寄せ書き
大切な友人達から贈られたもの。常に懐に仕舞い込んでいる。
【洗脳】の魔法
夏目アンアンが両親を壊した魔法。相手に納得させることができれば、いかなる行動も支配させることができる。
パーティ会場
様々な飾り付けが色褪せている。恐らくは10歳の子供の誕生日会場だと思われる。
今一度、こうして向き直る。虚な目をしてただパーティを準備する二人。カウンセラーが匙を投げたのも当然だろう。
精神的な病ではなく、自身の行動でもなく。【魔法】の影響により、動かされている。普通のカウンセリングでは、対処のしようがない。
「(......ふふ。それにしても、実に......あの苦しみは、味わい深い)」
人類が滅んだ世界。夏目アンアンが言っていた。
「どうしてわがはいはいつも、大切なものを壊してしまうのだろうな」その言葉の真相が、これだ。ただ幸せを願って、両親に願って、願いを叶えさせてしまう【魔法】があって、幸せを願った結果、大切な両親を壊してしまった。
今目の前にいる惨状を目にして、キレイは嗤っていた。アンアンの苦しみが、ここに来て更に理解できたのだから。
「━━━さて、自らが愉しむのは後で良い」
聖職者の顔へと戻り、目線を合わせる。【洗脳】の魔法の効果は理解している。相手が納得すれば、相手操ることができる魔法。その影響下は未だ夫婦を襲っている。
そうしてキレイは、こう言った。
「はじめまして。アンアン君のご両親、私の名前は言峰キレイ。夏目アンアンの友人だ。どうか、そのパーティに参加させてはもらえないかな?」
虚な目で、夫婦はこちらを振り向いた。そして、壊れた様子で、言葉を二人とも紡いだ。
「アン「アンアンちゃんのお友友達一緒緒ににパーお祝パーテ座っアンちゃんのアンアンのケーキを焼用意くから、座待っってて欲欲しいしい。ありがありとうがとう、仲良仲く良くしてしてくくれれてて」」
「では、遠慮なく失礼させて頂こうか」
抑揚なく、二人同時に、壊れたスピーカーのように話し始める二人に対してキレイは、しっかりと聞き取って椅子に座る。こうして対話を試みて、やはり......
「(自分の意思は薄い。いや、正確に言えば『夏目アンアンのパーティ以外のことを思考できなくなっている』)」
だからこそ、先程の妹の言葉には耳を傾けず、自分を友人と言ったキレイの言葉には、歓迎の意を示した。
「(であれば、私のすべきことは一つ。【洗脳】の魔法の前提条件を、夏目アンアンのパーティに関連させながら、崩すことだ)」
そう。夏目アンアンの洗脳には相手が納得している必要がある。もし、その納得を打ち壊すことができれば、あるいは。
「(彼等の心を戻すことができるやもしれん)」
キレイは二人に向き合い、こう宣言した。
「よろしい。では━━楽しいパーティを始めるとしよう」
━━━【祝祭開始】━━━
「楽し「楽いしいいパーテパーィティ二度ニと度と忘れ忘れなないいよようになアンアンアンちゃんんののパーパーティティをを」」
二人は同時に壊れた様子でまた語り始める。聞くべき言葉をキレイは既に聞き取っていた。
「二度と忘れないか。しかしその誓いは果たされていないらしい」
1と0の蝋燭を手に取り、キレイは言った。
>パーティ会場
「これより一方的に話す。彼女の誕生日が今日かは知らないが......彼女の年齢はもう15になる。君たちの言う二度と忘れないパーティ、と言うには......もう、五度も祝うのを忘れてしまっているね」
二人の言葉が、途切れた。そして
「忘れ「忘てれてししままっったたののアンちゃアンんアンののためためのアアンちアンゃんのためのアンちゃアンアんンのための━━━」」
壊れた様子の二人は、更に壊れたレコーダーのようになり始めた。しかし、キレイは一方的に話し続ける。
「今ではこのパーティ会場は、見る影もないが......きっと子供を楽しませようとあなた達が作り上げたものなのだろうね。素晴らしいものだ。ただ、君たちはその日のパーティに、囚われてしまっている」
キレイは改めて見据える。二人はすでに対話すら叶わない状態だ、前提条件であるものを一度壊してしまったから。
「(さて、改めて考えるとしよう。何故【洗脳】の魔法が効くまでに子供の願いを納得してしまったのか)」
考えれば、変なのだ。いくら子煩悩な親であったとしても、子供のわがまま全てに納得できたと言うのだろうか。しかも、本人に殆どストレスのなかったであろう、未熟な状態の魔法で。そこには、確かにあるはずだ。大魔女に魔法が効いたように、“納得する理由“がある。
「(━━なるほど、そういうことか)」
夏目アンアンは、人見知りが激しく病弱だった。ならば、その理由も理解できる。
「君たち二人は、夏目アンアンの幸せを願っていた。友人を作れず、体が弱い彼女の願いをできる限り叶えたいと思った。だからこそ、弱い魔法が君たちに効力を発揮した」
それが正しいのかはわからない。しかし、結果はやってみなければわからない。
