言峰士郎の第五次聖杯戦争   作:豚足と豚骨の化身

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プロローグ

 

血を注ぐ。剣をとる。人を殺す。穢れた刃を、地面へ呑ます。殺して、殺して、殺して、殺して……やがて剣の丘は、罪人の血肉で杯を満たすであろう。その時まで……俺は……

 

 

 

「……ろ…………ろう…………」

 

微かな声が聞こえる。瞼の先から差し込む光に、自身が先まで微睡みの中にいた事を認識した。耳に届く声が、次第にその大きさを増していく。

 

「士郎!起きなさいってば!」

 

馴染みの声に叩き起され、俺はゆっくりと目を開いた。窓越しのオレンジの陽が目に刺さる。視界は一瞬白飛びを起こし、その後じんわりと世界の輪郭を取り戻していった。

 

「遠坂?なんでここに……」

 

「それはこっちのセリフよ。あなた、今日がなんの日かは知ってるわよね。」

 

見回すと、ここが教室の一角であることがわかる。いつの間にやら寝ていたらしい。まぁ、それはいいだろう。問題は遠坂の質問だ。全く身に覚えがない。

 

しばらく返答を考えていると、こちらの心境を察してか、呆れたようなため息をオマケに、遠坂は口を開いた。

 

「聖杯戦争……昨日言ったでしょう。既に魔術師達は儀式の準備を始めているはずよ。私たちも今夜サーヴァントを召喚するから、先に私の家で諸々の準備を済ませておいてって。」

 

「あぁ……悪い遠坂。なんかいつの間にか、その事を忘れて寝てたみたいだ。」

 

「全くあなたは……いえ、いいわ。結局召喚はまだまだ先だしね。今からなら間に合うもの。」

 

そう言って、急かすように俺の手を掴んで歩き始める。かなり乱暴に引っ張られ、コケないよう咄嗟に椅子から立ち上がった。

 

「そうと決まればほら!さっさと行くわよ!」

 

「いやいや、まだ荷物まとめて……」

 

「そんなの後!シャキシャキ歩く!」

 

「…………なんでさ。」

 

持ち帰る荷物すらまとめられず、何とか連れていかれる前にバックからぶんどった食後の弁当だけを手に引っ提げて、俺は遠坂に家へと連行された。

 

 

 

「聖杯戦争のルールは覚えてる?」

 

遠坂の家、2人分の弁当を洗う傍らで優雅たる魔術師は語った。「聖杯戦争」。それは聖杯を求める魔術師が、過去の英雄の影たる「サーヴァント」を従え、殺し合う儀式の名称。サーヴァントは全てで7騎。セイバー、アーチャー、ランサーを筆頭とした、各個の役割を与えられた英霊を、詠唱と触媒、祭壇を用いて召喚する。

 

「聖杯とは万能の願望機であり、それを手にすることは根源に触れると同等。聖杯を手に入れることは言わば、魔術師の悲願である。だろ?遠坂。」

 

一連の皿洗いを済ませ遠坂の方へと目を配ると、彼女は満足そうに頷いて話を続けた。

 

「そう。エセ神父……あなたの父親曰く、既にアーチャーとセイバー以外のサーヴァントは召喚されてる。狙うなら、今日が一番のチャンスよ。」

 

その後「もちろん、セイバーをね。」と、遠坂は付け加える。「セイバー」は数ある肩書きの中でも最優のサーヴァント。それは聖杯戦争の魔術師にとっては周知の事実だ。

 

故に、2分の1で最優が当たるこの状況は絶好の好機。更に時間、場所、触媒、その他全てをお膳立てしてセイバーを狙いに行く。それが彼女の魂胆だ。

 

「ひとつ気になることがあるんだが……」

 

それらを踏まえて、俺は遠坂に問う。

 

「俺もサーヴァントを召喚すればいいんじゃないか?そうすれば、どちらかはセイバーを必ず引けるじゃないか。」

 

「何言ってんのよ。そしたら士郎と私が戦わなきゃいけないじゃない。」

 

「手を組めばいいだろ。ルール違反でもないんだから。」

 

「私は聖杯戦争に勝つために挑むのよ。二人で仲良く手を繋いでゴールなんて出来ない。参加者が最後の1人になるまで戦う、それが聖杯戦争のルールだもの。」

 

そう言った遠坂の目には、決意の色が滲んでいた。緊張、あとはそれを凌駕するほどの愉悦も。敵になったら俺でも殺しにくるだろうことは、優に悟ることができる。

 

「だから、あなたは私の補助。それなら終わったあと、二人で勝者って言えるものね。」

 

早くに父を無くした遠坂には珍しい、無邪気な笑みをしていた。それに対し、俺も笑って返す。

 

「それじゃ、用意を始めましょうか。士郎は触媒の準備をお願い。私は祭壇を作ってくるわ。」

 

「了解、マスター。」

 

「ははっ、あなたはサーヴァントじゃないでしょ。」

 

「言ってみただけだよ。」

 

 

 

 

 

聖杯戦争が始まる。皆が願いを持って、己が血を滴らせる。善悪の境界線は血肉に溶けて、ただ存在するだけ。この物語は、救いの叙事詩でもなければ、英雄を称える賛美歌でもない。

 

 

そう、これは…………願いの物語だ。

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