東方地月譚 ~ New Age of Lotus Land.   作:SUN_RISE

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どうも、SUN_RISEです。

この二話目から、物語は本格的に始まります。一話目は言及のみで顔出しの無かった主人公達も登場します。
かなり説明臭い点は、どうかご勘弁下さい。

そんな本編を、粛々と始めさせて頂きます。どうぞ、お楽しみ下さいませ。



第2話:開戦、地月戦争最終決戦

【???】

 

おぬしらは、かつて『月面戦争』と呼ばれた戦いがあった事は知っておるか?

 

 

 

……そうか、知らぬのか。

無理もない、あれからもう600年以上は経つのだからな。

わしにとっては600年など些細な長さに過ぎぬが、人にとっては長すぎる時間よ。

 

よかろう、わし自身は直接それに関わった訳ではないが、おぬしらに事の概要を伝える事くらいはできよう。

大事な話だ、心して聞くように―――

 

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------------------------

【三人称視点】

 

夕陽に燃える幻想の空に、巨大な(シルエット)がポツンと浮かぶ。その姿は周りに確かな威圧感を振り撒きつつ、決して風景と馴染もうとはしない。

全てを受け入れる幻想の(さと)にあってさえ、()()はただただ果てしなく異質で、異常で、異様なのだ。

 

……その名は【真月】。

名だたる幻想郷の大妖さえもその姿を見ただけで恐れた程の、絶対的な恐怖の象徴。

 

全長1000メートル、艦幅約200メートル、艦高約150メートルという規格外の巨体を誇り、幻想郷はおろか科学の進んだ月においても最大級の乗り物の中に月の最新技術がこれでもかとばかりに詰め込まれた、その名の通りの『真なる月の船』。

地上人には到底理解の及ばぬ神秘の機構によって、広大な宇宙や境界の妖怪が(しつら)えた結界さえも軽々飛び越える事が可能な、月人の駆る空飛ぶ大戦艦である。

 

この大戦艦に乗り、月の軍勢が遥か遠くの月より幻想郷へと攻め入ったその時から。

 

幻想郷の運命を大きく変えた『地月戦争』は始まったのだった。

 

 

……だが今の【真月】は、既に往時の面影をほとんど残していない。

長引く戦いで多くの兵員が失なわれた事、また妖怪の賢者たる八雲紫の策に嵌ってしまった事で、【真月】は恐怖の大戦艦から空に浮かぶただの箱物へと変えられてしまったのだ。

 

第一に、艦の正面から伸びる長く太い主砲。長さ20メートルはあるであろうその砲は錆び付いたように赤茶け、一見するとただの飾りのようにも見える。

その認識は、()()()()()()()()()()()。度重なる戦闘と妖怪の賢者の策により、もはやこの砲は動かず、直せる者も操作できる者さえも既に居ないのである。

しかしその主砲が健在であった時は、幻想郷の里一つを()()()()()()()()|で一面の焼け野原に変えてしまった事さえあるのだ。

 

第二に、艦体の全面から顔を覗かせる無数の副砲。主砲と同じく赤茶けたそれが動く事は決してなく、動かせる者ももう居ない。

しかしその砲群が健在であった時は、自在に空を舞い接近してくる幻想郷の妖怪を数多(あまた)葬り去った。もはや芸術とも言える正確無比な統制射撃は、幻想郷最速を誇る大空の覇者、鴉天狗でさえも羽虫のように撃ち落としたのだった。

 

第三に、大きな艦橋の横に存在する広く平らな『飛行甲板』。これ自体は武器ではないが、妖怪と違ってそのままでは飛行能力を持たない月兵達は特別な装備を身に着け、ここから次々と空へ飛び立っていった。

だが既にここから飛び立つ者はおらず、甲板を整備する者もおらず……放置されて久しいのか、穴だらけ傷だらけの状態となってしまっている。

 

