後のボムの挙動ですよ! 10個分のエネルギーをどう放つか、走って来る途中でずっと悩んでて……」
日隈の説明によればこうだ。
『シャンプー』型は、押せば泡が溢れるように攻撃判定が全画面へじわじわと広がり、敵を巻き込んで消滅させる持続型。
『納豆』型は、ネバネバした糸が引くように、破壊した敵から次々と誘爆し、連鎖的に画面上の敵を絡め取っていく連鎖型。
どちらも爽快感の方向性が違う。だからこそ決めかねていたのだ。
琥珀は頭を抱えた。システムの比喩としては分かるが、まさかそれをそのまま採用する気ではあるまいな、と二人の少女の反応を待つが……。
「あっそれいいな、オレ納豆でいくわ」
能登が即答した。
「うん、私もシャンプーでやる」
彩月もまた、迷いなく答えた。
そして二人は示し合わせたように、それぞれの端末でデザンスXを起動し始めてしまう。
「いや待って!? シューティングゲームだよ何考えてるの能登ちゃん!? 彩月もなんか言ったらどうなの! 納豆ミサイルとか泡ビームとか、世界観が死ぬよ!?」
「別に真面目なシューティングゲーム作れなんて一言も言ってねえだろお面野郎」
「うん、別にコレ売りに出さない趣味の範囲なんだから、デザインふざけてもバチは当たらないし……むしろそのふざけた見た目で、中身がガチガチの硬派なシステムってのが却って面白くなりそうか気がする……特に今回はAIを使わないんだ、存分に私の脳みそだけでふざけられる!!」
琥珀の常識的なツッコミは、クリエイターの好奇心の前には無力だった。
決まったものには従うが、変な所に惹かれたりもする。それが彼女たちの性分らしい。
画面に向かい始めた二人の背中からは、先ほどまでの停滞した空気は消え失せ、バチバチとした火花のような対抗心が立ち上っていた。
一応ゲーム対決は始まった……には始まったのだろうか?
置いてけぼりにされた琥珀は、一つ咳払いをすると、日隈の肩にポンと手を置いた。
「……これさぁ、君がここに来るきっかけを作ったのは自分だし、そもそもこの対決の場を用意したのも自分だ。しかも自機のこれは自分が生んだアイデアってことでもあるから、僕らのアイデア対決は引き分けってことでいいよなぁ日隈くん!!」
プライドが高いのか低いのか分からない必死な言い訳に、日隈は脱力したように叫んだ。
「もうそこは好きにしてくださいよっ!!」
──―
こうして、デザンスXを用いて生まれるゲームがなんとも奇妙な2つの作品。
『ボムを貯めて一気に解放する』というコンセプトこそ受け継いだものの、完全に中身がとてつもなく個性的で一見するだけで凄まじいインパクトを放ちそうなものだが……。
改めて落ち着いたあと、琥珀と日隈は対談する。
「あの……えっと、誘ってくれたことは嬉しいのですが、電話で話した通り僕はのとさんと一緒に……」
「うん、実を言えば自分はどっちが勝っても君と能登ちゃんを引き込む気だったよ? だって2人揃ってほしかったんだから」
「え!? でも桜井ちゃんは雇わせずに欲しいって……」
「思ったより君に対抗意識燃やしちゃってさ、本当に乗っ取っていたかもしれないね……君が能登來暇の道連れになる覚悟がなければ」
「……つまり僕たちは一度貴方にコンビとして雇われるんですか?」
「当たり前だろ! 結果的に君等が彩月を動かすほどの熱意と技術を持ってることも分かった、二人揃って成立するなら二人まとめて入れるくらいの余裕はあるっつーの!」
琥珀はそんな風に大胆に発言して、書き初めで書いたような大胆な文字を日隈に置いていく。
そこにはただこう書かれていた……『白卓』。
「君たちのコンビ名だ! 大事にしてくれよせっかく考えたんだから!」