「不動遊星……なんて?」「今言ってたのってどっかで聞いたよな?」「そうだ、確か……浦嶋が前に書いていた!アニメのキャラ!」「じゃあ浦嶋の助っ人ってこの先生のこと!?」
突如新しく新任教師として日隈達のクラスに現れた男、不礼勇。
浦嶋蒼都の……ゲーム作りの助っ人。
なんと言えばいいだろう、それを見た日隈の最初の感想は……なんだか怖かった。
口ぶりは優しい、何か醜悪な本性が見えているわけではない。
なのになぜか……大きなプレッシャー、ゲーム的感性で見ればラスボスどころか裏ボス……いや違う、万が一遭遇したら逃げを選ぶしかないような負けイベント、あるいはレベルが高すぎて強すぎる敵エネミー!!
「どうした日隈くん、ゲーム作りの疲れが溜まっているのかい?」
「凄い汗だよ」
「っ……ちょ、ちょっと気分が悪くなってきたので保健室に失礼します」
「いいよ、俺が案内する」
どこかで見たような台詞が脳みそに無限に反発する。
『知らなかったのか、大魔王からは逃げられない』
多分どんな手段を取ってもどんなスキルを使ってもこの男には真っ向から挑まなくてはならない。
喧嘩をするわけじゃない、学祭でそれぞれゲームを作って公開するだけだ……なのに。
どうして震えているのだろうか?
その日はずっと教室に帰ってこず保健室で過ごすことになるが……なんと能登が隣にいた!?
「なんだお前も来たのか」
「ジェッ!!?の、のとさんか……」
「何をビビってんだ化け物でも見たような……おいなんだその顔、まさか本当に化け物を見たのか?」
――
経緯を説明する、情けないことに新任教師に対してオーラだけで大げさに怯えてしまったことまで。
しかし能登は怒ったりすることもなく、冷静に相手をしてくれた。
「つまりそいつが浦嶋の相方で、とんでもねえゲームを作ってるわけか……日隈、ゲーム的視点から見たアイツがどんだけ怖いかは知らんがアイツが相当化け物なのは間違いねえみたいだ」
能登は不礼勇という名前に何故か心当たりがあり検索してみたらビンゴ。
彼は教師になる以前は何回もコミケに参加して二次創作を何個も出している、それ以外でも色んなサイトで様々な作品に手を出している。
その頃にゲームを作った経歴はないが特別なんでも出来る天才と評判であり……創作経験で言えばおそらく、能登以上かもそれない。
「日隈、前もって言っておくが負け戦と分かって突っ込むほどオレ達も愚者じゃねえ、怖いならこのまま降りたって怒りもねえ」
「降りないよ、確かに怖いし始まる前から不安だけど……だからこそ玉砕覚悟で挑んでこそって感じがするんだ」
「お前、意外と男前なんだな……尻尾巻いて逃げたらシバいてたぞ」
「ついさっき怒らないって言ったじゃん!?」
保健室で今はじっくり休みながら不礼勇に対抗できそうなゲームを考える、まず浦嶋という学校内範囲では話題のイラストレーターを起用してるのが大きい。
既存のゲーム業界だってゲームのキャラ名より人気声優を押し出すのだから外部要素というのはそれだけで武器になる。
それだけでも不利だが、自分たちもゲームの構想を練る。
「のとさん……このプログラム期限までに終わるかな?」
「イラストは最悪フリー素材とか転載改変OKな着せ替えメーカーから使えばいい、言い出したのはお前だからな」
「そうだね、だからこそやれるだけやっていこうのとさん」
休める時に休んでるゲームを作り……自分達の思いで学校の人々を盛り上げる作品を作ろうと励むが……その一方で気が気でないのは……意外にも琥珀だった。
能登からスマホで軽く事情を聞いた……といっても能登の方も日隈の又聞きでしかないのだが、琥珀は冷や汗をかいている。
「不礼……勇!?まさかとは思うが……」
「え、何?知り合い?ただの新任教師ではないっぽいけど……」
「彩月?本気で言ってる!?……やっぱ、覚えていない?」
「覚えてないっていうかさ……最初近くにも聞いたよね、私たちって前にも会ったことあるの?」
――ゲームを白卓デスクで作っていた時、彩月は自分が琥珀に雇われた時の話をしていた。
当然、小学生の自分は最初から琥珀に目をつけられたわけでもないし親戚でもない。
何故か自分の所にまるで知り合いだったかのように現れて雇った、プログラマーとしての才能も見抜いてゲームも作らせていた。
奇妙なのはストーカーではなさそうなこと、調べたにしては未来のことまで見据えていたのだからこう考えるしかない。
私はおそらくどこかで……この人と深い交流があったはず、しかしそんな記憶はない。
自分と琥珀には一体どんな関係があったのか……?