そして、それら全てを見下ろすかのように最上部に鎮座する艦橋だけは、始めと変わらぬ美しい姿を保ったまま残っていた。まるで、恐怖の大戦艦としての最期の意地を見せるかのように。

しかしその姿は、艦体が金属でできているにも関わらずまるで雲のような空虚さを周囲に感じさせる。

 

……秋の口といえど吹く風は徐々に強く冷たくなり、風を受けた【真月】はその身を微かに震わせる。

各所が思い通りに動かず、それでもただひたすらにそこへ存在し続ける大戦艦。かつての栄光を知る者からすれば、その姿には一種の悲壮感さえも感じるのかもしれない。

 

 

さて、そんな【真月】だが規格外の巨体ゆえの弱点もまた併せ持つ。

その一つが、大量に設けられた出入口の存在だ。その数は両手両足の指では当然数え切れず、100でもまだ足りないほど。上は艦橋の根元にある飛行甲板出入口から、下は地面スレスレの搭乗口まで……最盛期は20万を超えていた収容人数を自在に乗り降りさせる為には、おそらくそれだけの数の出入口が必要だったのだろう。

だが出入口は強度の低い弱点部位となりがちで、その数が多いという事は必然的に敵の侵入を許す隙の多さにも繋がってしまう。

 

以前はそれでも良かったのだ、近付かれる前に砲で撃ち落とす事が出来たのだから。

大空の覇者たる鴉天狗さえも寄せ付けなかった弾幕に抗する術など、今の幻想郷は持ち合わせていないのだから。

 

しかし、今は違う。

妖怪の賢者の策略に嵌り、迎撃能力の殆どを喪失してしまった艦において、それは致命的過ぎる弱点となる。

 

 

……そして戦いの始まりを告げる閃光は【真月】の最上部、飛行甲板出入口から(またた)く。まるで直近で四尺花火玉が幾つも破裂したかのような、圧倒的な音と光の暴力が誰もいない筈の甲板を襲う。

 

一瞬ののち光は晴れたが、音は【真月】内の狭い通路の中で反響し壁を震わせていく。グワン、グワンという耳鳴りを通り越して眩暈(めまい)さえ引き起こしそうな重低音の空気の振動が、奥へ奥へと突き進んでいく。

そして爆心地には、かつて扉だったはずの粉々に砕けた金属の塊と大きく空いた穴、そして逆光の夕陽に照らし出された四人の『侵入者』の(シルエット)があった。

 

 

その内の一人が、空いた穴から【真月】の中を覗き込む。

すらりとした細身の体に長い黒髪、光を透かす細長い帯状の装飾品が冷たい風に吹かれ、(せわ)しなく靡く。一般的な成人女性より一回り高い身長を持ったその(シルエット)を例えるなら、まさに天女のような女性であると言える。

 

「思ったよりも簡単に空いたわね。距離的に艦橋も近いし、ここから入るわよ」

 

高く透き通った声で、その天女風の(シルエット)が呟く。その言葉から、あの暴力的なまでの光と音は彼女の仕業らしい事が読み取れる。

……声に似合わず、やる事はなかなかに豪快な女性である。もっともそれは、いくら弱点部位とはいえ宇宙すら飛び越える大戦艦に容易く風穴を空けるだけの実力を、この女性が持っているという事実の裏返しでもあるが。

 

「確かに爺さん天狗から『派手にやれ』とは言われたが……これは流石にやり過ぎじゃないか? あ~、目と耳が痛い……」

 

天女の(シルエット)の後ろから、【真月】の内部を覗き込む別の(シルエット)が現れる。

アルト歌手のようなやや男性的な低めの声に男口調。一見して天女の(シルエット)より大きく見えるが、よくよく見ればそれはコーンのような形の大きなとんがり帽子を含んだ場合の話。

それを差し引いて考えれば、天女の(シルエット)より若干小柄となる。

 

