言峰士郎の第五次聖杯戦争   作:豚足と豚骨の化身

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ある犯罪者達のゲーム

 

タバコが焦げ臭く、男の口から吹き出した煙は空気に溶ける。皮のソファに腰掛け、黒塗りの高級な机を跨いだ先の喫煙者へ、俺は文句を飛ばした。

 

「いい加減、そのクソみたいな臭いがする葉巻は辞めろ。鼻が曲がりそうだ。」

 

「そうかい。なら医者に診てもらうといい。きっと君の鼻は異常だ。」

 

男はいい加減な言葉に、薄ら笑いを添えて返答する。彼の名前はクラック。俺とは腐れ縁であり、共犯者でもある。心地良さそうな顔で、この世の物とは思えない煙で肺を満たす姿は、さながら薬物中毒者だ。

 

「それに、これからサーヴァントを召喚するんだぁ。そんな大事な時に、吸わないのは勿体ないだろう?」

 

「大事なことの前だからだよ。いい加減辞めないと殺すぞ。」

 

「堅いねぇ、ディープ。君は本当に堅い。でもいいだろう。親友の君に免じて、今回はそれを呑もう。」

 

そう言って、クラックはタバコの日を消した。そして灰皿の上の、吸殻の山をまたひとつ高くする。

 

「そうだ、ディープ。サーヴァントはどっちが召喚する?」

 

「あぁ?んなもんどっちもだろ。2体英霊がいれば殆ど勝ちも同然だ。」

 

「ナンセンスな答えだね。それじゃあ風情が無いし、楽しくもない。汚い手口は好かないんだ。」

 

「願いを叶えるためには必要な手段だ。」

 

「ハッハッ!君はまだ生中な願望機なぞに夢を見てるのかい!?こりゃ傑作だね!」

 

ゲラゲラと、先程の微笑とは打って変わっての大笑い。何もおかしいことは言っていないはずなのに、こうもバカにされると多少なりとも腹が立つ。

 

「チッ……てめぇいい加減にしろよ。」

 

「なんだ器が小さいね。そうだ、いいことを思いついた。」

 

クラックは自らの懐へと手を伸ばし、「これで決めよう」と言って黒い片手サイズの何かを出した。ゴトリと机の上に置かれたそれは、回転式拳銃。弾倉は6つ、そのうちのひとつに弾を込めた後、ゲームの考案者は口を開く。

 

「ロシアンルーレットさ。君が勝てば英霊を二人、僕が勝てば僕だけがサーヴァントを召喚する。」

 

「負けた方が死ぬんじゃないのか?」

 

「その時はその時だよ。勝利条件は、『相手を怖気づかせる』こと。分かった?」

 

若干言い方に違和感を感じるが、要するに相手に降参させればいいということ。ギリギリまでの当たるか当たらないかの駆け引き……普通のロシアンルーレットだ。

 

「君からでいいよ。」

 

弾倉を思い切り回転させて、まずは一発目。頬に銃口を当て、なんの躊躇もなくトリガーを引く。カチャリ、と音が鳴って弾倉が回転する。俺は生きていた。

 

「おぉ、怖くないの?すごいねぇ。」

 

「次はお前だ。いいからさっさとやれ。」

 

拳銃を相手に手渡す。クラックは下顎に思っきりそれ突きつけて、引き金に指をかけた。そして、沈黙する。数秒、数十秒……俺が痺れを切らしそうになったその直前、彼は口を開いた。

 

「昔ね、映画で見たことがあるんだ。組織のリーダーを決めるために、二人がロシアンルーレットで勝負する話。」

 

カチャリと、再び弾倉が回る。残り四発。

 

「1人は1回引き金を引くんだけど、その後の2人目は何度も引き金を引いて、残り一発になったあとに相手に渡すんだ。」

 

引き金が引かれる。残り三発。

 

「でもね、僕は思うんだよ。そんな上手くいくはずないって。」

 

カチャリ、残りは二発。二分の一。まさか本当に終わらせるのか。次が空なら俺の負け。酷い緊張感が、じわりと背中を滲ませる。

 

