「はあ……それなりに遠かった、切符代本当にいいんですか」
「まあ良いって、自分も興味あったしね」
日隈と琥珀は電車で少し先の駅を越えて都会まで、目的はこの近くのゲーム専門学校で行われるゲームジャム。
当然ゲームを作ったりする他に専門学校のクリエイターがどういうゲームを得意とするのか参考にしてみたいところもあるし、琥珀としてはタダで楽しませてもらえる。
彩月が留守番だがしっかりしてるので問題ないという。
「はあ……慣れないところで不安だなあ」
「なあに自分が付いてるんだ心配するな!なんてったって近頃話題のプロモーターがそばにいるんだから!!」
「せめて電車乗る時くらい普通の恰好してくださいよ……今更ですけどプロモーターって意味わかってます?」
「ええ!?そりゃまあアレでしょスカウトする感じの人だろ?実際キミらとか結果は出してるんだから……」
琥珀に関してはもういつも通りととらえるとしよう、何というかこれ以上に個性的すぎるような出来事など起きるわけがない……そんな事を思っていたのだが。
「あらやだ足を挫いてしまったわ」
「足のくじき方が昭和!!」
なんと駅に出てきて早々バカでかい岩に足を潰されている美女がお出迎えしてくるカオスな光景だった、一応確認したくなるがここ日本だよね?
琥珀も日隈もどうリアクションしたらいいのか困っていた、もしかして今ボケを期待されているのだろうか?
日隈はさりげなく琥珀に何か頼もうとする。
「とりあえずビームであの岩壊せばいいのかな」
「そういう問題ではないかと思います!!」
「あの……岩とかはいいのでちょっと肩を貸してくれませんか?」
「どうする日隈くん自分らゲームジャム行かないといけないけど」
「じゃあ僕運ぶので琥珀さんが……」
「いや自分方向音痴だから一人じゃスーパーにもいけないのよ」
「じゃあ尚更運んでっちゃダメじゃないですか」
「……あの、ゲームジャムでしたら私も向かう予定なので案内しますよ?」
なんと向こうから都合のいいことを言ってきた、尚更怪しんでしまうが顔の良さにホイホイと釣られて1人の男が琥珀達を押しのけて黒目を光らせながら女性の手を引く、顔が良いってなんかズルい。
「よろしければ肩を貸しますよ?」
「別の美女に釣られたイケメンが来た!!」
「大丈夫かなあの人!?ちょっと聞いただけで僕ら的には危ない詐欺の匂いがしてたのに!」
「うおすげぇそれなりに重いぞこの岩!手作りにしては半端ねえ!都会怖いな!!」
いきなりカオスな都会の洗礼を受けた二人だったが騒ぎはまだまだ終わらない。
何やら声が迫ってくるかと思ったら自分の真後ろからパルクールばりに派手に飛び回って何かを追いかけているようであり、大ジャンプで華麗に日隈の頭スレスレを飛び越える。
「北宮ァァァ!!!あのアホどこ行きおった……岩あるってことはすぐ近くやな!?そこの兄ちゃん!!この辺になんかこう宝塚をちょっと退化させてなおレベルの高い女おらへんかった!?」
「何その貶してるのか褒めてんのか曖昧な表現」
「それでしたら多分そこの岩で足をくじいたとかで男の人に連れてかれた人かな……?」
「あーーマジでやりおったなあのアホ!!ゲーム作るにしてもやってええことあるやろ!!」
その人の対応に慣れているのかキレながらも迷惑にならない程度に岩を壊して当たり散らさないように掃除までしている。
都会怖いなあ!日隈は何回こんな事を言う事になるのだろうか……だが、琥珀の様子がおかしい、いや元々この人もおかしいところはあるのだが明らかにヤバい人を見るのとは反応が違う。
「星谷……お前、もしかして星谷ピッフィーか!?」
「へ……?確かにワイは星谷やけど、キツネ面の知り合いはワイにはおらへんで」
「……ああそうか、お前もか……それでその……北宮さんだっけ?ゲームジャム行ったけどもしかして?」
「それは知っとる、ワイもあいつも参加するからな……すると君らも?」
「あっ……僕らだけじゃなくて実はもう一人」
「オレならここだぞ」
「うわっ!?」
どこからともなくというか、ピッフィーの真後ろに残像のように能登が張り付いていた。