「ちょっと派手過ぎたかしら? 加減がよく分からなかったから、見た目重視で一番派手に爆発するようにしたんだけど……」

「……やれやれ。ま、過ぎた事を気にしてもしょうがないか」

 

天女の(シルエット)を『和葉』と呼んだとんがり帽子の(シルエット)が、どこか諦めたような様子で首を横に振る。

まるで『こうなる事が分かっていました』とでも言わんばかりに。

 

「あやや、強い殺気を感じますね。どうやら私達の侵入がバレたみたいですよ、()()?」

「……言われなくても分かってるよ。あれだけ騒ぎ立てて気付かなかったら、むしろどうかしてる」

 

その横に、一本歯の靴が特徴的な(シルエット)が並び立つ。独特の口癖を交えてさりげなく注意を促したその(シルエット)が、先ほどのとんがり帽子を『御代』と呼ぶ。

(シルエット)からでも漆黒色と分かる大きな翼と一本歯の靴から、彼女がおそらく天狗、それも鴉天狗であろうことが容易に想像できる。

……ただ一つ、腰に下げた武器だけは異質だった。本来、烏天狗はほぼ全員が八手の葉団扇()()を武器として持っているものだが、彼女だけはそれ以外にもう一本、刀のような細長い武器を左側の腰に下げている。

 

「………」

 

そして、美しくくびれた体の線が特徴的な(シルエット)が無言のまま、三人から少し離れた甲板上に立つ。その流れるような金髪が黄昏時の夕陽に照らされ、一段と輝いて見える。

翼や角といった妖怪らしい特徴は見当たらず、彼女は一見すると人間のようにも思える。だが古き時代の雰囲気が今もなお留まる幻想郷において、このような姿は()()()()()()異質に映る。

……それもそのはず、彼女もまた妖怪なのだから。

 

「それにしても、ここ埃っぽいなぁ……」

「長いこと使っていないのでしょう、空気も澱んでいますし……ゲホゲホ」

「ってか、埃が舞ってるのって」「ごめん、でも埃は我慢して。どっちみち、扉壊さないと中に入れなさそうだったし」

「……お、おう(和葉、お前はサトリ妖怪か何かか?)」

 

鴉天狗が咳き込めば、『和葉』と呼ばれた天女と『御代』と呼ばれたとんがり帽子も【真月】の内部を嫌そうな様子でのぞき込む。

(シルエット)の背後から夕陽が差し込んでいるはずなのだが、どうやら【真月】内部の構造物は光を反射しにくい素材でできているらしい。その証拠に、三人の(シルエット)の位置から内部への視界は10メートルも無い。

鴉天狗はともかくとして、和葉と御代の二人はおそらく夜目が利かないのであろう。

 

「うーん、暗いわね。御代、『陽光(シャイン)』の魔法をお願いできる?」

「……まあいいか。明かりなら任せな」

 

ゆえに彼女達は、暗い視界を確保する事から行動を開始する。

 

「明るく照らせ、『陽光(シャイン)』」

 

一瞬の詠唱の後、御代の頭上に暖かな光を発する玉が現れる。

その光が、逆光により(シルエット)となっていた四人の姿をはっきりと照らし出していく。

 

「なるほど、これが【真月】の内部なのね」

 

真剣な眼差しで中を見渡す、まるで天女のような格好の女性。しかし右手に大幣を持ち、白い小袖に緋袴の典型的な巫女装束に身を包んでいる。

外見は20歳前後。背はやや高く、少なくとも170センチはある。

茶色の瞳に、濡れ羽色の黒髪は腰まで伸び、根元と中間付近を緑色の髪飾り(昇り龍を象った形)で一つにまとめている。

そして、同じく昇り龍を象った耳飾りに、小袖の上に羽織る羽衣(薄紫色に赤い縁のついている)も目をひく。

格好は一見チグハグに思えるのだが、不思議と違和感は感じられない。

 

彼女の名は博麗(はくれい) 和葉(かずは)

