一体不礼はどんなゲームを作ったのか……さっきから絶えず感じながらも中に入るとそれだけで空気が一変する。
声をかける前に違和感に気付く、入った途端ゲームを遊んでいたクラスメイトが一斉にこっちを振り返った。
その時の反応がこれまでの生活と違う、あれは自分が不礼を見たときと同じ恐怖、何かを刷り込んだ。
「日隈……お前……あの教師に何を言った?」
「え!?何を言ったって……家に行ったぐらいだよ!それよりこっちも事情知りたくて来たんだけど……一体不礼しんはどんなゲームを作ったの!!?」
日隈は問いただそうとしても、皆は話すどころか目も合わせようとしない、まるで自分を強く避けて……拒絶しているような、たった1日の間に自分とそれ以外に大きな溝が出来ている。
どういうことか……というところで、浦嶋もモーリーから話を聞いたのか急ぐように現れた。
「日隈君!俺のゲームなんかおかしいってモーリーが言うんだけどどういうこと!?」
「浦嶋君……今僕も丁度来たところなんだけど、一体何があったの?皆何も話してくれなくて」
「ああ……もう公開するし君には話していいよね、実はせんせーはさ、君を主人公にしてゲームを作ったんだ」
「え!?僕を主役に……ああー、まあ自分で言うのもなんだけど実際僕も検討したことあるんだよね、自分で自分出るゲーム作るのはさすがに共感性羞恥に勝てなくて厳重に封印したけど」
「で、例のバッタ教師はちょっと会っただけのコイツでゲームを作ったわけか、なら聞く前にやってみた方が早いだろ」
「え?ああ……うん、浦嶋くんも一緒でいい?」
「う……うん」
この会話の間にも能登は浦嶋の挙動や言動を確認しながらパソコンを眺める、この一見するとどんな奴にも気さくに接する良く出来た陽キャみたいなやつのどこまでが本心なのだろうか?
実際に起動してみるが、念のためにパソコンを確認する。
「何してんだMZにランタイムパッケージはねえぞ」
「あっごめんツクールやるとき癖になって……」
改めて起動してみるとしっかりゲームが始まる、お馴染みのツクールのUIで浦嶋が手がけているだけはあり既に背景の時点で気合が入っているが、既に浦嶋の様子がおかしい。
タイトルは『少年D』とあり……確かに自分をモデルにしている事が分かる、いやモデルというよりはあまりにもそのまま過ぎる。
自分をゲームというかアニメ画みたいにしたらあんな感じになるのだろうか?と思いながらニューゲームを押すとまさかの無音、雰囲気を現す音楽も流さずフリー音源も使わずクォータービューで自分を軸にして学校内を歩き回る。
なんの説明もなくゲーム画面に放り出されるが日隈自身だからこそ分かる、クラスメイトに話しかけて雑務を押し付けられてそれを動き回って解決させるシンプルなものだが……。
「うーんあれ?なんで理科室周回しないんだ?この資料を返すなら大体この場所で倉庫に置きっぱなしにするからこっちのほうが早いのに……あとこの辺りで声かけておけばプリント提出は5分後に来る先生でタイム短縮して……」
「本家本元がクエスト進行にダメ出ししてる……」
「なんかリメイクしたのに中身が劣化して文句言ってる古参ファンみてえだな」
現実のように効率的にいかないところで不便を感じる日隈だったが、ひとまずゲームとして作られた範疇で役目を終えたら一日が終わり……そしてまた一日が繰り返されるという、本当に日隈橙の1日を追体験しているかのようだったが……能登じゃなくても一言。
「おい、このゲーム本気でつまんねえぞ」
「あまり日隈くんをモデルにしたゲームでそういう事言うのは……」
「浦嶋くん……その言い方だと僕の人生つまんないみたいになっちゃうから……でも実際僕としてももうちょっとやりようがあったと思うんだ……けど、不礼先生ツクールで慣れない中これを作ったわけだしなぁ」
RPGツクールに触れたことがある人ならわかると思うが、いくらゲーム制作を補助してくれるツールとはいえアレを使用してもゲームを作るのはなかなかにめんどくさい!!