「だから必要なのは、傷つくことを厭わない狂気と、その後を楽しむことが出来るほどの愉悦なんじゃないかな。」

 

最後の運命を別つトリガーが引かれる。バンッと重い音がなって、硝煙が鼻を突いた。下顎からビチャビチャと流れ落ちる血液には気もとめず、目の前の男は満面の笑みで舌を突き出し、その上に乗った銃弾を見せびらかす。

 

「ほらね、上手くいかない。」

 

自分でも青ざめているのを感じた。思わず「狂ってる……」という言葉が声に出てしまう。

 

「ハッ……君、今怖気づいたでしょ。」

 

図星だった。ぐぅの音も出ないほどの敗北だ。俺は両手を上げて、降参の意を相手に示してみせる。

 

「分かった。お前の言う通りにする。それより、その顎大丈夫なのか?」

 

「いや、めっちゃ痛い。」

 

「やっぱバカだろお前。治してやるからこっち来い。」

 

「うん……」

 

クラックは隣に座って、顎をこちらに見せてくる。抉られた穴と、口内で強化魔術を使ってなお負った大量の傷が生々しく血を垂れ流していた。それに手をかざして、治癒魔術をかけてやる。

 

「まったく、死んでたらどうするつもりだったんだお前。強化魔術が遅れたら、脳天貫いてたぞ。死人は治せないからな。」

 

「死ななかったからいいだろう?最悪怪我は君が治してくれるし、だから君もゲームに乗り気だったんでしょ。」

 

「だとしてもあんな死ぬかもしれない行動は誰だってしない。」

 

「いやぁ、そういう所が君は甘いよねぇ。」

 

「うるせぇな。治してやらねぇぞ。」

 

そうして、このゲームは俺の完敗に終わった。

 

 

 

 

 

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。」

 

クラックは長ったらしい詠唱を、魔法陣の前で垂れ流す。俺は右から左へそれを受け流しつつ、静かに召喚を待っていた。自分が召喚する訳でもないのに、あんなクソ長い詠唱を覚えられるはずもない。そんなことを考えてると、隣の「詠唱終わりっ」という声と同時に、目の前に大量の煙がたち始めた。

 

「はぁ!?なんだよこれ!こんな派手にでてくるのか!?」

 

「えぇ、おかしいなぁ。僕の知る限りはもっと静かな登場のはずなんだけど。」

 

まさか失敗か………。そんな心配をしたが、その思考は数秒後に打ち砕かれる。白い煙の中に薄らと浮かぶ、黒い影。ゆっくりと、その英霊の姿が目に入る。

 

ドクロの仮面。痩せこけた身体と、身にまとったローブ。そして、その外見のインパクトをかき消すほどの物凄い殺気。間違いなく、アサシンのサーヴァントだと確信する。

 

「1つ貴公らに問いましょう。」

 

低く、抑揚の無い声が静かに響く。

 

「どちらが私のマスターですか。」

 

ドクロの隙間から、赤い眼光がこちらを指している。思わずグッと唾を飲み込む俺の横で、アサシンのマスターは元気に手を挙げた。

 

「はいはい、僕だよ。君のマスター。」

 

「そうですか。ではご挨拶を。私はアサシンのサーヴァント、真名を明かすことは致しません。」

 

「えぇ、なんで?僕たちは君のマスターだよ。」

 

「私自身、この真名を嫌っているんです。なので、私のことは『愚者』とでもお呼びくださいな。」

 

そういって、『愚者』と名乗るアサシンは礼儀正しく優雅に頭を下げた。その所作からは、こちらへの敬意が感じられる。

 

「そっか……それならよろしくね、愚者。僕はクラック、君のマスターさ。それでこっちは……」

 

そう言って、クラックは俺の方を見やる。俺自身の口から自己紹介をすることを所望しているらしい。

 

「ディープ、クラックの仲間だ。よろしくな。」

 

そんな簡素な紹介を終え、クラックはいつの間にか令呪が刻まれていた右手を『愚者』へと伸ばす。その手をしっかりと取り、アサシンは口を開く。

 

「お二人とも、どうかよろしくお願いします。」

 

 

 

それが、俺たちの聖杯戦争の始まりだった。

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