あの高速移動の中しっかり動いて3人に気づかれることなくキープなんて中々の芸当だ、時々この人が引き篭もりだったことを忘れそうになるがともかく北宮さんとやらに連れられたあの人が心配なので追いかけることに、そしてそのついでにゲームジャムへ……。
「ところでお前ら何があった」
「街の名物に絡まれた……」
「なんかオレも混ざりたかったなそれ」
――
「なんて言ったらええのか……北宮は今回ゲームジャムを開催するワイらの専門学校の中で……いや下手したらこの街1の化け物や、アイツは作る技術はまあ学校一や、そこは皆認めてる……でもな、才能も美貌も台無しにするのがあの性格や!!」
彼女は言うならば『ゲームバカ』というよりは『バカがゲーム作れる』らしい。
ゲーム作りに対しては極めて真摯で妥協はしない……しないのだがゲームを作るための学習行為の出力があまりにも異常すぎるのだ。
三輪車でレースゲームを作ろうとなれば幼稚園児と一緒になってキコキコ漕いでるところを公園で見られたり、狩猟ゲームの際にはマジで獣を狩ろうとしたり。
コレでもまだマシな方でこの街では伝説になっているらしい。
「ワイなんて初めてアイツと会った時の思い出はな、奈良で鹿と頭ぶつけられてバトルしとった」
「一体そこからなんのゲーム作るんですか!?」
「パキケファロサウルスが主役の横スク作りたいと言うとったわ」
「行動力高すぎてやべえでありんす」
「ふーん……ゲームを作るためなら手段を選ばねえやつか、世の中色んなヤツがいるわけで……」
聞いているだけでどっかのネットコピペみたいな伝説が溢れてくる北宮さんだが何はともかくゲームジャムが開かれる会場に来てみると。
「き〜た〜み〜やぁぁぁ!!!」
「あらやだ失礼」
なんと本当にさっきの変な寸劇をしていたのがピッフィーの相方である北宮で間違いないようだった。
顔を見るや否やめんどくさい人に会ったような顔で他人のふりをするがあの超人的な超脚力から逃げられるはずもなくそのまま流れるようにキャメルクラッチをかける、ゲーム作るイベントで何してんだこいつらと能登は思っていた。
「何をしとんねんお前は!!変な岩の置物作らせておいてやることは三文芝居かいな!ワイに相談したらもっとええ感じのネタ用意したるわ!!」
「星谷さん多分キレるところそこじゃないです」
「いやそこであってんだろあいつもクリエイターだぞ」
「だって貴方が人を騙すやり方でごねにごねまくった結果じゃない」
「お前のアレは騙すっていうかガッツリ犯罪行為やねん!あのなァ!お前もう大手から内定貰ってるようなものやから少しは……」
北宮はのらりくらりとポーカーフェイスでピッフィーの言葉をかわしている、見ていると静と動みたいでお似合いだが相手はしたくないだろうなと日隈は戦慄した。
……いや、能登の目的を考えると引いてはいられない。
「もしかしてのとさん、あの人捕まえようとしてます?」
「それを今ここで決めるんだろうが、とにかくゲーム作るぞ」
「おーい星谷くん、キレるのは結構だけど被害者へのフォローは?」
「あっせやった!おい北宮お前連れてったらしいノッポの男どうしたんや?」
「ちょっとお茶して買い物して2000円のランチしたあとにゲームジャムに同行しているけど」
「アホみたいに貢がせおったなお前ェ!!どこや!?ワイが金返しとくからマスクウェアでツケにしとけよな!?」
「ははは、変わんね〜なぁピッフィーのやつ」
「……あの、琥珀さん?あの人と知り合いなんですか?」
「まあ……そのなんだ、彩月の時と同じパターンだよ、それだけ」
琥珀は先ほどのテンションと違って歯切れの悪い対応、彩月と同じパターン……つまりはこっちが一方的に知っているだけということになるが日隈としては彩月以外にもそういうものがいることに驚いたのですぐに連絡をするが……自分もまた驚くことになる、その理由は2つ。
あんな大目立ちする最前列に……会いたくない人がいた。
「ふ……不礼先生……」
「何?……嘘だろ、あいつ今あんな感じなの!?」
不礼勇がゲームジャムにいた、本格的にゲームに興味を持ったのかあるいは……自分たちをつけてきたのは考えすぎか?