それを知るために彩月は琥珀に協力してクリエイターになっているわけでもある。
「だから、もし何かあったら私にも教えて欲しいの」
そう言っていたので……琥珀が何かあるとなれば自分にも関係ある、そう踏んで彩月は琥珀に踏み込む。
「ねえ、不礼勇は何!?貴方とは……私ともどういう関係!?」
「まだあいつに触れるのは早い!!時期が来たら全部説明してやるが……今言えることはな、不礼勇は偽名だってことだ!」
……琥珀の目が本気だ、恐らく知ってしまえば何か不吉なことが起きるとでも言わんばかりには触れてほしくないようだ。
だが何もしないわけにもいかない、ゲームを作りながら不礼勇の事を調べることにした。
――
そして学校が終わると不礼はすぐに消える、教師なんだから生徒が帰る時間残っているはずなのだが、何故か「自分がその日やることは全部やった」として抜けているらしい、初日からあんな感じで教師としていいのかと思うかもしれないが、能登はふとある可能性を閃く。
「アイツって本当に教師か?ただ適当に名乗ってるだけかもしれねーぞ」
「え!?それはないでしょ!だとしたら突然現れてクラスの中心みたいな感じだけど全然何も関係ない不審者ってことに」
「まあそうだな、普通ならな……だからこそお前も気になってるんだろう」
今日はゲーム進行がてら不礼のことを調べているが、本当に不思議なことに二次創作を作っていたこと以外何の話も聞かない、まるでそれ以外は気にすることもないとでも言いたげなくらいに情報がない。
ただの人間が情報隠蔽なんてやれるのか?
こうなったら……危険な賭けだが直接乗り込むしかない。
「のとさん、少し一人で頑張ってもらうことになりますが」
「ナメんな、オレはお前と組む前からずっとゲーム作ってたんだぞ」
日隈は……意を決して浦嶋に話しかけた。
「え?せんせーの作業場に行きたい?」
「あ!その違うんだよ!?ネタをパクるつもりはなくてね……ちょっと先生のことが気になるというか、コミケで凄い当てたらしくて、どんな二次創作作ったんだろうって!」
「ああ、そうなんだ、せんせーに言えば作った作品の1つや2つは見せてくれると思うよ」
そんなこともあり、日隈は浦嶋に案内してもらい不礼の居る場所へ。
「……ここが先生の住処?」
「うん、せんせーが言うにはため込んだ作品を収納する為の保管庫にした別荘らしいけど」
そうして浦嶋に連れられてやってきた場所は、確かに彼が言う通り別荘と呼ぶにふさわしい大きな洋館だった。
だが、その佇まいは優雅な休暇を楽しむためのものというよりは、何かを封じ込めておくための蔵のような、静まり返った重々しさを漂わせている。
玄関の扉が開くと、そこには生活感の欠片もない空間が広がっていた。
「あっ浦嶋?」
「お邪魔します! 相変わらず凄い場所……いつ見ても図書館みたいだ」
浦嶋は慣れた様子で靴を脱ぐが、日隈はゴクリと唾を飲み込んでからその後に続く。
廊下を抜けて通された広いリビング……いや、そこは「資料室」と呼ぶのが正しいだろう。
壁という壁がすべて本棚で埋め尽くされ、そこには漫画、ゲーム、DVD、古い何かしらのサブカル雑誌が隙間なく、しかし病的なほど整然と並べられている。
部屋の中央には、年代の異なるテレビモニターがタワーのように積み上げられ、その周囲を囲むようにして様々なゲーム機やパソコンが、まるで何かの儀式の祭壇のように配置されていた、昔よく見た赤白黄色のコードまでスパゲッティコードに例えたくなるくらいにはこんがらがっている。
「やあ、いらっしゃい。散らかっていてすまないね」
奥にある多重モニターに囲まれたコックピットのようなデスクから、不礼勇がぬらりと立ち上がる。
散らかっている? とんでもない。床には塵一つ落ちていない。
それが逆に、この部屋の主が人間的な「生活」をしていないことを際立たせていた。
「それで、浦嶋くんから聞いたんだけど俺の作った同人誌(本)を見に来たんだっけ?」
不礼はにこやかに笑うと、客人のために椅子を用意するわけでもなく、そのまま自分のデスクの機材について語り始めた。
「ちょっと気になることがあるんですが、浦嶋くんと一緒にゲームを作る上で聞きたいことが……」
「ゲーム制作についてか?……もちろん俺はプログラマーじゃないからね。使うのはこれ、『RPGツクール』、それも最新型のMZだ」
不礼がノートパソコンを持ってきて画面に映し出されていたのは、日隈も名前だけは知っている有名な制作ツールだった。
プログラム言語を一から書けなくても、用意された機能を組み合わせることでRPGを作ることができるソフト、もちろんやり方によってはアドベンチャーやアクションまで作れるインディーの御用達。
