剣とか魔法とかスキルとか異能とか中世とか現代とか何もかもが曖昧で大雑把な大陸、レラモット。
 色々大変なことがいっぱいある世界だけど、そんな中で人間は頑張って生きている。


(小説を書くための小説技術を得るための練習をするための小説を置くための短編集です。書きたい小説を書き、投稿したい小説を投稿できるように頑張ります!)

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小説練習用小説です。


追放モノ練習

「追放だ!」

 

 起き抜けに言われた言葉を理解するのに、少しの時間を必要とした。「追放だ。」言葉を繰り返されて、ようやく事態を理解したからだ。

 

 何故、と思った。俺はお前たちをずっと陰ながら支えてきたはずだ。

 領収書の管理、経費の計算、所得の調整。確定申告は時間の無駄としか思えないほどに辛くて苦しい戦いだ。誰にでもできることかもしれないが、誰もやりたがらなかったことを俺はやってきたんだ。ずっとお前たちに尽くしてきたと言うのに。

 

「お前いっつも暗い顔してて辛気臭い。暗い顔するなら暗い顔するなりに歩み寄ったら?」

 

 辛気臭い、そんな理由で? 

 

「そもそもなんでギャグでやってきてる俺たちのパーティに入ったんだよ! どう見ても場違いだろ!?」

 

「そうよ! ギャグ空間の中でシリアス系やるならせめてオモロの空気を壊さない立ち回りくらい学びなさい!」

 

「今までは一人だけシリアスやってるネタで通用してきたかも知れないけどさ、それに胡座をかいて何もしない奴なんか要らないんだよね」

 

 つーいーほう! つーいーほう! とコールが流れる。周囲をよく見たら他のパーティや酒場のおじさんもコールをしている。

 まるでこの世界に居場所がないように、陰鬱な感情が心を支配する。

 

 俺がどれだけお前たちに貢献してきたと思ってる。闇雲にギャグを繰り返すだけじゃ物語は進展しない。ギャグにシリアスはつきものだし、年末調整だって似たようなものだ。それを場違いだって? 

 お前たちが展開に困った時に場を持たせながら次の目標をそれとなく提示したのは、誰のお陰だと思っているんだ……! 

 

「こんなわかりやすいネタ振りなのに、切り返さず呆然と立ち尽くすだけ。変わる気はないようだね」

 

「最終通告だ。ギャグキャラに堕ちるかパーティを抜けるか選べ」

 

「そこまで言うなら抜けてやるさ。ああ、パーティから追放されてやるよ!」

 

 

「ポテンシャルはあるのよね……」なんて声も聞こえるが今更評価したところでもう遅い。俺はこんなパーティ辞めてやる。

 

 

 宿屋で借りていた個室から荷物を纏める。町の人たちはヒソヒソと喋り、子供たちからは「回想シーンが無駄に長いお兄ちゃんだ!」と後ろ指を指され、惨めで悔しい気持ちで一杯だった。

 次はどの町へ行こうか、どこなら手掛かりがありそうか、なんて考えながら歩を進める。

 

 俺には家族も故郷もない。何者かによって村ごと焼かれたからだ。その復讐相手を探すために、入ったパーティだった。

 復讐の道具として近づいた筈なのに、どうやら俺は自分でも気が付かないほどあいつらに気を許していたらしい。だからこそ、失望もあったのだろう。

 

 故郷を襲ったあの地獄を思い出そうとして、辞めた。決して回想シーンが無駄に長いと言われたことを気にしているわけじゃない。あの光景を思い出して憎悪の薪を燃やさなければ復讐ができないほど、俺の意思は弱くないからだ。

 

 

「自分だけが辛い、なんて顔をするのは辞めなよ」

 

 ふとパーティに入った時の言葉を思い出す。酒場で志望動機を語っていた時のことだ。酒の席の話だったが、あいつらは何もわかっちゃいない。

 俺の怒り、憎しみ、恨み。何一つ理解しようとしなかった。

 

 それを語ったのは魚屋の女だったか。サバサバ系女子と言いながらネチネチと陰湿な奴だった。俺の内心を汲み取りもせず、バッサリと切り捨てられたのは、殺された俺の家族が蔑ろにされてるようで嫌だった。

 

 