1つのマップを一から作るにしても一マスの壁や床を一個一個貼り付けていくのだからこの時点で既に気力のないやつが抜けていく、おまけに今回は学祭で時間がない中なんとか1つのマップを作成したというところだろうか。
……だがしかし、何故このゲームであのような騒ぎになったのか分からない、ごく普通というか普通以下のゲームでしかない。
「僕を元にしたのはわかるけどなんであんな大騒ぎになったんだろう?」
「……あのバッタ教師何か言ったな?何の説明もせずだったらすぐに切り上げて終わりだ、最後まで進めてみろ」
「え!?最後っていつまで!?」
いくら一人遊びを極めてもいつ終わるか分からない単勝な無限ループを楽しむのは無理がある、それでも何かあるまま繰り返し、繰り返し一日を過ごし……何かがおかしい。
浦嶋はまた様子が変わる。
「まただ……今見えたの、俺描いてない……せんせーはイラストは俺に一任するって言ってたのに」
全部見ている、そう言われてるような気がする。
だが何回か繰り返して……日隈(ゲーム内)の身体が動かなくなる。
「アレ止まった!?バグ!?」
「いや……これ演出だよ!何かセリフテキストが一瞬流れてくる!」
「え!?僕そんなの見えないけど……」
「俺は見えるんだよ!」
何か見えてきた……これは、これはそうだ。
恨みつらみの、僕らしくない言葉だ。
『少年Dは実在します、貴方のすぐそばに』
『貴方が幸せになっている横で、貴方は少年Dを苦しめています』
『このゲームは、クライマックスのみフィクションです。』
「え?
日隈が理解するより早く、ゲーム内の日隈が『どうなった』か分かったが……その前に能登がXを押して消した。
そして……狙いすましていたか、集中していたのか分からないが……そこに立っていたのは不礼だ。
「大物イラストレーター雇っておいてせっかく作った学祭のゲームがしょうもないいじめ啓発か?」
「しょうもない?そうかな……日隈くんのことをよく分かるいい機会じゃないのか?学祭だもん、人の事を知ってもらわないと」
「せんせー!イラストは俺に一任するんじゃなかったんですか!?俺見えましたよ!一瞬だけ変なテキストと一緒に画像挟んでいたこと!」
浦嶋が言うには、ほんの一瞬……一瞬だけだがゲームの途中で画像が挟まれていたという。
何のためにそんなことをするのか……能登は聞いたことがある、サブリミナル効果。
意識できないほど短い時間や低い音量で提示される刺激が、潜在意識に影響を与え、行動や思考の変化を促す現象……ちょっと検索すれば映画でポップコーンの宣伝を一瞬挟んだことで売れ行きが好調となったという話はよく見るだろう。
それの影響を受けて似たようなことをしようとしたのは分かるがまだ答えに絞り出せない。
「その画像……よりテキストにはなんて書いてあったの?」
「少年Dは貴方のすべてを知っているって……」
「実際そうでしょ?ゲームを一通りやらせてみたあとにね言ったんだ、あくまで日隈10分の1くらいにしかゲームにしなかったって……パシリを苦に思ってないどころか効率的に自己昇華させていることは俺も知ってたけど、それがいつまで持つと思う?牙を剥いた時、ゲーム情報で圧倒的に優位に立てるのは君だ、攻略本のように情報を一通り網羅してるんだ、なんでもだよなんでも……想像してみろ、自分が成功体験を踏みしめた時、絶頂に至る時いつでも忘れていた過ちを復讐のように形の無いナイフが喉を突き刺してくるかもしれない未来を!エグイなんてものじゃない!」
ようやく理解した、というよりさせられた。
恐らく不礼勇に悪意はない、善意でもない……ひたすらに空気が読めないで済ませてもいけない。
作りたかっただけだ、コレを。
大昔ゲーム界隈でこんな言葉が出た 、『可能性が出た時点でアウトなんだよ』と
出た時点、つまりほんの1%でもそいつはそういうことをする、できる、やるだろうと刷り込ませることによって今後一生やるかもしれないと貼り付けられて接することになる。
やらないなんて信じられるか?だって出来るんだし、どうせ出来ない可能性より出来る可能性のほうがあるんだから。
世の中100%以外は信用できないものである。
……少なくともそんな風に日隈橙がどういう存在かを刷り込んでいた。