日隈は少しだけ拍子抜けした。もっと得体の知れない、魔導書のようなプログラムを組んでいるのかと想像していたからだ。
「ああツクールですか……たしかにアレだったらそれなりに作れることは分かります」
「アレで作ったゲームは一通りやってるよ、まあアレも結構大変だけどね……ツール自体は誰にでも扱える素晴らしいものだ。まあでも今俺がやりたいのは『再現』と『網羅』だからね!」
不礼は部屋中の本棚を両手を広げて指し示す。
「俺はね、この世のあらゆる物語が好きなんだ。ファンタジー、SF、恋愛、ホラー……特定のジャンルなんて選べない。年代もだ!だからコミケに出ていた頃も『よろず』……つまり、1つの作品に絞らずその時々で描きたいものを手当たり次第に描くスタイルだったんだ、」
「いつまで同人をやってたんですか?」
「たしか12年くらい?というか今でも金にならない奴はやってるよ」
「12年!!?」
「もちろんその数だけどんどん漫画は連載されるし、ゲームのハードは増えてその数だけソフトも出来るからぜーんぜん二次創作に出来た作品はないんだけどね」
様々な物語に手を付けて特定の愛好ジャンルを持たず、全てを好んで作品を作る。
聞こえはいいが、それは裏を返せば「何一つとして特別ではない」ということではないか?
日隈の背筋に、冷たいものが走った。
「そう、12年かけても全然足りない……作り直したり振り返って出来に納得いかないことも多いからね、人の手というのはあまりに遅い。脳内で組み上がった世界を出力するには、人生という時間は短すぎるんだよ。だから俺は、浦嶋くんみたいにどんどん仲間を増やしたほかに、最近流行りの生成AIも積極的に導入している、シナリオの書きたいところ以外……AIは俺の手足となって、膨大な『好き』を形にしてくれる」
「……AIを、手足に?」
「そう、俺という演算装置(ハード)に接続された、優秀な外部出力端子!今ではこうして書いてるんだ、そうでもしないと時間がない、絵は浦嶋くんみたいな好きでやってくれる人に頼めばいいしね」
「せんせーは効率化の鬼だからなぁ」
浦嶋は無邪気に笑っているが、日隈にはその言葉が、クリエイターの情熱というよりは、工場のライン管理者の言葉のように聞こえた。
創造の喜びではなく、ただひたすらに「数」を、「データ」をこの世に生み出し続けることへの執着。
――琥珀さんが警戒するわけだ。
日隈は、不礼の許可を得て、本棚の一角に並べられた同人誌を手に取ることにした。
AIを使うようになる前、不礼勇がまだ自分の手だけで描いていたという、過去の作品群。
それを読めば、この男の「核」にあるものが分かるかもしれない……とはいえ、本当に手あたり次第作品を
「どれでも好きに読んでいいよ。昔の拙いものだけどね」
日隈が手に取ったのは、数年前に流行ったとあるバトル漫画『レッドスプライト』の二次創作本だった。
表紙の絵は、浦嶋が尊敬するだけあって確かに上手い。プロ顔負けの画力だ。
だが、ページをめくった瞬間、日隈の指が止まった。
「…………え?」
そこにあったのは、日隈の想像だにしないものだった。
いや、形式としては漫画なのだが、コマの中に描かれている情報量が異常だった。
背景の群衆一人一人の表情、建物の看板の文字、飛び散る瓦礫の破片……それら全てが、メインのキャラクターと同じ熱量、同じ線の密度で描かれている。
主役も、脇役も、背景も、エフェクトも、全てが「等価」。
そこに「抜く」という概念が存在しない。
読みやすさを考慮した視線誘導も、感情を乗せるためのデフォルメもない。
まるで、3Dスキャンした現実をそのまま二次元に押し花にしたような、息の詰まるような緻密さ。
だが異様なのはその中身……。
パラパラと他の原作本もめくってみる。
恋愛もの、ギャグ、ほのぼの日常系……ジャンルは違うはずなのに、読後感は全て同じ。
完璧で、精巧で、そして決定的に「心」が欠落している。
「どうだい? 楽しんでもらえたかな」
不礼の声が、先ほどよりも少しだけ低く、近く聞こえた。
日隈は本を閉じる手が震えるのを必死に抑える。
これは、人間が描いたものじゃない。
あるいは、人間の皮を被った何かが、人間の「創作」という行為を模倣(エミュレート)して出力した結果だ。
保健室で感じた「大魔王からは逃げられない」という直感。
それは恐怖心からくる妄想なんかじゃなかった。
この男は、不礼勇は、クリエイターではない。
物語という世界を管理し、弄ぶ、絶対的な『運営者(ゲームマスター)』だ。