和葉はかつて、人里にある名も無き神社で巫女を務めていた。だが人里が月の軍勢の攻撃に晒された事で、否応なしに彼女も戦いへと巻き込まれていった。

二年半に渡り続いた『地月戦争』、月人の軍勢と幻想郷との壮絶な戦い。その最中を旅し、幻想郷側の一員として最前線を渡り歩いた和葉は、迎えた最後の一戦に己の信念の全てを懸けていた。

……和葉が住んでいた人里を焼き払い、多くの罪も無い人々を虐殺した()()()()()との決着をつける為に。

 

「……っと、今の内に出しておこうかしら」

 

おもむろに和葉が、微かに光る紅白の珠を二つ、懐から取り出す。

これは、彼女が()()()()()()()際に託された、陰陽玉(おんみょうだま)と呼ばれる代物である。霊力、妖力、魔力、神力…、あらゆる力を受け入れ増幅させる、和葉だけが扱える特殊な武器の一つだ。

 

「よっと、これで大丈夫ね」

 

そんな逸品が和葉の手を離れ、どういう原理か和葉の周りを規則正しい軌道で回りだす。

まるで、珠自らが意思を持って和葉を護ろうとしているかのように。

 

 

「冷たいな…。何か、身も心も凍りつく錯覚に陥りそうだ」

 

腕で自分を抱くような仕草を見せる、男口調の女性。白のリボンが巻かれた黒色のとんがり帽子に同色のローブを合わせ、中のクリーム色のインナーシャツが覗く。

出入口から入り込む冷風にローブが(ひるがえ)り、紅色の裏地が(なび)いては戻る。しかしよく見ると、紅の裏地に黒字で小さな文字がびっしりと書き連ねられている。おそらくは、彼女お手製の呪文付加型装備なのであろう。

髪は短く切り揃えられた金髪で、瞳の色は綺麗な海色。帽子が大きく正確な身長は推し測りにくいが、僅かに和葉より低いように見える。

 

彼女の名は霧雨(きりさめ) 御代(みよ)。和葉とは同じ人里の出身で、彼女とは20年来の親友である。また長く辛い旅路の中で、和葉のそばで常に彼女を支え、和葉と共に幾度となく死線を潜り抜けてきた歴戦の魔法使いでもある。

一見して何も武器を持っていないように見えるが、実はローブの内側に物をしまいこむスペースがあり、そこに彼女お手製マジックアイテムをいくつも忍ばせている。

 

 

「あやや、こんな何も無さそうな所……私には長居できそうもありませんね」

 

腕を組み、溜息をつく鴉天狗の女性―――白フリルがついた黒のスカートに白い半袖シャツ、頭には唐紅(からくれない)色の山伏風の頭襟を被り、腕には「()()中」と書かれた橙色の腕章。靴は赤色で、靴裏は一本歯の下駄のような形になっている。

 

彼女の名は射命丸(しゃめいまる) (あや)。妖怪の山に住む鴉天狗の一員で、『文々。新聞』という新聞を自作する自称『清く正しい新聞記者』である。

和葉とは比較的早い段階に会っており、文もまた和葉の長く苦しい旅路を共に歩んできた仲間である。「(和葉に)興味が無くなれば勝手に(天狗の里に)戻りますよ」とは本人の弁だが、余程和葉のことが気に入っているのか興味を失う事も無く、最終決戦まで付いてきたのだった。

 

「白一色の壁なんて、風水的に何の魅力も感じませんが……」

「それでも行くしかない、でしょう?」

「……あやや、和葉には敵いませんね。魅力は無くとも、風水的に踏み込む()()は大いにありますから」

 

【真月】内部に広がる、()()()()()()()()()どこまでも白塗りの空間を眺めながら、一足先に中へと入っていく。

鴉天狗御用達の八手の葉団扇を右側腰に差しているのはもちろんの事、既に左手には文花帖(てちょう)を、右手にはペンを持っている。流石は新聞記者、といったところであろうか。

