東方地月譚 ~ New Age of Lotus Land.   作:SUN_RISE

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どうも、SUN_RISEです。

今回は、月の軍勢側最高戦力の一人である『月の四傑・技の浅倉月舟』との戦いです。本小説では初の戦闘描写であり、ザコ戦を飛ばしていきなりのボス戦になります。
そしてボス戦らしく、この戦いは3話構成でお送りいたします。

まずは前編を始めていきましょう。
どうぞ、お楽しみ下さい。



第4話:剣聖、月の四傑・技の月舟 ~開幕~

 

【???】

 

……その光景は、一言で言えば『異様』だった。

 

おそらくは、月へと繋がる道が水の中……より正確に言えば、限りなく()()()()()()()に開かれておったのが理由なのであろう。

湖の水が月へと流れ込み、逆に月にあったのであろう水が湖へと流れ込む事で、深く沈み込んだ水面の中央から竜巻のような大きな水柱が立ち上がる……という、この世のものとは到底思えないような光景が、その時は確かにそこにあった。

 

そして、だ。もう一つ『異様』だったのは、八雲紫に(そそのか)された幻想郷の大妖とその配下達が、その沈み込んだ水面に向けて()()()()()()()()突貫していった事だ―――

 

 

 

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【三人称視点】

「……貴方にとっての、ですがね!!」

 

広間に反響する大きな声と共に、文が月舟へと突貫する。妖刀から溢れる風を身に纏い、幻想郷一と称されるスピードを遺憾(いかん)無く発揮する文が月舟との距離を瞬く間に詰めていく。

 

それだけではない。文の動きは不規則に変化し、月舟に向かって真っ直ぐ進んだかと思えば急激に斜め方向に動きを変え、また急上昇したかと思えば急降下する。

常人ならば強烈な遠心力で失神するであろう急激な速度変化にも、慣れているのか文はまったく動じない。涼しげな表情でただひたすらに、似たような動きを繰り返している。

 

……これは、人の目の特性(横方向よりも、斜め方向や上下方向に動く物体に視線を合わせ続ける事が苦手)を突いた、文だけが実行可能な力業(ちからわざ)の撹乱である。

そしてその撹乱は確かに効果を上げており、月舟は猛スピードで飛び回る文に対し一歩も動かず、顔を向ける事すらしていない。既に()()()()()()諦めているかのように、ただその場に八相の構えで立ち続けている。

 

そのまま文は、何事も無く月舟の背後をとる。速度が乗った流れのままに体を大きく捻り、運動エネルギー全てを妖刀『小烏丸』の刃に乗せて斜めに振りかぶる。

文の初撃が、月舟のがら空きの右側頭部を狙って放たれる。

 

「はぁ!!」

 

掛け声と共に振るわれた攻撃は、一見何の変哲もない袈裟斬り。

……だが『小烏丸』に込められた文の妖力によってその攻撃は、岩すら穿つ真空波を()()で巻き起こす必殺の一撃へと変貌していた。

まともに受ければ、武器ごと身体を木端微塵に引き裂かれかねないその攻撃を―――

 

 

「……『掴来(かくらい)』」

 

月舟は、刀で受け流す。

目では確実に捉えられていないはずの背後からの斬撃が、まるでそこから来る事が分かっていたかのように……無駄のない動きで瞬時に長刀を構え、刀身で滑らせるように自身の左側へと誘導した。

 

……そう、『受け止めた』のではなく『受け流した』のである。

 

 

―――ガギギギギギギギギギ!!

 

 

金属同士がぶつかり(こす)れ合うような甲高い音を響かせながら、文の斬撃は月舟から外れて振り抜かれる。

外れた攻撃は余波で【真月】の床を深く抉り、散らされ流れ弾となった風の剣撃が月舟の頬を掠め一筋の浅い傷を付けた……が、それだけであった。

 

「ッ!!」

 

衝撃で手に痺れが走り、憎々しげに月舟を睨み付ける文。彼女が放った渾身の初撃は、月舟の刀と頬を少し削っただけに終わる。

 

「……甘い」

 

そう言いつつも、月舟の表情がほんの僅かに曇る。

……だがそれは一瞬で消え、振り返りざま文を狙った反撃が水平に振り抜かれる。文の速度がゼロになった隙を見逃さず、急所である首を正確に捉えた月舟の攻撃が放たれる。

その攻撃は、とても長刀で振るわれたとは思えないほど鋭く早い。そしてそのまま―――

 

 

―――ガキン!!