「てめぇ……ナメたマネしてくれるじゃねえか」
「いいですよのとさん……でも、不礼先生はなんでのとさんが怒ってるか分かってるんですか?」
「それはまあ勝手にモデルにしてこういう内容にしたことは君には悪いと思っている、でももちろんこれだけで済むわけでもない……ほら開きなよ、今なら遊んでもらえるよ、君の『ヌルゴン』」
……この人は何を言っているのだろうか?こうしてしたがわせたら自分のゲームを断るわけがないというお膳立て?その為にこのゲームを作ったのか?だがそんなものを期待していたわけではない。
確かに自分がパシリ扱いされていたことを改めて知って悔しい思いもした、だがヌルゴンを作っていくうちにそんなこと気にすることもなくなったし……自分はこんなものを望んでいたわけではない。
「浦嶋くんは貴方を尊敬していましたよ、でも……どうしてこんな使い方をしてしまったんですか?あんなに絵が上手いのに、ちゃんと指示すればいいゲームを作ってくれたはずなのに」
「おっとそう来たか、確かにその観点で見ると浦嶋には悪いことしたようだな?だがね、俺としては仮にも教師になったからにはね、環境改善……言うならば君と同じクエストだ」
「その結果生まれたのがあのゲームですか?僕は個人でゲームにされる分には構いませんが……あれを僕として皆にありもしないトラウマ植え付けて、貴方は楽しかったですか」
「さあ……今回ばかりは楽しむ為じゃないからね、まあ結果に納得がいかないならそれもいいや、調査不足だったかな……?」
不礼のこの態度、余裕綽々というか人の気持ちを分かっていなさそうな振る舞い、これが恐ろしさの由来か……?
……しかしこの男、本当にかつては二次創作で当てたのか?ずっと見ていた能登はそう思った。
この程度の露悪な摘発ゲーム、それもツクール製ならちょっと時間を貰えば簡単に作ってしまえる、手を抜いたのかあるいは……実力がなかったのか。
それに対して最初から分かっているような態度の不礼は答える。
「このゲームの出来栄えは確定事項だよ、だって最初からこうするって決めていたんだから」
「やっぱそうか、お前……中身とか関係なしに自分の作りたい出来事だけを優先してるな、日隈から同じものを見ているとは思えねえつったが最初から見てるものが違うんだ、当然だな」
「まあね、どうせ最初に作った人以外は本物じゃないと思ってるんだ、手を離れた時点でそれは
「じゃあ、あのゲームの『日隈橙』も、ここにいる『日隈橙』とは別なんですか」
「一応似せる努力はしてる、似せた上で自分のやりたいことをやってこそ二次創作をする意味があるからね、人間様相手に二次創作するってのも中々の体験だったから、浦嶋くんもタイトルありがとう、次また何か頼んだ時にはよろしく」
楽しむだけ楽しんだつもりなのだろうか、不礼は言うだけ言った後にまた抜け出していった。
浦嶋はどうすればいいか分からず、後ろを追いかけていった。
「あの……せんせー、本当に良かったんですか?日隈くんは確かにこれからパシられることはなさそうですけど、余計に溝が生まれるかもって」
「言ったでしょ浦嶋くん、俺はお膳立てしたんだから……恐怖の象徴としてきっと日隈は恨んでいる、そうおもぅた所に『ヌルゴン』でクラスメイトを題材にしたゲームをさせる、それによって『許し』を刷り込むんだ」
ヌルゴンはアメで自分はムチ、サウナは極限まで苦しめてから水風呂などで整う。
なだめるためには極限まで苦しめることが大事、ゲームを通して彼らはきっと和解できる……不礼はそう考えていた。
「ではせんせーは最初からそのつもりで……?自分が嫌われるようなことになってまで?」
「さあ?俺は最初からこのゲームを作っていたのは事実だ、日隈くんがヌルゴンみたいなやつを作ると思っていただけのことよ」
「でも日隈くんのゲーム……やってくれますか?というかあれ……そういえばヌルゴンヌルゴンって、せんせーゲームの内容知ってたんですか?」
「そりゃまあ教師として問題がないか真っ先に確認する義務があるからね、教員は前もって内容を見てあるよ……浦嶋くん、一つ言っておきたいことがある」
「なんですか?せんせー」
「俺もっとゲーム作るの上手くなりたいな、白卓を叩き潰すラスボス役になるには俺自身もレベルアップしないとダメだから」
――――
