「あらぁ……お兄ちゃん、なんか早くない? 残像が見えるわぁ」

「……気のせいだろ、ババア」

大阪・松島新地。銀髪のおっさんは、気だるげにパンツを履きながら、事後の賢者タイムを噛み締めていた。これは、暗殺一家のエリートが、夜の街で「絶頂」という名の標的を狙う、たった数分間のショート・ストーリー。

「家の教育(キマリ)でね。……快感を逃がさないように筋肉を硬直させて、一滴残らず絞り出す。そうしないと、オヤジに殺されるからさ」

※富樫先生ごめんなさい。この物語は、おっさんの悲哀を描く経済小説『孤独の風俗』の宣伝用一発ネタです。

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※自分を暗殺一家生まれだと思っているおっさんの話。


『夜のハンター試験』

 大阪市西区、松島新地。

 

 かつての遊郭の面影を残すこの一帯は、表向きは『料亭』として営業しているが、その実態は『自由恋愛』の名の下に行われる、男たちの修羅場(バトルフィールド)である。

 

 銀髪の少年(※と自分で思い込んでいる童顔のおっさん)は、ポケットに両手を突っ込んだまま、“料理街”のメインストリートを歩いていた。

 

 彼の歩法は奇妙だった。雑踏の中を歩いているにも関わらず、足音がしない。気配を絶つ『絶(ゼツ)』の応用ではない。これは、幼少期からの訓練によって身についた、単なる癖だ。

 

「……兄ちゃん、遊んでいかへん?」

「お兄さん、可愛い子おるで〜」

 

 店先に座る老婆たち――通称『やり手婆』からの呼び込みが、矢のように降り注ぐ。

 

 普通の人間なら、そのプレッシャー(念圧)に当てられて足を止めるだろう。だが、彼は興味なさげに視線を巡らせるだけだった。

 

(……レベルが低いな)

 

 彼の眼には、老婆たちのオーラが見えていた。

 

 どいつもこいつも隙だらけだ。あの程度の呼び込みなら、俺が本気を出せば、瞬きする間に店内に入り、事を済ませて、お釣りを受け取って出てくることさえ可能だろう。

 

「……ここにするか」

 

 彼が足を止めたのは、新地の中でも一際古びた店の前だった。

 

 座っているのは、妖怪のような老婆。そして奥に見えるパネルには、どう見ても還暦を過ぎたとおぼしきキャストの写真。一般人(アマチュア)なら『地雷』と判断して回避する物件だ。

 

 だが、暗殺者はあえて茨の道を行く。簡単な狩り(アタリ嬢)など、退屈なだけだからだ。

 

「……20分。ショートで頼む」

 

「はいよ。13,000円ね」

 

 彼は懐からピン札を取り出し、老婆の指の間にシュッ! とカードのように投げ込んだ。

 

 ◆

 

 狭い個室。煎餅布団が一枚。そこは、戦場だった。

 

「はい、脱いでね〜」

 

 現れたのは、写真通りの熟練キャスト(60代)だった。

 

 彼女がタオルの準備をする隙に、彼は自身の肉体をスキャンする。

 

(……コンディションは悪くない。昨日の『お菓子』の摂取量が少し多かったが、筋肉の反応速度に影響はない)

 

 行為が始まる。

 

 彼の動きは、常人のそれとは一線を画していた。

 

 『肢曲(しきょく)』。

 

 緩急をつけた高速乱打(ラッシュ)により、残像を生み出す歩法ならぬ、棒法。相手の感覚を撹乱し、実際の回数以上の刺激を脳に錯覚させる高等技術だ。

 

「あらぁ……お兄ちゃん、なんか早くない? 残像が見えるわぁ」

 

「……気のせいだろ、ババア」

 

 彼は冷たく言い放つが、額には汗が滲んでいた。

 

 相手はベテランだ。こちらの『練(レン)』によるオーラの増幅を、長年の経験という名の『凝(ギョウ)』で見切ろうとしている。油断すれば、こちらの精神力(SAN値)をごっそり持っていかれる。

 

(……そろそろか)

 

 限界が近づく。彼は、体内のオーラを一点に集中させた。

 

 『硬(コウ)』ではない。もっと局所的で、爆発的な力の解放。

 

「……いくぜ」

 

 彼は両足に力を込めた。太ももの筋肉繊維の一本一本に至るまで、電気信号を送り込む。そして――。

 

 ビクンッ!!!!

 

 強烈な痙攣と共に、彼は両足をピンと突き伸ばし、海老反りになってフィニッシュを迎えた。

 

 その衝撃で、部屋の引き戸がガタガタと音を立てるほどの、凄まじい硬直だった。

 

 ◆

 

「……ふぅ」

 

 賢者タイム。彼は気だるげにパンツを履き直した。

 

 おばちゃん嬢が、呆気にとられた顔でタオルを渡してくる。

 

「……お兄ちゃん、凄かったわねぇ。最後、何あれ? 足がつったん?」

 

「……ああ、あれか」

 

 彼はタオルで身体を拭きながら、出口へと歩き出す。そして、ドアノブに手をかけたところで、ニヤリと笑って振り返った。

 

「悪かったな、最後……思いっきり足突っ張っちまって」

 

「ええ、びっくりしたわ。体操選手か何かなの?」

 

 その問いに、彼は猫のような目で答えた。

 

「いや……クセになってんだ。足ピンしてフィニッシュするの」

 

「……へ?」

 

「家の教育(キマリ)でね。……快感を逃がさないように筋肉を硬直させて、一滴残らず絞り出す。そうしないと、オヤジに殺されるからさ」

 

 拷問を遊びに変える。それがゾルディック家の流儀。たとえそれが、松島新地の20分コースであっても変わりはない。

 

「じゃあな。チョコロボくん買いに行くから。お前にあえて本当によかった」

 

 ガチャン。ドアが閉まる。

 

 残されたおばちゃんは、呆然と呟いた。

 

「……今の若い子は、大変なんやなぁ」

 

 新地の夜は、更けていく。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

※この物語はフィクションであり、実在の暗殺一家とは関係ありません。また、富樫先生、本当にごめんなさい。連載再開を心よりお待ちしております。

さて。こんなアホな話を最後まで読んでしまった、「特殊な性癖(スキル)」をお持ちの貴方へ。

実は、このおっさんのような「風俗での無駄なこだわり」や「地雷店での死闘」を、よりリアルに、より哀愁たっぷりに描いた本編が存在します。

『孤独の風俗』 https://syosetu.org/novel/396616/

「足ピン」はしませんが、「脇ズリ」や「歯のないババア」との戦いは実話ベースで掲載中です。おっさんが小遣いを握りしめて戦う、現代のハンター試験へようこそ。

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