「あいつの言葉はちょっと強いかもしれないけど、俺も同意見だ。そんな顔してたら、辛い人生を歩んじまうぜ? 人生楽しまなきゃ損だろ!」

 リーダーが続けるはずの言葉は、人混みの中を進む黒いローブの男が視界の端を横切ったことで回想と共に掻き消えた。

 とはいえ、たとえ復讐相手の容姿をした人間が横切らなくても、彼の心は変わらなかっただろう。自分だけが辛い目に合わないことを、彼は許していないのだから。

 

 彼の思いがリーダーだった男に伝わらなかったように、パーティの気持ちも彼に伝わっていなかった。ただそれだけの話だった。

 

 そして彼の心をリーダーが受け取らなかったように、パーティの願いを彼が受け取らなかった理由は、彼が追い求める黒いローブに身を包んだ集団にある。

 

「見つけたぞ、黒フードの男!」

 

 その男はなんだぁ? と振り返り、髑髏のフレームを入れた杖を光らせる。

 手慣れた動きは、このやり取りを繰り返し続けたような貫禄を思わせる。同じように復讐者と立ち合い、その全てから生き残ってきた者の気配だ。

 

「はっ! よく見たらお前は『ダザールと愉快な仲間たち』の経理担当じゃないか! たかが税理士如きに何ができる!? ……いやマジで何ができるんだ?」

 

「今の俺は『コトワリ村の生き残り』だ……!」

 

 確定申告が出来る、と答える代わりに内ポケットから領収書を構える。

 支払った税金が国に仇なす者への刃に変わっていく。

 暴力装置の私的利用、税理士が持つ上級レアスキルだ。だが、相手は動じず四方八方に展開される武装を一瞥するに留める。

 目の前の男が放つ圧倒的な強者のオーラを前に勝ち切れる自信を持つことが出来ずにいた。

 

「俺様のデータには存在しないスキルだ。やはりデータキャラを辞めて正解だったな」

 

「ほざけ外道。あの村の虐殺に加担した者を全て話せ。そして死ね! 俺たちの弔いの為に!」

 

「ならば語らせてみろ!」

 

 言葉と共にオーラがドス黒く染まり、無数の黒い腕となる。邪教スキル・漆黒の観音像。それは捧げた命を亡者に変え使役する、捻じ曲がった神への愛を力に変えるスキル。

 光と闇が叩きつけ合う。形成される腕のほとんどは形だけのブラフだ。だからたった一つの本命を除き全ての腕を瞬時に一掃し、その勢いのままに無数のエネルギーで出来た刃が本体である男へと殺到する。

 

 キィン、と射出した領収書のエネルギーがオーラで形作られた腕に弾かれる。黒一色に染まった腕にヒビが白く紋様のように描かれるが、それもすぐ黒に呑まれるように傷が沈んでいく。完全に傷が塗りつぶされる前に集中的に斬撃を繰り返し、蜘蛛の巣のようにひび割れが広がり腕をバラバラに砕ききった。

 その隙を狙って領収書を切り飛ばすが、その斬撃は再構築された腕に阻まれる。

 スキル同士の鍔迫り合い、今こそ優勢に保っているが、しかし。

 

(出力が足りない……!)

 

 おそらく税理士スキルは愛国心を力にするスキルだ。つまり税金を抑える能力に秀でた者が取得するスキルであるにも関わらず、取得条件に相反するように支払った税金が力になるのがこのスキルだと考えられる。国家と身内への貢献はコインの裏表のように、生活と力がトレードオフの関係にある。

 パーティの支出を抑えるために調整を繰り返した者が、力を十分に発揮できないのは道理だった。

 

 スキルは愛を力に変える法則だ。愛を深めた者だけがスキルを得るから、誰もがそうだと信じている。自らの欲のために他者の犠牲を良しとする自己愛に満ちた獣に負けるはずがないと思っていたが、邪教スキルなど聞いたことがないスキルに押さえ込まれる現実に歯噛みする。虐殺をしながら愛をほざくつもりか。それも、俺を抑えるほどの。

 

 組んでいたアイツらパーティのために行ってきた想いが、故郷を滅ぼした行為を愛と語るその心より劣っているとでも。そこまで頭に血が上った所で。

 

 思えばアイツらを復讐に付き合わせる義理なんかなかったんだ。こんな身勝手なやつは追放されて当然だな、と自嘲した。

 

 

 手数は俺の方が遥かに上だ。男がオーラを凝縮させ腕を形成させる間に俺は三つの領収書を切れる。

 だが、俺の火力では迫り来る黒腕を消し去るのに四つの領収書を切らなければならない。

 ジリ貧だ。一度貧乏になったら元の生活水準に戻すのに数倍の労力がかかるように、状況を打破する逆転の目が全く見えない。

 

