東方地月譚 ~ New Age of Lotus Land.   作:SUN_RISE

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どうも、SUN_RISEです。

3話続いた、月の軍勢側最高戦力の一人である『月の四傑・技の浅倉月舟』との戦い。それも、今話で最後となります。

さて戦いは佳境、軍配は文と月舟、どちらに上がるのか?
それでは、どうぞお楽しみください。



第6話:剣聖、月の四傑・技の月舟 ~閉幕~

 

【???】

 

……その凄惨さは、彼らが流した血で半月ものあいだ、霧の湖がうっすらと朱色に染まったほどであった。

 

そこまで見たら、最早(もはや)疑いようもあるまい。

 

幻想郷の大妖怪が、月の民に大敗を喫してしまった事を。

圧倒的な力を誇った大妖達を、更に上回る実力を月の民は持っておった、という事を。

 

……月の民が徹底的なまでに『()()』を嫌っているという事も、な―――

 

 

 

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【三人称視点】

 

文達四人が集まって会話をしている場所から、15メートルほど離れた場所。

月舟は不動の構えを続けたまま、その双眸はじっと彼女達を凝視していた。

 

彼は決して手を抜いたわけでも、わざと彼女達を放置したわけでもない。自ら攻めかかるのは得策でないと判断したからこそ、その場で待機する事を選択したのだ。

……果たして、その選択は正しかったのか。文が一人で歩いてきたのを見て、月舟の表情が一瞬だけ曇って戻る。

 

「……何人でかかってきても、わしは一向に構わぬぞ?」

「いえ、この際なので私と貴方、どちらが上なのかはっきりさせておこうかと思いまして」

 

右手で持っていた小烏丸に左手を添え、両手で構える。時間をおいたためか、既に刀身は翠色に輝いている。

応じるように月舟も、宗近を握る手に力を込める。

 

「準備運動も終わりましたし、ここからは……」

 

言葉尻をわざと切り、見せびらかすように笑顔で小烏丸を振る文。そのたびに風が巻き起こり、広場の床や壁に傷を付けていく。笑顔だが、やっている事は非常に怖い。

 

……しかし、その怖い笑顔が急激に鳴りを潜めていく。

 

「少しばかり()()でいきますよ」

 

文の顔から、一気に表情が無くなる。

 

「……それは、楽しみだ―――」

 

月舟が言い終える前に、文が動き出す。そして―――

 

「……!?」

 

―――先ほどまでの攻防がスローモーションに見えてしまう程の、圧倒的な速さをもって月舟に肉薄した文がそのまま唐竹を放つ。

 

「……!!」

 

愚直なまでに頭を真っ直ぐに狙った、文の最速の一撃。それは月舟が今まで見たどんな攻撃よりも早かったが、どうにか反応しギリギリのところで攻撃を受け止める。

……しかし、妖力を纏った一撃を受け流さず(じか)に受け止めてしまった代償は大きい。宗近の刀身の中ほどに、身幅(みはば)の三割近くもある抉れができてしまった。

 

更に……。

 

「ぐっ……!!」

 

攻撃の余波が、月舟の右目を縦に深く切り裂いていく。

 

「―――まだですよ」

 

そして攻撃は、それだけに留まらない。

 

文の高速移動は、風を操る能力を利用して空気を薄くし空気抵抗を弱くする事で実現させている。その過程で、移動進路上にあった空気は進路外へと無理矢理に押し出されている。

そして、押し出された空気は進路外で急激に圧縮され、高温高圧の空気を伴った衝撃波へとその表情を変える。

 

「さて、二段目です」

 

速さと攻撃の反動に任せ、そのまま月舟の頭上を大きく飛び越えた文。そんな彼女から遅れること一秒、先ほどの無双風刃に匹敵する音速の衝撃波が月舟に叩き付けられる。

移動の過程で生じた副産物(高温高圧の衝撃波)さえも、文は無駄なく攻撃へと転用していた。

 

「ぬうん!!」

 

しかし、月舟もそう簡単には落ちない。

同じ手は二度喰わないと言わんばかりに、高密度の霊力を纏わせた宗近を高速で縦に振るい衝撃波を真っ二つに切り裂く。切られた衝撃波は、月舟を避けるようにV字に【真月】の床を抉っていく。