……しかし、その肩書に全くそぐわない持ち物が一つだけある。

 

左側腰に差した、柄に雲のような紋様の描かれている刀だ。鞘に刻まれた印から、その刀が『小烏丸(こがらすまる)』という名である事が読み取れる。

 

 

「行きましょう、御代、紫」

「おう」

「………」

 

そして最後の一人。ここまで一言も発していない金髪長身の女性が、【真月】内部へ入っていく和葉と御代の後に続く。服装は名前の通り全体的に紫基調で纏められ、八卦の萃に太極図が描かれた前掛けだけは白い。

手に持つのはお気に入りの薄紫色の日傘……ではなく、紺青色を基調にしだれ桜があしらわれた扇子。淡く光るそれで口元を隠し、表面上はあくまで優雅に歩みを進めていく。

 

彼女の名は八雲(やくも) (ゆかり)

『境界の妖怪』『妖怪の賢者』『幻想郷の管理者』と彼女を指す二つ名は数多く、またその名に相応しい幻想郷随一の頭脳・実力を持つ大妖怪である。事実上、現在の幻想郷の支配者と言っても過言ではないだろう。

 

だが、この四人で最も表情に余裕が無さそうなのもまた、紫であった。

 

「……藍、そちらの様子はどう?」

 

その紫が、おもむろに懐から札のような、カードのような物を取り出した。

淡く光るそれに向かって、彼女らしくない低く暗い声で語り掛け始める。

 

『和葉殿の合図に合わせて、50か所から同時に侵入しました。敵兵の士気は低く、内部制圧は順調に進行しております』

「……そう、そのまま手筈通りによろしく頼むわね」

『承知いたしました。紫様、ご武運を』

「ええ、そちらもね」

 

プツッという音と共に、言葉が途切れる。

 

紫が取り出したこの札は、和葉・御代が合作した通信用の特殊な札。これとは別の(つい)となる札がもう一枚あり、札を介してもう一つの札を持つ者と通信を行う事ができる。

そして札の片割れは、今は別の場所にいる紫の従者、八雲(らん)が持っている。

 

 

甲板上に見えた(シルエット)は、この四人だけ。この四人が、月の四傑との戦闘を行う事実上の『本隊』となる。

周囲に視野を広げても、この四人以外に幻想郷側の戦力となりそうな人物の姿は無い。月の軍勢の幹部にして最高戦力である月の四傑、またその直属の兵達と相対するにしては(いささ)か不安の残る戦力にも見える。

 

だがこれには、大きく三つの理由がある。

 

 

一つ目の理由は、予想戦闘区域の空間的な狭さである。

いくら大きいと言えども【真月】は構造物。その内部は当然ながら屋外ほど広くはなく、大部隊を組織しても身動きが取りづらくなるのは自明であった。その状態で罠でも仕掛けられたら、一網打尽にされてしまいかねない。

だからこそ紫は作戦会議において、いくつかの小部隊による多方面作戦を提案した。四人一組程度の少ない人数で固まり、【真月】の複数の出入り口から同時に侵入、順次内部を制圧していこうという考え方である。

そして最も危険度が高いと予想される【真月】最上部への強襲部隊には、現状の幻想郷で最も高い実力を持つであろう人物 = すなわち和葉を中心とし、彼女と連携行動をとれる御代と文、そして紫自身が入る事を提案したのだった。

 

そして、当然ながら他の小部隊にも十分な人手が要る。二つ目、三つ目の理由とも絡んでくるが、この別動隊群も非常に重要な任務を帯びているからだ。

だからこそ、最後まで紫と行動を共にする気であった藍を紫が説き伏せて別動隊群の最高指揮官とし、なるべく多くの妖怪達をそちらへ編入した。また天狗衆はさらなる別動隊として、天魔や大天狗に完全に指揮を任せる形としたのである。

 

 