まだ最近のように感じられる恐ろしいプレッシャー、今回は学祭のような内輪ではなく曲がりなりにも人に見せるものを作り出す企画、何を作るのか不安でしょうがない。
それに……星谷だけでなく彼もまた琥珀と因縁がある存在。
こうして、色んな意味でひと時も気が抜けない中遂にゲームジャムが始まる。
「それでは概要を説明します、参加してくれた皆さんはグループとなり金土日を使い……およそ48時間でゲームを1本制作してもらいます、今回のテーマは『だます』!」
「48時間!?グループにしても少なすぎないか!?」
「そういうもんだろゲームジャムは」
「で、出来るのかな……」
限られた時間でゲームを作る……その為の適切なチーム創り。
始まってすぐから本番であることを実感して周囲に溶け込まなくてはならない、能登と日隈はさっそく人集めに取りかかるが……。
「あれ?のとさん、琥珀さん入れないんですか?」
「専門家多い中でなんで変な口出しするだけのド素人入れるんだ、オレ達は縛りプレイしてるわけじゃねえんだぞ」
「それで言ったら例の人縛りプレイしてることになるんだけど」
こうしている間にも琥珀はちゃっかりと北宮と星谷をハント、というよりは相当星谷を狙っているように見える。
まさか彼のことも捕まえる気なのだろうか?
だが構っている暇はない。
「のとさんとしては誰が欲しい感じですか?」
「今オレ達に一番必要なのはプログラマーだな、大体はオレがやってるが頂点に建つにはオレ程度じゃ伸び悩む、桜井みたいな極端じゃなくてもオレの3倍くらいは優れてる奴がほしい」
「うーんそんな都合のいい人……を探しに来てるんだっけ、すみませんプログラムが出来る人」
「ああ、それなら俺が……って、あれ?さっき会ったか?」
「え!?あっこの人!!」
なんとここで声をかけてきたのはついさっき北宮に捕まって楽しむだけ楽しまされた高身長の男性、まさか本当にあのままゲームジャムにいるとは思わなかったしゲーム作れる才能があると思わなかった。
「貴方もゲームジャム来てたんですか!?北宮さん目当てじゃなくて!?」
「いやいい経験したなぁ……あんな綺麗な人とご飯食べて買い物までしたんだ、五万円飛んだけど悔いはない気がする」
「こういう奴がソシャゲ課金で破滅するんだろうな」
北宮の本質を知らず浮かれポンチになっていることを尻目にあと一人、ひとまずそれ以外は適当に捕まえたいが。
「ねえ日隈くん俺と組もうよ」
「バックしますバックします!!」
「うおっ」
危機回避能力で人間業とは思えない急速バックで二人を引っ張りながら不礼を避ける日隈、星谷もだがゲーム極めると身体能力が進化する傾向があるらしい。
能登は慣れたので腰はマシだがもう一人は結構響いた。
「ご……ごめんなさい急に、あの人はちょっとあの……」
「あの不礼とかいう教師か?確かにいい噂は俺のクラスでも聞かないが……」
「いい噂……って、もしかして同じ学校!?というか高校生!?」
「気付かなかったのか?俺は同じ制服だからすぐ分かったが……そういえば自己紹介してなかったな、俺は瀬尾善爾、それでお前達が白卓……だろ?あの狐尾面に雇われてる」
「雇われ以外は正解だな」
――――
そして琥珀はというと星谷を連れているグループになんとか入れてもらう、白卓は2人には公認のうえで公式サイトを立ち上げてゲームを公開させている。
巨獣バルディスはルールだけ、それに能登の作ったSTGにキャラを調節して内輪ネタを消したヌルゴン……出たばかりだがそれなりにダウンロード数も増えて着々と箔が付きつつある?