 

 

音を立てて弾かれ、文の遥か頭上を通過していった。

文が妖刀を力任せに引き戻し、そのまま月舟の刀の腹に当てて攻撃の軌道を逸らしたのだ。

 

「……そちらこそ!!」

 

返す刀で、文が左から水平に妖刀を振るう。同じく首を狙った攻撃に対し、月舟は刀を引き戻して斜めに構え、その斬撃を今度は上の方向へ受け流す。

刀身1メートルはあろうかという、日本刀で言えば大太刀に分類される長刀『宗近』。扱いの難しいそれを、月舟は団扇をあおぐかのごとき気安さで振り、山のような不動の構えで苛烈極まる文の攻撃を次々と受け流していく。

 

 

 

月舟のそれは日々の鍛錬により培われた、確かな技量が()す技だという事に間違いは無い。

……しかし彼の場合、その趣が他の四傑とやや異なるのだ。

 

月舟は、霊力を操る術に長けている。空気中に漂うわずかな霊力を取り込む呼吸法『霊吸法』、霊力を用いた五感強化術『掴来』、身体操作術『心斬』、自然治癒能力活性術『呼癒』……といった、特殊な自己強化技を多数用いる事ができる。そこに磨き抜かれた剣術が合わさることにより、『技』の四傑と呼ばれる程に高い実力を発揮している。

……だがその代わりと言うべきか、彼は月の民にしては珍しく魔力の扱いが不得手である。一応使えるには使えるものの、実戦に有用なレベルではない。他の四傑は、その全員が魔力を使った攻撃を主たる戦闘法に据えているのに、彼だけはそれができないのだ。

霊力による自己強化が感覚能力(間接的な)強化を得意とする一方で、魔法は身体能力(直接的な)強化を得意としている。その魔法が月舟の場合は役に立たない為に、彼は自ら動いて攻撃を仕掛けるのではなく、不動の構えから後の先を制するような戦い方を得意とするようになった。

 

 

……そして、そんな月舟と互角の打ち合いを演じている文も、彼に勝るとも劣らない強者であることは間違い無い。

妖怪の中でもトップクラスに優れた身体能力に、風を操る能力を上乗せした結果生まれた驚異的なスピード。ともすれば自爆の要因ともなりがちなそれをほぼ完璧に制御し、まるで嵐のような激しい攻撃を繰り出していく。

剣術自体は扱い始めて日が浅く、決して巧いとは言えない。しかし瞬時判断力の高さと風を読む力、優れた身体能力でそれをカバーし、生まれた隙を強引に潰しつつ積極的に攻撃を仕掛けていくのが彼女の戦闘スタイルである。

 

 

 

そんな、まさに好対照な戦い方を得意とする二人が息つく暇もないほどの剣撃の応酬を繰り広げる。

 

文の斬撃は全て月舟に受け流され、月舟の攻撃は全て文に弾かれ。

互いに決定打を与える事ができないまま、互角の打ち合いは続く―――

 

 

 

 

 

―――そんな二人の打ち合いを、和葉達三人は遠巻きに見つめていた。

当然、彼女達は戦況をただ眺めているだけでは無い。張り詰めた空気の中で、各々が月舟を撃破するための準備を着々と進めていた。

 

「文の気持ちは分かるけど……あまり戦いを長引かせられないわね」

 

和葉の得意技は、霊力を込めた札を用いて組む『結界術』。今まさに準備を進めている()()の為に、手に持った札の枚数は右手に十八枚、左手に十八枚、合計で三十六枚。そして右手の札は、三枚を除いた全てが淡く白い光を放っている。

 

……予め用意した作り置きの札を使わず、大きな隙を晒してまでその場でわざわざ()()()()を作っているのだ。

 

「そうだな。まだ後ろに()()もいるし、な」

 

そして、それは御代も同じ。彼女は唱えた呪文の発動を保留しストックしておく技能『魔術保持(スペルキープ)』を持っており、それなり以下の魔法であれば五発分は溜めておく事ができる。

だが御代もそれを使わず、左手の人差し指で地面に複雑な模様の魔法陣を描きだしていた。

 

……()()()()()()右腕から、太陽のように強烈な熱気を放ちながら。

 

「和葉、御代。あとどれぐらいで準備できそうかしら?」

 

開いた扇子の仲骨の隙間から、紫は文と月舟の打ち合いをじっと見つめている。文は向きを考えて攻撃してくれているらしく、攻撃の余波(流れ弾)は三人の立つ位置に一度たりとも飛んできてはいない。

それでも準備を急ぐ和葉と御代に万が一の事が無いよう、紫だけはいつでも対応できるように目線を離さないでいた。

 