二つ目の理由は、敵残存戦力の不明確さである。

多くの会戦・攻防戦を経て、月の軍勢の戦力は間違いなく落ちている。だが残存戦力がどれほどであるかを、紫をはじめ誰も確実には把握できていない。その状態で無理に月の四傑へと特攻しても、敵兵に囲まれた不利な状況での戦闘を強いられてしまう危険性が高い。

そのために、複数箇所から分散して攻撃を行い月兵をその場に釘付けにしよう、というのである。

 

 

そして三つ目の理由だが、これが最も大きな理由となる。

それは……。

 

 

『……遂に来たのねぇ、博麗和葉、御一行さまぁ?』

 

誰もいないはずの廊下に、突如として謎の声が響き渡る。

人を小馬鹿にするかのような、語尾の抜けた声である。声だけを聞けば、とても強そうには思えない。

 

だが、その声を聞いた四人は一瞬で警戒態勢に移行し、周囲を見渡す。紫はもちろんのこと、御代や文、果てはやや天然の()がある和葉でさえも、一瞬で剣呑な表情へと変わる。

 

……しかし、どこにも声の主を発見できない。

それもそのはず。声の主はここにはおらず、離れた位置から特殊な装置で声だけを四人に届けているのだから。

 

「天音、天音ね、どこにいるの!?」

 

和葉の言葉が、一気に熱を帯びる。先ほどまでの温厚そうな様子はどこにも無く、大幣を握る手に力が入っている。

 

 

……そう、三つ目の理由とは、まさにこの声の主の存在そのものである。

何度も幻想郷に苦汁を舐めさせ、紫を翻弄し続け、和葉や御代達を苦しめ続けた存在。予測不能の策を張り巡らせ、末期の大劣勢の中でさえ完全な勝利を幻想郷に与えなかった元凶。

 

『ふふふ、頑張ってココまでおいでぇ。ちょうど真上辺りなのよねぇ、私の居室はぁ』

 

唐突に響いた声の主は、天音(あまね) 深月(みつき)。この【真月】のどこかで四人を待ち構えているであろう、『魔』を司る月の四傑()()

そして、和葉と御代にとっては因縁浅からぬ敵であり、彼女達に旅立ちを決意させた張本人でもある。

 

「上等じゃないの、今すぐそっちに行ってあげるわ」

『あらあらぁ、怒りは美容の大敵よぉ?』

「……随分と余裕ですわね。その貴女の余裕、全て奪い取って差し上げますわよ?」

 

この二年間、天音を倒す事を目的に生きてきた和葉は、その本人からの挑発染みた言動に心をささくれ立たせる。

そして紫もまた、これ以上ないほどに殺気を強める。今の彼女が纏う威圧感は、戦う前から弱き者を選別し容易に士気を奪い去ってしまえる程には強い。

 

そんな和葉達を嘲笑うかのように、相変わらず抜けた口調で天音の声が続く。その様子には、追い詰められているのにも関わらず溢れんばかりの余裕さえ透けて見える。

 

『怖いわねぇ、まあ楽しみに待ってるわぁ。それじゃあ、また後でねぇ♪』

「くっ、待ちなさいよ!!」

『………』

 

そこまで言うと、天音からの返答は途絶えた。

……後には不気味なほどに静まり返った、無機質な白い空間だけが広がるのであった。




読んで頂き、ありがとうございます。

紫、文に関しては、東方projectをご存知の方ならよく知っているキャラかと思います。ただし本小説の過去編は東方原作から400年前の時代設定になっていますので、少しだけ彼女達は未熟です。
……もっとも、人間に例えたら25歳 ⇒ 30歳になるぐらいの変化なので、多少の違いこそあれどそこまで大きく変わる訳ではありませんが。せいぜい、原作の彼女達よりも少しだけ感情の起伏が大きかったりする程度です。

また、本話では新たに二人のオリジナルキャラクター(主人公とその親友)が登場しました。果たして、彼女達と彼は一体どんな物語を紡いでいくのか……。

それでは、次話をお楽しみに。
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