 

「隙だらけですよ」

 

月舟の真後ろ、衝撃波の空白地帯に降り立った文が間髪入れずに月舟のがら空きの背へと斬りかかる。さすがに速度は落ちたものの、それでもかなりの速さでもって接近していく。

 

「……!!」

 

文の接近を察知し、振り向き様に袈裟斬りを放った月舟の『宗近』と文の『小烏丸』とがぶつかり合い……そのまま鍔迫り合いへと移行した。

 

「あやや、受け止められてしまいましたか」

「……そう簡単に食らってやるつもりはない」

「そうですか、それはこの後が楽しみですね」

「……くっ」

 

拮抗する両者の間で交わされる、言葉の応酬。

……だが、文はこれを無表情で、対する月舟は軽く歯を食いしばりながら言っている。

 

実のところ身体能力は文の方が完全に上であり、純粋な力勝負となる鍔迫り合いでは元々月舟は不利。

更に、月舟は文の斬撃をやや仰け反るような形で受け止めてしまったため、体勢的にも力を入れにくい圧倒的不利な状況へと陥ってしまっている。ついでに言えば、宗近は刀身が長すぎて鍔迫り合いには向いていない。

 

無論、そんな状態で拮抗が長く続くわけがなかった。

 

「そこそこ頑張りましたが……これで終わりです」

「……ぐうっ……!!」

 

腕に力を込め、小烏丸で宗近を横に払うように押し切る。

月舟は宗近を落としはしなかったものの、払われた宗近の重量と勢いに負けてよろけてしまい、大きな隙を文に晒してしまう。

 

「……貰った!!」

 

大きく一歩、右足を踏み出した文。彼女らしくない言葉を叫びつつ、月舟の喉元に向け右手の小烏丸で高速の突きを放つ。

最短距離を、風を纏った最速の攻撃が通り過ぎていく。

 

「まだ、だ……!!」

 

それでも、まだ『技』の四傑は落ちない。足に力を込めてどうにか体勢を立て直しつつ、喉元に迫る突きを宗近の刀身に当てて逸らす。

 

……だが。

前半戦の激しい打ち合いと、後半戦で受け止めた強烈な文の一撃。

 

それらによってダメージが蓄積した宗近に、遂に限界が訪れてしまった。

 

「……っ……!!」

 

宗近の刀身が、中ほどで真っ二つに折れてしまった。ちょうど、文の攻撃を受け止め砕かれた部分だった。

今までの戦い、どんな攻撃を捌いても折れるどころか傷一つ付かなかった宗近が、その刀身を無残に崩れさせてしまったのだ。

 

「終わりだと言ったはずですが?」

 

冷たく言い放たれた文の言葉。それすらも想定内と言わんばかりの発言に、月舟が表情を一瞬歪める……。

……間髪入れずに、月舟の足元から強烈な上昇気流が発生し体を巻き上げていく。突然の出来事に足を取られ驚く月舟だったが、視線を文の左手に向けた事で上昇気流の正体を知った。

 

いつの間にか文は、左手に八手の葉団扇を隠し持っていたのだ。

そして、旋風を浴びて驚愕した月舟の一瞬の隙を突き、小烏丸を振るって宗近を弾き飛ばした。

 

「ぐおおぉぉっ!!」

 

続けて二度葉団扇を振るい、気流を更に強めていく。

強まり続ける風圧に耐えきれず、月舟の体が宙に浮く。そのまま4メートルほどの高さまで運んだ旋風が、徐々に渦を巻き始めた。

右へ、左へ、上へ、下へ……渦巻く旋風に捕まってしまった月舟は、絶えず変化する乱気流に天地の感覚を奪われ思うよう抜け出せない。

 

「……ぬぅ、なんと厄介な……!!」

 

そんな月舟を見上げながら、文は小烏丸と葉団扇を交差させ構える。既に月舟は抗う術を持っておらず、後は宙に浮いた彼に向けて大技を放つだけ。

 

……しかし、その時の文の表情は……無。

何の感慨も、何の達成感も感じていないかのような、無表情。

 

「貴方の『虚空』や『呼癒法』の方がよほど厄介だと思いますが……まあ、そんな事はもうどうでもいいです。そんな貴方に敬意を表して、餞別代わりに()()()()()()()()を見せてあげましょう」