「君たちは望む物を与えることが幸せだと考えた。その結果、君達は壊れ、子供の安心できる場所を無くし、君たちは彼女の最も望む幸福すら無くしてしまった。甘やかすだけではなく。子供の無茶なお願いには無理、ダメと叱りつけることも、親の役目だ。それすら放棄した君たちは、その役目を放棄した」
キレイは、言葉を紡ぎ続ける。
「二「二度度トト忘レ忘レ止マ止レマレ戻戻ルル返ス返ス話話シス笑ッ笑ウテ忘レ忘ルレ教エテエル起キ起テル叫ブ叫ンデ泣ク泣イテ叱叱ッルテ抱イ抱クテ聞ク聞イテ応応エルエテ呼ブ呼ンデ愛愛システ許シ許ステ━━」
二人は、だんだんと壊れて行く。キレイが言葉を話していく、つまりは、しっかりと耳に届いている。
「それに、もう君たちが彼女を守らずとも、夏目アンアンはすでに別の幸福を掴んでいる」
キレイは、その答えを持っていた。
>寄せ書き
「私は彼女の友人と言ったのは覚えているか。いや、覚えなくても良い
。今告げることは、彼女は昔と異なり、多くの友人がいる。自身に物事を教えてくれる者。自身の小説に挿絵を描いてくれる者。一緒に映画やアニメを観て寄り添ってくれる者。多くの友人に囲まれている」
二人の言葉が、止まった。
「いつの日も、パーティというのは記念するべき日にのみ行うもの。終わりのないパーティを、いつまで続ける?」
二人は、未だ壊れた、しかし、淡い光を得た瞳で。
「アンアンの、「アンちゃんの為の、家族で一緒に、楽しいパーティを━━━!!」」
それにキレイは、ただこう返した。
「彼女はもう、君たちに守られる存在ではない。自分から友達を作り、幸せを自分で作ることができる。
━━彼女は夢から目覚めたぞ。君たちも、止まった時から抜け出す時だ。パーティは、もう終わっている」
二人はその言葉に、糸が切れたかのように椅子にもたれかかり、意識を失った。やつれた様子から、重い荷を下ろしたかのような、安らかな顔を浮かべて。
━━━━━━━
部屋を片付け、ソファに寝かせる。すると、玄関の鍵が空き......ふらふらとした状態で、依頼者が現れた。
「っ......どう、でしたかっ......ぐっ」
汗を非常にかき、顔が赤い。口元を手で押さえていた。唇が腫れているのが指の間から確認できる。部屋の様子と、二人を見て。
「......え、二人とも、寝て、る......?」
呆然とした。そんな彼女に振り返り、答える。
「ああ、目覚めてどうなるかは定かではないが......そうだね。結果はまた、教会に来て教えてくれると良い。少なくとも、今は安らかに眠らせたほうがいいからね」
彼女は、眠っている妹の頬を撫でて、涙を流した。ここまで穏やかな眠りを、初めて見たのだろう。
「......ありがとうございます。本当に、なんとお礼を言ったら良いか......!!」
何度も何度も頭を下げて、泣きながら、彼女はお礼を言った。見送る際も、ずっと。
帰り道。一人である店に立ち寄る。
「店主。麻婆豆腐を」
「はいアル!今日は一つやり切ったって顔をしているアルネ、サービスするアルよ!」
豪快な火の音、鼻腔を刺激する香辛料の辛味。彼女は、生の実感を噛み締めるのであった。
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後日、いつものように教会で職務に励んでいると。
「......おや、もう体調は良いのかね?」
訪ねてきた二人......アンアンの両親だ。未だに少し疲れている様子はあるが、二人とも目に光が戻り、正気の様子だった。二人とも優しげな笑みを浮かべて、頭を下げる。
「本当に、ご迷惑をおかけしました......!」
「なんてお礼をすれば良いか.......!」
夫の方が、低く腰を曲げていく。妻も一緒に、それだけで、二人が仲睦まじい夫婦であることがよくわかった。
「頭を上げてほしい。私はただ、きっかけを作っただけに過ぎないのだから」
そう、納得を打ち消すために言葉をかけた。そこから発起したのは、この両親だ。しかし、二人は首を振る。
「......いえ、姉に、周りに迷惑をかけたのを救ってくれたのはあなたですから、お礼を言いたいんです」
「それに、大切なことにも、気づかせてくれましたから」
二人は、キレイをまっすぐ見て、言った。
「それで.......この後、時間はありますか?アンちゃんのお友達ということで、お話を聞きたいんです」
「......僕たちの知らないアンアンのこと、知っておきたいんです。僕たちは、アンアンのことを見れていませんでしたから、今度こそ、ちゃんと向き合うために」
二人の時計は、針が動き始めている。キレイは答えた。
「職務が終わるまでもうちょっとかかる。それが終われば、いくらでも。私の知りうる限りのアンアン君のことを、伝えよう」
こうして、キレイはアンアンのことを両親に伝えた。問題行動なども全部、その度に両親は苦しみ、キレイは嗤っていた。
魔女の残滓は一つ消え、アンアンの両親は、5年前から時を進み始めた。いつかまた、家族一緒に、今度こそ楽しいパーティを始めるために。