 あと一手だ。タンクでもヒーラーでもアタッカーでもいい。あと一手あれば突破できる。

 だがその一手は俺が振り払った。差し伸ばされた手を握らなかった結果がこのザマだ。

 

 俺を握り潰すように迫り来る腕を捌ききれず、応報を気取るように魔の手が喉元に到達するその時。

 

 ガキンッ、とネギとオーラが衝突する音を響かせ、見覚えのある何者かが間に割り込んだ。

 

「おま、お前は!?」

 

 ネギを握りしめ、トマトをジャグリングする。手が滑ったなどと語りながら放られたトマトが男のフードを汚し、間抜けな絵面に変える。

 膨大なオーラは枯れ木のように萎びていく。空気感を塗り替えたのだ。

 

 シリアスな空気をぶち壊した下手人は、見知った姿で高らかに宣言した! 

 

「やっぱり名前を覚えてないんだな! 改めて名乗ろう! 俺はダザール、ダザールと愉快な仲間たちのリーダーだ!」

 

「紅一点、シェーラーナ。あたしもいるわよ!」

 

「ほんっと辛気臭いね、あんた。こんなこと抱え込んでおきながら相談もしないなんて。というか紅一点って私を何「お前ら……!」」

 

 こんなことに付き合わせて済まない、と沈痛な気持ちを抑え込み、慣れない笑顔で喜びを露わにする。

 それが最低限の礼儀であり、いやそうじゃない。今だけは自らの誓いを放ってしまうほど、喜びを隠しきれなかっただけだ。

 

 本当は知っていた。あいつらが俺のことを想っていたことは、なんてモノローグを打ち切り、最高だぜと呟く。

 

 ニヤリと笑い、頷きあった。

 

 

「もう一度聞くが、復讐を止める(ギャグキャラに堕ちる)つもりはないんだな?」

 

「ああ、俺は復讐を止めない(パーティを抜ける)。悪いが俺は……」

 

「いい、いいって! 俺も追放を撤回するつもりはねえ! だが追放は町を出てからだ、そういうことになった! 今だけはダザールの愉快な仲間だぜ、お前は!」

 

「そうよ! あんたホントは面白い奴なんだから今くらい正直になりなさい!」

 

「私の話を聞け、おい。いいか、私はだな、私の名前はシェム・フェルト・トゥ・オータム・デ・パウ……」

 

 一手だ。あの時に足りなかったのは一手だけだった。だから頼れる仲間たちが手を貸してくれた時点で、俺たちが負ける道理などどこにもなかった。

 

 均衡も、駆け引きもなく、決着はあっけなくついた。大の字に寝転がる男を四人で見下ろす光景が、勝者が誰かを雄弁に示していた。

 

「俺様の負けか。ふん、殺すなら殺せ。それとも仲間の居場所でも聞きたいのか? 答えるつもりはないがな」

 

「……何故お前たちは村を焼いたんだ」

 

 理由か、それは大事だな。正しい行いは隠すことをしない。そう前置きして、悠々と言葉を語る。

 

「データを取っていたのさ。あらゆる道理のデータを。信仰の正しさを証明する為に、俺様たちは行為の正しさを計測した。このスキルの強度を測ることでな」

 

 ひらひらとオーラの腕を振る。亡者を使役するそのスキルも、力尽き果てた今は徹夜してレポートを仕上げる学生の腕のように儚いが、それでも内に油断ならない力強さを残している。

 

「スキルとは愛を力に変える能力だ。ならば力を定量的に測れば、愛を数値化することができる。それは正しさの保証に繋がる! そうだろう?」

 

「はぁーあ、つまんねぇ。それ本当に面白いと思ってんのか?」

 

「面白さなど求めていない! いいか、俺様の信仰は……」

 

「お門違いだって言ってんだよ。邪教スキルなんだろ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 曲がりなりにもそれが信仰だというなら()()()()()()使()()()()()()()()よ」

 

 つまんねえ冗句だ。邪教だと知って信仰する奴なんかいねえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな自分の信仰を冒涜する力に頼るなんて、始まりから間違えてやがる。いや、間違えていることを敢えてやってやがるのか。

 全くもって、つまらない奴だった。

 

「お前は、お前らは疑問に思わないのか……? 自らの正しさを。正しさの証明を! 過ちを認めることよりも、正しさを保証することの方がずっと難しい! 正しいと思い込むしかないことの恐ろしさを俺様が……!」