 

これが最後の攻撃と、目に見えるほど濃密な妖力が彼女から立ち上る。

少しずつ圧迫感を増していく妖力は『無双風刃』を越え、その全てが小烏丸と葉団扇に向けて渦を巻いて吸い込まれていく。

 

「おっと、私達の事も」

「忘れてもらっては困るわね」

 

その文の横には、いつの間にか和葉と御代の姿があった。

和葉は三十六枚の札を構え、御代は煌々と輝く両の手を月舟に向け、既に技を放つ体勢に入っている。

 

「……ぐっ……!!」

 

呻くように月舟の口から言葉が漏れる。しかし、宗近を叩き落とされていては『虚空』も放てず、風の檻に囚われてもはやどうする事もできない。

恨めしそうに下を見つめる月舟。その目線の先で最初に動き出したのは、御代であった。

 

赤く光る両手を月舟に向けてかざし……術名を叫ぶ。

 

「これが私の最強の炎だ、食らえ『紅炎(プロミネンス)』!!」

 

赤熱する両手から、紅く煌めく太陽の紅炎(プロミネンス)を象った、高熱の炎が二つ飛び出す。さすがに実物の紅炎(プロミネンス)には遥か遠く及ばないものの、それでも相当な熱量を内包した一対の豪炎が螺旋を描き、真っ直ぐ月舟の元へと向かう。

 

……そして、月舟を囚えた風の檻に炎が当たり、乱気流の渦は瞬く間に爆炎の渦と化した。

 

「ぐっ……がああああ!!」

 

霊力の鎧を纏い、最後の抵抗を試みる月舟。しかし豪炎は障壁をものともせず、その上から容赦無く月舟を焼いていく。

 

その炎が消えるのを待たず、和葉が霊力を込めた札を()()()、宙に投げる。

すると、まるで札そのものが意思を持っているかのように空中を舞い飛び、月舟がいる場所を囲うように配置されていく。

 

内に五枚、中に十枚、外に十五枚……それらが規則正しく球状に並んで空中で静止するが、なぜか札の配置されていない一角がある。まるで中心(月舟)に至る道をわざと開けているかのように、そこだけが不自然に大きく空いている。

 

「……足りない部分の意味、貴方に分かるかしらね?」

 

和葉が両手のひらを上に向けて重ね、親指は手のひらの上で先を合わせる。そして手のひらの上には、用意していた残りの札六枚が重ねて乗せられている、

……それは『禅定(ぜんじょう)印』、かつて釈迦が悟りを開いた時に結んでいたとされる印。心の安寧を求め瞑想を行う様を示す印を結び、乗せられた札に特別な意味を付加していく。

 

「私は前世も来世も知らない、現世しか知らない未熟者。心身を悩まし悟りの開を妨げる煩悩も、全てを払う事はできない。

……だからこれは、現世を構成する煩悩だけを浄化する、それすらも完全じゃない未完成の術」

 

既に宙に浮いていた札同士が幾筋もの光で繋がれ、二重の光球がその場に描きだされていく。だがそれは、まるで穴の開いたサッカーボールのように、綺麗で歪な不完全な球形。

 

「それでも、『穢れ』に(まみ)れた月の民である貴方には有効よね?」

 

まるで聖女のように優しく語りかける和葉。そこから怒りや悲しみといった負の感情は、微塵も感じられない。今この瞬間だけは、彼女の心に波風は全く立っていない。

……実際のところ、身を守るのに必死な月舟にこの言葉が届いているはずもないのだが。

 

「……『無明解脱陣』」

 

小さく、隣に立っている御代に聞こえているかも怪しいほどに小さい声で術名を唱える。

同時に、手に持った札が、光球が強く輝きだす。まるで無知蒙昧の闇を払う智慧の光の如く、激しく強く厳しい閃光が月舟を包む。

 

 

そして、月舟を閉じ込める光球から少し離れた場所に立つ文。光球の一角にぽっかりと空いた穴、その目の前に立ちじっと月舟を見つめていた。

 

「……あやや、トドメを頂けるようでありがたいですね」

 