「5分、それだけあれば十分よ」

「右に同じく」

「了解……さて、それまでどうしましょうか?」

「………」

 

ブルリと、和葉の背に悪寒が走る。一瞬だけ、恐怖心が体中を駆け巡る。

だがそれを無理矢理に押し殺し、札へと意識を深く集中させる。それに呼応したかのように、十六枚目の札が淡い光を纏い始める。

 

……仲骨の合間から見え隠れする、紫の冷笑。獲物を狙う虎のそれのように残酷で冷淡な感情が、打ち合いを演じる二人……正確には月舟に向けて放たれている事に、顔が見えていないはずの和葉だけが気付いていた。

 

 

 

……唐突に、金属音が途絶える。

激しい斬り合いを演じていた二人(文と月舟)の距離が離れ、一区切りついた様子が紫の視界に映る。

 

「……ふふふ、文が距離を離したわね、ちょうど良かったわ」

 

これで、しばらくは二人を注視する必要が無くなった。

……すると紫の双眸が、文と月舟()()()()()、その一点に固定される。

 

「おいおい、どうする気なんだ?」

「あら、ちょっと戦況を掻き乱しにね。……もしかしたら、もう()()()()のかもしれないけれど」

「……?」

 

魔法陣を描きつつ首を傾げた御代を背に、紫が扇子を閉じる。

 

その顔には、ただただ楽しそうに見える笑みが浮かび。

しかし瞳には、まるで魂を狩る死神のように凍てつく残酷な意志が浮かんでいた―――。

 

 

 

 

 

―――斬り結び合っていた二人が離れる、少し前に時間は戻る。

 

「そろそろ、当たっては、くれませんかね!!」

「……残念だが、わしにも意地がある」

 

かれこれ10分近く、息をもつかせぬ打ち合いを続ける二人。

首、頭、心臓と、急所を狙った必殺の一撃が紙一重のところを飛び交っていく。こんなものをまともに貰えば、いかに妖怪であろうと確実に致命傷となるだろう。

 

そんな、まさに精神力を削りながら繰り広げられる戦いの中で、細かな傷は負いつつも互いに決定打を許さない。

 

「……くっ……!!」

「………」

 

……しかし、文の額には大粒の汗が浮かぶ。

妖怪の中では、鬼に次いで高い身体能力を持つ鴉天狗。その中で指折りの実力者である文といえども、超高速で飛び回りながら攻撃を続けた事で流石に疲労の色が隠せなくなってきていた。

 

そんな文に対して月舟は汗一つかいておらず、見た目は戦闘開始時となんら変わりない。戦闘スタイル上それほど激しい動きを要さず、また動作が洗練されているが故に体力的な消耗も少ないのであろう。

 

「……まだまだ!!」

 

己を叱咤するような気迫の一声と共に、文が袈裟斬りを繰り出す。

しかし、最初に比べれば速度と威力が少しだけ落ちている。強敵(月舟)との戦いで加減などしていられなかったのだろう、消耗は思ったより激しいようだ。

 

……だが不思議な事に、文の表情には悲壮感が全くと言っていいほど無い。

それどころか、余裕の笑みさえ微かに浮かんでいる。

 

「ぬぅ……甘い」

 

そんな文の攻撃を、月舟が()()()()の所で受け流す。

そのまま、返す刀で反撃を試みた……が。

 

「……っ!!」

 

大きく一歩踏み込もうとした月舟の意志に反し、どういう訳か体が思うように追い付いていかない。体力は十分に残っているにも関わらず、月舟の動きが鈍りを見せている。

普段、彼は感情を殆ど表に出さないのだが、今は心なしか表情が曇っているようにも見える。

 

「……ふっ……!!」

 

それでも力を込めて一歩踏み込みきり、全力で長刀を振る。刃が、文の首を取らんと迫る。

 

 

 

……攻撃は間に合わない。大きく上へ移動した文に対し、掠める事さえできずに空を斬った。

 

しかし、月舟への反撃は無い。流石に息が続かなくなったのか、文は攻撃を避けると同時に大きく距離を取ったのだった。

 

「……ぶはぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

「………」

 

床へゆっくりと降り立ちつつ、文は溜めていた息を大きく吐き出す。肩を上下させ、苦しそうな様子でその場に佇む。

揺らめく目線、だらりと垂れ下がった両手、そして緩く丸まった背中……幻想郷最速を誇る鴉天狗、その中で最上位の実力を持つ彼女と言えども、あれだけ高速で飛びつつ攻撃を繰り出すのはやはりきついようだ。

 