「ほーん、アレがアンタのお気に入りの白卓……ワイもちょっと遊んだことがあるがルーキーにしてはウチの連中にも負けない出来栄えってとこや」
「そりゃね、日隈くんは自分が見込んだ圧倒的なアイデアの才能がある、その上でより出来がいいものを作るべく逸材をハントしにいたんだから」
「……じゃあお前何しに来たんや」
「そりゃ自分だってよ!日隈くんが来る前は逸材クリエイターのネタ考えてたんだからな!スーパーバイソンライダーズとか!」
「まあそれはどうでもいいんだけど、つまり貴方はあの2人……白卓に目をつけている、ここに来たからには叩き潰されても文句言えないわ」
「ひえっ怖っ」
「……悪いなぁ狐の、ワイらも組んでもらったことはありがたいがゲーム業界は時に潰し合い、利用し合うこともあるわけや……それにおもろそうやん?そいつのアイデア力興味ある……ってことでなあ!聞こえとるんやろ白卓」
「ああ、ずっとお面野郎を覗いていたからな」
星谷ピッフィーと能登來暇、二人の強烈な眼力を持つクリエイターが睨み合い……このゲームジャムが戦場に一瞬で変わる。
言わずとも2人の中で『対決』という文字が浮かんでいた。
「北宮の件は悪いと思うがワイもこいつもゲームに関しては妥協が出来ん性格なんでな、勝たせてもらうで」
「勝ち負けとは言うが、オレ達に勝って何がしたい?」
「そこのキツネ面がえらく気に入ってるアイデアマンとやらを1回無償でレンタルする!!」
「え!?また僕!?」
「上等だ、どいつもこいつもオレが先に目をつけたのにこいつを狙いやがって……じゃあこっちが勝ったら?」
「ワイはサウンドクリエイターや、なんか手が借りたかったらゲーム1作分タダで曲でも効果音でも作ったる!悪いが仲間にまではならへんで」
「あの人音楽を作る人だったんだ……」
「ああ、やってやるよ」
周囲はざわつくがとめようとしない、その理由は簡単だ……ここにいるのは大体星谷や北宮と同じ専門学校の出身。
北宮は問題こそ多けどゲームを作ることに関しては右に出るものがないと星谷も豪語していたほどだ、白卓は少しずつ知名度を上げているといえどアマチュアルーキー。
勝てると思っていない。
「じゃあ尚更このお面いらなくない?変なアイデアよこしてくるかもしれないでしょ」
「まさか、自分がそんなことした程度で負けるような2人じゃないでしょ?でも1つでもアイデアを取られるのは嫌だが……たった今思いついたタイトルで日隈くんに勝負するのも悪くない」
図らずとも琥珀VS日隈のアイデア勝負再戦にもなりつつある、前回は早いもの勝ちだったが今回は真剣にゲーム対決になる、そしてタイムリミットがある以上ネタは早いほうがいい。
……だかしかし、日隈だけはそれどころじゃない。
「はあ!?学祭終わりそうになったのそんな理由だったのか!?あの教師とんでもねえことしたな!?」
「うん……だから僕としては不礼先生が何かやらかさないか不安に感じるんだ」
「まあ……今回はグループだしお前が思ってるほど暴走はしないだろきっと、それよりもあと一人見つからないのか?」
「うん……もしかして不礼先生いるなら浦嶋くんもいるかなー?と思ってたけどさすがにイラストレーターまで持ってこれる贅沢はないよね」
あと一人は普通に呼びかけたら専門学校から来てくれた、北宮の方も声をかけて各自4人揃ったわけだが……不礼が気になる。
とはいえ各自で自己紹介を挟んだ上でゲーム作りがようやく始まる。
「まさか君たちあの北宮と星谷と戦うなんて、面白いね白卓」
「あの……なんか巻き込んだみたいで悪いとは思って……」
「何言ってるのさ!むしろこっちとしては北宮を叩きのめせるチャンスでもあるんだ!そりゃやれるものならやりたいでしょ!……こっちだって鬱憤たまってるしね」
「おお……なんかその、同情します」
「それで4人揃ったがなんのゲームを作る?」
改めてゲームジャムの状況を振り返る、時間は多くて48時間……テーマは『騙す』
能登班はアイデアを考える日隈、プログラム全般を瀬尾が担当しグラフィックやサウンドなどその他要素を能登と参加してくれた小深という人物が対応。
北宮班には……あの北宮と星谷が組んだ時点でほぼ無敵、そこに琥珀と数合わせのグラフィッカーといったところだろうか。
「北宮さんはともかく星谷さんはどれだけ凄い人なんですか?サウンドクリエイターらしいですけど」
「そりゃまあ……うちら専門学生の中でもなんとか北宮に喰らいついてストッパーできるのなんてあいつぐらいだもん、音楽方面じゃ北宮でも勝てない」
「用意したで音楽、ひとまずゲームジャム向けて5曲は用意したんで聴き比べてみ」
星谷ピッフィー、言わば彼は日隈橙の音楽版。
フレーズやメロディーが閃けば即座に形にしてしまう。
彼曰くゲームで一番長い付き合いが音楽、始まりから終わりまでずっと相手にしてプレイヤーを離さないようにする義務があるのが『音』の力。
メロディがダメだったらどんなに絵が上手くてもシステムが良くても引き込めなくなってしまう、そこでピッフィーはゲーム部分を北宮に任せて音楽の勉強をひたすら行った、そうしてついたあだ名が……。
「人間ジュークボックス、『Bの魔術師』星谷ピッフィー……彼がいる限り貴方の応援する白卓は勝てないということ」
「……い、言ってくれるねえ、さながら君はマエストロのつもりか?」