 

「余計なお節介だったんだよ、きっと。陰ながらなんて言葉で必要性を誤魔化して、だから感謝する奴は居なかった」

 

 それが自分に向けた言葉だと、あいつらに向けた謝罪の言葉だときっと気づいているのだろう。だが、それでも謝罪は言葉にしておくべきだ。

 

「すまなかった。俺は自分が手伝ってやってるという想いだけで自己満足していた。やってやってると見下していたから、自分の復讐をお前達に押し付けてもお前達の為だと驕っていたんだ」

 

「俺たちこそ、ごめんな。お前が何かを抱えてることは察していたんだ。だけどずっと部屋に籠って何をするでもなく領収書整理ばっかやってるから大したことないと思っていた。普通は相談するか、そうでなくても行動に移すだろうと勝手に思っていたんだ……だから裏方だけやって何もしないお前を軽視していた。申し訳ない!」

 

「それ本当に謝罪?」

 

 誰とはなしに自然と俺たちは握手をしていた。そして、気まずそうにハイタッチを構えてる二人に気が付いて、そういえばクエストが終わったらいつもやっていたな、と思うや否や俺たちは自然な動作でハイタッチをした。何を見せられてるんだろうという目線を真下から感じる。今いいところなんだよ、後にしてくれ。

 

「ありがとう。俺のシリアスに付き合ってくれて」

 

「これっきりだ。いや、ギャグ堕ちしたらまたやろうぜ」

 

「はは、考えておくよ」

 

 俺たちは夕暮れの中、語り合った。惜しむように、町を出ることもなく三日三晩酒場で語り合った。近所の子供に「お兄ちゃん、ほんとに復讐する気あるの?」と言われるまで、ずっと。

 

 

 

 荷物を纏めて拠点を出る。あの時は理不尽に対する怒りでいっぱいだったが、今はむしろこの青空のように晴れやかな気持ちだ。

 

 それと、あの日から税理士スキルは強化されていた。握られた極光の刃は輝きを増していて、その頑強さも一段と上がっていた。これだけの威力なら一人でも負けることはなかっただろう。戦いが終わってからでよかった。

 

 あるいは、ロマンチックかもしれないけど。

 まるでこれから一人で戦う自分への、仲間たちのはなむけのようにも感じる。そう思えば愛しく思えるものだ。ただ、その力の残光を目を閉じて握りしめた。

 

 目の前の木々は境界だ。野生と社会。外と中。自然と町の境目。そして俺と愉快な仲間たちの境目。

 

「じゃあ、今から追放だ」

 

 十分に仲間たちへ振り返った俺はあたたかな日の光の中へ、追放のための一歩を踏み出した。

 


 

【作中人物は誰も知らない裏話】

 

『スキル』

 愛を力に変える法則。何かに注いでいた愛を、注ぐ代わりに力へと変換する能力。愛を力に変えるということは、()()()()()()()()()()()()()()()()ということである。

 この事実は誰もが無意識に目を逸らしてしまうため、誰も知ることができない。

 

 

『税理士スキル』

 復讐者は税理士スキルを『愛国心』と語っているが、これはあくまで個人の解釈でしかない。「誰かのために手を尽くす行為」を抑えることで力になる。それは隣人への愛を力に変える能力と言った方が適切である。彼の理屈は都合の悪い事実から目を逸らし、愛国心と誤魔化しているに過ぎない。

 税金を抑える能力に秀でた者が取得するスキルであるにも関わらず、支払った税金が力になるスキルなのではない。

 税金を抑える能力に秀でた者が取得するスキル()()()、支払わせた税金が力になるスキルなのである。

 

 

『邪教スキル』

 捻じ曲がった『神への愛を力に変えるスキル』。

 神への信仰を深めた果てに得たスキル。それを強化するために、神への愛を手放す必要があった。

 愛ゆえに得たスキルだからこそ、愛を自ら手放すことなどできはしない。しかしスキルに対する誤った理解が信仰を穢す行為を正しいことだと誤認させた。その結果、手放しながら愛だと嘯く、誤魔化しのための冒涜的な信仰が形作られた。

 それは間違いに間違いを重ねた結果、より醜悪な手段で信仰することになった末路である。

 ダザールの言葉は理屈を間違えているが、結論だけは大体あってる。

 正邪問わず、スキルは使うべきではない。


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