そんな文に比べると月舟は呼吸も落ち着いており、構えにも殆ど乱れは無い。文を射抜くような視線の鋭さも、最初となんら変わりない。

 

「はぁ、はぁ……ふふっ……」

「……っ……」

 

……それでも、獰猛な笑顔を浮かべているのは文の方であり。

……逆に、曇った表情を浮かべ続けているのは月舟の方である。

 

 

 

「……はぁ……」

 

大きく一つ息を吐くと、文が右手で持った小烏丸の切っ先を月舟に向けて無造作に指す。

 

「………」

 

無言を貫く月舟の目の前で、小烏丸の輝きが急激に増していく。

溢れんばかりに漲った妖力が激しく渦を巻き、文を取り巻く竜巻のような暴風となって広場を覆う。

 

「……すぅ……」

 

対して月舟は構えを整え、大きく一つ深呼吸をした。

 

「……『掴来』、『斬心』、『呼癒法』……」

 

霊力が月舟の手、足、目、耳、体の隅々にまで満遍なく巡ってゆく。

月舟の五感が、極限まで研ぎ澄まされていく。

己の骨、筋肉、血管……その全てに末端まで神経が伸び、全てを思うがままに操るような感覚を月舟は覚える。

そして、体に刻まれた細かな傷が見る見るうちに塞がっていく。霊力により高まった自然治癒力が、文との打ち合いで傷付いた体を急速に癒していく。

 

結局、全ての傷が完全に塞がるのに10秒とかからなかった。

 

「………」

「………」

 

広場を支配するのは、小烏丸から発される嵐の音だけ。それ以外の全ての音を消し去っているのではないかと錯覚するほどに狂おしく、激しく……そして獰猛に、嵐は吹き荒れる。

 

……だが鼓膜を強く叩く喧騒とは裏腹に、広場の空気(雰囲気)は驚くほどに冷え切っていた。

 

二人の視線が、静かに再び交差する。

 

「……さて、そろそろ、いきましょうか」

 

戦いが始まってからずっと、文は片手で剣を持っていた。

 

その文が、月舟を指していた切っ先を引き戻し初めて構えを取る。

……月舟の八相の構えに対し、文が取ったのは五行の構え。両手で小烏丸を持ち、そのまま目をゆっくりと閉じる。

 

すると、あれだけ凄まじく吹き荒れていた嵐が文の妖刀、小烏丸へと吸い込まれるように集まり始めた。

 

「………」

 

その様子の変化を、研ぎ澄まされた五感で感じ取る月舟。

誰にも聞こえないような小さな声で、密かに息を飲む。刀を持つ手に、一瞬力が入る。

 

 

 

そして、ついに旋風の全てが翠色に輝く小烏丸の中へと消え去った。

 

「………!!」

 

その瞬間、文が閉じていた目を一杯まで見開く。獰猛な笑みはそのままに妖刀を真っ直ぐ大きく振りかぶり、一歩大きく右足で踏み出す。

そのまま真っ直ぐ振り下ろした妖刀が、文の眼前の空気を思い切り叩き割り……勢い余った刀身がそのまま床に突き刺さる。

 

そして、斬った空間や文の周りの床から、緑色に光る風の刃が生み出されていく。

不気味な風切音を響かせるそれは、次々と現れては宙に止まっていく。

 

その数、1000。文を囲み守る

 

……その技は、かつて和葉と御代が危機に陥った際に()()()()()()文が、名も無き月兵の大群を相手にたった一度だけ放った奥義。

その時の、あまりにも鮮烈で、あまりにも圧倒的だったその光景をあえて例えるならば、ただ一言。

 

 

『無双』。故に、この技の名は。

 

「……『無双風刃』」

 

聞く者全てを凍り付かせるような低い声で、しかし浮かべた笑みは微塵も変えずに、まるで吐き捨てるように文が(つぶや)く。

かつてこれを受けた月兵達がどうなったのかなど、わざわざ語るまでもないだろう。

 

 

強烈な妖力を纏った真空の千刃がその場に生み出されると、一部が月舟へ向かって放たれる。殺意を乗せた真空刃は不規則な軌道を描きながらも、互いにぶつかる事なく月舟へと飛んでいく。

その後を追うように、宙に留まっていた風刃が床にその軌跡の傷跡を描きながら、次々と月舟へ向かっていく。

 

 

 

……大妖怪の、文字通り全開の殺意と妖力を載せて。

必殺の刃が月舟へと、音の速度を以って唸りをあげて迫った―――

 





読んで頂き、ありがとうございます。

以下、戦いは中編に続きます、お楽しみに。
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