「……で、結局ゲームで騒ぎが起こりすぎて学祭は中止になりそうなの?」
「うん……まあ、あんな騒ぎになって学校行きづらいところもあるし」
白卓に戻り琥珀に後日談を話す。
確かにまあ、不礼が狙ってた通りの流れにはなったもののそれだけで終われば苦労するはずもなく。
ヌルゴンを提出してそのまましばらくは何も言えないというか雰囲気が暗いまま終わってしまった。
本人としても消化不良のまま……だが落ち込んでばかりでも居られないし、自分の事情なんて能登には知ったことないだろうと話しながら次のゲームの企画を考えていた。
「それでだお面野郎、お前なんか知ってんだろ例のバッタ教師のこと」
「不礼勇って名乗ってるんだっけ今のアイツは……まあそうだ、他人と言えば嘘になるしかといって友達とかライバルとかそんな生ぬるい関係でもない」
やはりというか琥珀と不礼には何かしらの因縁があった、しかし能登がすぐ調べてもわかるコミケでよく二次創作を出して当てていたという話を聞いたときには信じられないような反応をしたので全部信用できるわけでもなさそうだ。
あるいはそっちが嘘の可能性もあるが、それも含めて気になるのは……やはり、桜井彩月のことだった。
「不礼先生は桜井ちゃんとも何か関係があるんじゃないですか?」
「……あるといえばあるけど、自分と同じく彩月が向こうを知ってることはないが、まあアイツなら見たらすぐ彩月と分かるだろうね、先に言っとくと誤魔化したいわけじゃないが、あいつに下手に触れたら……なんて誤魔化せるラインはとうに超えたか教師になってるんだし」
琥珀はどこまで話したものか……と悩んでいる、出し渋っているというより本当にあまり触れたらまずそうなラインなのかも分からないが、そもそもお前だって胡散臭いのに言えた立場だろうか。
「そ、そんなとんでもない人なんですか……まさか知りすぎたら消されるなんてことあるわけ」
「ああうん、あるなその可能性……あいつだったら普通にやるよ」
「やるんですか!?」
「やるやる、まあ今聞く限りだとゲーム作りに夢中みたいだししばらくは大人しいだろう、だがゲームをもって白卓を潰してくることは確かだろうね」
「どうして僕らを!?……はあ、どうしようのとさん、聞けば聞くほど解んなくなってきたよ」
「じゃあ無視すればいいじゃねえかそんなやつ、というよりはオレが関わりたくない」
自分はゲームを作り人々を熱狂させたい、あくまでその目的が昔からずっと変わらない、その為に日隈を見つけて白卓を作り、琥珀達の所に厄介になっている。
学祭はいい機会だったが、あの男がその機会を消した。
通して分かったが彼は常人とは異なる世界観と感性で生きて決められた物語を描いている、創作者だが一生相容れないとなればそのほうが精神面でも良い。
だがそうもいかない気がしてならない、不礼勇は恐らくこれから幾度となくゲーム創りに足を突っ込んでくることだろう。
「予定変更だ、こいつが箔を付けろって言うならもっと技術を付けるぞ」
「技術をつけるって」
「オレの夢の道連れはお前だけじゃ到底足りねえってことだ」
本当はもっとスローペースでゲームの技術を付けたり仲間を雇っていく予定だったが、不礼が目をつけていた浦嶋を使っているとなればこっちももっと逸材が欲しいと思っていたので能登はパソコンのサイトを開いて日隈に見せる……それは『ゲームジャム』の情報だった。
ゲームジャムとは、プログラマー、デザイナー、アーティストなどが集まり、数時間から数日といった短期間で「ゲーム」を制作するイベント……つまり能登と同等かそれ以上の専門職がその場で集まるというわけだ、これが数日後に開催されるらしい。
「おっ、自分が指示する前からこういうのに興味を持ってくれるとはうれしいね」
「日隈、いつでも行けるようにしておけよ……あと切符代はあるか?」
「いやそれくらい自分が出すよ!プロモーターナメんな!」
ゲームジャムを通してスキルアップと新たな逸材を求め、能登と日隈は駅を越えていく。
そして同じ頃……ゲームジャムに向けて準備を整える者はいくらでもいる、そしてここにも。
「あっもう見つかった」
「き〜た〜み〜やぁぁ!!!逃がさんでアホ!!ワイの唐揚げ返せや!!」
「それ竜田揚げよ」
「どっちでも同じやろが!!」