力を解放する時を待つかのように、小烏丸の刀身と葉団扇には妖力の暴風が渦巻き荒れ狂う。

そんなじゃじゃ馬をなだめるかのように、文は小烏丸を切先(きっさき)を穴に向けて肘を引き絞り、葉団扇は大きく横に掲げて構える。

 

「……大変恐縮ですが、これで全てを終わりにしましょう」

 

 

 

「『級長戸辺(しなとべ)の極槍風』!!」

 

絞った肘を伸ばし、小烏丸を思い切り突き出す。その横で、葉団扇を同時に振るう。

 

小烏丸からは太く鋭い風の槍が、葉団扇からは激しい旋風(つむじかぜ)が生み出される。風槍に旋風が纏わりつき、まるでドリルのように螺旋状に渦巻きながら、真っ直ぐ光球へと向かっていく。

 

 

それはまるで、蒼空に引かれる一筋の飛行機雲。

それはまるで、虚空のように妖力の尾を引きながら。

 

風神槍が、光球を貫いた。

 

 

 

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【三人称視点】

 

光球が、音も無く弾ける。

 

その中から、ボロボロの月舟が落ちてくる。胸に大きな穴が開き、そこから尋常でない量の赤い液体が吹き出す。

炎で気道をやられ、風神槍で肺をやられ……既に呼吸もままならない。ゆえに『呼癒法』も、もう使えない。息も絶え絶えの、瀕死の状態だ。

 

それでも、月舟は未だ生きていた。生きているのが不思議な程の致命傷を受けながらも、近くに落ちている折れた宗近を拾い立とうとしている。

しかし、意志に反して腕も足も言う事を聞かない。仰向けに倒れたまま、ただピクピクと死んだカエルのように僅かに体が動くのみである。

 

「………」

 

文が、無言で月舟を見下ろす。右手に持つ小烏丸を月舟の首元に当ててはいるが、もう妖力を込めていない。

そしてその表情に浮かぶは笑顔、しかしかげりのある笑顔だ。その奥に、怒りと、悲しみと、憎しみと……そして、(むな)しさが混ざったような複雑な笑顔を浮かべている。

 

「………」

 

文の無言の見下ろしに対し、虚ろな瞳で見返す月舟。もう声を発する事も出来ない程に衰弱しながらも、その目はしっかりと文に向けられていた。

 

(……お前達の勝ちだ、先に進むといい)

 

声はない、ただ唇が少し動いただけだ。しかし、そう呟いたように文は思えた。

 

その言葉を最後に、月舟はゆっくりと目を閉じていく。

それきり、もう動かなくなった。

 

 

 

「……文」

「ええ、わかっています。行きましょう、皆さん」

 

紫に促され、文は顔を上げる。既に表情からかげりは消え、新たな決意を込めた瞳で真っ直ぐに階段を見つめる。因縁の相手を倒してさえ、その戦意に揺らぎを見せないのはさすがといえるだろう。

 

……彼女達が倒すべき相手はまだ三人も残っているのだから、当然と言えば当然なのだが。

 

一人は『武』を司る者。

一人は『智』を司る者。

一人は『魔』を司る者。

 

部屋の奥、階段の先から感じる強者の気配に向け、四人は一斉に飛び立つ。

終わりの戦いは、未だ始まったばかりなのだ……。

 




読んで頂き、ありがとうございます。

完成された技、揺らがぬ鋼の心、卓越した体捌き……そんな、自分なりにイメージした『武道者』という存在。それを形にし昇華させたキャラクターが、この浅倉月舟です。

話中では強さを重ねて強調していましたが、総合的な実力でいえば実は月舟より文の方が一枚も二枚も上手だったりします。仮にあのまま文と月舟が一対一で戦い続けたとしても、大きな油断さえしなければ軍配は確実に文のほうに上がっていた……それぐらいの実力差があります。
そして、月舟はその事に戦いの最初から気付いていました。今の文相手に自分では敵わないと、文の最初の一撃を受け流した時から気付いていました。

しかし、己が持つ限られた強みの中で必死に自らを鍛え上げ、磨きぬき……不動の心構えで格上の相手を脅かし、時に打ち倒す。そんな彼の『武道者』たる生き様を、自分の(つたな)い文章で少しでも描き出せていれば、と思います。

では、また次回をお楽しみに。
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