日隈の中で、不礼に対する疑念は、確信へと変わっていた。
軽く会釈して、白卓デスクに戻ろうと逃げるように去っていくが、不礼は漫画を読みながらその後姿を窓から眺めていた。
「あの子さ、ゲームの題材にしたいんだよね」
「え!?日隈くんを……一体どんなゲームを作るんですか、一応学祭の出し物ですよ?」
「まあね……それにしてもさあ、アニメも、ゲームも、漫画も、特撮も……まあ、気分によっちゃドラマも、面白いよね、面白いから……面白いからさ、書きたい」
「俺はせんせ―の書いた『マジンガーVSゲッター』が本当に好きです!……次は何を書くんですか?」
「そうだな、次か……うーん書くまでが悩むんだよなぁ、でもまあ気軽に考えるよ、まだ手を付けてない原作は山ほどあるんだから、そうだよな?『白卓』……」
――
白卓に行こうとして居ても立っても居られずに彩月が待機していたので
「それで不礼の作品を見て来たのね?」
「はい……その、何と言ったらいいんでしょうか、あの人の同人は中身が変でした」
「変?二次創作なんて大体変だと思う……オリ主とか、存在しないカップリングとかありふれてるのがあの手の界隈だけど」
「ああいや、僕はその手のモノには詳しくないんだけど違和感というか……まるであの人だけ全く別のものが見えているかのようでした」
日隈は語った、なんとなく知っている作品の二次創作を見たが……解釈が異なるというよりは別次元のように感じた、同じものを見て作品を作っているはずなのに……二次創作である以上下地があるのにそれに類似した何か、マガイモノに見えた。
その上でクオリティは高かっただけに、違和感がものすごい。
彩月もまたAIを使っているのにその違いはなんなのか……だが、それは愛だ。
彩月ではなく不礼似作品に対する作ってて楽しいという愛を込められてあの作品が出来ていることがおぞましい。
「琥珀はあいつが偽名使ってると言ってた、あと知るには早いって……」
「うん……なんだろう、僕もなんだか知ろうとしてるのによく分からなくなってきた……まるで人じゃないみたいだ」
「そんな大したもんじゃねえだろ、流行り作品に群がるやつをネットイナゴとかいうんだ、そいつが神様だってんならバッタの神様だろ」
悩んでるところでもお構いなしなのが能登、どうやら大雑把なところは無事に終わったらしく声をかけてくる。
「そのイナゴ教師がどんなゲーム作ろうがオレ達に何か影響及ぼすわけでもねえ、さっさと仕上げるぞ」
「……うん。」
そうして2つの勢力はゲームを着々と作り出して、早いもので当日。
なんとかゲームを完成させて提出できるようになった、班の中には期限に間に合って無いものも当然いたが……蒼都班、來暇班共にゲーム提出。
学祭に提出する前に教師陣や各生徒達でプレイをして公開しても問題ないか判断する、人力による抜き打ち検査。
……思い返してみれば、ここで初めてゲームを作って人に見てもらうことになる。
「人の評価とか今まで気にしてなかったけど……ちょっと不安になってきた」
「ま、後々あそこが気になるとかあるあるだが今はコイツで提出するぞ……『ヌルゴン探求隊』!!」
2人が作り出したゲームはヌルゴン探求隊。
映画部に所属する生徒達(実在する)が、UMAブームに乗っかって謎の怪生物『ヌルゴン』のヤラセ番組を作るシミュレーションゲームだ。
特徴は次々と生徒をスカウトすることで様々な方向性でヌルゴンの情報やネタ番組を操作できること、生徒達によって作れる題材は無限大だが……生徒全員分で色んなパターンを組み合わせてたのでそりゃ徹夜もする。
だが、このゲームが成立したのは……日隈が日隈だったからだ。
「のとさん、僕これまでの学校雑務で学校内の様子や人の特徴は把握してるから、性能に落とし込むことは可能だと思います」
「とんでもねえデータベースだな……」
そう能登が皮肉る通り、日隈がパシられていたことで効率化の為に生徒達の特徴を一通り図鑑のようにリストアップさせていたので一人一人を正確にゲーム性能に落とし込むことが可能になった。
このゲームは化ける!そいつらが遊んだことによって化けるのだ。
だか……先生が大慌てで日隈達の所に現れる。
「た……大変だお前ら!!」
「ん?あれモーリー(この学校の先生のあだ名)じゃねえのか」
「どうしたんですか?」
「どうかしたのはお前だ!!あのゲームなんだ!?学校中大騒ぎになっているぞ!!」
「え!?いや、ヌルゴンはこれから提出するところで……」
「……いや違う!!しくじった、オレが呑気すぎた!!」
「不礼勇!!あいつがなんかとんでもねえことやりやがったな!!」